2017年7月17日月曜日

ブレンデルのシューベルト:ピアノ作品集その5(1971-74年録音)

チェコスロバキア共和国(現・チェコ共和国)
モラヴィア地方生まれのピアニスト、
アルフレード・ブレンデル
(Alfred Brendel, 1931年1月- )の演奏で、
40代前半の時(1971-74年)に録音した

オーストリアの作曲家
フランツ・シューベルト
(Franz Schubert, 1797年1月 - 1828年11月)の
ピアノ作品集の5枚目を聴きました。


シューベルト:ピアノ作品集
CD5
①-④ ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調 D960(1972年録音)
⑤-⑦ 3つのピアノ曲 D946(1975年録音)
⑧ 11のエコセーズ D781(1975年録音)
⑨ ハンガリー風メロディー ロ短調 D817(1975年録音)
⑩ アレグレット ハ短調 D915(1975年録音)

アルフレート・ブレンデル(ピアノ)
【Eloquence 480 1218】2008年発売

小品を中心に、
確かあと2枚残っていますが、
ようやく21番まで来ました。

小品も一緒に収録されていますが、
曲の完成度に応じて、
やはり第21番 D960 の演奏に、
一番感銘を受けました。

ブレンデルの演奏には、どちらかといえば、
無駄を省いた、切れ味の鋭い、しかし繊細でスマートな所があるので、
ベートーヴェンだと多少物足りなさが残ることも多いのですが、

シューベルトだと不思議に、
程良い塩梅で心に響いて来て、
強い説得力をもって聴こえて来るのです。

名曲なので、
他にも好演はたくさんあるのでしょうが、
個人的にはもしライブで聴けたら大満足なレベルの演奏でした。


小品はどれもほぼ初めて聴きました。

そのうち有名なのは
3つのピアノ曲 D946
ですが、聴いてみると、所々
深く胸に切り込んでくるフレーズが耳に残るものの、
それほどまとまりが良いようには思えない、
誰かがあとで寄せ集めた作品のように聴こえました。

少し調べてみると、
4曲からなる2つの即興曲集に続く、
3つ目の即興曲集を構想していたようで、

第1・2曲は一応まとまっているものの、
あと何回か推敲をへる必要がある段階の作品、
第3曲は最初のスケッチ段階の作品と推測されているようです。

ただし第1・2曲と
第3曲は自筆譜の紙質に違いがあるので、
そもそも関係ない曲を寄せ集めた可能性もあるそうです。

そういわれると、
確かに第3曲は軽めのあっさりした仕上がりで、
さほど胸を打つ作品には思えません。

しばらく聴き込んだ感想としては、
まだ謎なところの残る、評価に困る作品としておきます。

11のエコセーズ D781 は、
これだけだと何ということのない軽めの作品。

ハンガリー風メロディー ロ短調 D817
も同類の小品ですが、
ハンガリー風の独特なほの暗いメロディが
程良いアクセントになって、
コンサートのアンコールなどに合いそうな気がしました。

アレグレット ハ短調 D915
は、21番のソナタを除けば、
このCDのなかで一番まとまりのよい、
センスに溢れた小品でした。


2017年7月10日月曜日

横山幸雄のショパン:ピアノ独奏曲全集 その12(2011年録音)

横山幸雄(1971年2月-)氏による

ポーランド出身の作曲家
フレデリック・フランソワ・ショパン
(1810-1849)のピアノ独奏曲全集
12枚目を聴きました。


プレイエルによる
ショパン・ピアノ独奏曲全曲集〈12〉

◯3つのマズルカ 作品56
(1843年作曲、44年出版)
 ①第1番 ロ長調
 ②第2番 ハ長調
 ③第3番 ハ短調

◯3つのマズルカ 作品59
(1845年作曲、45年出版)
 ④第1番 イ短調
 ⑤第2番 変イ長調
 ⑥第3番 嬰ヘ短調

◯3つのマズルカ 作品63
(1846年作曲、47年出版)
 ⑦第1番 ロ短調
 ⑧第2番 ヘ短調
 ⑨第3番 嬰ハ短調

◯晩年の3つの最後のマズルカ
 ⑩イ短調 WN60(1846) op.posth.67-4
 ⑪ト短調 WN64(1848) op.posth.67-2
 ⑫ヘ短調 WN65(1849) op.posth.68-4

⑬ポロネーズ第7番 変イ長調 作品61《幻想ポロネーズ》
(1845-46年作曲、46年出版)

◯2つのノクターン 作品62
(1846年作曲、46年出版)
 ⑭第1番 ロ長調
 ⑮第2番 ホ長調

◯3つのワルツ 作品64
(1846-47年作曲、47年出版)
 ⑯第1番 変ニ長調《子犬のワルツ》
 ⑰第2番 嬰ハ短調
 ⑱第3番 変イ長調

⑲舟歌 嬰ヘ長調 作品60
(1845-46年作曲、46年出版)

