2014年12月30日火曜日

ガンゼンハウザー&スロヴァキア放送響のサン=サーンス:交響曲第3番《オルガン付き》(1988年録音)

1枚500円ほどで買える
エイベックス・クラシックスの
ベスト・オブ・クラシックスからもう1枚、

アメリカの指揮者
スティーヴン・ガンゼンハウザー(1942.4-)の指揮する

スロヴァキアのオーケストラ
スロヴァキア放送ブラティスラヴァ交響楽団の演奏で、

フランスの作曲家
カミーユ・サン=サーンス(1835.10-1921.12)の
交響曲第3番《オルガン付き》を聴きました。

サン=サーンス50歳の時(1886.5)に初演された作品を、
ガンゼンハウザー46歳の時(1988.6)に録音しています。


サン=サーンス
1) 交響曲第3番ハ短調作品78《オルガン付き》
2) 前奏曲とフーガ 変ホ長調 作品99の3

イムリヒ・サボー(オルガン 1)
スティーヴン・ガンゼンハウザー(指揮)
スロヴァキア放送ブラティスラヴァ交響楽団
ロバート・デルキャンプ(オルガン 2)
録音:1988年6月 ブラティスラヴァ、スロヴァキア放送コンサートホール(1)、
2003年6月 ルクセンブルク、デュードゥランジュ、聖マルティノン教会(2)
【AVCL-25628】

ガンゼンハウザーの指揮、

中堅どころのオケを相手に、

スコアを良く読み込んで、
聴かせどころのつぼを良く心得た、

思いのほか満足度の高い演奏を聴かせてくれました。


オーソドックスなスタイルを基調としつつも、
ところどころ解釈に個性的なところがあって、

共感度が高いオケとともに、
手に汗握る熱演が繰り広げられており、

ライブで聴けたら大満足なレベルの演奏でした。

オケの技量的にはあと一息の感じもありますが、
オルガンと合わせて程よいバランスで聴きやすく仕上げているので、

《オルガン付き》の名演としてふつうにお勧めできます。


もう一曲のオルガン独奏曲は、
初めて聴きました。

予想外の名曲で、
芸術的に交響曲よりも、
深い世界が描かれているように感じました。

サン=サーンスのオルガン独奏曲は、
これまでまったく注目して来なかったので、

今後ぜひ注目していきたいと思いました。


2014年12月28日日曜日

ミュラー=ブリュール&ケルン室内管弦楽団のバッハ:ブランデンブルク協奏曲(1999年録音)

エイベックス・クラシックスの
ベスト・オブ・クラシックスというシリーズ。

1枚500円ほどで買えるのですが、

ナクソスの少し前の録音を
安値で販売していることに気がつきました。

7年も前に発売されているので今更かもしれませんが、

近くのHMVにすべて揃っていましたので、
気になるのをいくつか聴いてみようと思います。


まず指揮者の才能に驚いたのが、

ドイツの指揮者
ヘルムート・ミュラー=ブリュール(1933.6-2012.1)です。

彼の指揮する
ドイツの室内オーケストラ
ケルン室内管弦楽団の演奏で、

ドイツの作曲家
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685.3-1750.7)の
ブランデンブルク協奏曲 BWV1046-51を聴きました。

バッハ36歳の時(1721.5)に完成された作品。

ミュラー=ブリュール65歳の時(1999.3-4)の録音です。


ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
ブランデンブルク協奏曲第1番 ヘ長調 BWV1046
ブランデンブルク協奏曲第2番 ヘ長調 BWV1047
ブランデンブルク協奏曲第3番 ト長調 BWV1048
ブランデンブルク協奏曲第4番 ヘ長調 BWV1046
ブランデンブルク協奏曲第5番 ヘ長調 BWV1047
ブランデンブルク協奏曲第6番 ト長調 BWV1048

ヘルムート・ミュラー=ブリュール指揮
ケルン室内管弦楽団
録音:1999年3-4月 ケルン、ドイツ放送局スタジオ
【AVCL-25658/9】2007年12月発売

ヘンリー・ミュラー=ブリュールさんのバッハ、

ノンビブラートのザックリした軽めの明るい響きに、
速めのテンポで颯爽と駆け抜けていく快演です。

現代楽器に古楽器奏法を取り入れているようで、
ふつうと違う斬新な響きに耳を奪われました。

ただしアーノンクールほど
常識を逸脱した感じはなく、

安心して身を任せられる範囲で、
新しさを模索した演奏といえるかもしれません。

後半の3曲は、
全体的にテンポが少し早過ぎるようにも思いましたが、
その分飽きずに一気に聴き通せたことも確かです。

個人的にベストのボッセ盤には多少劣りますが、

ブランデンブルク協奏曲の魅力を十分に引き出した
名演の一つだと思います。



ヘンリー・ミュラー=ブリュールさん、
残念ながらもう亡くなられていますが、

手兵のケルン室内管弦楽団とともに、

ナクソスに、
バッハとモーツァルトとハイドンを

たくさん録音していますので、
時期をみてまとめて聴いていきたいと思います。


2014年12月23日火曜日

ロジェのドビュッシー:ピアノ名曲集(1977-79年録音)

フランスの作曲家
クロード・ドビュッシー(1862.8-1918.3)の

 ベルガマスク組曲(1890 改訂1905)
 組曲《子供の領分》(1908)
 前奏曲第1巻(1909-1910)

を、

フランスのピアニスト
パスカル・ロジェ(1951.4-)の演奏で聴きました。

ロジェ26-28歳(1977-79)の時の録音です。


ドビュッシー
1) ベルガマスク組曲(1890 改訂1905)
2) 組曲《子供の領分》(1908)
3) 前奏曲第1巻(1909-1910)

パスカル・ロジェ(ピアノ)

録音:1977年5月20-23日 ロンドン、キングズウェイ・ホール(1)、1979年9月17-20日 プリストル、セントジョージ教会(2)、1978年11月13-16日 ロンドン、ロスリン・ヒル・チャベル(3)
【UCCD-7281】2013年5月発売

ベルガマスク組曲は、
1890年から91年にかけて作曲され、
改訂の後、43歳の時(1905)に出版されました。

組曲《子供の領分》は、
1906年から8年にかけて作曲され、
45歳の時(1908.7)に出版されました。

前奏曲第1巻は、
1909年から10年にかけて作曲され、
47歳の時(1910.5)に出版されました。


  ***

ドビュッシーには前から興味はあったのですが、

日ごろドイツ音楽中心に聴いてきたからか、
いいなと思える録音になかなか出会えませんでした。

今回、
偶然購入したロジェさんの演奏、

ほどほどに切れの良いリズム感のなかに、
印象派の絵画のような淡い彩りで
美しく楽しい歌があふれていて、

何の違和感もなく、
すっとドビュッシーの音楽に入り込むことができました。

ドビュッシーの音楽は、
これまで独特の和声にばかり注目していたのですが、
リズムの切れもそれなりに重要なんだと実感しました。

まだまだ一つ一つの曲について
深く理解するところにはたどり着いていませんが、

このCDはドビュッシーを理解していく上での
良いきっかけになったと思います。

ロジェさんのドビュッシー、
この時期に選集としてCDもう1枚分録音されているので、
近々そちらも手に入れて聴いてみます。

なお最近、
改めて全集を録音されているようです。
そちらもいずれ聴くことになるでしょう。


ちなみに同じシリーズで、
ラヴェルの名曲集が出ていましたが、
こちらはどこが良いのかわからぬままでした。

ロジェさんの演奏は、
ドビュッシーと同レベルの優れたものだと思いますが、

まだ曲の聴きどころがピンと来ない感じです。


Wikipediaの「クロード・ドビュッシー」「ベルガマスク組曲」「子供の領分」「前奏曲(ドビュッシー)」を参照。

2014年12月7日日曜日

北原幸男&名フィルのベートーヴェン:交響曲第9番(2014.11.30)

去る11月30日(日)に、
金山の日本特殊陶業市民会館フォレストホールまで、

市民の「第九」コンサート2014

を聴きに行ってきました。


ドイツの作曲家
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
(1770.12-1827.3)の

《エグモント》序曲 作品84
交響曲第9番ニ短調 作品125《合唱付》

の2曲からなるプログラム。

指揮:北原幸男
管弦楽:名古屋フィルハーモニー交響楽団
独唱:ソプラノ 長屋弘子
   ア ル ト 相可佐代子
   テノール 錦織健
    バ ス  澤脇達晴
合唱:市民の「第九」コンサート2014特別合唱団

のメンバーによる演奏でした。



行動の自由が効くのは日曜だけなので
行きたいコンサートが見つかることは稀なのですが、

先週偶然、
かねてから贔屓にしている
北原幸男(きたはらゆきお 1957-)氏の指揮で「第九」が聴けることを知り、

当日券を目当てに金山まで足を運びました。

会場に30分ほど前に着いたところ、
満席で当日券は出ないと言われたのですが、

せっかく来たので開演3分前まで粘り、
直前に発生した余りの分を購入して聴いてきました。



初めの《エグモント》序曲から、

北原幸男氏の指揮と、
それに応えようとする名フィルの充実ぶりが嬉しい驚きでした。


北原氏は、
オーバーアクションでみえを張るようなところが一切なく、

楽譜から引き出される穏当な解釈を、
誠実に再現せんとする職人肌の指揮者です。

強烈な個性を放つわけではないのですが、

虚飾を排し、
音楽の中身で勝負せんとする姿勢は
若いころから一貫していて、

独特の品の良さ、格調高さの中に、
十分な充足感のある演奏が繰り広げられていました。


次の「第九」も、
北原氏と名フィルが、

穏当な解釈の中に、
中身の詰まった充実した演奏を聴かせてくれました。

3楽章までの完成度の高さを思うと、
4楽章からは、声楽の扱いの難しさを痛感しました。


ただアマチュアの合唱団が、
数ヶ月の練習でプロのオーケストラと共演されたことを思えば、

十分に健闘されていて、

北原氏の巧みな指揮のもと、
全体として感動的な演奏が繰り広げられていました。


ただソリストはプロであることを思えば、
もう少し何とかならなかったのかなと感じました。

60分近く何も声を出さなかったところへ
いきなり声を張り上げるわけなので、
それだけ難しい曲なのかもしれません。



全体としてみると、
3楽章まではそのままCDにして繰り返し聴きたくなる演奏、

4楽章は年に1度の市民の合唱団によることを考えれば
十分に楽しめる演奏でした。


楽譜に対して常に謙虚で、
あっさりしているようで実は濃い、

北原氏の真価を存分に味わうことができました。


個人的には、
オケから自然につむぎ出される音に、
もう少しだけ濃い味わいが感じられるようになれば
言うことないのですが、

恐らく数年単位でゆっくりゆっくり
良い方向に進化されていくのであろうと
今後に期待しております。


   ***

市民の「第九」コンサートは、
当日のパンフレットを参照すると、

1989年10月に開催された
 名古屋市制100周年記念「ザ・第九」1万人のコンサート
をきっかけとして、

1991年から2002年まで12回は、
 讃歌「第九」コンサート

2003年から2014年まで12回は、
 市民の「第九」コンサート

と称して毎年秋か冬に演奏会を実施されているようです。

北原氏は2002年11月と2009年11月の2回指揮されていて、
今回は3回目の顔合わせでした。


2014年12月5日金曜日

小川京子のモーツァルト:レクイエム(ピアノ独奏版)

