2015年4月27日月曜日

ヴィト&ポーランド国立放送響のシューマン:交響曲第3番《ライン》(1994年録音)

500円で買えるエイベックスの
ベスト・オブ・クラシックスのシリーズから、

ポーランドの指揮者
アントニ・ヴィト(Antoni Wit 1944.2-)の指揮する
ポーランド国立放送交響楽団の演奏で、

ドイツの作曲家
ロベルト・シューマン(1810.6-1856.7)の
交響曲第3番《ライン》を聴きました。

ヴィト50-51歳の時(1994.12&1995.3)の録音です。


ロベルト・シューマン
1) 交響曲 第3番 変ホ長調 作品97《ライン》

 アントニ・ヴィト(指揮)
 ポーランド国立放送カトヴィツェ交響楽団
 録音:1994年12月&1995年3月、カトヴィツェ、ポーランド放送コンサート・スタジオ

2) 劇音楽《マンフレッド》序曲 作品115

 ヨハネス・ヴィルトナー(指揮)
 ポーランド国立放送カトヴィツェ交響楽団
 録音:1992年1月&4月、カトヴィツェ、ポーランド放送コンサート・スタジオ
【AVCL-25616】2007年12月発売


シューマンの交響曲は、

 第1番 変ロ長調 作品38《春》
 第2番  ハ長調  作品61
 第3番 変ホ長調 作品97《ライン》
 第4番  ニ短調  作品120

の4曲知られていますが、
この作品番号は出版された順番によるものでなので、

初演順に並べ直すと、

 第1番(1841年3月)
 第4番(1841年12月)⇒(1853年12月に改訂稿を初演)
 第2番(1846年11月)
 第3番(1851年2月)

の順になります。

第4番は、
第1番とほぼ同時期に初演されたものの、

第3番初演の2年後、
大幅な改訂稿が初演されたため、

出版が一番最後となり、
第4番と呼ばれることになりました。

つまり第3番は、第1番から10年をへた
40歳の時に初演されたシューマン最後の交響曲 でもあるわけです。


  ***

ヴィトさんの指揮、
曲への共感に満ちた解釈で、
全体の構成が良くわかる演奏を聴かせてくれます。

オケの響きが多少ひなびた感じなのは
マイナス要素かもしれませんが、

弱音から強音まで、
オケを無理なく響かせる
ヴィトさんの手腕によるところが大きいのか、

少し聴き進むとオケの弱さは気にならなくなり、
響きの心地よさに安心して身を任せることができました。


個人的に、
シューマンの交響曲で一番好きなのは
この第3番です。お気に入りの録音は

 サヴァリッシュ&ドレスデン、
 メータ&ウィーン・フィル、
 朝比奈&大阪フィル

の3種類なのですが、
これらに全く聴き劣りしない演奏だと思います。


ヴィトさんの指揮、
このシューマンの響きからすると、

ブラームスやベートーヴェン、
モーツァルトなどとも非常に合いそうなのですが、

今のところまとめて録音はしていないようです。

もし得意のレパートリーに入っているのであれば、
いずれ聴いてみたいです。

2015年4月20日月曜日

横山幸雄のショパン:ピアノ独奏曲全集 その8(2011年録音)

横山幸雄(1971-)さんによる

ポーランド出身の作曲家
フレデリック・フランソワ・ショパン
(1810-1849)のピアノ独奏曲全集
8枚目を聴きました。


プレイエルによる
ショパン・ピアノ独奏曲全曲集〈8〉

1) 2つのノクターン 作品32(1936)
  第1番 ロ短調
  第2番 変イ長調

2) 4つのマズルカ 作品33(1937-38)
  第1番 嬰ト短調
  第2番 ニ長調
  第3番 ハ長調
  第4番 ロ短調

3) 円熟期の遺作のワルツ
  ヘ短調 WN55(1841)
  イ短調 WN63(1847-49)

4) マズルカ イ短調《ノートル・タン》(1840)
5) マズルカ イ短調《エミール・ガイヤールへ》(1841)
6) 《ヘクサメロン》より第6変奏 ホ長調(1837)

7) 3つの新しい練習曲(1837)
  第1番 ヘ短調
  第2番 変ニ長調
  第3番 変イ長調

8) 即興曲第2番 嬰ヘ長調 作品36(1839)

9) 3つのワルツ 作品34《華麗なワルツ》
  第1番 変イ長調(1838)
  第2番 イ短調(1835)
  第3番 ヘ長調(1831)

10) ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 作品35《葬送》(1839)
   第1楽章:グラーヴェ ドッピオ・モヴィメント
   第2楽章:スケルツォ
   第3楽章:レント マルシュ・フュネーブル
   第4楽章:フィナーレ プレスト

横山幸雄(ピアノ)
使用楽器:プレイエル(1910年製)
録音:2011年5月10・11日
上野学園 石橋メモリアルホール
【KICC-920】※2011年9月発売

