2011年10月29日土曜日

若杉弘&東京都響の武満徹作品集(1991年録音)



武満徹
1.弦楽のためのレクイエム(1957)
2.ノヴェンバー・ステップス
   ― 琵琶、尺八、オーケストラのための(1967)
3.遠い呼び声の彼方へ!
   ― ヴァイオリンとオーケストラのための(1980)
4.ヴィジョンズ(1989)
   Ⅰ‐神秘
   Ⅱ‐閉じた眼

若杉弘 指揮
東京都交響楽団
 2.鶴田錦史(琵琶)、横山勝也(尺八)
 3.堀米ゆず子(ヴァイオリン)

録音:1991年7月29~31日、東京芸術劇場
※武満徹の監修による録音。
【COCO-78083】


最近、秋の花粉の影響で気分が少々沈みがちになり、
何となく、武満さんの響きが聴きたくなりました。
代表曲を集めたCDを買って、聴いてみました。

武満さんの音楽は、
中学生のときに小澤征爾さんとの共著
『音楽』(新潮文庫、昭和59年)を読んでその音楽に憧れました。

とはいえ、現代音楽を聴く機会はあまりなかったので、
時折、ラジオやテレビで眼にし、耳にするその魅惑的な音楽を、
夢中になって聴いた思い出があります。

ここ十年近くは、
わかりにい現代音楽よりも、
誰でもわかりやすい、楽しめる音楽のほうに
より愛着を感じていたため、
武満さんからは少し遠ざかっていたように思います。

しかし久しぶりに
武満さんの音楽を聴き直してみると、
若干憂鬱な感じの今の心境にピタリとはまり、

聴き終わって、
静かで穏やかな心持ちに満たされる、
不思議な感動を引き起こしてくれました。

昔はもう少し、
暗くておどろおどろしい印象が強かったと思うのですが、

今聴くと、
紡ぎだされるいろいろな響きが心にしっくり来て、
西洋的な音楽よりも、むしろ自分たちにとっての身近な音楽を
聴いているように感じました。

とくに感動したのは、
ノヴェンバー・ステップスです。

それから初めて聴くヴィジョンズも、
新しい名曲を発見した気分です。

ドビュッシーやラベルの管弦楽作品よりも、
私には武満さんの方がしっくり来るようです。


どちらかと言えば、
厳しい感じの音楽なので、
いつでも聴きたくなるとは思いませんが、

憂鬱で、若干ふさぎ込みがちなときに、
武満さんが効くことを、今日初めて知りました。

今後、記憶をたどりつつ、
武満さんのよい作品、演奏を紹介していきます。

2011年10月26日水曜日

ハイドシェックのバッハ:イタリア協奏曲とフランス風序曲



J.S.バッハ
イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV987
フランス風序曲 ロ短調(パルティータ)BWV831

