2013年2月28日木曜日

シュナーベルのベートーヴェン:ピアノソナタ全集 その2

オーストリア出身のピアニスト
アルトゥル・シュナーベル
(Artur Schnabel 1882.4-1951.8)が、
50歳から53歳にかけて(1932-35)録音した

ドイツの作曲家
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
(Ludwig van Beethoven 1770.12-1827.3)の
ピアノソナタ全集の2枚目です。


ベートーヴェン・ピアノソナタ録音協会全集第2集

ベートーヴェン(1770-1827)
 ピアノソナタ 第19番 ト短調 作品49-1
 ピアノソナタ 第20番 ト長調 作品49-2
 ピアノソナタ 第4番 変ホ長調 作品7
 ピアノソナタ 第5番 ハ短調 作品10-1
 ピアノソナタ 第6番 ヘ長調 作品10-2

アルトゥル・シュナーベル(ピアノ)
録音:1932年11月19日〔19番〕、1933年4月12日〔20番〕、1935年11月11日〔4番〕、1935年11月6日〔5番〕、1933年4月10日〔6番〕、EMIアビー・ロード第3スタジオ、ロンドン
【Naxos 8.110694】


作品49(第19・20番)のソナタは、
34歳のとき(1805.1)に出版された作品ですが、

様式上、
25歳のとき(1796.3)に出版された作品2(第1-3番)のソナタと、
26歳のとき(1797.10)に出版された作品7(第4番)のソナタの、
間に作曲されたと考えられる作品なので、
CD2の冒頭に置かれているようです。

出版譜には「2つのやさしいピアノ・ソナタ」とあり、
ともに2楽章ずつからなる学習者用の作品ですが、
名手の手にかかるとさすがです。

他のソナタとは確かに趣向が違いますが、
ほっと一息、力を抜いたときの、明るいやさしさに包まれたベートーヴェンの小品として、魅力のある作品だと思いました。


作品7(第4番)のソナタは、
26歳のとき(1797.10)に出版された作品です。

作品2(第1-3番)のソナタと同じく、4楽章で構成されています。

ベートーヴェンの若々しい情熱が、
外に向かって放出される感のある曲で、

第3番からさらにもう一歩、
大きな規模の作品に挑戦してみた結果のようです。

緩徐楽章のみ、
多少間延びしてるようで、
全体像がつかみにくかったのですが、

ほかの楽章は、
雄弁なシュナーベルの演奏に魅了されました。


作品10(第5-7番)のソナタは、
27歳のとき(1798.9)に出版された作品です。

このCDには第5・6番が収録されています。
ともに3楽章で構成されています。

第5番はピアノ学習者がよく取り上げる曲で、
「ハ短調」の印象的な出だしが耳に残ります。

第6番とともに、
それほど大きな規模の作品ではありませんが、

元気でハツラツとしていた時期の
若きベートーヴェンを楽しむのにはもってこいの作品です。


全体としてみると、

まだ若さあふれる時期の
勢いのある小さめの規模の作品の魅力が、

シュナーベルの喋りかけるような雄弁なピアノで、
存分に引き出されていると思いました。


※L.v.ベートーヴェン全作品目録(国立音楽大学 音楽研究所)
 【http://www.ri.kunitachi.ac.jp/lvb/bdb/bdb_index.html】を参照。

※ペティナ・ピアノ曲事典「ベートーヴェン」
 【http://www.piano.or.jp/enc/composers/61/】を参照。

※Wikipedia の「アルトゥル・シュナーベル」
 「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン」
 「ベートーヴェンの楽曲一覧」を参照。

ベルグルンド&ボーンマス響のシベリウス:交響曲第5番(1974年)

フィンランドの指揮者
パーヴォ・ベルグルンド(1929.4-2012.1)が45歳のときに(1974.6)、
イギリスのボーンマス交響楽団と録音した

同郷フィンランドの作曲家
ジャン・シベリウス(1865.12-1957.9)の
交響曲第5番と交響詩《伝説(エン・サガ)》を聴きました。

《伝説》は初めて聴きました。


シベリウス
1) 交響曲 第5番 変ホ長調 作品82
  第1楽章 テンポ・モルト・モデラート~アレグロ・モデラート~プレスト
  第2楽章 アンダンテ・モッソ・、クワジ・アレグレット
  第3楽章 アレグロ・モルト

