2012年7月23日月曜日

横山幸雄のショパン:ピアノ独奏曲全曲集 その5

横山幸雄さんによる
フレデリック・フランソワ・ショパン
(1810年3月生 1849年10月没)のピアノ独奏曲全集
5枚めを聴きました。


プレイエルによる
ショパン・ピアノ独奏曲全曲集〈5〉


1) ノクターン ホ短調 WN23(1827)※17歳
2) ノクターン 嬰ハ短調 WN37(1830)※20歳
  レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ     


3) 3つのノクターン 作品9(1830-31)※20-21歳
  第1番 変ロ短調/第2番 変ホ長調/第3番 ロ長調
4) 3つのノクターン 作品15(1830-31、33)※20-21、23歳
  第1番 へ長調/第2番 嬰へ長調/第3番 ト短調


5) 2つのポロネーズ 作品26(1834-35)※24-25歳
  第1番 嬰ハ短調/第2番 変ホ短調
6) 2つのノクターン 作品27(1835)※25歳
  第1番 嬰ハ短調/第2番 変ニ長調
7) バラード第1番 ト短調 作品23(1831-35)※21-25歳


横山幸雄(ピアノ)
使用楽器:プレイエル(1910年製)
録音:2011年2月17、18日
上野学園 石橋メモリアルホール
【KICC-917】


今回は、夜想曲を中心としたプログラムです。

旋律の美しい遺作のノクターン2曲のあと、
作品9と作品15のノクターン6曲が続き、

コンサートであれば恐らく休憩をはさんで、

作品26のポロネーズ2曲、
作品27のノクターン2曲と続けて、
最後に作品23のバラード第1番という構成です。

主に20代前半に書かれた作品群です。


全体を聴いてみると、
記憶に残る美しい旋律をもつ
遺作の2つのノクターンの印象が強すぎて、

その後のプログラムの印象がうすくなっているように感じられました。


若いころの作品から順に並べて、
全作品を演奏するという趣向でなければ、

冒頭に置かれた2つの遺作のノクターンは、
プログラムの最後にアンコールとして弾かれた方が
まとまりは良いように思われました。


横山さんの演奏、
これは評価がむつかしい。

男性的でキリリとひきしまったノクターンかと思いきや、

意外にピアニッシモを多用した繊細な表現で、
しかしリズムの面ではあっさりしたところもあって、
慣れてくるまで少し違和感がありました。

繊細ではあり、
そこそこロマンティックでもあるのですが、
曲に没入し切ることはない、クールな面も残しており、

一言では現しにくい、
横山さん独自の表現であることは確かだと思います。


ぼんやり聴いていると、
さらさら流れていくようにも感じるので、

あと少し、押しの強さがあっても良いように感じますが、
今後どのように表現がこなれてくるのか、
期待したいと思います。



どちらかといえば、
ポロネーズとバラードのほうが、
横山さんの個性にあっているようで、
これは文句のないすぐれた演奏でした。


※作品の作曲年代については、
有田栄氏によるCD解説のほか、
ペティナ・ピアノ曲事典「ショパン」の項目
【http://www.piano.or.jp/enc/composers/index/31/】を参照しました。

2012年7月12日木曜日

ヴァルヒャのバッハ:オルガン作品全集(旧盤)その5

ヘルムート・ヴァルヒャ(1907生 1991没)による
ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685生 1750没)の作品全集、
CD5枚目を聴きました。


J.S.バッハ:オルガン作品全集
CD-5
1) 幻想曲とフーガ ハ短調 BWV537
2) 幻想曲とフーガ ト短調 BWV542「大フーガ」
3) 幻想曲 ハ短調 BWV562
4) 幻想曲 ト長調 BWV572
5) フーガ ト短調 BWV578「小フーガ」
6) カンツォーナ ニ短調 BWV588
7) アラ・ブレーヴェ ニ長調 BWV589
8) パストラーレ ヘ長調 BWV590