オーストリアの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756.1-1791.12)の
遺作《レクイエム》ニ長調 K.626 を、

オーストリアの作曲家
カール・チェルニー(1791.2-1857.7)が、
ピアノ独奏用に編曲した版で聴きました。

楽譜はチェルニーが36歳の時(1827)に出版されています。


日本のピアニスト
小川京子(おがわきょうこ)氏による
2012年の録音です。


ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:
《レクイエム》ニ短調 K.626(ジュースマイヤー版)
カール・チェルニーによるピアノ独奏編曲

小川京子(ピアノ)
録音:2012年3月15日、和光市民文化センター
【WWCC7698】


モーツァルトの《レクイエム》は、

オーストリアの伯爵
フランツ・フォン・ヴァルゼック(1763.1-1827.11)の
依頼によって作曲されたものの、
未完のまま残されたため、

弟子であったオーストリアの作曲家
フランツ・クサーヴァー・ジェスマイアー(1766-1803.9)が補筆完成し、
1793年12月に初演された作品です。

モーツァルトの没後(1791.12)35年をへて、
チェルニーがピアノ独奏用に編曲(1827)した経緯は、
「1820年代半ばに戦わされた〈《レクイエム》真贋論争〉」にあるそうです。

 ※海老澤敏氏のCD解説を参照。


ネット散策をしている時に、
ふと目についたのがピアノ独奏版の《レクイエム》でした。

合唱とオーケストラの作品を、
ピアノ独奏に直すのでは音が少なすぎるのでは、
と思ったのですが、

モーツァルトのピアノ独奏曲は、
もともと無駄な音が削ぎ落とされたシンプルなものなので、
意外に合っているかもしれない、
と思いなおし購入しました。


その結果、
モーツァルトのもともとの独奏曲といってもおかしくない、
優れた編曲に仕上がっていて、

存分に《レクイエム》の世界に浸ることができました。


小川京子氏のピアノは、
演奏効果をねらった外面的なところがなく、

ていねいに曲の本質を掘り下げていくスタイルで、
編曲の真価を十分伝えるものでした。

真面目一辺倒ではあるので、
CDで全体を聴き通すと多少息がつまるようでもありましたが、

世界初録音で、
編曲の内容を正確に伝えるという意味では、
十分な仕事をされたと思います。

ただこれは、
ぜひほかのピアニストでも聴いてみたい曲です。

どなたか取り上げてくれないかな。

2014年11月28日金曜日

松坂屋美術館の「氏家浮世絵コレクション設立四〇周年記念展」

11月2日(日)に、松坂屋美術館まで

「氏家浮世絵コレクション設立四〇周年記念展」

を観に行ってきました。

愛知県美術館の「デュフィ展」をみた後、
実はすぐ近くで浮世絵の名品展が開催されていたことを知り、
翌週再び栄に足をのばしました。

「氏家浮世絵コレクション」は、

「昭和49年10月1日、
 多年にわたって肉筆浮世絵の蒐集につとめてきた
 氏家武雄氏と鎌倉市が協力し、
 鎌倉国宝館に財団法人として設置され、
 平成24年4月1日付けで公益財団法人に移行」したものだそうです。
 ※展覧会チラシ、参照。


デュフィ展の後に観たため、
わりと質素な感じのスリムな展示が多少気になりましたが、

葛飾北斎(宝暦10年〔1760〕9月-嘉永2年〔1849〕4月)
の名画を観られたのが大収穫でした。

北斎はどれも良かったのですが、

【図録35】
「酔余美人図(すいよびじんず)」
 ※1輻。絹本著色。文化4年(1807)頃。

【図録37】
「雪中張飛図(せっちゅうちょうひず)」
 ※1輻。絹本著色。天保14年(1843)。

【図録38】
「大黒に大根図(だいこくにだいこんず)」
 ※1輻。絹本著色。天保12年(1841)。

【図録39】
「桜に鷲図(さくらにわしず)」
 ※1輻。絹本著色。天保14年(1843)。

【図録40】
「鶴鸛図(つるこうのとりず)」
 ※2曲1隻。文化(1804-18)中後期頃。絹本著色。

【図録43】
「蛸図(たこず)」
 ※1輻。絹本著色。文化8年(1811)頃。

【図録46】
「寿布袋図(じゅほていず)」
 ※1輻。紙本淡彩。嘉永元年(1848)。

の7点は訴えかけてくる力が強く、
特に気に入りました。

展覧会の図録
『氏家浮世絵コレクション』を観ると、
ほかの画家とそれほど違うようには感じないのですが、

実物の迫力は圧倒的で、
北斎だけ他から浮かび上がっているような力強さがありました。


ほかの画家たちは、
歴史的な価値の高さは別にして、
芸術的に心を揺さぶられる絵はほとんどありませんでした。

その中で、
歌川広重(寛政9年〔1797〕-安政5年〔1858〕9月)の

【図録56】
「高輪の雪・両国の月・御殿山の花図」
(たかなわのゆき・りょうごくのつき・ごてんやまのはなず)
 ※3輻。絹本著色。嘉永(1848-54)~安政(1854-60)前期。

の飄々広々とした3輻の風景画に惹かれましたが、

広重はこの1点のみで、
同じタイプの絵も展示されていなかったので、
他と比べてどうなのかはよくわかりませんでした。


もう一人有名なところでは、
喜多川歌麿(宝暦3年〔1753〕頃-文化3年〔1806〕9月)の

【図録27】
「かくれんぼ図」
 ※1輻。絹本著色。寛政元-3年(1789-91)頃。

【図録28】
「万歳図(まんざいず)」
 ※1面(4枚)。絹本著色。寛政5-8年(1793-96)頃。

の2点は、
才気あふれるというわけではありませんが、

動きのある一瞬をとらえた完璧な構図を、
的確に繊細に表現しうる技量に感心しました。

これも2点のみでは何も言えませんが、
人間味あふれる叙情性のある絵だと思いました。


鎌倉を訪れる機会はなかなか取れないと思うので、
「氏家浮世絵コレクション」に含まれる名品の数々を、
名古屋で観られたことに感謝です。

2014年11月27日木曜日

鈴木秀美&OLCのハイドン:交響曲第6・7・8番《朝・昼・晩》〔シリーズVol.2〕

日本の指揮者、チェリスト
鈴木秀美(すずきひでみ 1957-)の指揮する
オーケストラ・リベラ・クラシカの演奏で、

オーストリアの作曲家
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732.3-1809.5)の
交響曲第6・7・8番《朝・昼・晩》
を聴きました。

ハイドン29歳の時(1761)の作品を、
鈴木秀美が45歳の時(2002)に指揮したCDです。


J.ハイドン(1732-1809)
 交響曲第6番 ニ長調 Hob.I-6《朝》(1761?)
 交響曲第7番 ハ長調 Hob.I-7《昼》(1761)
 交響曲第8番 ト長調 Hob.I-8《晩》(1761?)

オーケストラ・リベラ・クラシカ
鈴木秀美 指揮
収録:2002年9月27日、東京・浜離宮朝日ホール
【TDK-AD002】


鈴木氏が音楽監督を務める
オーケストラ・リベラ・クラシカによる2枚目のCDです。

ハイドン(1732.3-1809.5)の
 交響曲第6番 ニ長調 Hob.I-6《朝》
 交響曲第7番 ハ長調 Hob.I-7《昼》
 交響曲第8番 ト長調 Hob.I-8《晩》

は、作曲者29歳の頃(1761)に作曲されました。
前作CDの第43番《マーキュリー》から10年さかのぼることになります。

ハイドンは27歳ごろ(1759)に、
カール・ヨーゼフ・モルツィン伯爵のもとで、

楽長に初めて採用されましたが、
財政難のためすぐに失職してしまいます。

その後29歳の時(1761.5)に、
パウル・アントン・エスタハージィ侯爵のもとで、
副楽長に採用され、

採用後間もなく
パウル侯爵の発案で作曲されたのが、
交響曲第6・7・8番《朝・昼・晩》でした。

(飯森豊水氏のCD解説を参照。)


  ***

名前が印象的なので、
曲の存在は前から知っていましたが、
実際聴いたのはこのCDが初めてでした。

大感動だと良かったのですが、
これは多少肩透かしにあった感じでした。

それは恐らく、
鈴木氏の指揮によるものというよりは、
曲自体の魅力不足によるのではないか、と思われました。

この時期にはこの時期の魅力がある、
と言われればその通りで、

それなりに楽しい軽めの音楽が流れていくのですが、

3曲の個性(朝・昼・晩)の描き分けが
それほどうまく成されているわけでもなく、

1回聴いてすぐ記憶に残るような類の曲ではありませんでした。

仕事の折にくりかえし聴くのに適した
楽しい作品集で、飽きもせずひと月聴いてくると、

これはこれで
そのまま楽しめばいい境地に近づいてきましたが、

期待し過ぎると、
肩透かしにあう面があるのかもしれません。

あと鈴木氏の指揮が、基本的に
まじめにスッキリとした感じでまとめ上げているので、

もっといろいろ仕掛けてくる感じで来れば、
ずいぶん印象が変わるようにも思われました。


※Wikipediaの「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」「交響曲第6番(ハイドン)」「交響曲第7番(ハイドン)」「交響曲第8番(ハイドン)」を参照。

2014年11月26日水曜日

ヘッツェル&渡邉暁雄のブラームス:ヴァイオリン協奏曲(1988年録音)

ユーゴスラビア生まれのヴァイオリニスト
ゲルハルト・ヘッツェル(1940.4-1992.7)の独奏で、

ドイツの作曲家
ブラームス(1833.5-1897.4)と

オーストリアの作曲家
モーツァルト(1756.1-1791.12)の
ヴァイオリン協奏曲を聴きました。


ブラームス
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
 東京都交響楽団
 渡邉暁雄(指揮)
 録音:1988年3月16日、東京文化会館(第269回定期演奏会)

モーツァルト
ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K.219《トルコ風》
 読売日本交響楽団
 ハインツ・レーグナー(指揮)
 録音:1988年3月14日、東京、サントリーホール(第260回名曲シリーズ)

ゲルハルト・ヘッツェル(ヴァイオリン)
【TBRCD0020-2】


ブラームス(1833.5-1897.4)
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
は作曲者45歳の時(1879.1)に初演された作品、

モーツァルト(1756.1-1791.12)の
ヴァイオリン協奏曲第5番 ニ長調《トルコ風》K.219
は作曲者19歳の時(1775.12)に完成された作品です。