横山幸雄(ピアノ)
使用楽器:プレイエル(1910年製)
録音:2011年10月17、18日
上野学園 石橋メモリアルホール
【KICC-924】※2011年11月発売


一度は全曲聴いておきたいと思っていた
ショパンのピアノ独奏曲の全集、
やっと最後まで辿り着きました。

12枚それぞれ別々のコンサートを聴くように
趣向を凝らしてあって、
習作レベルの作品もうまく織り交ぜて、
それぞれに飽きさせない内容に仕上がっていました。

正確無比なテクニックに支えられた
横山氏のショパンは、
楽譜を音楽的に再現した
バランス感覚に優れた繊細な演奏で、

それほど個性にあふれている訳ではないのですが、
聴き込むほどに味わいの増す
完成度の高い全集だと思いました。

初めて聴く分にも、
プレイエルのやさしい音色が耳に心地よく、
BGMとして最適なので、

コルトーのような、
個性あふれるショパンを好まれる場合は、
物足りなく思われるかもしれませんが、

とりあえず一度、
ショパンのピアノ独奏曲をすべて聴いてみたい方には、
第一に推せる全集だと思います。


全体的にみると、
ソナタや舟歌、幻想ポロネーズなど、
規模の大きめの作品になればなるほど
説得力を増していたのに対して、

ノクターンやワルツなど規模の小さな曲は、
悪くないのだけれども、ここからもう一捻り何か、
横山氏ならではの色合いが欲しいと感じました。

そうした中でも、
マズルカとは相性が良いのか、
リズムを強調しない、楽譜を純粋に、
音楽的に再現するタイプの演奏であるにもかかわらず、
不思議と心に残る味わい深さがありました。


横山氏のピアノ演奏、
40代はじめのこの録音をさかいに、
よりいっそう深みを増してきたように思います。

可能ならばもう一度、50代を過ぎたあたりで、
ここからもう一弾スケールアップしたショパンを聴きたいです。

2017年7月3日月曜日

インバル&フランクフルト放送響のマーラー:交響曲第3番(1985年録音)

イスラエルの指揮者
エリアフ・インバル(Eliahu Inbal, 1936年2月- )の指揮する

ドイツのオーケストラ
フランクフルト放送交響楽団
(2005年にhr交響楽団に改称)の演奏で、

オーストリア帝国の作曲家
グスタフ・マーラー(1860.7-1911.5)の
交響曲第3番を聴きました。

指揮者49歳の時(1985年4月)の録音です


グスタフ・マーラー
交響曲第3番

エリアフ・インバル指揮
フランクフルト放送交響楽団

録音:1985年4月18・19日、フランクフルト、アルテ・オーバー
【COCO-73278/9】2012年6月発売。

交響曲第3番は、マーラーが35歳の時、
1895年の夏から翌年8月にかけて作曲されました

全6楽章からなる大曲のためか全曲初演が遅れ、
つぎの第4番が初演(1901年11月)されてから半年後、
マーラー41歳の時(1902年6月)にようやく全曲初演されました


  ***

音の良さに驚いた[Blu-spec CD]によるインバルのマーラー、
6・7番からそのまま8番に進んでも良かったのですが、

夏の暑い盛りには第3番だと思い、
第4番から一曲遡ってみることにしました。

第3番は、マーラーを聴き始めたころに、
小林研一郎氏の指揮で繰り返し聴いたこともあって、
マーラーの交響曲の中でも特に好きな曲になっています。

CDをいろいろ聴いてみると、
巨大過ぎてまとめにくい所があるのか、
意外に聴きづらい演奏が多く、

6・7番が素晴らしかったバーンスタインも、
第3番は細部にこだわり過ぎたのか、
今一つ自然な流れを欠いていて、新旧ともに、
最後まで聴き通すのが辛い演奏になっていました。


  ***

インバルのマラ3は、
かなり前にN響を振ったときのライブを、
テレビで観たときの記憶が残っています。

 ※調べてみると、
  1993年12月9・10日にNHKホールで行われた
  NHK交響楽団第128回定期演奏会だったようです。

そのときも熱演だったのですが、
オケの響きにやや深みを欠いていて、
マラ3の骨格のみを聴いたような印象が残りました。

今回もそんな即物的な演奏になるのでは
と心配していたのですが、

実際に聴いてみると、
そんな心配を吹き飛ばす好演で、
マーラーの色彩豊かなオケの響きを楽しみながら、
飽きる間もなく全曲を聴き進めることができました。

自然な流れのなかに、指揮者の熱い心を感じさせる
バランス感覚に優れた演奏に仕上がっていました。

前例のない巨大な曲だったからか、
意外にまとめにくいところがあって、

CDで聴くと、
ピアニッシモで音量をしぼりすぎたり、
テンポを遅くしすぎて全体が間延びしてしまうことが多いのですが、

そんな愚を犯すこともなく、
マラ3本来の良さを存分に引き出した名演だと思いました。