エリック・ハイドシェック(ピアノ)
Eric Heidsieck, piano

録音:1977年
【CASSIOPEE 969210】



ハイドシェックさん、
カシオペ録音のバッハ、独奏ではこれが最後です。

なぜこの選曲、と思ったので、
少し調べてみました。

先に取り上げた
「パルティータ」全6曲は、
『クラーヴィア練習曲集』第1巻(1731年出版)として、

今回収録された
「イタリア協奏曲」と「フランス風序曲」は、
『クラーヴィア練習曲集』第2巻(1735年出版)として、

それぞれ出版されたものです。

このときの録音で、ハイドシェックさんは、
『クラーヴィア練習曲集』第1・2巻を
まとめて取り上げていたことがわかります。


イタリア協奏曲は、
それほど深みはありませんが、
聴いてすぐに明るい気持ちにさせられる楽しい作品です。

ハイドシェックさんの演奏は、
一気呵成にかけぬけ、若い息吹を感じさせる、
清々しい演奏です。

自由闊達ながら、全体として
上品な香り高い演奏に仕上がっているのはさすがです。


フランス風序曲(パルティータ)は、
全体に暗い色調なので、
はじめはあまり好きでなかったのですが、

何度か聴いているうちに、
相当な深みのある味わい、といったものが
感じ取れるようになって来ました。

でもまだすごく好き、とはいえないかも。

次からヘンデルに移ります。

2011年10月25日火曜日

プリンツのブラームス:クラリネット・ソナタ集

先日、ブラームスのヴィオラ・ソナタ集を紹介しました。

その後、同じ曲をクラリネットで演奏した
クラリネット・ソナタ集の名演を探していましたが
とても満足のいく1枚を見つけました。

ブラームス : クラリネット・ソナタ集

ブラームス
クラリネット・ソナタ 第1番 ヘ短調 Op.120-1
クラリネット・ソナタ 第2番 変ホ長調 Op.120-2

アルフレート・プリンツ(クラリネット)
Alfred Prinz, clarinet
マリア・プリンツ(ピアノ)
Maria Prinz, piano

録音:1988年4月1・2日
場所:松本市、ザ・ハーモニーホール
【FOCD-2533】


モーツァルトとブラームスの
クラリネット五重奏曲ですばらしい演奏をされていた
プリンツさんならどうだろう、
と思って探してみると、

フォンテックから、
ご夫妻で録音されたCDが出ていることに気がつき、
早速手に入れて聴いてみました。

これがブラームス特有の
愁いを感じさせる味わい深い演奏で、
とても感動しました。

夫婦での演奏というのは、
時に詰めが甘くなってしまいがちですが、
初めて聴くマリアさんのピアノも
十分に実力のある方のようで、
アルフレートさんとぴったり息のあった、
絶妙なアンサンブルを聴かせてくれます。

技術的な点だけをいえば、
カール・ライスターさんの演奏も
文句をつけようのないものだったのですが、

バリバリとこれでもかと力で押すスタイルが、
私には今ひとつに感じられました。


プリンツさんの演奏も、
モーツァルトとブラームスの五重奏曲のときと同じように、
これみよがしなところはなく、

わりとさらりと流れがちでもあるのですが、

少し耳をそばだたせると、
しみじみとしたブラームスの枯れた味わいが伝わってくる優れた演奏です。


惜しむらくは、
日本でこのCDを録音するに至った背景などを、
ライナーノートに何かしら記しておいてほしかったのですが、

そうした表記が何もないのは不親切だと思いました。
一見、プライベート盤のようです。

もしかしたら、
プリンツさん側からの申し出で、
あまり予算がないなかで録音されたのかしら。


ただし外見とは関係なく、
その内容は、まれに聴くレベルの高い演奏といってよいと思います。

2011年10月21日金曜日

グリュミオー&ハスキルのベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第5・6・7番


CD-2
ベートーヴェン
ヴァイオリン・ソナタ 第5番 へ長調 作品24「春」
 同 第6番 イ長調 作品30の1
 同 第7番 ハ短調 作品30の2

アルトゥール・グリュミオー(ヴァイオリン)
クララ・ハスキル(ピアノ)

録音:1957年1月(第5番)、
   1957年9月(第6番)、
   1956年12月(第7番)ウィーン

【BRILLIANT CLASSICS 93329】



グリュミオーさんとハスキルさんによる
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全集、
2枚目です。