どちらも1988年3月に行われたコンサートのライブ録音です。

独奏のゲルハルト・ヘッツェル(1940.4-1992.7)は47歳、

指揮者の渡邉暁雄(1919.6-1990.6)は68歳、
ハインツ・レーグナー(1929.1-2001.12)は58歳、

を迎えていました。


  ***

ヘッツェルさんのファンなので、このCDは、
昨年6月に発売されてから気になっていました。

ただブラームスは独奏者にとって
技術的にも内容的にも相当な難曲のはずで、
ライブで充実した演奏を聴くことはほぼ皆無です。

モーツァルトも技術的にはともかく、
内容面で満足できる演奏を聴くことは稀で、
いくらヘッツェルさんでもどうだろうと思っていました。


しかし今回聴いてみて、
予想以上の充実ぶりに驚きました。

最初にヘッツェルさんの凄さに気がつかされたのは、
遺作となったブラームスのヴァイオリン・ソナタ全集ですが、

その時以来、
ヘッツェル独特の
よく歌うヴァイオリンの記憶がよみがえり、

久しぶりにブラームス:ヴァイオリン協奏曲の、
しみじみとした美しさを存分に堪能することができました。

ライブで聴けたら一生の宝ものになりそうな演奏でした。

絹糸のようになめらかな艶のある音色で、
全身全霊を歌うために捧げているような演奏で、

ブラームスの協奏曲ってこんなに美しかったのかと感動を新たにしました。

あと渡邉暁雄氏の指揮も非常に優れていました。

よくありがちな
お腹にずどーんと来る重力級の響きではなく、

少し軽めの華やかな、
独特の品を感じさせる響きで、
ぴったりとヘッツェルのソロにつけていて、

しっかりとした構成感をみせつつ、
ソリストと同じ方向を向いて全体をうまくまとめあげており、
文句のつけようのない立派な伴奏でした。

渡邉暁雄氏のブラームスって、
案外良いのかもしれません。

しばらくブラームスのヴァイオリン協奏曲は
聴いてこなかったので、

久しぶりに他の方のも聴きなおしてみたくなりました。


もう1曲、
モーツァルトも同じタイプのよく歌う演奏。

でも意外に、どこもかしこも
良く歌っているモーツァルトには出会わないので、
新鮮な印象で聴き通すことができました。

レーグナーの伴奏は、
恐らくウィーン風といって良さそうな雰囲気で、

特に個性を際立たせるわけではないものの、
伴奏としては手堅く十分に役目を果たしていると思いました。


ウィーン・フィルの
コンサート・マスターとして活躍されたわけですが、

独奏者としても
十分以上に活躍しうる技量をもった方であったことを再認識しました。

ベートーヴェンの協奏曲も、
ヘッツェルさんと相性良さそうなので、
どこかに録音が隠れていないものでしょうか。

2014年11月25日火曜日

コダーイ四重奏団のハイドン:弦楽四重奏曲全集 その7

ハンガリーの弦楽四重奏団
コダーイ四重奏団(1966-)による

オーストリアの作曲家
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
(Franz Joseph Haydn 1732.3 - 1809.5)の
弦楽四重奏曲全集7枚目です。


ハイドン
弦楽四重奏曲第22番ニ短調作品9-4〔Hob.Ⅲ-22〕
弦楽四重奏曲第19番ハ長調作品9-1〔Hob.Ⅲ-19〕
弦楽四重奏曲第21番ト長調作品9-3〔Hob.Ⅲ-21〕

コダーイ四重奏団
録音:1992年12月8-10日、ブダペスト、ユニテリアン教会
【Naxos 8.550786】

このCDには、
作品9の6曲中3曲が収録されています。

作品9は、
ハイドン38歳の頃(1770頃)に作曲されました

ホーボーケン番号で、
Hob.Ⅲ-19~24 に分類されていますが、

これはハイドン69歳の時(1801)に、
弟子のプレイエル(1757-1831)がまとめた
最初の全集(全83曲)における通番(第19~24番)に従ったものです。

前回の、

 第20番変ホ長調作品9-2〔Hob.Ⅲ-20〕
 第23番変ロ長調作品9-5〔Hob.Ⅲ-23〕
 第24番 イ長調 作品9-6〔Hob.Ⅲ-24〕

に続くCDには、

 第22番ニ短調作品9-4〔Hob.Ⅲ-22〕
 第19番ハ長調作品9-1〔Hob.Ⅲ-19〕
 第21番ト長調作品9-3〔Hob.Ⅲ-21〕

の3曲が収録されています。


なおこのCDの裏面には、
 Op.9, No.4 → No.11
 Op.9, No.1 → No.12
 Op.9, No.3 → No.13
という通番がふられていますが、根拠が不明なので、
このブログではふだん使われている通番に訂正しました。


  ***

さて、
作品9から残りの3曲を聴いてみました。

前回は、
曲のあまりの完成度に驚いたのですが、
今回はそこまでの感銘を受けませんでした。

作品3までの18曲とは
明らかに違った充実度で、

それなりに美しく楽しい作品なのですが、
前の3曲とは少し格が落ちるような印象でした。

録音時期をみると、
こちらの3曲を先に収録しているので、
本来はこちらを先に聴いたほうが良かったのかもしれません。


ひと月は聴き込んで来ましたので、
少し時間をおいてから、

 第22番作品9-4〔Hob.Ⅲ-22〕
 第19番作品9-1〔Hob.Ⅲ-19〕
 第21番作品9-3〔Hob.Ⅲ-21〕

 第20番作品9-2〔Hob.Ⅲ-20〕
 第23番作品9-5〔Hob.Ⅲ-23〕
 第24番作品9-6〔Hob.Ⅲ-24〕

の順で改めて聴きなおしてみようと思います。

それ以上に、
作品番号のままのほうがよくわかるのかも。


※wikipedia の「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」
 「ハイドンの弦楽四重奏曲一覧」「イグナツ・プライエル」の各項目を参照。

※中野博詞『ハイドン復活』(春秋社、平成7年11月)を参照。

※現代音楽作曲家・福田陽氏の
 「ハイドン研究室」〈http://www.masque-music.com/haydn/index.htm〉を参照。

2014年11月14日金曜日

愛知県美術館の「デュフィ展」

秋休み中の10月29日(水)に、
愛知県美術館まで「デュフィ展」を観に行ってきました。

全国3箇所、
[東京]Bunkamura ザ・ミュージアム【2014-6/7-7/27】
[大阪]あべのハルカス美術館【8/5-9/28】
[名古屋]愛知県美術館【10/9-12/7
を巡回してきて名古屋が最後の会場です。

名古屋会場の主催は、
 愛知県美術館
 中日新聞
 CBCテレビ
となっています。

デュフィって誰?という状態だったのですが、
街に貼られていたポスターに心惹かれて、
観に行ってみることにしました。


  ***

フランスの画家
ラウル・デュフィ(Raoul Dufy 1877.6-1953.3)
「20世紀前半のフランスでマティスやピカソなどとともに活躍した画家」
だそうです(展覧会図録「あいさつ」参照)。

実際観てみると、
器用な方だったのか、
若いころから作風がいろいろと変わっていて、

どれも相当なレベルに達しているものの、

デュフィならではの個性がどこにあるのか、
今一つつかみ取りにくい感じがしました。


若いころは画家マティスのような、
原始的な雰囲気の、濃い色彩の絵画も描いていて、
それなりに興味深かったのですが、

フォーヴィズムの流儀は、
デュフィ独特の洗練されたセンスの良さを
かえって打ち消しているような感じがして、
あまり好きにはなれませんでした。


全体は、

1.1900-1910年代―造形的革新のただなかで
2.木版画とテキスタイル・デザイン
3.1920-1930年代―様式の確立から装飾壁画の制作へ
4.1940-1950年代―評価の確立と画業の集大成

という4部で構成されていました。


1.1900-1910年代―造形的革新のただなかで

この中では、

【図録004】サン=タドレスの桟橋
 1902年 油彩、カンヴァス

【図録010】サン=タドレスの浜辺
 1906年 油彩、カンヴァス

【図録011】トゥルーヴィルのポスター
 1906年 油彩、カンヴァス

【図録012】海辺のテラス
 1907年 油彩、カンヴァス

の4点は、
ありがちな構図の中にも
独特の色彩感覚が表れていて気に入りました。



2.木版画とテキスタイル・デザイン

この中では、

ギヨーム・アポリネール著
『動物詩集あるいはオルフェウスとそのお供たち』
の挿絵として刷り上げられた木版画(1911年完成)を展示してありました。

そこで描かれている人物は、
どれも生理的に好きになれなかったのですが、
動物たちの版画はどれも的確に特徴が把握されていて、
ユーモアのある魅力的な挿絵に感心しました。

【図録038-2】亀
【図録038-3】馬
【図録038-4】チベットの山羊
【図録038-5】蛇
【図録038-6】猫
【図録038-7】ライオン
【図録038-8】野ウサギ
【図録038-9】家ウサギ
【図録038-10】ラクダ
【図録038-11】ハツカネズミ
【図録038-12】象
【図録038-14】毛虫
【図録038-15】ハエ
【図録038-16】ノミ
【図録038-17】イナゴ
【図録038-19】イルカ
【図録038-20】タコ
【図録038-21】クラゲ
【図録038-22】ザリガニ
【図録038-23】鯉
【図録038-26】白鳩
【図録038-27】クジャク
【図録038-28】ミミズク
【図録038-29】アイヒス
【図録038-30】牡牛
【図録038-31】コンドル

もう一つ、
服飾のデザインについては興味がないので
語る資格がないのですが、

布地に用いられたテキスタイル・デザインの数々には、
不思議なほど惹きつけられました。

単なるデザインとは言い切れない、
独特のやさしい色彩感、ユーモアが伝わってきて、
十分鑑賞するに足るデザインでした。



3.1920-1930年代―様式の確立から装飾壁画の制作へ

今回の展示のメインはここ。
デュフィの個性が確立して以降の作品を収めたようです。

この中で、人物画と、
原色を使った濃い色調の絵は、
私の好みに合いませんでした。

一瞬のインシュピレーションを重視したからなのか、
構図のバランスに違和感のあるものが多いようにも感じました。

そうした中でも、

【図録092】突堤―ニースの散歩道
 1926年頃 油彩、カンヴァス

【図録105】エプソム、ダービーの行進
 1930年 油彩、カンヴァス

の2点は油彩ながらも淡目の色合いで、
構図全体のバランスも整っていて、気に入りました。


淡い色調でセンス良く仕上げたほうが、
彼の長所が出ているようで、
水彩画の2点、

【図録106】ドーヴィルの風景
 1930年 水彩、紙

【図録121】ヴェネツィアのサン・マルコ広場
 1938年 グアッシュ・水彩、紙

はとても気に入りました。
時に【121】は無駄がなく、センスにあふれていて、
自分の家に1枚ほしいくらいでした。

どちらかといえば、
原色豊かに人間感情の素をあばくのには、
余り向いていない人のように感じました。


もう1点、
1937年にパリ万国博覧会のときに制作され、
現在はパリ市立現代美術館で展示されている
大作《電気の精》を縮小した

【図録123】電気の精
 1952-53年 リトグラフ・グアッシュ、紙(10点組)