7枚目のあとだいぶ時間を置きました。

CD8には、
25歳から31歳(1835-1841)のころの作品を集めてあります。


21歳の時(1831)に
ウィーンからパリに移住し大成功をおさめた後、

呼吸器系の疾患によって、
ポーランド人貴族の娘マリアとの婚約が破棄され(1837)、

その後知り合った
フランスの女流作家ジョルジュ・サンドとの

マジョルカ島への逃避行(1838)、
その後パリに戻ってから数年、
サンドとの生活を続けていく中で生まれた作品です。


  ***

このあたりに入って来ると、
習作的な色合いはなくなります。

どれも名曲揃いで、
ショパンらしい作品群に
安心して身を任せることができました。

前半に、
・2つのノクターン 作品32
・4つのマズルカ 作品33
・2つの円熟期の遺作のワルツ

後半に、
・即興曲第2番 嬰ヘ長調 作品36
・3つのワルツ 作品34《華麗なワルツ》
・ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 作品35《葬送》

を配置し、
その間にあまり聴く機会のない
・マズルカ イ短調《ノートル・タン》(1840)
・マズルカ イ短調《エミール・ガイヤールへ》(1841)
・《ヘクサメロン》より第6変奏 ホ長調(1837)
・3つの新しい練習曲(1837)

を配置する構成。

あいだの曲はあまり聴いたことがないのですが、
最後は傑作ピアノ・ソナタ第2番でガツンとまとめられ、
全体にひきしまった感じを与えていました。

横山氏のピアノは、
速めのテンポ、万全のテクニックでバリバリ弾かれていきますが、

嫌味なところや、
技術だけ空回りするところはなく、

ほどほどに情感も込められていて、

中庸な解釈で、
ショパンが書いた音楽の美しさに、
すっと入り込むことができました。


ルービンシュタインの
味わい深い老獪な演奏とは違いますが、

若々しさを感じさせる
等身大のショパン演奏のように感じました。

あと4枚、
充実の作品群が続くはずなので、
楽しんで聴いていきたいと思います。

2015年4月13日月曜日

シュナーベルのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 その6

オーストリア出身のピアニスト
アルトゥール・シュナーベル
(Artur Schnabel 1882.4-1951.8)が、
50歳から53歳にかけて(1932-35)録音した

ドイツの作曲家
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
(Ludwig van Beethoven 1770.12-1827.3)の
ピアノ・ソナタ全集の6枚目です。


ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ録音協会全集第6集

ベートーヴェン(1770-1827)
1) ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調《テンペスト》作品31-2
2) ピアノ・ソナタ 第18番 変ホ長調 作品31-3
3) ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調《ワルトシュタイン》作品53

アルトゥル・シュナーベル(ピアノ)
録音:1934年4月27-28日〔17番〕、1932年5月25日〔18番〕、1934年4月25日・5月7日〔19番〕、EMIアビー・ロード第3スタジオ、ロンドン
【Naxos 8.110760】


1) ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調《テンペスト》作品31-2
2) ピアノ・ソナタ 第18番 変ホ長調 作品31-3

ベートーヴェンのピアノ・ソナタは、
通常、作品31の3曲から「中期」に分類されています。

《テンペスト》《ワルトシュタイン》は勿論ですが、

特別な名前のない作品31-3も、
聴いてすぐ充実度のわかる名曲です。


作品31は、

 第16番 ト長調 作品31-1
 第17番 ニ短調 作品31-2《テンペスト》
 第18番変ホ長調作品31-3

という3曲からなります。

まず作品31-1・2が、
32歳の時(1803.4)に出版されたものの、
楽譜に誤りが多かったのですぐに改訂版が出版されました(1803.6)。

しかしこれにも誤りがあったため、

翌年、33歳の時(1804.6)に1曲加えて
作品31-1・2・3 として出版されました。


こののち34歳の時(1805.1)に

 第19番ト短調作品49-1
 第20番ト長調作品49-2

の2曲が出版されますが、
これは若いころの作品をまとめ直したものなので、

ふつう初期のソナタに分類されており、
この全集でもCD2枚目に収録されています。


3) ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調《ワルトシュタイン》作品53

は《テンペスト》から2年をへて、
34歳の時(1805.5)に出版された作品です。


時期的には、
交響曲第2番・第3番が初演された時期に重なります。

 交響曲第2番ニ長調作品36
  (初演 1803.4)
 交響曲第3番変ホ長調《英雄》作品55
  (初演 1804.12)


  ***

シュナーベルさんのピアノは、

たいへん雄弁なのですが、
全体の見通しはとても良く、
どういう曲なのか手に取るようにわかるのが特徴的です。

没入して精神的に追いつめていくタイプの演奏ではなく、

楽しくおしゃべりしていくような、
語りかける表現のうまさを感じる演奏です。

細部にこだわり過ぎることもなく、
曲全体の真価を知りたい時にぜひ聴いておきたい演奏だと思います。


《テンペスト》と
《ワルトシュタイン》はよく聴いてきているはずですが、

全体の見通しの良さに、
初めて聴くような感動を覚えました。

これまで特に意識していなかった作品31-3も、
同じ時期に作られた佳曲の一つであることは
よくわかりました。


※横山千史著
 『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全作品解説』
 (アルテスパブリッシング、2013年12月)参照。