有名なスプリング・ソナタ(第5番)を筆頭に、
あまり演奏される機会のない第6・7番を収めてあります。


涼やかな風が吹き抜けてゆくような、
思わずハッとさせられる、凛とした美しさをもった演奏です。

すっきりとした切れ味のよい、
しかし絹のような目の細やかさをもった
ヴァイオリンの音色に、
素朴で味わい深い上品なピアノの伴奏が
絶妙にからみ合って、

室内楽を聴く醍醐味を味あわせてくれます。

第5番が良いのは当然のこととして、
第6・7番も、恐らくはじめて、
十分納得できる演奏に出会えました。

アンサンブル重視で
ここまで練られた演奏で聴けば、
第5・9番以外の曲も、なかなか良くできていると思えます。


おそらくヘッツェルさんが無事に
ベートーヴェンのソナタに取り組めていたなら、
こんな感じの演奏になっていたのではないでしょうか。


もうすぐグリュミオーさんの録音が
まとめて再販売されるようなので、
まずどれか一枚買ってみて、
よい音質であれば、

いろいろ買い揃えようかと思っております。

2011年10月17日月曜日

広上淳一&京都市響のベートーヴェン:交響曲第4番など

広上さんの新譜、やっと手に入れました。
期待以上の出来で、とても満足しました。


広上淳一指揮 京都市交響楽団定期演奏会
名曲ライブシリーズ

CD-1
チャイコフスキー:
イタリア奇想曲 op.45

プロコフィエフ:
ヴァイオリン協奏曲 第2番 ト短調 op.63
 ※黒川侑(ヴァイオリン)

ラフマニノフ:
パガニーニの主題による狂詩曲 op.43
 ※河村尚子(ピアノ)

 ※以上、第527回定期演奏会、ライブ収録
 (京都コンサートホール、2009年8月9日)


CD-2
ベートーヴェン:
交響曲 第4番 変ロ長調 op.60

 ※第533回定期演奏会、ライブ収録
 (京都コンサートホール、2010年3月27日)

シューマン
交響曲 第3番 変ホ長調「ライン」op.97

 ※第535回定期演奏会、ライブ収録
 (京都コンサートホール、2010年5月21日)

【KSOL-1001/2】



広上淳一さんは、
私が大学生のころに指揮者としてスタートされて、
日本フィル、ノールショッピング交響楽団などでの
ご活躍を目の当たりにして来ました。

これからという時期にしばらく休養もされて、
どうなるかなあ、と思っていたところ、

アメリカのコロンバス交響楽団の音楽監督に就任されて、
いよいよ復活か、と思っていたのですが、
数年で離任することになりました。

しかしコロンバス響を離任する少し前に
常任指揮者への就任が決まった京都市交響楽団と
よい関係が築けているようです。

今回発売されたCDは、たいへん充実した内容となっております。


録音もたいへんすばらしく、
ムントさんと録音で聴いていたときの京響の響きとはまるで違っていて、
オケの洗練された、美しい響きがそのまま伝えられているのが嬉しいです。

広上さんのCDは、
なかなかライブの熱気をそのまま伝えているものが少なかったので、
たいへんありがたいです。

収録された作品のうち、
ずばぬけて良いのは、チャイコフスキーとラフマニノフです。

イタリア奇想曲のほうは、
そもそも録音があまりないのですが、
楽しい佳曲で、広上さんの魅力満載です。

河村さんのピアノはセンスのかたまりで、
広上さんとよいコンビだと思いました。

これまでそんなに好きな曲ではなかったのですが、
広上さんのふるオケともども、
ひらめきに満ちたリズムと、
叙情的な歌にあふれていて、
稀に聴く名演となりました。

今後、パガニーニ狂詩曲といえば、
この演奏を選ぶことが多くなりそうです。

プロコフィエフは、
ライブでこれだけ聴かせてくれれば
大成功といったよいレベルです。


交響曲は、ベートーヴェンの第4番に驚きました。

とくに作為的なことはしていないはずなのですが、
所々この曲こんな響きがしていたっけ、と思わせられる、
ベートーヴェンのオーケストレーションの斬新さが伝わってくる演奏でした。

それでいて大元のベートーヴェンを聴く楽しさ、
感動も十分に伝わってきて、私にとっての大収穫でした。

広上さんのベートーヴェンは、
今後注目していきたいです。


シューマンは
ベートーヴェンと同じような切り口で、
十分成功といってよい演奏だと思いますが、

わたしにはほんの少し、
曲が停滞するようにも聴こえました。

前へ前へと進んでいく推進力といったものが加味されると、
シューマンも鬼に金棒だと思いました。


やはりこれだけ新鮮な響きを、
ひらめく瞬間を多く聴かせてくれる指揮者は他にいないので、
今後も充実したお仕事を続けていただきたいです。


なお、
CDには「名曲ライブシリーズ」とあるので、
ぜひ第2弾、第3弾と続けていただきたいです。

それだけの価値ある演奏をくり広げていると思います。

2011年10月13日木曜日

ハイドシェックのバッハ:パルティータ 第4・5・6番


J.S.バッハ
パルティータ第4番ニ長調 BWV.828
パルティータ第5番ト長調 BWV.829
パルティータ第6番ホ短調 BWV.830

エリック・ハイドシェック(ピアノ)