が展示されていました。

縮小版とはいっても十分な大きさがあり、
やわらかく明るい雰囲気が気に入りました。

恐らく実物であれば、
圧倒的な感銘を受けることでしょう。

パリまで観に行きたくなりました。



4.1940-1950年代―評価の確立と画業の集大成

晩年の作品の中で気に入ったのは2つの分野です。

一つはオーケストラそのものを描いた作品です。

ただし色付けしてあるものは
実際のオーケストラの色彩感からすると、
今一つ物足りないような気がしました。

むしろ黒一色で、
描かれたオーケストラのほうが、
さまざまな音があふれてくるような臨場感がありました。

一番良かったのは、

【図録141】オーケストラ
 1940年頃 墨、紙

です。


もう一つ、
水彩で描かれた花の絵の数々に
心奪われました。

【図録146】アネモネとチューリップ
 1942年 水彩、紙

【図録148】マーガレット
 1943年頃 水彩、紙

【図録150】アイリスとひなげしの花束
 1953年 水彩、紙

【図録151】田舎風花束
 1953年 水彩、紙

【図録152】野花
 1950年頃 水彩、紙

色彩感豊かな野に咲く花の数々は、
心を和ませて明るくしてくれました。

個人的にはこの素朴な花の絵が、
一番のお気に入りでした。

2014年10月31日金曜日

シフのバッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻(1984年録音)

ハンガリー出身のピアニスト
アンドラーシュ・シフ(1953.12-)の演奏で、

ドイツの作曲家
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685.3-1750.7)の
平均律クラヴィーア曲集第1巻を聴きました。

シフ30歳の時(1984.9)の録音です。


J.S.バッハ(1685-1750)
平均律クラヴィーア曲集 第1巻 BWV.846-869

  第1番 ハ長調 BWV.846
  第2番 ハ短調 BWV.847
  第3番嬰ハ長調BWV.848
  第4番嬰ハ短調BWV.849
  第5番 ニ長調 BWV.850
  第6番 ニ短調 BWV.851
  第7番変ホ長調BWV.852
  第8番変ホ短調BWV.853
  第9番 ホ長調 BWV.854
 第10番 ホ短調 BWV.855
 第11番 ヘ長調 BWV.856
 第12番 ヘ短調 BWV.857
 第13番嬰ヘ長調BWV.858
 第14番嬰ヘ短調BWV.859
 第15番 ト長調 BWV.860
 第16番 ト短調 BWV.861
 第17番変イ長調BWV.862
 第18番嬰ト短調BWV.863
 第19番 イ長調 BWV.864
 第20番 イ短調 BWV.865
 第21番変ロ長調BWV.866
 第22番変ロ短調BWV.867
 第23番 ロ長調 BWV.868
 第24番 ロ短調 BWV.869

アンドラーシュ・シフ(ピアノ)
録音:1984年9月、ロンドン
【UCCD-5567/8】2014年5月発売


平均律クラヴィーア曲集 第1巻 BWV.846-869 は、

バッハ37歳の時(1722)に完成された作品です。
自筆譜が残されています。

先月聴いていた
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ
の2年後の作品ということになります。


シフのバッハ、
旧録音のほうから順に聴いていますが、

一番のお気に入りは「フランス組曲」で、
次点が「イギリス組曲」でした。

「パルティータ集」のみ、
ハイドシェックの印象が強すぎたのか
パッとしない印象でした。


シフの「平均律」は今回初めて聴きました。

とても叙情的な、歌にあふれた美しいバッハで、
シューベルトを聴くような心地で聴き通すことができました。

最初のうち、
訴えかける力が多少弱いように感じられたのですが、

叙情的な側面から切り開いた
歌うバッハとして、
だんだん惹き込まれていきました。


以前このブログで取り上げた
アファナシエフの「平均律」が、
均質なタッチでがっちり構成された印象を受けたのに対し、
より自由な歌心にあふれた印象を受けました。

バッハの音楽の美しさを十分に満喫できる録音だと思います。

まだ聴いていませんが、
まだそれほど強い印象のない「平均律第2巻」も楽しみです。


あと1点、
シフのシューベルト、
ぜひ聴いてみたくなりました。

バッハ以上に合っていそうな気がします。



※Wikipediaの「シフ・アンドラーシュ」を参照。

鈴木秀美&OLCのハイドン:交響曲第43番ほか〔2002年5月録音〕

日本の指揮者、チェリスト
鈴木秀美(すずきひでみ 1957-)の指揮する

オーケストラ・リベラ・クラシカの演奏で、
 C・P・E・バッハのシンフォニア
 ハイドンの交響曲第43番「マーキュリー」
 モーツァルトの交響曲第29番
を聴きました。

鈴木秀美45歳の時(2002)の録音です。


C.P.E.バッハ(1714-88)
 弦楽器のためのシンフォニア ハ長調 Wq.182/3(1773)

J.ハイドン(1732-1809)
 交響曲第43番 変ホ長調 Hob.I-43「マーキュリー」(-1772)

W.A.モーツァルト(1756-91)
 交響曲第29番 イ長調 K.201(186a)(1774)

P.ファン・マルデレ(1729-68)
 シンフォニア 作品5/第6番 ニ長調より第1楽章(1768)

オーケストラ・リベラ・クラシカ
鈴木秀美 指揮
収録:2002年5月17日、東京・浜離宮朝日ホール
【TDK-AD001】


鈴木氏が音楽監督を務める
オーケストラ・リベラ・クラシカは、

平成14年(2002)5月15日に高山、
17日に東京の浜離宮朝日ホールで旗揚げ公演が行われました。

その時の東京公演を収録したのがこのCDです。



ドイツの作曲家
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714.3-1788.12)は、
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685.3-1850.7)の次男です。

弦楽のためのシンフォニア ハ長調 Wq.182-3

は、CPE59歳の時(1773)に作曲された、
6曲からなる「弦楽のためのシンフォニア」中の1曲です。

ほぼ初めて聴く曲です。

CPEの音楽は、奇をてらうというか、
内面的というよりも外面的な効果をねらったところがあって、
それほど好きな作曲家ではないのですが、

今回の演奏は、
何よりオケの響きが耳に心地良く、
リズムもきびきびハッキリと刻まれていて、
これなら聴ける!と思いました。


オーストリアの作曲家
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732.3-1809.5)の

交響曲第43番 変ホ長調 Hob.I-43《マーキュリー

は、作曲者39歳の頃(1771前後)に作曲されました。

ハイドンはC.P.E.バッハより、
はるかに落ちついた感じに聴こえるのですが、

音楽史上はハイドンのほうが18歳若く、
CPEの影響をハイドンが受けていることになるようです。

初めて聴いたので、
最初のうちは一番影が薄かったのですが、

聴きこんでくると、
逆に全体のバランスの良さ、
内容の充実さは一番だと思うようになりました。


  ***

オーストリアの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756.1-1791.12)の

交響曲第29番 イ長調 K.201(186a)

は、作曲者18歳の時(1774.4)に完成された作品です。

モーツァルトは17-18歳の2年間(1773-74)で、
計9曲の交響曲(第22-30番)を作曲しています。

29番は後期の6大交響曲をのぞけば、
わりと演奏される機会のある作品で、
時折耳にしてきました。

後期の充実度からすると、
肩透かしにあった感じもする
軽めの1曲ですが、

これはこれで耳に馴染んでくると、
おっとりとした雰囲気の典雅な名曲だと思えます。

このCDは、
快速テンポで一気に駆け抜ける第3楽章が特徴的ですが、
よくこなれているので違和感なく楽しめました。

ハイドン的な雰囲気のなかに、
モーツァルトの感性が刻み込まれた1曲でした。


コンサート当日アンコールとして演奏された

ベルギー(ブリュッセル)生まれの作曲家
ピエール・ファン・マルデレ(1729.10-1768.11)の

 シンフォニア 作品5/第6番 ニ長調より第1楽章(1768)

は初めて効きました。

ハイドンより2歳半ほど年上で、
ほぼ同じ年代の人ですが、39歳で若くして亡くなっています。
マルデレが亡くなる年に完成された作品のようです。

この1楽章だけでは何とも言えませんが、
モーツァルトが第29番を作曲する際に参考にしたそうです。

そう言われてみれば、
何となくそんな気もする程度ですが、
ほかの作品も聴いてみたくなりました。


  ***

このCD、
1770年代前半に作曲された作品が並べてありますが、

年齢的には、
 C.P.E.バッハ59歳、
 ハイドン39歳、
 モーツァルト18歳
と20歳ずつ若返っているので、
おもしろい趣向だなと思いました。


鈴木秀美氏の指揮は、
アーノンクールのように
持ってまわったところのない素直な音楽。

ブリュッヘンのように、
ロマン的な味の濃いところとも決別していて
清楚な純度の高い音楽。

リズムのきびきびしたところも良く、
明るく爽やかな印象も受けました。

ハイドンには特に合っていると思います。


※Wikipediaの「カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ」「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」「Pierre van Maldere」を参照。

2014年10月27日月曜日

ウィーン室内合奏団のモーツァルト:ディヴェルティメント第15番(1992年録音)

オーストリアのザルツブルク生まれの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756.1-1791.12)の
ディヴェルティメント第15番を、

ウィーン・フィルのコンサートマスターを務めた
ユーゴスラヴィア生まれのヴァイオリニスト、
ゲルハルト・ヘッツェル(1940.4-1992.7)率いる
ウィーン室内合奏団の演奏で聴きました。


モーツァルト
1) ディヴェルティメント(第15番)変ロ長調 K.287(271H)
  (“第2ロドゥロン・ナハトムジーク”)
2) 音楽の冗談 ヘ長調 K.522

ウィーン室内合奏団
 ゲルハルト・ヘッツェル(第1ヴァイオリン)
 ヨーゼフ・ヘル(第2ヴァイオリン)
 ハット・バイエルレ(ヴィオラ)
 アーダルベルト・スコチッチ(チェロ)
 ヘルベルト・マイヤー(コントラバス)
 フランツ・ゼルナー(ホルン)
 フォルカー・アルトマン(ホルン)

録音:1992年4月4-9日、ウィーン、カジノ・ツェーガーニッツ
【COCO-73010】

ディヴェルティメント 変ロ長調 K.287(281H) は、

20歳の時(1776.6)に
エルンスト・ロドゥロン伯爵夫人の
聖命祝日のために作曲されたことが明らかな作品です。

「第2ロドゥロン・ナハトムジーク」と呼ばれることもあります。

音楽の冗談 K.522 は、
モーツァルト31歳の時(1787.6)に完成された作品です。

(竹内ふみ子氏のCD解説を参照。)


  ***

どちらも初めて聴きました。
「第2ロドゥロン・ナハトムジーク」は、

明るく典雅な雰囲気をたたえた可憐な作品で、

聴けば聴くほど味わいが増す、
よく練られた佳曲でした。

仕事や勉強をしながら聴くのにもってこい、
というと怒られてしまうかもしれませんが、

仕事をしながらくり返し聴くほどに、
よくできた曲であることが伝わってきました。

恐らくほかと聴き比べたほうが、
良さがわかってくると思うので、

ほかの演奏も探して聴いてみようと思います。


ヘッツェルさんのヴァイオリンは、
室内楽のときは絶対に出しゃばろうとしないので、

これだけ聴いていると、
何も自己主張していないようにすら聴こえるのですが、

楽譜を深く読み込んで、

作曲家の意図を
音楽的に再現することにのみ集中している
「我」を排した音楽は、

聴き込むほどに味わい深く、
一つの理想的なかたちを実現していると思いました。


「音楽の冗談」は初めて耳にしました。
これは演奏を云々する以前に、曲が今ひとつ。

数回聴けば十分です。

2014年10月25日土曜日

名古屋ボストン美術館の「ボストン美術館 ミレー展」

もう2ヶ月以上たってしまいましたが、

お盆休み中の8月14日(木)に、
名古屋ボストン美術館まで、

「開館15周年記念
 ボストン美術館
 ミレー展~バルビゾン村とフォンテーヌブローの村から」

を観に行ってきました。

 高知県立美術館   〔2014年2月2日-4月6日〕
 名古屋ボストン美術館〔4月19日-8月31日
 三菱一号館美術館  〔10月17日-2015年1月12日〕

