2017年11月26日日曜日

インバル&フランクフルト放送響のマーラー:交響曲《大地の歌》(1988年録音)

イスラエルの指揮者
エリアフ・インバル(Eliahu Inbal, 1936年2月- )の指揮する

ドイツのオーケストラ
フランクフルト放送交響楽団
(2005年にhr交響楽団に改称)の演奏で、

オーストリア帝国の作曲家
グスタフ・マーラー(1860.7-1911.5)の
交響曲《大地の歌》を聴きました。

指揮者52歳の時(1988年3月)の録音です


グスタフ・マーラー
交響曲《大地の歌》

 エリアフ・インバル(指揮)
 フランクフルト放送交響楽団
 ペーター・シュライアー(テノール)
 ヤルド・ヴァン・ネス(メゾ・ソプラノ)

録音:1988年3月24・25日、フランクフルト、アルテ・オーバー
【COCO-73285】2012年6月発売。

交響曲《大地の歌》は
1907年から8年にかけて、
マーラーが47-8歳のときに作曲されました

初演は、
マーラーが1911年5月に亡くなった後、
同年11月20日に、作曲者から託された
ブルーノ・ワルターによって初演されました。

  ***

音の良さに驚いた[Blu-spec CD]によるインバルのマーラー、
第8番に続いて《大地の歌》を聴きました。

こちらは2002年6月に発売された
普通のCDのほうも持っていたので、

今回聴き比べてみると、声楽の場合、
オーケストラほど大きな違いはなく、
普通のCDでも十分美しく録れていました。

ちゃんと聴けば、
[Blu-spec CD]のほうが明らかに、
空間が広がって、耳にやわらかく、
いい音で聴こえてくるのですが、

声楽曲の場合は、
改めて買い直すほどの
大きな差はないかもしれません。


 ***

《大地の歌》は、
ウィーン・フィルと抜群に相性のよい曲ですが、

例外的に聴けるのが、
このインバル&フランクフルト放送響による演奏です。

ペーター・シュライアー(テノール)と
ヤルド・ヴァン・ネス(メゾ・ソプラノ)の独唱も、

耳ざわりなところのない
瑞々しい感性に彩られた歌唱で、
聴きやすく、繰り返し聴くのに適した名演だと思います。

インバルの指揮は、
ワルターやバーンスタインと比べるなら、
多少落ち着いた印象がありますが、

さらに他の演奏と聴き比べるなら、
曲の真価を感興豊かに再現していて、
決して冷静ではありません。

それほどいろいろ聴いているわけではないので、
ほかにも名演はあるはずですが、

最初の1枚として聴き込むのに
適していた名演の1枚であることは間違いありません。



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2017年11月19日日曜日

シュトゥットガルト・ソロイスツのブラームス:弦楽六重奏曲第1・2番(1989年録音)

ドイツの都市
シュトゥットガルトに本拠地を置く
シュトゥットガルト放送交響楽団と、
シュトゥットガルト室内管弦楽団のトップメンバー
6名によって1970年に結成された弦楽六重奏団

シュトゥットガルト・ソロイスツ
(Stuttgart Soloists)の演奏で、

ドイツの作曲家
ヨハネス・ブラームス
(Johannes Brahms, 1833年5月~97年4月)の
弦楽六重奏曲第1&2番を聴きました。


ブラームス
①弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 作品18
②弦楽六重奏曲第2番 ト長調 作品36

シュトゥットガルト・ソロイスツ

録音:1989年11月。ハイデルベルク、ゲースト録音スタジオ。
【NAXOS 8.550436】1991年発売


シュトゥットガルト・ソロイツ
(Stuttgart Soloists)は、

ドイツ語読みでは
シュツットガルト・ゾリステン
(Stuttgarter Solisten)と記されています。

この録音当時(1989年)のメンバーは、
 アルベルト・ブェーゼン
 (Albert Bossen)…第1ヴァイオリン
 ホルスト・ノイマン
 (Horst Neumann)…第2ヴァイオリン
 エンリケ・サンティアゴ
 (Enrique Santiago)…第1ヴィオラ
 ミヒャエル・マイヤー・ラインハルト
 (Michael Meyer-Reinhard)…第2ヴィオラ
 ルドルフ・グライスナー
 (Rudolf Gleissner)…第1チェロ
 ゴットフリート・ハーン
 (Gottfried Hahn)…第2チェロ
の6名です。


  ***

①弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 作品18 は、
ブラームスが27歳の時(1860年)に作曲し、翌年に出版された作品。