※ペティナ・ピアノ曲事典「ベートーヴェン」
 【http://www.piano.or.jp/enc/composers/61/】を参照。

※Wikipedia の「アルトゥル・シュナーベル」
 「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン」
 「ベートーヴェンの楽曲一覧」を参照。

2015年4月6日月曜日

ヤンドーのハイドン:ピアノ・ソナタ全集 その8

ハンガリーのピアニスト
イエネ・ヤンドー(1952 - )さんの
ハイドン:ピアノ・ソナタ全集

8枚目は、
ウィーン原典版(旧版)の通し番号で、
第48-52番のソナタ5曲を聴きました。


フランツ・ヨセフ・ハイドン(1732 - 1809)
 1) ピアノ・ソナタ 第48番 ハ長調  作品30-1 Hob.XVI:35
 2) ピアノ・ソナタ 第49番嬰ハ短調 作品30-2 Hob.XVI:36
 3) ピアノ・ソナタ 第50番 ニ長調  作品30-3 Hob.XVI:37
 4) ピアノ・ソナタ 第51番変ホ長調 作品30-4 Hob.XVI:38
 5) ピアノ・ソナタ 第52番 ト長調  作品30-5 Hob.XVI:39

イエネ・ヤンドー(ピアノ)
録音:1993年6月15-18日、ブダベスト、ユニテリアン教会
【Naxos 8.553128】


ハイドンが、
42歳の時(1774)に初めて出版された
クラーヴィア・ソナタ集が
 作品13 Hob.XVI:21-26〔全6曲〕

46歳の時(1778)に出版された
2番目のクラーヴィア・ソナタ集が
 作品14 Hob/XVI:27-32〔全6曲〕

48歳の時(1780)に出版された
3番目のクラーヴィア・ソナタ集が
 作品30 Hob/XVI:35-39・20〔全6曲〕

であり、このCDに作品30の第1-5曲目が収められました。


作品30〔全6曲〕の構成は次の通りです。

 ソナタ 第48番 ハ長調 作品30-1 Hob.XVI:35
 ソナタ 第49番嬰ハ短調作品30-2 Hob.XVI:36
 ソナタ 第50番 ニ長調 作品30-3 Hob.XVI:37
 ソナタ 第51番変ホ長調作品30-4 Hob.XVI:38
 ソナタ 第52番 ト長調 作品30-5 Hob.XVI:39
 ソナタ 第33番 ハ短調 作品30-6 Hob.XVI:20

このソナタ集は48歳の時(1780)に出版されたのですが、

第6曲目のみ、
10年近く前の39歳(1771)の時に作曲されたことが確認されたため、
現在の分類ではほかの5曲と切り離されて、

ウィーン原典版で第33番、
ホーボーケン番号で Hob.XVI:20 に分類されています。
(今回の全集ではCD5枚目【8.553800】に収録。)

個人的にはハイドンの意志で、
6曲1組のソナタ集として出版されている以上、

偶然残された史料によって
成立年代がはっきりした1曲のみ、
ほかと切り離して扱われるのは違和感がありました。

ほかの5曲のうち、
作品30-5 は1780年2月に作曲されたことが確認されていますが、
ほかの4曲が具体的にいつ作曲されたのかはわかっていません。

明らかにハイドンの意に反して
勝手に編集、出版されたのでなければ、
出版譜の曲順を再優先させても良いように感じました。


  ***

さて実際に聴いてみると、
このあたりに最もハイドンらしい、
一つの完成されたスタイルが表現されているように感じました。

それほど深く重くなり過ぎることもなく、
でもほどよく明るく心が晴やかになる作品群で、

仕事中のBGMに最適な
気楽に楽しめる1枚でした。


このうち、
小さなころからピアノのおけいこで弾かれるのを
繰り返し聴いてきたのが、

 ピアノ・ソナタ 第50番 ニ長調 作品30-3 Hob.XVI:37

です。名手が弾くとまったく別物に生まれ変わります。

どれもほどよい完成度なので、

一つのコンサートで、
作品30の6曲すべてを取り上げるのも面白いように思いました。

スカルラッティやモーツァルトと組み合わせても良い刺激になるのでは。


ヤンドーさんのピアノ、
ほかの作曲者の演奏もいろいろ聴いていますが、
ハイドンとの相性が一番のようです。

くっきりはっきり、
抜群のテクニックで曲の内面に切り込んでいく演奏で、
ハイドンの面白さに気がつかせてくれました。


※Wikipediaの
 「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」
 「ハイドンのピアノソナタ一覧」
 「ハイドンのピアノ曲一覧」
 「ホーボーケン番号」の各項目を参照。

※ピティナ・ピアノ曲事典の「ハイドン」を参照。

※ハイドン研究室「クラヴィア・ソナタの部屋」を参照。