2012年11月28日水曜日

ユボーのフォーレ:ピアノ作品全集 その1

フランスのピアニスト
ジャン・ユボー(1917-1992)
71-72歳のときに録音した

フランスの作曲家
ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
ピアノ曲全集(CD4枚)を聴いていきます。

まずはCD1・2に収録されている
「夜想曲」(全13曲)から。



フォーレ
ピアノ作品全集第1集より
CD1
夜想曲第1番 変ホ短調 作品33-1(1883年)※38歳
夜想曲第2番 ロ長調 作品33-2(1883年)
夜想曲第3番 変イ長調 作品33-3(1883年)
夜想曲第4番 変ホ長調 作品36(1885年)※40歳
夜想曲第5番 変ロ長調 作品37(1885年)
夜想曲第6番 変ニ長調 作品63(1894年)※49歳
夜想曲第7番 嬰ハ短調 作品74(1899年)※54歳
夜想曲第8番 変ニ長調 作品84-8(1902年)※57歳
夜想曲第9番 ロ短調 作品97(1908年)※63歳

CD2
夜想曲第10番 ホ短調 作品99(1909年)※64歳
夜想曲第11番 嬰ヘ短調 作品104-1(1913年)※68歳
夜想曲第12番 ホ短調 作品107(1916年)※71歳
夜想曲第13番 ロ短調 作品119(1922年)※77歳
(以下略)

ジャン・ユボー(ピアノ)
録音:1988年10月1989年4月、アル・アディアール、パリ
【WPCS-10982/3】


フォーレのピアノ曲との出会いは、
もう十年以上前のこと、

フランスのピアニスト、
エリック・ハイドシェック(1936- )さんが
24・26歳のときに収録した「夜想曲」全集を聴いたのが
初めてでした。


しかしそのときは、
ショパンの夜想曲のようなスタイルを想像していたため、
ずいぶん異質な音楽に戸惑い、

つかみどころがない感じがして、
よくわからないまま終わってしまいました。


美しいけれども
断片的に過ぎるメロディが浮かんでは消え、
調性も不安定な感じで、

いったいどこを楽しめばよいのだろう、
と思いました。


それから時折、
聴き返すことはありましたが、
同じ印象しか持ちませんでした。


しかし最近になって、ようやく
私の耳がフォーレに馴染んできたのか、

メロディでなく、和声のゆらぎを聴くんだなと、
ふと開眼する瞬間がありました。


音のかたまりをそのまま受け止めて、
絶妙にうつろいゆく和音のゆらぎを楽しむ感覚は、

バッハのオルガン曲を聴くとき、
和音のかたまりに身を委ねるのに似ているかもしれません。


そんな体験をしたのは、
最初のうちはよくわからなかった
ハイドシェックさんのCDだったのですが、



この録音、惜しむらくは音質があと一歩で、
ほかに良いCDはないかと探していたところ、

ユボーさんの録音に出会いました。

音質は極上、
演奏もゆったりとしたテンポで、
すべての音をいつくしみながら丁寧に表現されていて、

フォーレ独特の詩情あふれる名演奏です。


  ***

今回しばらく夜想曲を聴き直してみて、

どれもゆったりした曲調なので、
13曲続けて聴くのは若干しんどいように感じました。

コンサートなどで取り上げる場合、
次の4つのかたまりで弾かれると、
全体像がつかみやすいように思いました。

夜想曲第1番 変ホ短調 作品33-1(1883年)※38歳
夜想曲第2番 ロ長調 作品33-2(1883年)
夜想曲第3番 変イ長調 作品33-3(1883年)

夜想曲第4番 変ホ長調 作品36(1885年)※40歳
夜想曲第5番 変ロ長調 作品37(1885年)
夜想曲第6番 変ニ長調 作品63(1894年)※49歳

夜想曲第7番 嬰ハ短調 作品74(1899年)※54歳
夜想曲第8番 変ニ長調 作品84-8(1902年)※57歳
夜想曲第9番 ロ短調 作品97(1908年)※63歳
夜想曲第10番 ホ短調 作品99(1909年)※64歳

夜想曲第11番 嬰ヘ短調 作品104-1(1913年)※68歳
夜想曲第12番 ホ短調 作品107(1916年)※71歳
夜想曲第13番 ロ短調 作品119(1922年)※77歳

