2016年10月31日月曜日

山田一雄&N響のマーラー:交響曲第5番(1985年録音)

山田一雄(1912年10月-1991年8月)の指揮する
NHK交響楽団の演奏で、

オーストリアの作曲家
グスタフ・マーラー(Gustav Mahler, 1860年7月-1911年5月)の
交響曲第5番を聴きました。

指揮者72歳の時(1985年2月)のライブ録音です


N響創立90周年シリーズ
Disc1
グスタフ・マーラー
交響曲第5番嬰ハ短調

山田一雄(指揮)
NHK交響楽団
録音:1985年2月13日
【KKC2104/05】2016年10月発売
 ※Disc2収録のモーツァルトは後日取り上げます。

交響曲第5番嬰ハ短調は、
マーラーが44歳の時(1904年10月)に初演された曲です。

マーラーで最初に聴き込んだのが、
この第5番でした。

聴き込みすぎたからか、
最近はあまり聴く気が起きなくなっていたのですが、

久しぶりに昔懐かしい
山田一雄の指揮するN響のマラ5を聴いて、
感動を新たにしました。

山田一雄氏のライブCDは、
期待いっぱいに聴いてがっかりする演奏も多いのですが、
これは成功といって良いと思います。

若干遅めのテンポで、
楽想を深くえぐりぬいて行くスタイルなので、
映像で観ると間がもたないようにも思われたのですが、

CDではほどほどな印象で、
始まりが「葬送行進曲」であることを思えば、
適切なテンポ設定に感じました。

小じんまりとはまとまらず、
自身が作曲したかのように内面に入り込み、
マーラーと一心同体になって進んでいくスタイルは、
バーンスタイン&ウィーン・フィルの演奏を思い出しました。

ただし改めて、
そちらのCDも聴き直してみたところ、

バーンスタインのほうが遥かに示威的な、
無理矢理にオケを引きずり回した感のある強引な演奏で、
あまり好きにはなれませんでした。

恐らく向いている方向は同じなのですが、
より音楽的に、穏当な表現で全体をまとめ上げたのが、
山田一雄&N響の演奏であり、
まれに聴く名演といって良いと思います。


最近ありがちな
表面をきれいに整えた演奏ではないので、
インバル&都響などのCDを愛聴されていると、
がっかりされる方もいるかもしれませんが、

昔風の大演奏でマラ5を聴いてみたい方には、
ぜひお薦めしたいCDです。


山田一雄氏のマーラーのCDは、

京都市響との《復活》と、
N響との第5番が同じレベルで優れていて、

これに次ぐのが新日本フィルとの第9番、
今一つなのが都響との第8番だと思います。

決して見やすい指揮ではなかったので、
CDにすると失敗作に聴こえるものも多いのですが、

時折とんでもない名演が聴けるので、
今後のライブCDにも期待したいです。

2016年10月17日月曜日

オーマンディ&フィラデルフィア管のシベリウス:交響詩《4つの伝説曲》(1978年録音)

ハンガリー出身者の指揮者
ユージン・オーマンディ
(Eugene Ormandy, 1899年11月-1985年3月)の指揮する

アメリカのオーケストラ
フィラデルフィア管弦楽団の演奏で、

フィンランドの作曲家
ジャン・シベリウス
(Jean Sibelius, 1865年12月8日-1957年9月20日)の
交響詩《4つの伝説曲》作品22を聴きました。

指揮者78歳の時(1978年2月)の録音です


ジャン・シベリウス
交響詩《4つの伝説曲》作品22
①第1曲:レンミンカイネンと鳥の乙女
②第2曲:トゥオネラの白鳥
③第3曲:トゥオネラのレンミンカイネン
④第4曲:レンミンカイネンの帰郷

ルイス・ローゼンプラット(コーラングレ)
フィラデルフィア管弦楽団
ユージン・オーマンディ(指揮)

録音:1978年2月20日、フィラデルフィア、The Old Met
【WPCS-50841】2013年1月発売

交響詩《4つの伝説曲》作品22 は、
《レンミンカイネン、オーケストラのための4つの伝説》という正式名称で、
《4つのカレワラ伝説》《レンミンカイネン組曲》と呼ばれることもあります。