録音:1975年(4・5番)、1976年(6番)
【Cassiopee 969194】



続いて、2枚目を聴きました。

ハイドシェックさん、
バッハのパルティータの後半です。

際立ったリズム感に美しいタッチ、
ずば抜けた音楽性に支えられた、
聴いていてウキウキ、ワクワクする、
ピアノで弾かれたバッハです。

第4・5番と長調の曲が続くので、
私はどちらかといえば、この2枚目のほうが好きです。

現代ピアノの能力をフルに引き出した
楽しく美しく、バッハを聴く魅力満載の演奏です。

型にはまった
厳しい感じの演奏ではないので、
もしかしたら、バッハらしくない
という批判はありえるのかもしれませんが、

こんなに楽しい、
ハッとする瞬間だらけの
演奏を聴かないのはもったいないので、
これはこれで
一つのスタイルとして認めれば良い、
と私は考えています。


なお、パルティータとは「組曲」という意味です。

J.S.バッハ(1685年生、1750年没)
のパルティータ(鍵盤楽器のための組曲)は、

「クラヴィーア練習曲集第1巻」(全6曲)として、
1726年から1730年の間に出版されました。

大バッハ40代前半の作品ということになります。

2011年10月12日水曜日

朝比奈隆&大阪フィルのシューマン:交響曲 第3番「ライン」



シューマン:交響曲 第3番 変ホ長調「ライン」作品97

大阪フィルハーモニー交響楽団
朝比奈隆(指揮)

大阪、フェスティバルホール
録音:1994年10月17日
【PCCL-00311】


先日、
サヴァリッシュさんのシューマン:交響曲全集を取り上げましたので、
久しぶりに、朝比奈隆さんの「ライン」を聴きなおしてみました。

シューマンの交響曲第3番「ライン」を聴いて、
はじめて感動したのが、朝比奈隆&大阪フィルの演奏です。

今回久しぶりに聴き直してみても、
そのときの印象はほとんど変わっていません。

サヴァリッシュ&ドレスデン国立管弦楽団の
豊穣で洗練された響きと比べると、

朝比奈隆&大阪フィルの響きは、
無骨に素材のまま豪快に鳴らしまくっている印象があり、
これはこれで、なかなか爽快です。

私にとって思い入れの深い指揮者であることも
影響しているかもしれませんが、
全体として深い感動が得られるのは朝比奈さんのほうです。

生きろ生きろと背中を押してくれる、
朝比奈さんの懐の深さを感じ取れるシューマンです。

朝比奈さんの振るオケの響き、
素朴に過ぎて好きじゃない人はいるかもしれませんが、
私は好きです。

同時期に、
新日本フィルとも「ライン」を取り上げていて、
そちらは手に入れないまま今に至るので、
近々聴いてみたいなあ、と思っています。

世評の高いのは新日本フィルとのほうです。

ハイドシェックのバッハ:パルティータ 第1・2・3番

エリック・ハイドシェックさんは、
私が大学生のときに、宇和島での復活が話題になったこともあり、
ひいきにしているピアニストです。

独特な個性の持ち主なので、
CDのすべてが良いわけではありませんが、
はまったときにみせるひらめきは、ほかで得られない面白さがあります。

お気に入りのCDを、少しずつ紹介していきます。



J.S.バッハ:
パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825
 同 第2番 ハ短調 BWV826
 同 第3番 イ短調 BWV827

エリック・ハイドシェック(ピアノ)
録音:1974年(第2・3番)、1976年(第1番)
【Cassiopee 969 189】


2001年に、
フランスのカシオペ(Cassiopee)というレーベルで、
ハイドシェックさんの若いころの録音がまとめてCD化されており、
最近、日本でもわりと簡単に手に入るようになりました。