第1~3番は、
もともと作品33でひとまとまりなのですが、
実際一番わかりやすいと思います。
ほんの少しショパンの影響も感じられるようでした。

第4~6番は、
恐らく夜想曲の中で最も充実した3曲で、
フォーレらしい高貴で親しみやすい音楽です。

第7番からは、
軽めの第8番をはさみながらも、
徐々に難渋さを増していく感じがあります。

とくに第11-13番は、
ユボーさんの演奏だと、
晩年の物寂しい情感がそのまま反映されているようで、
私にはまだ良くわかりかねるところもありました。


演奏は、
6番まではユボーさんの
ゆったりしっとりじっくりと歌わせる感じが
今のお気に入りです。

7番からは
一気呵成にかけぬける
ハイドシェックさんの方がわかりやすく、
強い説得力がありますが、

さすがに若さゆえ軽過ぎの感もあります。


恐らくまた少し年齢を重ねると、
より一層フォーレの音楽が身にしみるようになって来ると思うので、
また感想を改めたいと思います。


※Wikipediaの「ガブリエル・フォーレ」「ジャン・ユボー」「エリック・ハイドシェック」の各項目を参照。

※作品の成立年代は、



 藤井一興/フォーレ:夜想曲集【FOCD-3465】
 に収録されている西原稔氏のCD解説を参照しました。

 藤井さんの演奏は、
 楽譜に正確によく再現されていますが、
 フォーレ独特のむせ返るような詩情にはとぼしく、
 私には全体的に違和感がありました。

 決して無味乾燥な演奏ではないので、
 ユボーやハイドシェックを聴く前であれば、
 十分に楽しめると思います。

2012年11月20日火曜日

Audite のフルトヴェングラー&ベルリンpo 録音集 その7

Audite から復刻された
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886-1954)と
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の録音集、
7枚目を聴きました。


Live in Berlin
The Complete Recordings RIAS

1) ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調「英雄」作品55
2) グルック: 歌劇《アルチェステ》序曲
3) ヘンデル:12の合奏協奏曲集より第5番 ニ長調 作品6-5 HWV323

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1950年6月20日(1)、1951年9月5日(2)、
   1954年4月27日(3)、ティタニア・パラスト、ベルリン
【audite 21.403】CD7


1曲目はCD6の続きで、
1950年6月20日の演奏会から、

ドイツの作曲家
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)の
交響曲第3番変ホ長調「英雄」作品55 が収録されています。

ベートーヴェン30代半ばの作品で、
1804年に完成、翌年に公開初演されています。

演奏は最上レベルです。

私にとって「英雄」は、
全体的にまとまりがつかない感じがして、
特別に好きな曲とは言えないのですが、
こうした別格の演奏で聴くと、やはり名曲だと思えます。

どこまでも有機的な響きのもと、
若々しいまでの情熱で一気に駆け抜けていくさまは、

第1・2番に続く、
若き日のベートーヴェンの強い意志を
伝えてくれているようで、

「英雄」の新たな魅力を発見することができました。


残念なのは、録音が今一つなことです。

フルトヴェングラーの遺産としては、
まずまず聴きやすい部類に入ると思いますが、
最近の鮮明な録音を聴きなれた耳には、
多少辛いものがありました。


   ***

2曲目は、1951年9月5日の演奏会から、

ドイツ出身の作曲家
クリストフ・ヴィリバルト・グルック(1714-1787)の
歌劇《アルチェステ》序曲 が収録されています。

グルック50代前半、
1767年にウィーンで初演されたイタリア語の歌劇(Wq.37)です。

十年後の1776年にパリで、
フランス語への改訂版(Wp.76)が初演されています。

通常は改訂版をもとに、
イタリア語で演奏されることが多いようなので、
フルトヴェングラーも改訂版を用いた可能性が高いですが、
楽譜を見ていないので確かなところはわかりません。


