2014年6月30日月曜日

〔昭和の名人 古典落語名演集〕柳家小三治〈2〉猿後家・時そば(1978年)

十代目柳家小三治(やなぎやこさんじ 1939.12-)氏の落語、
「昭和の名人 古典落語名演集」2枚目は、

「猿後家」と「時そば」を聴きました。

小三治38歳の時(1978年4・11月)の口演です。

29歳でに真打に昇進(1969年9月)し、
十代目柳家小三治を襲名してから9年目の成果ということになります。


昭和の名人
古典落語名演集
十代目柳家小三治〈二〉

1) 猿後家
2) 時そば

録音:1978年4月12日、安田生命ホール(1)、
1978年11月17日、横浜教育文化センター(2)。
【KICH-2522】


「猿後家」(さるごけ)は、

「一七七八(安政七)年江戸板『乗合船』の『物忌』」を原話とするが、
 主人公は後家でなく「旦那」だそうです。

また、
「江戸時代の咄家・初代喜久亭寿暁のネタ帳
『滑稽集』(文化四年・一八〇七)にも『さるだんな』の題名と
『木からおちた猫』のサゲが出て」くるそうです。

そこでもともと江戸で、
「『お猿旦那』として演じられていたものが、上方に伝わり、
 主人公を後家に替え、関西風の味付けをしたものが
 再び東京へ移入された」と推測されています。

(以上、布目英一氏のCD解説参照)


この口演は5年ほど前、
CD発売時に聴いた折には、

おかみさんの器量の悪さをあざ笑うという
最初の場面設定からして趣味が悪いと思い、

そのおかみさんもまた、
性格の悪い嫌味な感じが強く出ていて、

まったく好きにはなれませんでした。

今回聴き直してみると、
そこまで小難しく考えなくても、

小三治の口演にのせられ、
一緒になって笑っていればいいのかなと、

肩の力を抜いて、
それなりに楽しむことができました。


もしかしたら、
小三治の口調が真に迫りすぎて、

おかみさんの嫌味な感じが、
本来よりも増幅されて伝わって来るのかもしれません。



「時そば」は、

「一七二六(享保二)年刊『当流軽口初笑』巻三の『他人は喰より』
 一七七三(安永二)年刊『坐笑産』の『あま酒』
 同年刊古喬子『芳野山』の『夜たかそば』などが原型と思われる」そうです。

「大阪の『時うどん』を三代目柳家小さんが移したといわれるが、
 内容は異なる」そうです。

(以上、布目英一氏のCD解説参照)。


音を聴くだけでも、
蕎麦をすする音が美味しそうな、

快調なテンポで語られる
まずは完璧といって良い口演です。

恐らくこれは
映像で観たほうが圧倒的に楽しめるはずですが、
音だけでも十分に楽しめます。


うまさが鼻につくようなところもなく、
くりかえし聴き返しても飽きの来ない名演です。


※Wikipediaの「柳家小三治」を参照。

ドラティ&ロイヤル・フィルのオルフ:《カルミナ・ブラーナ》(1976年録音)

音質向上した
「DECCA The Best 1200」のシリーズ(2013.5発売)からもう1枚、

ドイツの作曲家
カール・オルフ(1895.7-1982.3)の
世俗カンタータ《カルミナ・ブラーナ》を、

ハンガリー出身の指揮者
アンタル・ドラティ(1906.4-1988.11)の指揮する

イギリスのオーケストラ
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で聴きました。
ドラティ69歳の時(1976.2)の録音です。


カール・オルフ
世俗カンタータ《カルミナ・ブラーナ》

イーマ・バロウズ(ソプラノ)
ルイ・デヴォー(テノール)
ジョン・シャーリー=カーク(バリトン)
ブライトン・フェスティヴァル合唱団
サウスエンド少年聖歌隊
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:アンタル・ドラティ

録音:1976年2月2・3日、ロンドン、キングズウェイ・ホール
【UCCD-7291】


「カルミナ・ブラーナ」とは、
1803年にドイツ南部の修道院で発見され、
1847年に出版された11-13世紀頃の詩歌集のことです。

この詩歌集をもとに作曲され、
オルフ42歳の時(1937.7)に初演されたのが、
世俗カンタータ《カルミナ・ブラーナ》です。


小澤征爾が指揮する
ベルリン・フィル晋友会合唱団による演奏を、
ライブ映像(1989.12)で観たのがこの曲との出会いでした。

最初と最後に演奏される印象的な
「おお、運命の女神よ」にはすぐに心奪われましたが、

その間に奏でられる音楽の数々は、
個性的に過ぎて今一つわからないまま終わっていました。

その後、
小林研一郎が指揮する
名古屋フィル岡崎混声合唱団・岡崎高校コーラス部・多治見少年少女合唱団の実演(2007.6)を聴く機会もあり、少しずつ曲への理解を深めていました。