ヘルムート・ヴァルヒャ(オルガン)
録音:1950年(1,3,8)、1952年(2,4~7)
オルガン:カッペル、聖ペテロ=パウロ教会
【Membran 223489】CD-5


「幻想曲とフーガ」に関わる5曲、

幻想曲とフーガ2曲(BWV537と542)
幻想曲2曲(BWV562と572)
フーガ1曲(BWV578)

と、それぞれ特徴的な様式名で呼ばれる3曲

カンツォーナ(BWV538)
アラ・ブレーヴェ(BWV539)
パストラーレ(BWV590)

から成る1枚です。


幻想曲とフーガ ト短調 BWV542 と
フーガ ト短調 BWV578 の2曲は、

ともに同じ調性によるフーガの傑作として知られており、
それぞれ「大フーガ」「小フーガ」とも呼ばれています。

私の知っていていたのは「小フーガ」の方のみでした。

「大フーガ」の方は、
むしろスケールが大きすぎるのか、
聴きなれてくるまでは威圧的な感じがして、
さほどの名曲には思えませんでした。

1ヶ月聴いてきて、
今はなるほどなあ、と思えて来ました。
ストコフスキーによる管弦楽編曲版があるそうなので、
近々聴いてみたいと思います。

どちらかといえば、もう1曲ある

幻想曲とフーガ ハ短調 BWV537 の方が、
親しみやすい穏やかな情感があふれていて、
良い曲だなあ、と思えました。

こちらもエルガーによる管弦楽編曲版(1921年 Op.86)
があるようなので、聴いてみたいと思っています。


カンツォーナ ニ短調(BWV538)
アラ・ブレーヴェ ニ長調(BWV539)
パストラーレ ヘ長調(BWV590)

の3曲は、
続けて弾く習慣があるわけでもないようですが、
合わせて聴くと不思議な統一感があって、
面白いです。

この中では「アラ・ブレーヴェ」が特に好きです。


それでは次に6枚目に参りましょうか。

2012年7月5日木曜日

ペライアのモーツァルト:ピアノ協奏曲全集 その2

マレイ・ペライア(1947生)さんによる
モーツァルト(1756年1月生 1791年12月没)の
ピアノ協奏曲全集、2枚目を聴きました。



モーツァルト
ピアノ協奏曲 第5番 ニ長調 K.175
ピアノ協奏曲 第6番 変ロ長調 K.238
3台のピアノのための協奏曲 第7番 へ長調「ロドロン」K.242
(2台のピアノ用:作曲者本人による編曲版)

マレイ・ペライア(ピアノ、指揮)
ラドゥ・ルプー(第7番 ピアノ)
イギリス室内管弦楽団
録音:〔第5番〕1981年6月24・27日&9月、セント・ジョンズ・スミス・スクエア、ロンドン。〔第6番〕1979年9月26日、アビー・ロード・スタジオ1、ロンドン。〔第7番〕1988年6月23日、スネイプモルティングス・コンサートホール、オールドバラ。
【SONY MUSIC/8 86919 141122】CD2


K.175のピアノ協奏曲は、
モーツァルトが17歳のとき(1773年12月)に、

K.238は20歳(1776年1月)、
K.242も20歳(同年2月)のときに作曲されました。

K.242は、ザルツブルグの名門貴族、
ロドロン家の伯爵夫人とその令嬢のために作曲されたことから、
「ロドロン」協奏曲と呼ばれることもあります。


第4番までは、他人の作品をもとにしているので、
モーツァルトのオリジナルなピアノ協奏曲といえるのは、
この第5番からです。


ただし実際に聴いてみると、
確かに他の誰にも似ていない作品ではあるものの、

年齢相応というか、
きわだった特徴には乏しく、
今ひとつ、面白みに欠ける作品であるように感じました。


他人のアイデアを好きなように援用できる分、

第1番から第4番までの方が、
作品としての完成度は高いように感じました。


何気なく聴いている分には、
十分に楽しく美しい作品だと思いますが、
この後のモーツァルトを知っている身からすると、
少し物足りない気持ちになりました。


とはいえ、ひと月聴いて来て、
だいぶ曲が頭に入って来ると、
独特の魅力も感じられるようになって来ましたので、

しばらく時間を置いてから聴きなおすと、
また違った感想になるかもしれません。

とりあえず、先に進みましょうか。


※作品の基本情報については、
ピティナ・ピアノ曲事典「モーツァルト」
【http://www.piano.or.jp/enc/composers/index/73】
を参照しました。