さてこの録音、
びっくりするくらい良い音です。

下手なステレオ録音よりもずっと美しく聴こえます。

そして当然のことながら、
やはりいい音で聴くとより一層、
フルトヴェングラーの凄さが際立ちます。

演奏スタイルが一昔前のものなので、

身近にこの曲を聴く機会は
もうほとんどないと思いますが、

オケの有機的な深い響きに包まれた大演奏で、
ぜひ聴いてほしい1曲です。


なおこの9月5日のコンサート、
グルックの後、ベートーヴェンの第九が演奏されていますが、
このCDには収録されていません。


  ***

3曲目には、
1954年4月25-27日のコンサートから、
3日目(27日)の演奏で、

ドイツ生まれの作曲家
ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル
(1685-1759)の

12の合奏協奏曲集より
 第5番ニ長調作品6-5 HWV323

が収録されています。

ヘンデル54歳のとき(1739)の作品です。

CD6にも同曲集の第10番が収録されていて、

それに比べると、
はるかにいい音で録れているのですが、

やはり大オーケストラのぶっとい響きが、
強い違和感を感じさせて、変でした。

いい音で録れている分、

何度か聴いていると、
それなりにありかなとも思えて来ますが、

これを聴いて、
ヘンデルっていいな、
とは残念ながら思えませんでした。


なおこの三日間のコンサート、

最初にヘンデルが演奏された後、

 ブラームス:交響曲第3番【CD11】
 ブラッハー:管弦楽のための協奏的音楽【CD9】
 シュトラウス:交響詩《ドン・ファン》【CD11】
 ワーグナー:《トリスタンとイゾルデ》前奏曲【CD11】

が演奏されました。この全曲が、
それぞれ【CD9・11】に収録されています。



※Wikipediaの「クリストフ・ヴィリバスト・グルック」
 「Alceste(Gluck)」「ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル」
 「ヘンデルの楽曲一覧」の各項目を参照。

※フルトヴェングラーの演奏会記録については、
 仏ターラ社の ホームページ上にあるものを参照。
 【http://www.furtwangler.net/inmemoriam/data/conce_en.htm】

※グルックについては、
 石井宏『反音楽史』(新潮文庫)232-255頁も参照。

2012年11月15日木曜日

ボッセ&神戸市室内合奏団のバッハ:ブランデンブルク協奏曲(2011年録音)

ドイツの指揮者
ゲルハルト・ボッセ(1922.1-2012.2)が、
神戸市室内合奏団を指揮したライブCD、

ドイツの作曲家
ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685.3-1750.7)が

36歳のとき(1721年5月)に
ブランデンブルク=シュヴェート辺境伯
クリスティアン・ルートヴィヒに献呈した合奏協奏曲

「ブランデンブルク協奏曲 BWV1046-1051」を聴きました。


J.S.バッハ
ブランデンブルク協奏曲 第1番 ヘ長調 BWV1046
ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV1047
ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048
ブランデンブルク協奏曲 第4番 ト長調 BWV1049
ブランデンブルク協奏曲 第5番 ニ長調 BWV1050
ブランデンブルク協奏曲 第6番変ロ長調 BWV1051

ゲルハルト・ボッセ指揮
神戸室内管弦楽団
録音:2011年3月10日、神戸文化ホール・中ホール
(神戸市演奏協会第336回公演 神戸室内管弦楽団定期演奏会)
【ALT-227/8】


ボッセさんが亡くなる1年前、
89歳のときの録音です。

本来2日後の3月12日に、
東京の紀尾井ホールで、

 神戸市演奏協会第337回公演
 神戸室内管弦楽団定期演奏会
 第21回東京公演

が同じ演目で行われる予定でしたが、
11日の震災によって中止となりました。

その折の経緯について、
ボッセさん自らCD解説に一文を記されています。


半年ほど前に、
ボッセさんが60歳前後のとき(1981・83年)に
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス・バッハ管弦楽団と録音した
ブランデンブルク協奏曲のCDを聴き、
大きな感銘を受けていました。