その中で特に気に入っているのは、
バッハのパルティータ全集と、ヘンデルの組曲全集です。


このパルティータ、
ピアノを豊かに鳴らした音楽的な演奏としては、
おそらく最高レベルのものだと思います。

自然なテンポのゆれから生み出される音楽は、
そこかしこに美しいメロディがあふれていて、
バッハを聴く醍醐味を感じさせてくれます。

これを聴くと、バッハのパルティータが、
とんでもない名曲に聴こえてきて、
ほかのピアニストの演奏にも手を伸ばしてみましたが、
意外におもしろいものがありません。

最近、フランス組曲(旧盤)に感動した、
シフさんのパルティータ(旧盤)も聴いてみましたが、
これはがっかりの出来でした。
(シフさんは新盤に期待!まだ聴いていません。)


ハイドシェックさんは1936年生まれなので、
このパルティータは40歳のころの録音です。

なかなかこれ以上、というのは考えにくいのかもしれませんが、
ハイドシェックさんの結論として、
バッハとヘンデルはぜひ再録音してほしいなあ、
と思っております。

2011年10月4日火曜日

ワルター&ウィーン・フィルのブラームス:交響曲第3番

ブルーノ・ワルターさんのことを知ったのは、
宇野功芳さんの著書を通じてでした。

ステレオ時代の録音は、いずれ良い音で復刻が出てから、
と考えているうちに、まとめて購入する機会がないまま今に至っています。

SP時代の録音は、
オーパス蔵さんで復刻されたときに、
ひと通りまとめて購入してありますので、
秋の夜長に、改めて聴き直しながら、紹介していこうと思います。

最近聴いていたのはこの1枚です。



1.モーツァルト:「皇帝ティトゥスの慈悲」序曲 K.621
 (mat Col 2VH7047)※1938年1月15日録音
2.モーツァルト:「偽の女庭師(恋の花つくり)」序曲 K.196
 (mat Col 2VH7048)※1938年1月15日録音
3.ハイドン:交響曲第86番ニ長調
 (mat Col 2EA6778-83)※1938年9月13日録音
4.ブラームス:交響曲第3番ヘ長調 作品90
 (mat Col CAX95-102)※1936年5月18・19日録音

ブルーノ・ワルター指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1,2,4)
ロンドン交響楽団(3)
【OPK2054】


今から70年も前の録音ですから、
音質は決して良いとはいえないのですが、
これはこれで十分に感動的な音楽が奏でられており、
ワルターさんの指揮するオーケストラ音楽の妙味を楽しむことができます。

音質はおそらく良いほうがいいのでしょうが、
より大切なのは、奏でられる音楽が感動的かどうか、なので、
SP録音をこうしたかたちで楽しむことができるのは、
とても贅沢なことだなあ、と思います。

ワルターさんの指揮で特徴的なのは、
これしかない、と言いたくなる絶妙のテンポ感です。

音楽の自然なゆらぎが、ワルターさんの指揮で、
ほどよくひっぱり出されて、心のひだに語りかけて来ます。

オーケストラの自然な響きを基調としつつも、
ほどほどにワルターさんの自己主張も織り交ぜられて、
聴いてとても心豊かな気持ちにさせられます。

モーツァルトの小品2曲も素敵ですが、
とくに感銘を受けたのは、ハイドンの交響曲第86番です。
小気味よいテンポ感と立派な造形美で、
意外な名曲を発見した気分です。

ハイドンは基本的に根暗なところのない、陽性の作曲家で、
時代的にもそれほど個性を強く押し出すところがないので、
時にどこが良いのかわからなくなりがちなのですが、
ワルターさんとハイドンは、とても相性が良いようです。

ブラームスは、
ワルターさんが大得意としていたようで、
オケをぐいぐいひっぱりまわして、やりたい放題の演奏ですが、
不思議と空回りせず、音楽的に全体がまとまっているのは、
ワルターさんとウィーン・フィルの相性によるものでしょうか。

ただこのブラームスは、強奏時にところどころ音がわれます。
だんだん慣れてきますが、そこは残念です。