ここ暫くは疎遠になっていたのですが、
ドラティの「カルミナ・ブラーナ」は定評があったことを思い出し、
購入して聴いてみました。

録音と演奏ともにすばらしく、

これまで聴いてきた中では
最高の「カルミナ・ブラーナ」になりました。

ザックリした響きで刻まれる弦のリズムと、
しゃべりかけるような木管・金管をベースに、
しゃっきりとした合唱の質感が心地よく響く演奏で、

(はじめと終わりだけでなく)曲全体が、
心浮き立つ楽しい音楽のかたまりであることを
初めて認識できました。


ライブではこんなふうには聴こえないのかもしれませんが、

全体的な見通しもよく聴いていて、
曲の魅力を最大限に引き出した演奏であることは間違いないと思います。

よい買い物をしました。


※Wikipediaの「カール・オルフ」「カルミナ・ブラーナ」「アンタル・ドラティ」を参照。

2014年6月27日金曜日

メータ&LAPOのリヒャルト・シュトラウス:交響詩《英雄の生涯》(1968年録音)

音質向上した
「DECCA The Best 1200」のシリーズ(2013.5発売)からもう1枚、

インド出身の指揮者
ズービン・メータ(1936.4-)が
32歳の時(1968.5)に、

アメリカのオーケストラ
ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
を指揮して録音した

ドイツの作曲家
リヒャルト・シュトラウス(1864.6-1949.9)の
交響詩《英雄の生涯》と、

アメリカの作曲家
アーロン・コープランド(1900.11-1990.12)の
《リンカーンの肖像》を聴きました。


リヒャルト・シュトラウス
交響詩《英雄の生涯》作品40
 (ソロ・ヴァイオリン)デイヴィッド・フリーシナ

アーロン・コープランド
《リンカーンの肖像》―語り手と管弦楽団のための
 (語り手)グレゴリー・ペック

ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
ズービン・メータ(指揮)
録音:1968年5月3・8日、ロサンゼルス、ルイス・ホール
【UCCD-7247】


交響詩《英雄の生涯》作品40 は、

シュトラウス34歳の時(1899.3)に、
作曲者本人の指揮によって初演された、
シュトラウス最後の交響詩です。

シュトラウスは苦手な作曲家なので
それほど聴いていないこともありますが、

ぶんぶんと鳴りまくるオケが、
わかりやすく場面場面を描き分けていて、
はじめて面白く聴き通すことができました。

ベートーヴェンの
《英雄》交響曲を念頭に置かれて
作曲されたという点も、

はじめて納得することができました。


メータが56歳の時に
ベルリン・フィルと再録音したCDは
たまたま購入していたのですが、

曲全体の推進力の点で、
旧盤のほうがはるかに魅力的に聴こえました。

メータはこの時期に、ほかの
リヒャルト・シュトラウスの作品も収録しているはずなので、
ぜひ同シリーズで再販してほしいです。


《リンカーンの肖像》は、

コープランド41歳の時(1942.5)に初演された作品です。

第二次世界大戦中に、
指揮者のアンドレ・コステラネッツが、

国民精神を高め、愛国心を煽る目的で、
「アメリカの真の偉人を肖像画風に音楽化した作品を
 3人の作曲家に依頼し」たうちの1曲だそうです。

(※延山優樹氏によるCD解説を参照。)

リンカーンに特別な思い入れのない身ではありますが、
グレゴリー・ペックの朗読が思わず聴き惚れるレベルの心地よさで、

コープランドの音楽も、
わかりやすい中にも陳腐に陥らない清新さを備えていて、

思いのほか楽しめました。

グレゴリー・ペックは、
映画《ローマの休日》で見慣れていたはずですが、
こんなにいい声をしていたとは気がつきませんでした。

そのまま英語の暗唱にも使えそうです。


※Wikipediaの「ズービン・メータ」「リヒャルト・シュトラウス」「英雄の生涯」「アーロン・コープランド」を参照。

2014年6月26日木曜日

ルービンシュタインのショパン:マズルカ集(全51曲 1965-66年録音)

ポーランド出身のピアニスト
アルトゥール・ルービンシュタイン(1887.1-1982.12)が、
78歳の時(1965-66)に録音した

ポーランドの作曲家
フレデリック・ショパン(1810.3-1849.10)の
マズルカ集(全51曲)を聴きました。


フレデリック・ショパン
マズルカ集(全51曲)

Disc1
4つのマズルカ 作品6【1833年出版】※23歳
 第1番 嬰ヘ短調 作品6-1
 第2番 嬰ハ短調 作品6-2
 第3番  ホ長調  作品6-3
 第4番 変ホ短調 作品6-4