この旧盤があまりに良すぎたので、
神戸室内管弦楽団との新盤はまたの機会に
と思っていたのですが、

最近、980円で再販されたのを知って、
購入し聴いてみることにしました。

ちょうど旧盤の記憶が消えたころに、
ひと月ほど繰り返し聴いてみた感想です。

録音はどちらも秀逸です。

よく聴くと、
新盤のほうがより自由度が増し、
バッハの軽やかで、楽しく明るい側面が
よくわかる演奏になっていると思います。

しかし旧盤と大きく異なっているわけではなく、

斬新さとか、目新しさを強調することなく、
誠実だけれど軽やかな、飛翔する精神性を感じさせる演奏です。


旧盤がセッション録音で
じっくり仕上げてあるのに対し、

新盤がライブの一発録りである点が大きく違うので、

完成度にこだわりのある方は、
旧盤のほうを高く評価されるかもしれません。


また少し時間を置いて、
旧盤も聴き直してみますが、
今は多少の傷があっても、

新盤の軽やかで、明るく楽しいバッハの魅力にはまっています。



※Wikipediaの「ゲルハルト・ボッセ」
 「ヨハン・ゼバスティアン・バッハ」「ブランデンブルク協奏曲」の項目を参照。

※「財団法人 神戸市演奏協会:神戸市室内合奏団」のHP
 〈http://www.kobe-ensou.jp/ensemble/index.html〉を参照。

2012年11月13日火曜日

ベルグルンド&ボーンマス響のシベリウス:交響曲第1番

フィンランドの指揮者
パーヴォ・ベルグルンド(1929-2012)が45・46歳のとき(1974・75)、
イギリスのボーンマス交響楽団と録音した

同郷フィンランドの作曲家
ジャン・シベリウス(1865-1957)の交響曲第1番と、
組曲《歴史的情景》第1番を聴きました。


ジャン・シベリウス
1) 交響曲 第1番 ホ短調 作品39
  第1楽章 アンダンテ・マ・ノン・トロッポ(アレグロ・エネルジコ)
  第2楽章 アンダンテ(マ・ノン・トロッポ・レント)
  第3楽章 スケルツォ(アレグロ)
  第4楽章 フィナーレ クワジ・ウナ・ファンタジア(アンダンテ~アレグロ・モルト)

2) 組曲《歴史的情景》第1番 作品25
  第1曲 序曲風に
  第2曲 ある場面
  第3曲 祭り

パーヴォ・ベルグルンド(指揮)
ボーンマス交響楽団
録音:1974年9月9・10日〔交響曲第1番〕、1975年7月15日〔歴史的情景〕、サウサンプトン・ギルドホール、イギリス
【TOCE-16019/20】


交響曲 第1番 ホ短調 作品39は、

シベリウスが34歳のとき(1899年)に
完成し、初演された交響曲です。

クレルヴォ交響曲と同じ路線の、
民族感情を高揚させる作品ですが、
管弦楽のみでより洗練された感じがあります。

全体的にほの暗くはありますが、
わかりやすく美しいメロディに満ちており、

もう少し演奏の機会が多くても良いように思います。

ただ第2番と比べれば
まだ少しまとまりに欠ける所があるのか、

時折ライブを耳にしても、
なんだかまとまりが付かなくなって、
今ひとつ感動できないことが多いです。


このCDでは、
まずオケの凄い鳴りっぷりに驚きました。

シベリウスといえば、
寒々ひんやりとした感触で、
オケもそんなにバリバリに鳴らさない印象があったのですが、

ここまで思い切って鳴らしてもいいんだ、
と嬉しい驚きの演奏でした。

それでもシベリウスらしさを全く失わないのは、

どんなに強奏しても、
オケの音ににごりがないからなのかな、
と推測しますが、

何よりベルグルンドさんの
シベリウスへの共感度が尋常でないレベルに達していたからだろうな、と思います。


完成度の上では、
のちのヘルシンキ・フィルとの演奏の方が優れていると思いますが、

ボーンマス響との演奏は、
この曲から全く別の魅力を引き出していて、
とても感動しました。



組曲《歴史的情景》第1番 作品25は、

交響曲と同じ1899年に作曲された
歴史劇「愛国記念劇」のための音楽から、
1912年に編曲、初演された組曲(全3曲)です。

この「愛国記念劇」の音楽から、
1900年に交響詩《フィンランディア》作品26
が編曲されたことはよく知られています。

作品25と同時(1912年)に、
組曲《歴史的情景》第2番 作品66
が作曲、初演されていますが(全3曲)、

こちらは「愛国記念劇」の音楽からでなく、
改めて作曲されたものだそうです。


このCDで初めて聴いたので、
ほかと比べてどうなのかはわかりませんが、

オケの小品集として、
3曲ともふつうに楽しむことができました。

ただしあっという間に終わって、
少々軽い感じがするので、コンサートでは取り上げにくいようにも思いました。

組曲《歴史的情景》第2番

と一緒に取り上げるとちょうど良いのかもしれません。

第1・2番を収録したCDもあるようなので、
近々聴いてみようと思います。



※Wikipediaの「ジャン・シベリウス」「交響曲第1番(シベリウス)」

※S.suda様の「シベリウスのページ」
 〈http://members.jcom.home.ne.jp/tapiola/sibelius/index.html〉
 を参照させていただきました。