2) 交響詩《伝説(エン・サガ)》作品9

パーヴォ・ベルグルンド(指揮)
ボーンマス交響楽団
録音:1974年6月14日(交響曲)、1974年6月17日(組曲)
サウサンプトン・ギルドホール、イギリス
【TOCE-16016】


交響曲 第5番 変ホ長調 作品82 は、

シベリウス50歳の誕生日(1915.12)に初演された作品です。

改訂が2度施され、
53歳のとき(1919.11)に初演された
2度目の改訂稿が決定稿となっています。


第3番と同じ3楽章構成で、
実際、曲調も似ているように感じました。

第3番では明るい曲調の中に、若さというか、
抽象的ともいえる純度の高い音楽が展開されていたのに対し、

第5番では、
それまでの人生の深みというか、
50歳に至るまでの人生経験が織り交ぜられて、

再び誰にもわかりやすい音楽へと、
味わい深く進化を遂げているように感じました。


第4番をじっくり聴いた後の耳には、
とてもわかりやすい音楽に聴こえました。

これまでそれほど
感銘をもって聴いた記憶がないのですが、

今回初めて、
曲の真価をつかめた気がします。


  ***

交響詩《伝説(エン・サガ)》作品9 は、

シベリウスが27歳のときに初演された作品です(1893.2)。
のちに改訂され、36歳のとき(1902.11)に改訂版が初演されています。

26歳のとき(1892.4)に初演された
《クレルヴォ交響曲》作品7 が成功したのを受けて作曲された作品です。

クレルヴォが初演ののち撤回されてしまったので、
実質的に最初の成功作になりました。


さて聴いてみると、
初期のわかりやすい音楽で、
まとまりよく仕上がっているので、
コンサートで取り上げるのにはもってこいだと思いました。

ヴァイオリン協奏曲を多少俗化したような印象で、
ふつうに楽しんで、聴き終えることができました。

交響曲第5番のあとだと明らかに聴き劣りするのですが、

これだけじっくり取り上げれば、
また印象は異なると思います。


※Wikipediaの「ジャン・シベリウス」「交響曲第5番(シベリウス)」「エン・サガ」を参照。

2013年2月23日土曜日

ヘブラーのモーツァルト:ピアノ・ソナタ全集 その4(旧盤)

オーストリア出身のピアニスト
イングリット・ヘブラー(1926.6 - )が、

36歳から41歳までの
4年2ヶ月(1963.4-1967.6)かけて録音した

オーストリアの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756.1-1791.12)の
ピアノソナタ全集、4枚目を聴きました。

モーツァルト: ピアノ・ソナタ全曲

モーツァルト
ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K.332
ピアノ・ソナタ 第13番 変ロ長調 K.333
ピアノ・ソナタ 第14番 ハ短調 K.457

イングリット・ヘブラー(ピアノ)
録音:1964年12月(第12番)、1967年6月(第13番)、1966年8月(第14番)
【PROC-1201/5】CD4


K.332(第12番)のソナタは、

27歳(1783年)のときに、
K.330・331(第10・11番)のソナタととももに作曲され、

翌1784年に3曲合わせて
「作品6」として出版された作品です。


K.333(第13番)のソナタは、

27歳のとき(1783年末)に作曲され、

K.284 のピアノ・ソナタ(第6番 ニ長調)
K.454 のヴァイオリン・ソナタ(第40番 変ロ長調)とともに、
「作品7」として出版された作品です。


K.457(第14番)のソナタは、

28歳のとき(1784-10/14)に作曲され、

翌年(1785-5/20)に作曲された
K.475の幻想曲(ハ短調)とともに出版された作品です。



   ***

さて演奏ですが、

K.332(第12番)のソナタは、

強烈な個性に彩られた
ハイドシェックの復活ライブCDを聴きなれていたせいで、
はじめのうち多少の物足りなさを感じました。

しかしひと月ほど聴いてくると、

若々しく優雅で清楚な雰囲気をたたえた、
聴き込むほどに味わいの増す演奏であることは、

これまでの3枚と変わらない、と思いました。


このあたりの曲になると
耳にする機会も比較的多いので、

もう少し刺激のある演奏でもいいかな、
と思うところもありましたが、

よく練られた解釈が、
ごく自然な流れの中に実現しているのは、
ヘブラーならではと思います。


とくに第14番は、
あまり深刻になりすぎないところが、
私の好みに合っていました。


それでは最後の1枚に進みましょうか。



※Wikipediaの「イングリット・ヘブラー」
「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」
「ピアノ・ソナタ第12番(モーツァルト)」
「ピアノ・ソナタ第13番(モーツァルト)」
「ピアノ・ソナタ第14番(モーツァルト)」の各項目を参照。