5つのマズルカ 作品7【1833年出版】
 第5番 変ロ長調 作品7-1
 第6番  イ短調  作品7-2
 第7番  ヘ短調  作品7-3
 第8番 変イ長調 作品7-4
 第9番  ハ長調  作品7-5

4つのマズルカ 作品17【1834年出版】※24歳
 第10番 変ロ長調 作品17-1
 第11番  ホ短調  作品17-2
 第12番 変イ長調 作品17-3
 第13番  イ短調  作品17-4

4つのマズルカ 作品24【1836年出版】※26歳
 第14番  ト短調  作品24-1
 第15番  ハ長調  作品24-2
 第16番 変イ長調 作品24-3
 第17番 変ロ短調 作品24-4

4つのマズルカ 作品30【1837年出版】※27歳
 第18番  ハ短調  作品30-1
 第19番  ロ短調  作品30-2
 第20番 変ニ長調 作品30-3
 第21番 嬰ハ短調 作品30-4

4つのマズルカ 作品33【1838年出版】※28歳
 第22番 嬰ト短調 作品33-1
 第23番  ニ長調  作品33-2
 第24番  ハ長調  作品33-3
 第25番  ロ短調  作品33-4

Disc2
4つのマズルカ 作品41【1840年出版】※30歳
 第27番  ホ短調 作品41-2
 第28番  ロ短調 作品41-3
 第29番 変イ長調 作品41-4
 第26番 嬰ハ短調 作品41-1

3つのマズルカ 作品50【1842年出版】※32歳
 第30番  ト長調  作品50-1
 第31番 変イ長調 作品50-2
 第32番 嬰ハ短調 作品50-3

3つのマズルカ 作品56【1844年出版】※34歳
 第33番 ロ長調 作品56-1
 第34番 ハ長調 作品56-2
 第35番 ハ短調 作品56-3

3つのマズルカ 作品59【1845年出版】※35歳
 第36番  イ短調  作品59-1
 第37番 変イ長調 作品59-2
 第38番 嬰ヘ短調 作品59-3

3つのマズルカ 作品63【1847年出版】※37歳
 第39番  ロ長調  作品63-1
 第40番  ヘ短調  作品63-2
 第41番 嬰ハ短調 作品63-3

4つのマズルカ 作品67【1855年出版】※遺作
 第42番 ト長調 作品67-1〔1835作曲〕※25歳
 第43番 ト短調 作品67-2〔1849作曲〕※39歳
 第44番 ハ長調 作品67-3〔1835作曲〕※25歳
 第45番 イ短調 作品67-4〔1846作曲〕※36歳

4つのマズルカ 作品68【1855年出版】※遺作
 第46番 ハ長調 作品68-1〔1830作曲〕※20歳
 第47番 イ短調 作品68-2〔1827作曲〕※17歳
 第48番 ヘ長調 作品68-3〔1830作曲〕※20歳
 第49番 ヘ短調 作品68-4〔1849作曲〕※39歳

第50番 イ短調《ノートル・タン》【1840出版】※30歳
第51番 イ短調《エミール・ガイヤールへ》【1841出版】※31歳

アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)

録音:1965年12月27日(第1-8・10-13番)
   28日(第1・9・12-17・26-33番)
   29日(第18-22・34-36番)
   30日(第37-41番)、
   1966年1月3日(第23-25・42-51番)
   ニューヨーク、ウェブスター・ホール
【SICC30060-1】

遺作のうち、
作品67と作品68の8曲は、

ショパンの友人
ユリアン・フォンタナ(1810.7-1869.12)
が編集し出版した作品集です。

亡くなる直前に作曲された作品だけでなく、

ショパン自身は破棄するように望んだ
若いころの作品もあわせて編纂してあります。

第50番と51番は
生前に出版もされていますが、
作品番号を付されなかった作品です。


  ***

ルービンシュタインのマズルカ集は、
1999年に再販された時のを持っていたのですが、

細部がこもりがちなもやっとした音質で、
肝心のピアノの音色がそれほど美しくなく、

平凡な印象のまま終わっておりました。

今回の「Blu-spec CD2」による再販を聴いて、
大きく印象が変わりました。


何よりピアノの音色が美しく、
タッチの微妙な感触まで再現されているので、

何でもないようにみえて実はそうではない、

長年演奏しつくしてきた結果としての
極めつきの名演であることが良く伝わってきました。


今回の新盤であれば、
ルイサダよりもはるかにいいです。

51曲もあると、
まだ全体を聴き分けられていないので、
また折をみて聴き続けていこうと思います。


※小坂裕子著『作曲家◎人と作品 ショパン』(音楽之友社、2004年4月)を参照。

※Wikipediaの「ユリアン・フォンタナ」を参照。

※「ピティナ ピアノ曲事典 ショパン」〈http://www.piano.or.jp/enc/composers/31/〉を参照。