2012年11月8日木曜日

ペライアのモーツァルト:ピアノ協奏曲全集 その5

アメリカのピアニスト
マレイ・ペライア(1947-)と
イギリス室内管弦楽団による

オーストリアの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756.1-1791.12)の
ピアノ協奏曲全集、5枚目を聴きました。


モーツァルト
ピアノ協奏曲 第13番 ハ長調 K.415(387b)
ピアノ協奏曲 第14番 変ホ長調 K.449

マレイ・ペライア(ピアノ、指揮)
イギリス室内管弦楽団
録音:1979年4月4日、Abbey Road Studio、ロンドン(第13番)
  1975年9月12・13・15日、EMI Studio、ロンドン(第14番)
【SONY MUSIC 88691914112】CD5


K.415(第13番) のピアノ協奏曲は、
27歳のとき(1783年3月)に初演された作品です。

K.413~415(第11~13番)のピアノ協奏曲〔3曲〕は、
ウィーンに定住してすぐ1782年から翌年にかけて、
自らの予約演奏会用に作曲されたと考えられています。


K.449(第14番) のピアノ協奏曲は、
28歳のとき(1784年2月3日)に完成された作品です。

弟子のバルバラ・プロイヤー嬢のために作曲されたので、
《プロイヤーのための協奏曲》 第1番と呼ばれることもあります。

同様のピアノ協奏曲としてもう1曲 K.453(第17番) があり、
こちらは 《プロイヤーのための協奏曲》 第2番と呼ばれることがあります。


K.449・450・451・453・456・459(第14~19番)の6曲は、
すべて1784年に、ウィーンで作曲されたと考えられています。


実際聴いてみると、
第13番と第14番のあいだには、
わずかですが明らかな深まりの跡が感じられようです。

第11~13番までは、
愉悦感に包まれた明るいモーツァルトの一面を現しているものの、
まだ深みには乏しく、ほんの少し軽い感じがありました。

しかし第14番では、
モーツァルト独特の孤独感が影を挟むようになり、
充実度がぐっと増したように感じられました。


ペライアの演奏は、
より一層の押しの強さがあっても良いかな、
とも思いますが、

聴いて飽きるようなところは全くなく、
曲本来の美しさは十分に引き出せていると思います。


楽しく美しく、時に物悲しい、
モーツァルトの音楽にひたることが出来ました。



※Wikipediaの「マレイ・ペライア」
 「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」
 「ピアノ協奏曲第13番(モーツァルト)」
 「ピアノ協奏曲第14番(モーツァルト)」の各項目を参照。


※作品の基本情報について、
 ピティナ・ピアノ曲事典「モーツァルト」の項目
 【http://www.piano.or.jp/enc/composers/index/73】を参照。

2012年11月7日水曜日

横山幸雄のショパン:ピアノ独奏曲全集 その6(2011年録音)

横山幸雄(1971-)さんによる

ポーランド出身の作曲家
フレデリック・フランソワ・ショパン
(1810-1849)のピアノ独奏曲全集
6枚目を聴きました。


プレイエルによる
ショパン・ピアノ独奏曲全曲集〈6〉

1) パリ時代初期の遺作のマズルカ5曲
  マズルカ ニ長調(1832)
  マズルカ 変ロ長調 WN41(1832)
  マズルカ ハ長調(1833)
  マズルカ 変イ長調 WN45(1833)
  マズルカ ハ長調 WN48(1835)

2) 4つのマズルカ 作品17(1833作曲)
  第1番 変ロ長調
  第2番 ホ短調
  第3番 変イ長調
  第4番 イ短調

3) 4つのマズルカ 作品24(1835作曲)
  第1番 ト短調
  第2番 ハ長調
  第3番 変イ長調
  第4番 変ロ短調

4) 12の練習曲 作品25(1832-36作曲)
  第1番 変イ長調「エオリアンハープ」
  第2番 ヘ短調
  第3番 ヘ長調
  第4番 イ短調
  第5番 ホ短調
  第6番 嬰ト短調
  第7番 嬰ハ短調
  第8番 変ニ長調
  第9番 変ト長調「蝶々」
  第10番 ロ短調
  第11番 イ短調「木枯らし」
  第12番 ハ短調「大洋」