1893年から95年にかけて作曲され、
シベリウス30歳の時(1896年4月13日)に初演されました。

初演順に前後の作品を並べてみると、

 ①《クレルヴォ》作品7(初演1892年)
 ②《4つの伝説曲》作品22(初演1896年)
 ③ 交響曲第1番 ホ短調 作品39(初演1899年)

となっていて《クレルヴォ》と第1交響曲の
あいだに位置する作品ということになります。

《クレルヴォ》と第1交響曲との間に、
4楽章編成の交響曲風の大規模な管弦楽曲が作られていたことは、
つい最近まで気が付きませんでした。


松原千振(まつばらちふる)著
『ジャン・シベリウス ―交響曲でたどる生涯』
(アルテスパブリッシング、2013年7月)
を読んだ時に、

 第2章《クレルッヴォ》 
 第3章《レンミンカイネン組曲》
 第4章 交響曲第一番 

と章立てされているのをみて、
聴いてみたいなと思っていました。

このうち第2楽章《トゥオネラの白鳥》は、
度々聴く機会があって、美しく繊細な作品であることは良くわかっていたのですが、
4楽章の交響曲として聴けるのかは疑問でした。


  ***

実際に聴いてみて驚きました。

交響曲第2番のようなわかりやすい構成の音楽で、
レンミンカイネンの伝説について何も知らなくても、
最後まで感動のうちに聴き終えることができました。

確かに、
ワーグナーの《ワルキューレ》にそっくりな楽想が表れたりして、
安易なところに流れる傾向もあるので、
交響曲と呼ぶのは早いように思われますが、

一つ前の《クレルヴォ》よりは、一歩わかりやすく、
まとまりのよい4楽章構成の作品に仕上がっているように感じました。

《クレルヴォ》や交響曲第2番のような、
わかりやすいロマン的なシベリウスの作品が好きな方には、
《レンミンカイネン、オーケストラのための4つの伝説》
はお薦めの作品です。

他にも良い録音はあるかもしれませんが、

偶然聴いたオーマンディは、曲への共感に満ちた名演で、
これだけで十分この曲の魅力に気がつくことができました。

2016年10月10日月曜日

小澤征爾&水戸室内管のベートーヴェン:交響曲第4&7番(2014年録音)

小澤征爾(1935.9- )の指揮する
水戸室内管弦楽団の演奏で、

ドイツの作曲家
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
(Ludwig van Beethoven, 1770.12.16-1827.3)
交響曲第4番と第7番を聴きました。

小澤氏78歳の時
2014年1月17日、5月25日のコンサートをライブ録音したCDです


ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
①交響曲第4番 変ロ長調 作品60
②交響曲第7番 イ長調 作品92

水戸室内管弦楽団
指揮:小澤征爾
録音:2014年1月17日(①)、5月25日(②)、水戸芸術館コンサートホールATM
【UCCD-1413】2015年1月発売

①交響曲第4番変ロ長調作品60は、
ベートーヴェン36歳の時(1807年3月)に初演された作品です

②交響曲第7番 イ長調 作品92
43歳の時(1813年12月8日)に初演された作品です


小澤征爾の指揮する水戸室内管弦楽団との《運命》を聴いて、
小澤氏のベートーヴェンも悪くないかもと思い、
4番と7番を収録したCDを購入してみました。

CDで聴く《運命》はよくいえば透明な、
悪くいえば少し気力の衰えを感じさせる演奏で、
無駄のない純音楽的な《運命》として、
究極的なところまで行き着いているとは思うものの、

心を揺さぶられるような感動を味わったかというと、
そこまでではないもどかしさが残りました。

しかし、
サイトウ・キネン・オーケストラとの録音よりも、
繰り返し聴きたくなる味わい深い演奏であったことは確かなので、
第4番と第7番を収録した1枚を聴いてみることにしました。