②弦楽六重奏曲第2番 ト長調 作品36 は、
ブラームスが32歳(1865年7月)までに作曲し、翌年に出版された作品です。

ブラームスに限らず、
室内楽は聴く機会があまりないので、
知らないまま放ってある曲がたくさんあります。

四十半ばに差し掛かり、
ようやくブラームスの渋い音楽が、
胸に染みるようになってきました。

ブラームスの弦楽六重奏曲は、
これまで今一つよくわからない印象があったのですが、

シュトゥットガルト・ソロイツの演奏は、

もってまわったところのない、
わりとストレートな解釈で、
情熱的にどんどん歌い上げていくので、

曲全体の幸三を見通しやすく、
初めてどんな曲なのかわかった気になりました。

響きが少々荒っぽくも聴こえるのですが、
うるさくなる一歩手前で止まっているので、
若々しく溌剌とした演奏といって良いと思います。

これまでブラームスの弦楽六重奏曲は、

アマデウス四重奏団
セシル・アロノヴィツ(ヴィオラ)、
ウィリアム・ブリース(チェロ)を加えた演奏と、

コチアン四重奏団
スメタナ四重奏団のメンバーを加えた演奏を聴いてきましたが、

アマデウス四重奏団のほうは、
細部にこだわりすぎているのか、
全体が見通しにくく、
どんな曲なのか今一つよくわからないまま終わりました。

コチアン四重奏団のほうは、
全体的におっとりした雰囲気で、
穏やかな時間が流れていき、
退屈な曲に思えてしまいました。

どんな曲なのかわかってみると、
印象が変わってくる可能性もあるので、
また時間があるときに、これらのCDも聴き直してみようと思います。

とくにアマデウスは、
名演の誉れ高い録音なので、
今後聴き込んでくると、
評価が逆転するかもしれません。



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2017年11月12日日曜日

愛知県美術館の「開館25周年記念 長沢芦雪展」

去る11月3日(金)、
名古屋市東区にある愛知県美術館まで、

「開館25周年記念
 長沢芦雪展
 京のエンターテイナー」

を観に行って来ました。

「会期:平成29年10月 6日(金)
       ~11月19日(日)
 会場:愛知県美術館
 主催:愛知県美術館、中日新聞社、日本経済新聞社、テレビ愛知」

図録のあいさつをみると、

「江戸時代半ば、十八世紀の京都では、
 経済力を蓄え美意識を高めた町人たちに支えられて、

 池大雅や与謝蕪村、円山応挙
 伊藤若冲、曾我蕭白といった画家たちが活躍し、
 百花繚乱の相を呈していました。」

という書き出しで(※改行はブログ編者による)

2013年に愛知県美術館で、
「円山応挙展―江戸時代絵画 真の実力者」
を開催したことを踏まえて、

これに続く企画として、
応挙の弟子である長澤芦雪(ながさわろせつ)
取り上げられたそうです。

長澤芦雪(1754-1799)は
 応挙の門下で若くして高い画力を身につけ、
 さらに大胆奇妙な発想によって個性を発揮しました。

 芦雪は人を驚かせ楽しませようとするサービス精神に富み、
 今日では若冲や蕭白と並んで「奇想」の画家と称されて」

いるそうです(※改行はブログ編者による)

全体の構成
 第1章 氷中の魚:応挙門下に龍の片鱗を現す
 第2章 大海を得た魚:南紀で筆を揮う
 第3章 芦雪の気質と奇質
 第4章 充実と円熟:寛政前・中期
 第5章 画境の深化:寛政後期
にしたがって、
それぞれ個人的に感銘を受けた作品を整理しておきます。


  ***

第1章 氷中の魚:応挙門下に龍の片鱗を現す
からは、

13「花鳥図」1幅
 ※天明前期(1781-85)頃

14「躑躅群雀図」1幅
 ※天明年間(1781-89)

の精緻さと素朴さが同居する
温かみのある作品に感銘を受けました。

あと少し奇抜さに流れてはいるものの、

19「牛図」1幅
 ※天明6年(1786)以前または寛政前期

の力感あふれる黒牛も心に残りました。


なお、興味深かったのは
応挙と芦雪の同じテーマの作品を並べて展示してあったことです。

8「牡丹孔雀図」1幅〔円山応挙作〕
 ※安永3年(1774)

9「牡丹孔雀図」1幅
 ※天明前期(1781-85)頃

9だけを観たらそれで十分に美しいのですが、
ほぼ同じ構図の8を並べられると、
師匠である応挙のほうが、
作品から強い緊張感が伝わって来て、
応挙の画家としての技量の確かさを感じさせていました。