横山幸雄(ピアノ)
使用楽器:プレイエル(1910年製)
録音:2011年3月9・10日
上野学園 石橋メモリアルホール
【KICC-918】

CD6では、
ショパン22歳から26歳、
1832年から36年にかけて作曲された
マズルカと練習曲をまとめて取り上げています。

ショパンは
20歳(1830年)のときにワルシャワからウィーン、
21歳(1831年)のときにウィーンからパリに移住し、
パリで大成功をおさめます。

パリに移住し数年のうちに作曲された
20代前半の作品ということになります。


CD5では、
同じ時期に作曲された
ノクターンとポロネーズとバラードを取り上げていました。

このときは、
横山さんとノクターンの組み合わせが、
ほんの少しミスマッチな印象を受けたのですが、


CD6のマズルカも練習曲も、
横山さんと相性がとても良いようで、
感心しながら全体を聴き終えることができました。

マズルカは、
ポーランド特有のリズムにこだわるよりは、
横山さんが心に感じるところをすなおに表現してある演奏で、
わかりやすく、曲本来の美しさに感動しました。

これまでマズルカ集を聴いて
いいなと思えたことはなかったのですが、
横山さんのマズルカは、どれも曲そのものの良さが引き出されていて、楽しめました。


練習曲は、もう完全に
曲が横山さんの中に入っているようで、

完璧なテクニックに支えられた
驚くほど詩情にあふれる演奏で、

技術的なことを忘れて、
曲そのものの美しさに聴き入りました。


それでは次はCD7に進みましょう。

※Wikipediaの「横山幸雄」「フレデリック・ショパン」「ショパンの楽曲一覧」

2012年11月4日日曜日

ヘブラーのモーツァルト:ピアノ・ソナタ第6-8番(旧盤)

オーストリア出身のピアニスト
イングリット・ヘブラー(1926-)による

オーストリアの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)の
ピアノソナタ全集、2枚目を聴きました。


モーツァルト: ピアノ・ソナタ全曲

モーツァルト
ピアノ・ソナタ 第6番 ニ長調 K.284
ピアノ・ソナタ 第7番 ハ長調 K.309
ピアノ・ソナタ 第8番 イ短調 K.310

イングリット・ヘブラー(ピアノ)
録音:1967年6月(第6番)、1964年12月(第7番)、1963年4月(第8番)
【PROC-1201/5】CD2


K.284(第6番)は、
モーツァルトが19歳のとき(1775年)、
デュルニッツ男爵のために作曲した
《デュルニッツ・ソナタ》(全6曲)の最後を締めくくる1曲です。

この1曲のみをさして《デュルニッツ》と呼ぶこともあります。


K.309(第7番)は、
モーツァルトが21歳のとき(1777年)、
母アンナとともにザルツブルグからパリへと向かう
旅の途中で滞在したマンハイムで作曲されました。

CD3に収録の K.311(第9番)も、
ほぼ同時に作曲されたことが確認されています。


K.310(第8番)は、
珍しく短調で書かれた作品で、
1778年7月に母アンナをパリで亡くした
経験が反映されたと推測されていますが、
史料の確証はありません。

K.309~311(第7~9番)のソナタは、
まとめて「作品4」として1781年に
パリで出版されているので、

K.310 もそれまでに作曲されたことは確かです。


第1~6番までは、
モーツァルト10代最後に書かれたソナタ、

第7~9番までは
20代前半に書かれたソナタとして、

まとめて考えることができそうです。


   ***

さて実際に聴いてみると、

第6番と第7番とのあいだに、
それほど明瞭な違いが聴き取れるわけではありませんが、

何となく成長しているようでもあります。


第8番は、明らかに
モーツァルトの内面的な深まりを見せている作品で、
それまでとは異質な世界が描かれているように感じます。

モーツァルトの絶望と孤独とが、
ピアノ・ソナタの簡素な様式の中で、
花開いているように感じました。


ヘブラーのピアノは、
ほんの少し迫力不足に聴こえるところもありますが、

古典の枠をはみ出さない範囲で、
最大限自由に、モーツァルトの楽譜を活かした演奏で、

清楚で典雅な雰囲気の中で、
聴くごとに味わいを増す絶妙な演奏に仕上がっていると思います。


それではCD3へと進みましょう。


※Wikipediaの「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」「イングリット・ヘブラー」
 「ピアノ・ソナタ第6番(モーツァルト)」「ピアノ・ソナタ第7番(モーツァルト)」
 「ピアノ・ソナタ第8番(モーツァルト)」の各項目を参照。


※作品の基本情報について、
 ピティナ・ピアノ曲事典「モーツァルト」の項目
 【http://www.piano.or.jp/enc/composers/index/73】を参照。