の3箇所で開催され、名古屋会場の主催は、

 ボストン美術館
 名古屋ボストン美術館
 中日新聞社

となっていました(図録参照)。

ミレーにはこれまで強い印象がなかったのですが、
まとめて観られる機会はあまりないので足を運びました。


  ***

フランスの画家
ジャン=フランソワ・ミレー(1814.10-1875.1)
とともに、

パリ郊外、
フォンテーヌブローの森のはずれにある
バルビゾン村に定住した「バルビゾン派」の画家たちも
展示してありました。

ミレーの作品が25点。
ほかの画家19人の作品が17点です。

作品数の多い順に整理しておきます。
(展示会図録参照。)

▼25点〔1名〕
・ジャン=フランソワ・ミレー(1814.10-1875.1)
 【図録1-4,21,22,28,31-35,38,40,44-52,55,56】


▼6点〔1名〕
・ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
 【図録5,6,18,20,23,37】(1796.7-1875.2)


▼5点〔2名〕
・ナルシス・ヴィルジル・ディアズ・ド・ラ・ペーニャ
 【図録12-15,19】(1807.8-1876.11)

・エミール・シャルル・ランビネ
 【図録16,29,30,41,42】(1815.1-1877)


▼3点〔2名〕
・コンスタン・トロワイヨン
 【図録11,39,43】(1810.8-1865.3)

・ジュリアン・デュプレ
 【図録60-62】(1851.3-1910)


▼2点〔3名〕
・テオドール・ルソー
 【図録8,24】(1812.4-1867.12)

・ヨーゼフ・イスラエルス
 【図録53,54】(1824.1-1911.8)

・レオン=オーギュスタン・レルミット
 【図録58,87】(1844.7-1925.7)


▼1点〔11名〕
・カール・ボドメル
 【図録7】(1809.2-1893.10)

・ウジェーヌ・シセリ
 【図録9】(1813.1-1890.4)

・シャルル=エミール・ジャック
 【図録59】(1813.5-1894.5)

・アントワーヌ・シャントルイユ
 【図録27】(1814.5-1873.8)

・フランソワ・ルイ・フランセ
 【図録17】(1814.11-1897.5)

・シャルル=フランソワ・ドービニ
 【図録25】(1817.2-1878.2)

・ギュスターヴ・クールベ
 【図録10】(1819.6-1877.12)

・アンリ=ジョゼフ・アルビニー
 【図録64】(1819.7-1916.8)

・セザール・ド・コック
 【図録63】(1823-1904.7)

・アントン・マウフェ
 【図録36】(1838.9-1888.2)

・クロード・モネ
 【図録26】(1840.11-1926.12)


1830年代から70年代くらいまでの作品に、
ミレー没後の80・90年代の作品も数点ずつ。

同年代の画家を並べてみると、
似たテーマ、構図の絵がいろいろあって興味深かったのですが、

そうした中でもミレーの絵は、
人物の描き方に特徴があることはよくわかりました。

それほど写実的ではないのですが、

じっと観ていると
どの人物も今にも動き出しそうな
独特の雰囲気をそなえていました。


でもミレーが好きかと問われれば、
私の好みからはズレていて、
それほど好きではないと答えます。

人物のとらえ方に感銘は受けましたが、
特別な感動を受ける絵はありませんでした。


それでもミレーについて、

「写実主義を確立し、近代絵画への先駆者とされて」いて、

「田園で働く農民の姿や身近な情景、自然の様子を
 畏敬の念を込めて描き取った」画家であり、

「それまで美術の対象とは見なされなかった
 農民の地道な日々の営みを、
 荘厳な芸術に高めた画期的な試みにより、
 ミレーは西洋絵画史に大きな足跡を残し」た

という通説的評価を、
自分の目で確認できたことは大きな収穫でした。
(『展覧会図録』ごあいさつ、参照)


  ***

純粋に作品だけをみると、

風景画では、

ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
《ブリュノワの牧草地の思い出》【図録18】

ウジェーヌ・シセリ
《ゴルジュ・オ・ルー(オオカミ渓谷)を行く画家、
 フォンテーヌブローの森》【図録9】

フランソワ・ルイ・フランセ
《プロンビエール近くの小川》【図録17】

の3点を気に入りました。

自分の好みに合っただけなので、
芸術的な評価とは一致しないかもしれません。

コローはこれまでも
同じような風景画を観ていますが、
今回初めて良さがわかったような気がしました。

シセリとフランセは
これまでに観ていたか記憶にないのですが、

この2点は、絵の繊細さと、
暗い森のなかから明るい光を求めていく感じが、
良いバランスで実現されているようで、
好ましく思われました。


人物画では、

ヨーゼフ・イスラエルス
《病みあがりの母と子ども》【図録53】
《別離の前日》【図録54】

の2点が強く印象に残りました。

哀しみの一場面を切り出してみせた
写実的な訴えかける力のある絵でした。

ほかと作風が違っていたからか、
イスラエルスの絵だけが、
圧倒的なオーラを放っているように感じました。

イスラエルスはこれまで知らなかったので、
今後注目していきたいと思います。


人と動物を描いた作品では、

アントン・マウフェ
《田舎道の荷馬車屋》【図録36】

ジュリアン・デュプレ
《牛に水を飲ませる娘》【図録60】
《ガチョウに餌をやる子どもたち》【図録61】

の3点を気に入りました。

アントン・マウフェはこれまで注目していませんでした。
デュプレの明るい色調はミレーより好きです。



※今回の展覧会図録『ボストン美術館 ミレー展』を参照。
※Wikipediaの「ジャン=フランソワ・ミレー」を参照。

2014年10月22日水曜日

コダーイ四重奏団のハイドン:弦楽四重奏曲全集 その6

ハンガリーの弦楽四重奏団
コダーイ四重奏団(1966-)による

オーストリアの作曲家
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
(Franz Joseph Haydn 1732.3 - 1809.5)の
弦楽四重奏曲全集6枚目です。


ハイドン
弦楽四重奏曲第20番変ホ長調作品9-2〔Hob.Ⅲ-20〕
弦楽四重奏曲第23番変ロ長調作品9-5〔Hob.Ⅲ-23〕
弦楽四重奏曲第24番 イ長調  作品9-6〔Hob.Ⅲ-24〕

コダーイ四重奏団
録音:1993年1月28-30日、ブダペスト、ユニテリアン教会
【Naxos 8.550787】

このCDには、
作品9の6曲中3曲が収録されています。

作品9は、
ハイドン38歳の頃(1770頃)に作曲されました

ホーボーケン番号では、
Hob.Ⅲ-19~24 に分類されています。

これはハイドン69歳の時(1801)に、
弟子のプレイエル(1757-1831)がまとめた
最初の全集(全83曲)における通番(第19~24番)に従ったものです。

なおこのCDの裏面には、
 No.14 Op.9, No.2
 No.15 Op.9, No.5
 No.16 Op.9, No.6
という独自の通番がふられていますが、根拠が不明なので、
このブログではふだん使われている通番に訂正しました。


  ***

さて、
初期の作品1から作品3の18曲を聴いたあと、

改めて作品9を聴いてみると、
明らかに作風が変わって来ていることに気がつかされます。

これまでも、
キラリと光るところはたくさんあったのですが、
全体的なまとまりが今一つだったり、

聴いていて若干たいくつに感じられる曲も
少なからず混じっていました。

でも作品9になると、
習作的なところがなくなって、
一つ上のレベルの完成された作品として楽しむことができました。


初期の四重奏曲からは
10年近く時間をおいてから取り組まれているので、
その分、作品の深まりをみせているのでしょう。

なお、
初期の弦楽四重奏曲が作られてから
作品9が生まれるまでに(1765-68頃)、

バリトン三重奏曲を70曲以上も作っているので、
その経験も生かされたのかもしれません。


コダーイ四重奏団の演奏、

技術的に申し分のないのは当然として、
晴朗な清々しい印象がハイドンにぴったりで、

秋雨の午後の憂鬱さを
晴やかな空間で満たしてくれました。

耳障りなところのない、
変に力んだところのない演奏ですが、

さらさらと上っ面を流れてしまうわけでもなく、

中身のある充実した音楽で、
聴く人の心を明るく持ち上げてくれて、

ハイドンの魅力を満喫することができました。



※wikipedia の「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」
 「ハイドンの弦楽四重奏曲一覧」「イグナツ・プライエル」の各項目を参照。

※中野博詞『ハイドン復活』(春秋社、平成7年11月)を参照。

※現代音楽作曲家・福田陽氏の
 「ハイドン研究室」〈http://www.masque-music.com/haydn/index.htm〉を参照。

2014年9月30日火曜日

シェリングのバッハ:無伴奏Vn.のためのソナタとパルティータ(1955年録音)

ポーランド出身(1946年、メキシコに帰化)のヴァイオリニスト
ヘンリク・シェリング(1918.9-1988.3)の演奏で、

ドイツの作曲家
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685.3-1750.7)の
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ BWV1001-1006
を聴きました。

シェリング37歳の時(1955)の録音です。


ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第1番 ト短調 BWV1001
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第1番 ロ短調 BWV1002
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第2番 イ短調 BWV1003
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006

ヘンリク・シェリング(ヴァイオリン)
録音:1955年、パリ
【SICC840-1】2007年11月発売

無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ BWV1001-1006
は、バッハ35歳の時(1720)に作曲された作品です。

バッハの自筆譜が現存しており、
インターネット上にも公開されています。


シェリングの無伴奏は、
48歳の時(1967.7)に再録音された新盤を持っていたので、
旧盤はこれまで聴いていませんでした。

新盤のほうは
折り目の正しい模範的な演奏で、
十分聴きごたえがあるのですが、

多少くどいというか、
粘着性のある重々しい演奏で、
疲れた時に聴くには多少重たい感じがしました。


旧盤はそれより10年ほど前の録音です。

若い頃のほうが、
力が抜けている上に技術的にも万全で、

聴いていて、
全体的にすっと抜けるような清々しさを感じる演奏でした。

奇をてらうことなく、
穏当なスタイルの端正なバッハなので、
音楽的にも十分な充実感があり、

オーソドックスなスタイルを極め尽くして、
最上レベルにつきぬけた演奏だと感じました。

フルニエのバッハ:無伴奏チェロ組曲と似たスタイルといえましょうか。


恐らく聴く人の体調などによって、
印象が異なってくると思いますが、

今の私は、
人間のどろどろした感情を
あからさまに見せつけるような演奏は、

それほど聴きたいと思わない状況なので、
シェリングの無伴奏・旧盤は、良い清涼剤となりました。



※Wikipediaの「ヘンリク・シェリング」「ヨハン・ゼバスティアン・バッハ」「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」を参照。

2014年9月29日月曜日

ウィーン室内合奏団のモーツァルト:ディヴェルティメント第10&7番(1991年録音)

オーストリアのザルツブルク生まれの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756.1-1791.12)の
ディヴェルティメント第10番と第7番を、