Audite のフルトヴェングラー&ベルリンpo 録音集 その4

Audite から復刻された
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
(1886-1/25生 1954-11/30没)と
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の録音集
4枚目を聴きました。


Live in Berlin
The Complete Recordings RIAS
1) ブルックナー:交響曲第8番ハ短調WAB108

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1949年3月15日
ティタニア・パラスト、ベルリン
【audite 21.403】CD4


CD4枚目には、
1949年3月13・14・15日に行われた
ベルリン・フィルの演奏会から、
最終日(15日)の演奏が収録されています。

演奏されたのはブラ8のみ1曲です。


ヨーゼフ・アントン・ブルックナー
(1824年9月生 1896年10月没)の交響曲第8番は、

ブルックナーが68歳のとき、
1892年12月に初演された交響曲です。

曲自体は5年前の1887年夏に、
第1稿がいったん完成していたものの、
演奏を拒否されたため、全面改訂が施され、
1890年に第2稿が完成しました。


楽譜の出版は、
初演と同年、1892年に行われておりますが、

これは第2稿によりつつ、
ブルックナーの弟子シャルクが勝手に改訂を加えた
「改訂版」であったため、

あらためて1939年に、
ハースが校訂した第2稿の「原典版」が出版されました。


詳しくは調べておりませんが、
フルトヴェングラーは「改訂版」も適宜参照しながら、
「原典版」で演奏しているそうです。

(宇野功芳『フルトヴェングラーの全名演名盤』
講談社+α文庫、269頁参照)


さらにこの後1955年には、
ノヴァークが校訂した第2稿の楽譜が出版され、

1972年には、
ノヴァークが校訂した第1稿の楽譜も出版されておりますが、

この演奏会が行われたのは1949年ですから、
ノヴァーク版はまだ見られなかったことになります。


さて演奏ですが、意外に良かったです。

意外にというのは、
これまでブルックナーは、フルトヴェングラーの
指揮スタイルとは相容れないような印象があって、

まったく聴いて来なかったからですが、
聴いてみると、意外に良くて驚きました。


ところどころ、
曲想に合わせてテンポを急変させるのが、
かえってスケールを小さくさせていて、

その点は短所だと思いますが、

オケの響きそのものは、ブルックナー独特の、
身を任せたくなるような心地良さ、奥深さがあって、

かなり面白く、全体を聴き通すことができました。


私にとっては、間延びした感のある
クレンペラーやチェリビダッケよりは
遥かに好きな演奏です。

一気呵成に、勢いで聴かせるところのある、
マタチッチよりも好きかもしれません。


スタイルとしては、
小林研一郎&チェコ・フィルの演奏に似たものを感じましたが、
チェコ・フィルの演奏のほうが、オケの響きは「軽め」です。


もう十年くらい長生きしていたら、
ベートーヴェンの「田園」で成し遂げたように、

テンポをほとんど動かさないで、
オケの響きの変化だけで全体を感動的に聴かせてしまう、
奇跡的なブルックナーを聴かせてくれたのではないか、
と想像するのも一興です。


最後に、
そうした感想を抱けたのは、
録音がたいへんすばらしかったからです。

適度な残響も聴き取れる、
モノラルの最上レベルの音質なので、
下手なステレオより心地良く聴くことが出来ました。


では次に進みましょう。


※曲の成立年代、版の問題については、
Wikipedia 「交響曲第8番(ブルックナー)」の項目を参照しました。 


※フルトヴェングラーの演奏会記録については、
仏ターラ社の ホームページ上にあるものを参照しました。
【http://www.furtwangler.net/inmemoriam/data/conce_en.htm】