※作品の基本情報について、
 ピティナ・ピアノ曲事典「モーツァルト」の項目
 【http://www.piano.or.jp/enc/composers/index/73】を参照。

2013年2月15日金曜日

ケンプのバッハ:ゴールドベルク変奏曲(1969年)

ドイツのピアニスト
ヴィルヘルム・ケンプ
(Wilhelm Kempff 1895.11-1991.5)
73歳のとき(1969.7)に録音した、

ドイツの作曲家
ヨハン・セバスティアン・バッハ
(Johann Sebastian Bach 1685.3-1750.7)の
ゴールドベルク変奏曲 BWV988 を聴きました。

「クラーヴィア練習曲集」(全4巻)の第4巻であり、
バッハが57歳のとき(1742年)に出版された作品です。


J.S.バッハ
ゴールドベルク変奏曲 BWV988

ウィルヘルム・ケンプ(ピアノ)
録音:1969年7月、ハノーヴァー、ベートーヴェンザール
【DG 439 978-2】

国内盤1000円のシリーズが
残念な音質だったので、
輸入盤を格安(780円!)で手に入れました。


とても良かったです。

グールドさんの演奏で聴き慣れた、
冒頭テーマの装飾音がきれいに取り払われているのが印象的で、

肩に力を入れず、
明るく自由な雰囲気の中で、
おっとりとした暖かな音楽が流れていきました。


聴き込むほどに、
バッハの楽譜を慈しんで、
ほどよく歌い込まれた演奏であることが伝わって来るので、
好感が持てました。

一聴何もしていないようにも聴こえるので、

リマスタリングが今一つだと、
本当に何もしていない退屈な演奏に聴こえるかもしれません。


武久源造さん以来の愛聴盤になりそうです。



   ***


グールドさんの演奏、
ゴールドベルク変奏曲は確かに名演なのですが、

感動するかといわれると、
少し違う気がします。

目の覚めるような、新鮮な驚きのある演奏なので、
今でも時折聴き返す録音ではあります。



しかしゴールドベルク以外では、
フレーズの終わりをぶっきら棒に弾き飛ばす癖が耳につき、
好きにはなれません。

独りよがりで、
音楽を適当に扱っているように感じられるのは
私だけでしょうか。


特別な才能の持ち主であることは間違いないと思いますが、
聴衆との切磋琢磨を拒絶することで、

自分の中だけで完結してしまい、
相手を感動させる音楽をつむぎだすことには、
後ろ向きな側面があるように思います。

将来、感想が変わる可能性もあるでしょうが、
今はこんな風に感じています。


※Wikipediaの「ヨハン・セバスティアン・バッハ」
「ゴールドベルク変奏曲」「ヴィルヘルム・ケンプ」を参照。

2013年2月11日月曜日

バルシャイ&ケルン放送響のショスタコーヴィチ:交響曲全集 その2

ロシア出身の指揮者
ルドルフ・バルシャイ(1924.8-2010.11)が

68歳から76歳にかけて(1992.9-2000.9)、
ドイツのケルン放送交響楽団と録音した

ロシアの作曲家
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ
(1906.9-1975.8)の交響曲全集
2枚目を聴きました。


ショスタコーヴィチ
交響曲 第4番 ハ短調 作品43

ケルン放送交響楽団
ルドルフ・バルシャイ(指揮)

録音:1996年4月16日-24日、10月24日、フィルハーモニー、ケルン
【BRILIANT 6324-2】


交響曲第4番ハ短調作品43 は、

29歳のときに作曲され(1935.9-1936.5)、
30歳のときに初演が予定されていましたが(1936.12)

1936年1月に、
ソ連共産党中央委員会機関紙『プラウダ』誌上で、
ショスタコーヴィチ個人への批判が行われたことから、
身に危険を感じ、初演を撤回したエピソードがよく知られています。