ウィーン・フィルのコンサートマスターを務めた
ユーゴスラヴィア生まれのヴァイオリニスト、
ゲルハルト・ヘッツェル(1940.4-1992.7)率いる
ウィーン室内合奏団の演奏で聴きました。


モーツァルト
1) 行進曲 ヘ長調 K.248
  ディヴェルティメント(第10番)ヘ長調 K.247
  (“第1ロドゥロン・ナハトムジーク”)

2) 行進曲 ニ長調 K.290(K6:167AB)
  ディヴェルティメント(第7番)ニ長調 K.205(K6:167A)

ウィーン室内合奏団
 ゲルハルト・ヘッツェル(第1ヴァイオリン)
 ヨーゼフ・ヘル(第2ヴァイオリン)*1〕
 ハット・バイエルレ(ヴィオラ)
 アーダルベルト・スコチッチ(チェロ)*1〕
 ヘルベルト・マイヤー(コントラバス)
 フランツ・ゼルナー(ホルン)
 フォルカー・アルトマン(ホルン)
 ミヒャエル・ヴェルバ(バスーン)*2〕

録音:1991年4月29日-5月4日、ウィーン、カジノ・ツェーガーニッツ
【COCO-73010】


行進曲 ヘ長調 K.248
ディヴェルティメント ヘ長調 K.247 は、

20歳の時(1776.6)に
エルンスト・ロドゥロン伯爵夫人の
聖命祝日のために作曲されたことが明らかな作品です。

「第1ロドゥロン・ナハトムジーク」と呼ばれることもあります。


行進曲 ニ長調 K.290(167AB) と、
ディヴェルティメント ニ長調 K.205(167A) は、

作曲の経緯が明らかでなく、
この2曲を続けて演奏した確証もありませんが、
作品研究の結果、

 1772年夏⇒ K.290
 1773年夏⇒ K.205

の順で、同じ時期に作曲された
同じ調性の作品として、合わせて演奏されています。

(竹内ふみ子氏のCD解説を参照。)


  ***

どちらも初めて聴いて、
1月ほどくりかえし聴いて来ました。

コンサートでじっくり聴くのも良いかもしれませんが、

勉強したり、本を読んだり、
何かしながらBGMとして聴くのにぴったりな2曲でした。

一聴明らかにモーツァルトなのですが、
曲ごとの個性が際立っているわけではないので、

少し聴いて、
何番のディヴェルティメントなのか、
わかるところまではいきませんでした。


へッツェル率いる
ウィーン室内合奏団の演奏、

変に出しゃばったところが微塵もない、
けれども細部まで奏者の神経がゆきわたっている
音楽的に充実した演奏で、

聴くほどに味わいが増してくるようです。


恐らく他の演奏も聴いてみたほうが、
こちらの価値がわかると思うので、

ディヴェルティメント残りの1枚を聴いたら、
他の団体の録音も来てみようと思います。


2014年9月20日土曜日

ペライアのモーツァルト:ピアノ協奏曲全集 その12

アメリカのピアニスト
マレイ・ペライア(1947-)と
イギリス室内管弦楽団による

オーストリアの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
(1756.1.27-1791.12.5)のピアノ協奏曲全集
12枚目を聴きました。
最後の1枚です。


モーツァルト
ピアノ協奏曲 第27番 変ロ長調 K.595
ピアノと管弦楽のためのロンド ニ長調 K.382
ピアノと管弦楽のためのロンド イ長調 K.386

マレイ・ペライア(ピアノ、指揮)
イギリス室内管弦楽団
録音:1979年6・9月(第27番)、EMIスタジオ、ロンドン。1983年10月6日(ロンド)、セント・ジョン・スミス・スクエア、ロンドン。
【SONY MUSIC 88691914112】CD12


モーツァルト32歳の時(1788.2)、

 第26番 ニ長調 K.537

が完成した後、

35歳を目前にひかえ完成されたのが(1791.1.5)、

 第27番 変ロ長調 K.595 でした。

モーツァルトはこの年の12月に亡くなるので、
これが最後のピアノ協奏曲となりました。


最後に収められている
2つのロンドは初めて聴きました。

ピアノと管弦楽のためのロンド ニ長調 K.382 は、

26歳の時(1782.3)に、
ピアノ協奏曲第5番ニ長調 K.175
の新たな最終楽章として作曲されました。

第5番は、
17歳の時(1773.12)に作曲された
最初のオリジナルなピアノ協奏曲です。


ピアノと管弦楽のためのロンド ニ長調 K.382 は、

同じく26歳の時(1782.10)に、
ピアノ協奏曲第12番イ長調 K.414
の新たな最終楽章として構想されました。

第12番は、このロンドと
ほぼ同時期(1782秋)に作曲されています。


  ***

とうとう最後まで到達しました。
第27番のピアノ協奏曲です。

これまでと同じく、
ごく穏当なスタイルの演奏です。

ペライアのモーツァルトは、

穏当なスタイルの中にも、
キラリと光るものが感じられることが多かったのですが、

今回はそれも今一つのように感じました。


録音の加減か、

ピアノの弱音を聴き取りやすくすると、
オケの強奏が耳にうるさくなり、

逆に、
オケの強奏を程良いレベルにすると、
ピアノの微妙なタッチが聴こえなくなるので、

ただなだらかに流れていくだけの演奏になっていました。

復刻の仕方によっては、
見違えって聴こえるかもしれません。



終わりに収められていた2つのロンドは、
もっと鮮明な音質でした。

もともと
ほかのピアノ協奏曲の最終楽章として
作曲されていたそうで、

そんな感じの音楽として
ふつうに聴ける内容でしたが、

特別に耳をひきつけられる
魅力的なメロディがあふれているわけでもなく、

独立した1曲としてコンサート等で取り上げるのには、
曲自体が少し弱いように感じました。


  ***

さて、
モーツァルトの協奏曲、
全曲をじっくり聴いて来たわけですが、

かなり若い時期の作品から、
モーツァルトらしい魅力にあふれていて、
習作だと感じるものはほとんどありませんでした。

とても有意義な時間を送ることができました。

ただ20数曲もあると、
それぞれの曲の個性をまだつかみきれていないのが正直なところです。


どちらかといえば、
ペライアよりもう少し押しの強い、
意志的な強さのある演奏のほうが好みなので、

改めて始めから、
次は内田光子の旧盤で聴き直していこうかな、
と考えているところです。


※Wikipediaの「マレイ・ペライア」
 「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」
 「モーツァルトの協奏曲」
 「ピアノ協奏曲第27番(モーツァルト)」の各項目を参照。


※作品の基本情報について、
 ピティナ・ピアノ曲事典「モーツァルト」の項目
 【http://www.piano.or.jp/enc/composers/index/73】を参照。

2014年9月15日月曜日

リヒター&ミュンヘン・バッハ管のバッハ:マタイ受難曲(1958年録音)

ドイツの指揮者
カール・リヒター(1926.10-1981.2)の指揮する
ミュンヘン・バッハ管弦楽団 等の演奏で、

ドイツの作曲家
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685.3-1750.7)の
「マタイ受難曲 BWV244」を聴きました。

リヒター31歳の時(1958.6-8)の録音です。


J.S.バッハ:マタイ受難曲 BWV244

エルンスト・ヘフリガー(福音史家、アリア:テノール)
キート・エンゲン(イエス:バス)
アントニー・ファーベルク(第1の女、ピラトの妻:ソプラノ)
イルムガルト・ゼーフリート(アリア:ソプラノ)
ヘルタ・テッパー(第2の女、アリア:アルト)
マックス・プレープストル(ユダ、ペテロ、ピラト、司祭の長:バス)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(アリア:バス)
ミュンヘン少年合唱団
ミュンヘン・バッハ合唱団
ミュンヘン・バッハ管弦楽団
指揮:カール・リヒター

録音:1958年6-8月 ミュンヘン、ヘルクレスザール(ステレオ)
【Archiv Produktion 463 635-2】2001年1月発売


マタイ受難曲 BWW244 は、
バッハ42歳の時(1727.4)に初演された作品です。

言わずと知れた名曲なので、
リヒターの抜粋盤は持っていたのですが、
3枚組だと結構なお値段になるので、
買いそびれていました。

最近といっても2年程前ですが、

「Profil」という所から、
1958年録音のリヒターのマタイ受難曲が復刻され、
各所で絶賛されていました。

値段も2000円台だったので、
お盆に購入してみました。


【Profil PH12008】2012年4月発売

リヒターの指揮する「マタイ受難曲」、
悪かろうはずはないのですが、

「Profil」の復刻で聴くと、
あれっ、こんな録音だったかな、
と肩透かしにあったような印象も受けました。


大きめのコンサートホールで聴くような、
全体として聴きやすい、
耳に心地よい音質に調整してあるのですが、

その分、リヒター独特の、
胸の奥に切り込んでくるような、
意志の強さを感じさせるところが大きく減っていて、
残念な気持ちになりました。


そもそも、
それほど悪い録音ではなかったはずだと思い、

1,000円台に値下げしていた
「The Originals」の復刻盤を手に入れて聴き直してみたところ、

これが大正解でした。


分離のよい、
しかし耳にうるさく響くことのない滑らかな音質で、

リヒターらしく、
心に切り込んでくる
意志の強さを感じさせる録音で、

抜粋盤の記憶が良い方向によみがえりました。


「マタイ受難曲」のみ何種類も購入し、
聴き比べしているわけではなく、
あくまで私の主観になりますが、

「Profil」と「The Originals」を比べるなら、
圧倒的に後者のほうをお薦めします。


まだ内容を云々できるほど聴き込んでいないのですが、

このリヒター盤なら、
飽きることなく全体をくりかえし聴き込むことができるので、

くりかえし聴き込んで、
全体の流れを頭に入れておこうと思います。


※Wikipediaの「ヨハン・ゼバスティアン・バッハ」「マタイ受難曲」を参照。

2014年8月31日日曜日

メータ&ウィーン・フィルのシューマン:交響曲第2・3番(1980-81年録音)

音質向上した
「DECCA The Best 1200」(2013.5発売)からもう1枚、

インド出身の指揮者
ズービン・メータ(1936.4-)が指揮する

オーストリアのオーケストラ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、

ドイツの作曲家
ロベルト・シューマン(1810.6-1856.7)の
交響曲第2番と第3番を聴きました。

メータ44歳の時の録音です。


ロベルト・シューマン
1) 交響曲第2番ハ長調作品61
2) 交響曲第3番変ホ長調作品97《ライン》

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ズービン・メータ(指揮)
録音:1980年6月23-24日(1)、1981年3月10-12日(2)、ウィーン、ゾフィエンザール
【UCCD-7224】


シューマンの交響曲は、

 第1番 変ロ長調 作品38《春》
 第2番  ハ長調  作品61
 第3番 変ホ長調 作品97《ライン》
 第4番  ニ短調  作品120

の4曲知られていますが、
これは出版された順序が反映されたもので、

初演順に並べ直すと、

 第1番(1841年 3月)
 第4番(1841年12月)⇒(1853年12月に改訂稿を初演)
 第2番(1846年11月)
 第3番(1851年 2月)