同じことは

33「双鹿図屏風」2曲1双〔円山応挙作〕
 ※天明3年(1783)
34「双鹿図」1幅
 ※寛政4年(1792)頃

37「狗之子図」1幅〔円山応挙作〕
 ※安永年間(1772-81)
36「狗児図」1幅
 ※寛政前期(1789-93)
38「薔薇蝶狗子図」
 ※寛政後期(1794-99)頃

でも言えていて、
芦雪の絵だけをみれば、
それでまずまず満足できるのですが、

応挙と比べてしまうと、
芦雪にはどこか散漫な印象があって、
どうもぴりっとしない、
弛緩したところのある作品のように感じました。


第2章 大海を得た魚:南紀で筆を揮う
は、

この展示の目玉でもある
無量寺の襖絵に感銘を受けました。

21「龍図襖」6面
22「虎図襖」6面
23「薔薇に鶏・猫襖」8面
24「唐子遊図襖」8面
 ※天明6年(1786)

圧倒的なのは
21・22の龍虎図ですが、
両脇を包むように配置される
23・24と合わせて観ると、
より感慨深いものがありました。

 ただ23・24はこれだけ取り上げられるなら、
 そこまで強い印象は残らなかったかもしれません。

21-24に匹敵するのが
高山寺の2点、

31「寒山拾得図」1幅
32「朝顔に蛙図襖」6面
 ※天明7年(1787)

で、特に31から受ける大迫力は、
21・22をしのいでいるようにすら思えました。

32もバランス感覚に優れた見事な作品ですが、
感動にはあと一歩足りないように感じました。


第3章 芦雪の気質と奇質
では、

35「酔虎図」1幅
 ※天明7年(1787)

の猫っぽい少しいい加減な感じの虎に愛着がわきました。
感動とは違いますが、憎めない好きな絵でした。


さてこの後、
第4章 充実と円熟:寛政前・中期
第5章 画境の深化:寛政後期
と続くのですが、

個人的にはどうしても、あと一歩、
絵から受ける印象に緊張感を欠き、
深い感銘を受けるには至りませんでした。

「充実」「円熟」「深化」とはありますが、
私には中だるみの弛緩した印象を受けました。

芸術家としてはまだこれからといえる
45歳で亡くなっているので、
大成する時間的な猶予がなかったのかもしれません。

今回の展示で、
芦雪の二、三十代の作品の中に、
飛び切り優れたものがあることを発見できました。



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2017年11月5日日曜日

バローグ&ダニュビウス四重奏団のブラームス:クラリネット五重奏曲(1991年録音)

NAXOSの旧録音を
AVEXから廉価で再販しているシリーズから、

ヨハネス・ブラームス
(Johannes Brahms, 1833年5月-1897年4月)の
クラリネット五重奏曲 作品115
を聴きました。


ヨハネス・ブラームス
①クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115

 ヨージェフ・バローグ(クラリネット)
 ダニュビウス四重奏団
 録音:1991年10月16-18日、ブラペスト、ユニタリアン教会

②弦楽六重奏曲 第1番 変ロ長調 作品18
 ~第2楽章 主題と変奏

 シュトゥットガルト弦楽六重奏団
 録音:1989年11月、ハイデルベルク、ゲースト録音スタジオ
【AVCL-25682】2007年12月発売


①クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115 は、
ブラームスが58歳の時(1891年11・12月)に初演された作品です。

ハンガリー生まれのクラリネット奏者
ヨージェフ・バローグ(József Balogh, 1956年- )と、

1983年にハンガリーで結成された
ダニュビウス四重奏団(Danubius Quartet)による演奏です。

モーツァルトの時の好調さを持続して、
曲の良さを実感できる演奏に仕上がっていました。

ごく自然な音響で、美しく楽譜を再現してあり、
個性を前に押し出すようなところがないので、

あとほんの少し、
押しの強さがほしくなる場面もなくはないのですが、

無理に個性を出して、
曲を壊してしまうこともないので、
安心してブラームスの魅力にひたることできます。

探せばより良い演奏も見つかるのでしょうが、
個人的には、これくらい聴けたら十分満足です。


なお、CDの後半には、
シュトゥットガルト弦楽六重奏団の演奏で、
②弦楽六重奏曲第1番から第2楽章を収録してありますが、

こちらは①と演奏者が異なるためか、
演奏の方向性が全く違っていて、

適度に意志の力が加わった積極性のある演奏で、
①の穏やかな雰囲気を打ち消して、
②の印象だけが強く残る結果になっていました。

①の余韻を楽しむには、
②は聴かないほうが良いのですが、
こちらはこちらで強く記憶に残る演奏でしたので、
NAXOSの原盤にさかのぼって全曲を聴いてみようと思います。



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