 ソ連共産党に批判されたということは、
 粛清(殺害 or シベリア送り)の危機にあったと推測するのが穏当なのでしょう。

そのため初演は遅れ、
25年後の1961年12月に行われています。


  ***

第4番は、
サイモン・ラトル指揮/バーミンガム市交響楽団
CD(1994年7月録音)が出たときに、

宇野功芳氏が絶賛していたのにひかれて購入し、
くり返し聴きました。


美しく楽しくわかりやすい音楽、ではないので、
はじめはわけが分からなかったのですが、

不思議と心にひっかかるところもあって、
聴き返しているうちに結構お気に入りの曲になりました。


今回バルシャイさんの指揮で聴き直してみると、

これはドイツのオケを振っているからかもしれませんが、
ラトルさんよりも一音一音踏みしめる感じがあって、

かといって野暮ったくなる程ではなく、
全体として楽譜の意味がよくわかる演奏に仕上がっていると思いました。


ラトル盤のときには、
まだ若干無理して聴いていたところもあったのですが、

耳がこの曲にだいぶ慣れてきたのか、
今回は不思議な心地よさを感じながら、
演奏を楽しむことができました。

モーツァルトや、
ハイドンのような美しさからは程遠いはずなのですが、

現代人の複雑に入りくんだ精神にとって、
どこか心地よく作用する部分があるようです。


まだまだこれから様々な名演が生まれて来そうですが、

もしライブでこの演奏が聴けたら、
十分満足できるレベルです。


※Wikipediaの「ルドルフ・バルシャイ」
「ドミートリイ・ショスタコーヴィチ」
「交響曲第4番(ショスタコーヴィチ)」
「プラウダ批判」を参照。

2013年2月9日土曜日

Audite のフルトヴェングラー&ベルリンpo 録音集 その8

Audite から復刻された
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886-1954)と
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の録音集、
8枚目を聴きました。


Live in Berlin
The Complete Recordings RIAS

1) ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》序曲 Op.77
2) ヒンデミット:交響曲《世界の調和》

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1952年12月8日、ティタニア・パラスト、ベルリン
【audite 21.403】CD8


CD8には、
1950年12月7・8・9日に3日にわたって行われた
 ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》序曲
 ヒンデミット:交響曲《世界の調和》
 ベートーヴェン:交響曲第3番《英雄》
の3曲からなる演奏会から、

12月8日に演奏された
《魔弾の射手》と《世界の調和》の2曲が収録されています。

同日の《英雄》はCD9に収録されています。


   ***

ドイツの作曲家
カール・マリア・フォン・ウェーバー
(Carl Maria von Weber 1786.11-1826.6)の

歌劇《魔弾の射手》は、
ウェーバーが34歳のときに初演された作品です(1821.6)。

曲名はよく知っていて、
序曲は何度か耳にしているはずですが、
ほとんど記憶に残っていませんでした。

久しぶりに聴いて、
前半は初めて聴くようでしたが、
後半からは記憶が甦って来ました。


音質は非常に良く、
へたなステレオ録音より
よほど聴きやすいです。

フルトヴェングラーの彫りの深い演奏で、
曲の魅力を再認しました。


   ***

ドイツ出身の作曲家
パウル・ヒンデミット
(Paul Hindemith 1895.11-1963.12)の

交響曲《世界の調和》は、
同名の歌劇をもとに編曲された作品で、
56歳のときに初演されています(1952.1)。

ヒンデミットの最高傑作との評価もあるようです。

聴きやすいモノラル録音で、
フルトヴェングラーの指揮のもと、

ヒンデミットのかいた音楽が、
真摯に再現されていると思います。


しかしながら、
初めて聴いたからかもしれませんが、
私には今ひとつで、何が良いのかさっぱりわかりませんでした。

ムラヴィンスキーの録音もあるようなので、
そちらを聴くと印象が変わるかもしれませんが、

今のところ、
第二次世界大戦後間もなくの
特殊な雰囲気でのみ受け入れられた作品のように聴こえました。

また機会があれば、聴き直してみます。



※Wikipediaの
 「カール・マリア・フォン・ウェーバー」
 「魔弾の射手」
 「パウル・ヒンデミット」の各項目を参照。

※フルトヴェングラーの演奏会記録については、
 仏ターラ社の ホームページ上にあるものを参照。
 【http://www.furtwangler.net/inmemoriam/data/conce_en.htm】