の順になります。

第4番は、第1番とほぼ同時期に初演されていたのですが、

第3番初演の2年後に、大幅な改訂稿が初演されたため、
出版が一番最後となり、

第4番と呼ばれることになったそうです。


個人的に、シューマンの交響曲は、

 第3番=大好き、
 第2第=まあまあ好き、
 第1番=嫌いでない、
 第4番=よくわからない

という感じなので、このCDのように、
第2・3番の組合せはありがたいです。


   ***

さてこのCD、私の中では、
サヴァリッシュ&シュターツカペレ・ドレスデンを聴いて以来の、
新鮮な感動をもたらしました。

オケの響き、録音はシュターツカペレの方が好きなのですが、

ウィーン・フィルを無理なくいい感じに響かせながら、
若さあふれる勢いのある音楽が湧き出て来る心地良さは、

何度もくりかえし聴きたくなる独特の魅力がありました。

これはぜひ、
全集を聴いてみないといけないな、
と思っています。


   ***

同シリーズでメータの録音を聴いてみて、
チャイコフスキーとシューマンの魅力あふれる演奏に出会えたことは、
嬉しい驚きでした。

今聴いても、まったく色褪せていない演奏だと思います。


その他、

 マーラーの交響曲第5番
 サン=サーンスの交響曲第3番《オルガン付き》

も聴いて悪くはなかったのですが、

スタイルに少し古さを感じさせ、
今あえて選ぶ必要はないように思われました。

ロサンゼルス・フィルとのマラ5を聴いた時、
コバケンと日本フィルのマラ5を思い出しました。

どちらも意外に良く似たスタイルですが、
さすがにロサンゼルス・フィルの方がよく鳴っていました。


※Wikipediaの「ロベルト・シューマン」「ズービン・メータ」

〔昭和の名人 古典落語名演集〕柳家小三治〈3〉芝浜・金明竹(1978年12・5月)

十代目柳家小三治(やなぎやこさんじ 1939.12-)の落語、

「昭和の名人 古典落語名演集」3枚目は、
「芝浜」と「金明竹」を聴きました。

小三治38歳の時(1978年12・5月)の口演です。

29歳でに真打に昇進(1969年9月)し、
十代目柳家小三治を襲名してから9年目の成果です。


昭和の名人
古典落語名演集
十代目柳家小三治〈三〉

1) 芝浜(しばはま)
2) 金明竹(きんめいちく)

録音:1978年12月9日、安田生命ホール(1)、
1978年5月16日、安田生命ホール(2)。
【KICH-2523】


「芝浜」(しばはま)は、

「三遊亭圓朝が
 『酔っ払い、芝浜、財布』からこしらえた
 三代咄だという説がある」が、

「『圓朝全集』にも収録されておらず、不明」とされています。

(以上、布目英一氏のCD解説参照)


39歳を目前にひかえた小三治の「芝浜」です。

私がまだ落語を聴き始めたばかりの時期に、
このCDを聴いて感銘を受け、

落語にのめり込むきっかけになりました。

ほぼ20年後の「芝浜」もCD化されていますが【SRCL-3614】、
そちらは若干テンポがたどたどしい感じなのに対して、

このCDは、
早めのテンポで決めるべきところを決め、
先へ先へと聴かせる落語になっています。

感動的な名演だと思います。


「金明竹」(きんめいちく)は、

「前半は、狂言『骨皮』や
 一八〇二(享和二)年刊『膝くり金』の『無心の断』
 が原型といわれ」

「後半は、初代林屋正藏作『阿呆の口上』」とされています。

(以上、布目英一氏のCD解説参照)。

嫌味のない可笑しさで、
気疲れした時に聴くと、ホッと力が抜けて来ます。


咄家なら当然なのかもしれませんが、
この時期の小三治さんは、飛び切り上手い、です。

その分、深みはあと少しなのですが、
四十前の咄家の成果としては十分以上なのではないでしょうか。


※Wikipediaの「柳家小三治」を参照。

【収穫】カボチャ3号

今年3個目のカボチャです。

第2号と一緒にお盆が終わるまで、
仏間でひと月ほど追熟させていました。

先日煮物にしてみると、
ふだんスーパーで買うカボチャより、
2倍増で甘く美味しくいただくことができました。



シュナーベルのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 その5

オーストリア出身のピアニスト
アルトゥール・シュナーベル
(Artur Schnabel 1882.4-1951.8)が、
50歳から53歳にかけて(1932-35)録音した

ドイツの作曲家
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
(Ludwig van Beethoven 1770.12-1827.3)の
ピアノ・ソナタ全集の5枚目です。


ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ録音協会全集第5集

ベートーヴェン(1770-1827)
1) ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27-2《月光》
2) ピアノ・ソナタ 第15番 ニ長調 作品28《田園》
3) ピアノ・ソナタ 第16番 ト長調 作品31-1

アルトゥル・シュナーベル(ピアノ)
録音:1934年4月10-11日〔14番〕、1933年2月3・17日〔15番〕、1935年11月5-6日、37年1月15日〔16番〕、EMIアビー・ロード第3スタジオ、ロンドン
【Naxos 8.110759】


1) ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27-2《月光》 は、

31歳の時(1802.3)に出版された
5曲のソナタのうち最後から2番目の作品です。

 第11番 変ロ長調 作品22
 第12番 変イ長調 作品26《葬送》
 第13番 変ホ長調 作品27-1《幻想風》
 第14番 嬰ハ短調 作品27-2《月光》
 第15番  ニ長調  作品28《田園》

作品27の第2曲目でもあります。

言わずと知れた名曲ですが、

前のCDから続けて聴くと、
作品27-1と曲想が似ているなあ、と感じました。

作品27の2曲は、
コンサートなどで続けて取り上げたら、

よりわかりやすく感じられるように思いました。


2) ピアノ・ソナタ 第15番 ニ長調 作品28《田園》は、

31歳の時(1802年8月)に出版された
5曲のソナタのうち最後の作品です。

第15番までを初期、もしくは
第11-15番を初期から中期への移行期とみなし、

次の第16番からは中期の作品とみなすことが多いようです。


初めてハイドシェックの演奏で聴いた時は、

今一つまとまりに欠けるような気がして
良くわからなかったのですが、

全体の構成が飲み込めてきたからか、
シュナーベルの演奏によるものか、

充実した内容をもつ中規模な作品として、
よくできた名曲であることがわかって来ました。


3) ピアノソナタ 第16番 ト長調 作品31-1 は、

作品31の3曲は、

まず作品31-1・2が、
32歳の時(1803.4)に出版されたものの、
楽譜に誤りが多かったため6月に改訂版が出版されました。

しかしこれにも誤りがあったため、

翌年、33歳の時(1804.6)に1曲加えて
作品31-1・2・3 として出版されたということです。

 第16番 ト長調 作品31-1
 第17番 ニ短調 作品31-2《テンペスト》
 第18番変ホ長調作品31-3

の3曲のうち《テンペスト》以外は
ほとんど聴いて記憶がありません。

聴いてみると、

構造はより簡潔に、
しかし中身はより濃く、
一歩深まりを見せている様子が聴き取れます。

とくに第2楽章の深まりは、新鮮な驚きでした。

シュナーベルのピアノ、
曲全体の構造がとてもよくわかる演奏で、

新たな名曲に出会うことができた気分です。


※L.v.ベートーヴェン全作品目録(国立音楽大学 音楽研究所)
 【http://www.ri.kunitachi.ac.jp/lvb/bdb/bdb_index.html】を参照。

※ペティナ・ピアノ曲事典「ベートーヴェン」
 【http://www.piano.or.jp/enc/composers/61/】を参照。

※Wikipedia の「アルトゥル・シュナーベル」
 「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン」
 「ベートーヴェンの楽曲一覧」を参照。

2014年8月28日木曜日

ヤンドーのハイドン:ピアノ・ソナタ全集 その7

ハンガリーのピアニスト
イエネ・ヤンドー(1952 - )さんの
ハイドン:ピアノ・ソナタ全集

7枚目は、
ウィーン原典版(旧版)の通し番号で、
第42-47番のソナタ6曲等を聴きました。


フランツ・ヨセフ・ハイドン(1732 - 1809)
 1) ピアノ・ソナタ 第42番 ト長調 作品14-1 Hob.XVI:27
 2) ピアノ・ソナタ 第43番変ホ長調作品14-2 Hob.XVI:28
 3) ピアノ・ソナタ 第44番 ヘ長調 作品14-3 Hob.XVI:29
 4) ピアノ・ソナタ 第45番 イ長調 作品14-4 Hob.XVI:30
 5) ピアノ・ソナタ 第46番 ホ長調 作品14-5 Hob.XVI:31
 6) ピアノ・ソナタ 第47番 イ長調 作品14-6 Hob.XVI:32

イエネ・ヤンドー(ピアノ)
録音:1993年3月8-12日、ブダベスト、ユニテリアン教会
【Naxos 8.550844】


ハイドン41歳の時(1774)に
初めて出版された

クラーヴィア・ソナタ集
〔作品13 全6曲 Hob.XVI:21-26〕

に続いて、

45歳の時(1778)に出版されたのが、

クラーヴィア・ソナタ集
〔作品14 全6曲 Hob/XVI:27-32〕

です。

作品13は1773年、
作品14は1776年までに作曲されています。

各曲の構成はこんな感じです。

・第42番 ト長調 作品14-1 Hob.XVI:27
 【Allegro con brio/Menuet/Finale:Presto
・第43番 変ホ長調 作品14-2 Hob.XVI:28
 【Allegro moderato/Menuet/Finale:Presto

・第44番 ヘ長調 作品14-3 Hob.XVI:29
 【Moderato/Adagio/Tempo di Menuet
・第45番 イ長調 作品14-4 Hob.XVI:30
 【Allegro-Adagio/Tempo di Menuet

・第46番 ホ長調 作品14-5 Hob.XVI:31
 【Moderato/Allegretto/Finale:Presto
・第47番 イ長調 作品14-6 Hob.XVI:32
 【Allegro moderato/Menuet/Finare:Plesto

ひと月ほど繰り返し聴いていると、

第42・43・47番の3曲は、

「急-緩-急」の個人的に馴染みのある形式だからか、
ふつうに聴き映えのする名曲に聴こえました。

ベートーヴェンのように、
曲ごとの個性が際立っているわけではありませんが、

初期のころの作品と比べれば、
明らかに成熟しつつある様が聴き取られると思います。


第44・45番の2曲は、

ゆったりとしたメヌエットで曲が終わるため、
続けて聴いていると曲の切れ目がわかりにくい、
という欠点があるのですが、

別個に聴けばそれなりに魅力のある
ソナタであることはよくわかります。


唯一、第46番は、
演奏によるのかもしれませんが、

一気に駆け抜ける
フィナーレを除けば
曲の内容が弱いように思われました。


  ***

全体としてみると、

クラーヴィア・ソナタ集
作品13 全6曲 Hob.XVI:21-26
作品14 全6曲 Hob/XVI:27-32

の12曲は、
初めて作品番号を付して
出版されたソナタ集として、

それ以前の作品と
画する位置にあるように思われました。


本来ならば、
この作品から通番(第1-12番)を付し、

それ以前は、
習作的な作品群として一纏めにされてもいいのかなと。


現状の作品分類は、
習作的な作品も、成熟した作品も一緒くたにした上で、

ひたすら作曲年代順に並べなおすことに集中しているようで、

そのあたりに再考の余地はないのかな、
と思っていますが、

まだまだ全体像は見えていないので、
断片的なアイデアのみ記しておきます。


私がまだ若くて、
英語に加えてドイツ語やイタリア語を勉強する時間があれば、
このあたりの文献を読みあさって研究してみたいなと思いますが、

恐らくそこまでのゆとりある時間は残されていないでしょう。


※Wikipediaの
 「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」
 「ハイドンのピアノソナタ一覧」
 「ハイドンのピアノ曲一覧」
 「ホーボーケン番号」の各項目を参照。