この中で、
圧倒的な迫力に驚いたのが第7番で、
《運命》の好印象を遥かに上回る名演が繰り広げられていました。

《運命》や第4番では、
室内オーケストラらしい薄い響きが若干気になっていたのですが、
第7番はまるで別のオケが弾いているのではないかと紛うばかりの
分厚い響きで、心を一気に鷲掴みにされました。

ふだんのオーソドックスなスタイルの中から、
一歩突き抜けた感じの物凄い音が溢れ出てきて、
これまで聴いたことのない第7番の世界が広がっていました。


このCDは、
小澤氏の録音に時折感じられる空虚さが微塵もなく、
耳に心地よい響きの充実したオケとともに、
手に汗握る名演が繰り広げられており、
私の中では疑いなく、第7番のベスト演奏の一つになりました。

第4番も、悪くはありません。
《運命》と同じくらいにはいいですし、
サイトウ・キネン・オーケストラとの旧録音より一歩、
解釈に深まりは感じられます。

しかしながら、
ほかを圧倒する何かがあるのかといわれると、
一貫してオーソドックスなスタイルを貫かれているだけに、
あえてこの第4番でなければならない特徴には欠けるように思われました。

小澤征爾&水戸室内管弦楽団のベートーヴェン、
第7番>《運命》>第4番
の順でお薦めです。

2016年10月3日月曜日

小澤征爾&シカゴ交響楽団のベートーヴェン:交響曲第5番《運命》(1968年録音)

小澤征爾(1935.9- )の指揮する
シカゴ交響楽団の演奏で、

ドイツの作曲家
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
(Ludwig van Beethoven, 1770.12.16-1827.3)
交響曲第5番《運命》 と、

オーストリアの作曲家
フランツ・シューベルト
(Franz Schubert, 1797.1-1828.11)
交響曲第7番《未完成》 を聴きました。


ベートーヴェン
①交響曲第5番 ハ短調 作品67《運命》
シューベルト
②交響曲第7番 ロ短調 D789《未完成》

小澤征爾(指揮)
シカゴ交響楽団
録音:1968年8月9日、シカゴ、オーケストラ・ホール
【SICC-1787】2015年4月発売

小澤氏79歳の時(2015.3)に録音された
水戸室内管弦楽団との《運命》を聴いて、
昔はどうだったのか気になりました。

遡ること47年、32歳の時(1968.8)に録音された
シカゴ交響楽団との《運命》が最近復刻されたので、
聴いてみることにしました。

その結果、
同一人物なので当然のことかもしれませんが、
基本的なスタイルは30代の時から変わっていないことを確認できました。

楽譜を変に深読みしないで、
正攻法で真っ正面から切り込んでいくスタイルは、

失敗すると、
味も素っ気もない空虚さと隣り合わせなので、
必ずしもそこにこだわる必要はないと思うのですが、

正攻法で攻めて、
しかも圧倒的な感動を与えられるのなら、
非難されるいわれはないでしょう。


新旧2つの録音とも、
基本的なスタイルは変わっていないのですが、
私にとって魅力的だったのは旧録音のほうでした。

解釈面で非の打ち所のないのは、
経験値が生かされている新録音のほうで、
旧録音ではごく僅かながら接続にぎこちなさを感じるところがありました。

それでも、
若い指揮者のもとに強い共感をもって演奏する
シカゴ交響楽団の分厚い響きが実に魅力的で、

あふれんばかりの若々しい情熱がそのまま再現されていて、
率直に心を動かされました。

大オーケストラの懐の深い響きと比べると、
室内オーケストラでは多少の聴き劣りがするのは仕方がないことかもしれません。

1968年録音の《運命》は、
今聴いても十分に感動できる正攻法の名演だと思います。


小澤氏の指揮による《運命》は、
この他にも

 1981年1月録音 ボストン交響楽団
 2000年9月録音 サイトウ・キネン・オーケストラ

の2つがあるので、今後機会があれば聴いてみたいと思います。

なお、
併録されている《未完成》は凡演でした。
《運命》と同じスタイルなのですが、

独特の歌心なしで、若さと情熱だけを武器に、
シューベルトに立ち向かうのは無理があるように感じました。