※ピティナ・ピアノ曲事典の「ハイドン」を参照。

※ハイドン研究室「クラヴィア・ソナタの部屋」を参照。

2014年8月11日月曜日

【収穫】カボチャ2号

庭でカボチャが採れました。
今年2つめのカボチャです。

春先、ホームセンターで売られている苗を買ってきて、
庭に植えて育てていました。

大きな実が誇らしげになっていると、
育てた私も誇らしい気持ちになって、

誰かに自慢したくなりました。
息抜きにアップします。

第1号は食べてしまったので、
第2号からどうぞ。

2014年7月31日木曜日

インキネン&ニュージーランド響のシベリウス:交響曲第2番(2008年録音)

フィンランドの指揮者
ピエタリ・インキネン(1980.4-)が指揮する
ニュージーランド交響楽団の演奏で、

フィンランドの作曲家
ジャン・シベリウス(1865.12-1957.9)の
交響曲第2番カレリア組曲を聴きました。

シベ2はインキネン28歳の時(2008.10)、
カレリア組曲は30歳の時(2010.10)の録音です。


シベリウス
1) 交響曲第2番ニ長調作品43
2) カレリア組曲作品11

ニュージーランド交響楽団
ピエタリ・インキネン(指揮)
録音:2008年10月16-18日(1)、2010年7月27日(2)、ニュージーランド、ウェリントン、マイケル・ファーラー・センター
【NAXOS 8.572305】


1) 交響曲第2番ニ長調作品43 は、

第1番の初演から3年をへた
シベリウス36歳の時(1902.3)に、
作曲者本人の指揮によって初演された交響曲です。

次の第3番が初演されるのは、5年先の41歳の時(1907.9)のことになります。

2) カレリア組曲作品11 は、

シベリウス27歳の時(1893.11)に上演された
野外劇《カレリア》のための音楽にもとづく組曲で、

《カレリア》序曲作品10
《カレリア》組曲作品11

の2曲にまとめられています。
序曲は聴いたことがありません。

組曲の方は、
どこかで聴いたような気がしますが、
それほど強い印象はありません。

組曲は軽めの小品3曲で構成されています。


  ***

インキネンのシベリウス、
第1・3番が思いのほか良かったので、
第2番も期待していたのですが、

これは今一つの出来でした。

指揮者の思い入れが強すぎて、
本人の中でうまく整理しきれていない印象が残りました。

音楽の流れが滞りがちで、
全体の見通しがあまり良くない、

聴いているうちに段々冷めた感じになってくる、
残念な演奏でした。

第2番はよく知られた名曲ですが、
意外とまとめにくい所があるのかもしれません。

どちらかといえば、
後半の《カレリア》組曲のほうが
軽めの小品をほどよい加減でうまくまとめ上げていて、
好感が持てました。


※Wikipediaの「ピエタリ・インキネン」「ニュージーランド交響楽団」「ジャン・シベリウス」「交響曲第2番(シベリウス)」「カレリア(シベリウス)」を参照。

インキネン&ニュージーランド響のシベリウス:交響曲第1&3番(2009年録音)

フィンランドの指揮者
ピエタリ・インキネン(1980.4-)が指揮する
ニュージーランド交響楽団の演奏で、

フィンランドの作曲家
ジャン・シベリウス(1865.12-1957.9)の
交響曲第1番と第3番を聴きました。

インキネン28歳の時(2009.3)の録音です。


シベリウス
1) 交響曲第1番ホ短調作品39
2) 交響曲第3番ハ長調作品52

ニュージーランド交響楽団
ピエタリ・インキネン(指揮)
録音:2009年3月3-5日、ニュージーランド、ウェリントン、マイケル・ファーラー・センター
【NAXOS 8.572305】

1) 交響曲第1番ホ短調作品39 は、

シベリウス33歳の時(1899.4)に、
作曲者本人の指揮によって初演された交響曲です。

26歳の時(1892.4)に、
声楽を伴う「クレルヴォ交響曲」が初演されているので、

それから7年をへて作曲された、
管弦楽のみによる初めての交響曲ということになります。


第1番から3年後、
36歳の時(1902.3)に交響曲第2番が初演されますが、

それからさらに5年半をへて、
41歳の時(1907.9)に初演されたのが、

2) 交響曲第3番ハ長調作品52 でした。


  ***

インキネンのシベリウス、
前から気になっていたのですが、

日本フィルと新しい全集も企画されているようなので、

そちらを聴く前に、
ニュージーランド交響楽団との全集を
聴いていこうと思います。

とりあえず、
第1番と第3番を収録した1枚を聴いてみました。

音質は、
若干分離の悪い印象もありますが、
コンサートホールでふつうに聴いている位には聴こえてきます。

オケのレベルは、
日本のふつうの地方オケくらいでしょうか。


オケの水準も、録音の水準も、
もっと上の演奏はあると思うのですが、

指揮者のシベリウスとの相性の良さでしょうか、

不思議と耳が吸い寄せられて、
最後まで一気に聴き通してしまいました。

ふだん冗長に感じやすい第1番も、
有機的に全体像が描かれていて、

第2番と同じタイプの
名曲であることがよくわかりました。


第3番は最近お気に入りになりつつあります。

3楽章のシンプルな構成の中に、
シベリウスの魅力がつまっているようで、

こんな美しい曲があったことに
新鮮な驚きを覚えています。


インキネン28歳の時の録音で、
まだまだ改良の余地はあるのしょうが、

それなりに興味深く、楽しませてもらいました。


※Wikipediaの「ピエタリ・インキネン」「ニュージーランド交響楽団」「ジャン・シベリウス」「交響曲第1番(シベリウス)」「交響曲第3番(シベリウス)」を参照。

2014年7月30日水曜日

ペライアのモーツァルト:ピアノ協奏曲全集 その11

アメリカのピアニスト
マレイ・ペライア(1947-)と
イギリス室内管弦楽団による

オーストリアの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
(1756.1-1791.12)のピアノ協奏曲全集
11枚目を聴きました。


モーツァルト
ピアノ協奏曲 第25番 ハ長調 K.503
ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調 K.537

マレイ・ペライア(ピアノ、指揮)
イギリス室内管弦楽団
録音:1981年6月26日、(第25番)、1983年9月21・24・25(第26番)、セント・ジョン・スミス・スクエア、ロンドン
【SONY MUSIC 88691914112】CD11

29歳の時(1785)に第20・21・22番、
30歳の時(1786)に第23・24・25番
そして32歳の時(1788)に第26番が作曲されました。

1786年3月に

 第23番 イ長調 K.488
 第24番 ハ短調 K.491

の2曲が完成された後、
同年末の12月に完成されたのが

 第25番 ハ長調 K.503 の1曲でした。

その後1年をへて、
1788年2月に完成されたのが

 第26番 ニ長調 K.537 でした。


  ***

ペライアによるピアノ協奏曲全集、
いよいよ終わりに近づいて来ました。

どちらもなぜか私にとって、
それほど強い印象のない2曲ですが、

中庸を得たペライアのピアノで、
曲のほどよい魅力に気がつくことができました。

こうして並べて聴いてみると、

これまでそれほどじっくり聴いて来なかった
第25番のほうが名曲に聴こえて来ました。

ハ長調という調性によるものか、
堂々とした内実のともなう演奏に、

はじめてこの曲が理解できたように思いました。

もうひと押し、
ペライアならではの個性が刻印されていても
いいじゃないかと思いつつ、

全曲聴き通すだけの魅力があることは、
もうすぐ証明できそうです。


※Wikipediaの「マレイ・ペライア」
 「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」
 「モーツァルトの楽曲一覧」
 「ピアノ協奏曲第25番(モーツァルト)」
 「ピアノ協奏曲第26番(モーツァルト)」の各項目を参照。


※作品の基本情報について、
 ピティナ・ピアノ曲事典「モーツァルト」の項目
 【http://www.piano.or.jp/enc/composers/index/73】を参照。

2014年7月29日火曜日

アンセルメ&スイス・ロマンド管のチャイコフスキー:三大バレエ(1958年録音)

音質向上した
「DECCA The Best 1200」のシリーズ(2013.5発売)からもう1枚、

スイスの指揮者
エルネスト・アンセルメ(1883.11-1969.2)が
スイス・ロマンド管弦楽団を指揮して録音した

ロシアの作曲家
ピョートル・チャイコフスキー(1840.5-1893.11)の
三大バレエ(抜粋)を聴きました。

アンセルメ74歳の時(1958)の録音です。


チャイコフスキー
1) バレエ《白鳥の湖》作品20(抜粋)
2) バレエ《眠りの森の美女》作品66(抜粋)
3) バレエ組曲《くるみ割り人形》作品71a

スイス・ロマンド管弦楽団
エルネスト・アンセルメ(指揮)
録音:1958年3月29日-4月14日(2)、10月7日-11月11日(1・3)、ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホール
【UCCD-7249】

このうち

1) バレエ《白鳥の湖》作品20 は、

チャイコフスキー36歳の時(1877.3)に初演された作品です。

この《白鳥の湖》までに、

 交響曲第1番(1868.2)
 交響曲第2番(1873.1)
 交響曲第3番(1875.11)

は、すでに初演されていました。

次の《眠りの森の美女》までに、

 交響曲第4番(1878.2)
 マンフレッド交響曲(1886.3)
 交響曲第5番(1888.11)

が初演されました。


2) バレエ《眠りの森の美女》作品66 は、

チャイコフスキー49歳の時(1890.1)に初演された作品です。

3) バレエ組曲《くるみ割り人形》作品71a は、

チャイコフスキー52歳の時(1892.12)に初演された作品です。

この翌年、亡くなる直前に

 交響曲第6番(1893.10)

が初演されました。


  ***

アンセルメは、
今聴くには音質がもう一つの印象があって、
これまで聴いて来なかったのですが、

音質向上している今回のシリーズなら印象が異なるかもと思い、
まず1枚聴いてみることにしました。

予想以上に良かったです。


オケの鳴らし方が独特で、
ロシア音楽にありがちな重々しいところはなく、

縦の線が若干そろわないところもある中、

逆にそれが魅力になって
軽やかだけど良く鳴っている印象でした。

あんまりピタリと合い過ぎないほうが、
音楽に推進力が生まれるようで、


軽やかな活き活きとしたリズムに
実際バレエを踊りたくなるような楽しい演奏でした。


チャイコフスキーの三大バレエには
それほどこだわりがないので、

たくさん聴いて来たわけではありませんが、
自分の中ではこれまででベストの演奏です。


※Wikipediaの「エルネスト・アンセルメ」「スイス・ロマンド管弦楽団」「ピョートル・チャイコフスキー」を参照。