2018年6月18日月曜日

ヘルビヒ&ベルリン響のブラームス交響曲第1番(1978年録音)

チェコスロヴァキア出身の指揮者
ギュンター・ヘルビヒ
(Günther Herbig, 1931年11月- )の指揮する

1952年に東ドイツで設立されたオーケストラ
ベルリン交響楽団
(Berliner Sinfonie-Orchester)の演奏で、

ドイツの作曲家
ヨハネス・ブラームス
(Johannes Brahms, 1833年5月7日-1897年4月3日)
交響曲第1番(①)悲劇的序曲(②)を聴きました。

指揮者46歳の時に
(①1978年1月/②77年11月・78年5月)
録音されました。

 ※ベルリン交響楽団
  (Berliner Sinfonie-Orchester)
  は、2006年から、
  ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団
  (Konzerthausorchester Berlin)
  と改称されています。


CD1
ブラームス:
①交響曲第1番ハ短調 Op.68
②悲劇的序曲 Op.81

ベルリン交響楽団
ギュンター・ヘルビヒ(指揮)

録音:1978年1月(①)、77年11月・78年5月(②)、キリスト教会、ベルリン。
【Berlin Classics 885470009117】2017年3月発売


交響曲第1番ハ短調 Op.68 は、
ブラームスが43歳の時(1876年11月4日)に初演された作品、

悲劇的序曲 Op.81 は、
47歳の時(1880年12月26日)に初演された作品です。


  ***

ヘルビヒ&ベルリン響のブラームスは、
名前のみ知って、今まで聴いて来なかった録音です。

最近廉価で手に入ったので、
聴いてみることにしました。

実際聴いてみると、
思っていたよりも弦が前に出て来ない、
かゆいところに手が届かないような、
もどかしい感じの録音だったので、

意外な気がして
しばらく時間を置いてからもう一度聴いてみました。

するとやはり、ふつうに聴くよりも
弦が前に出ない印象は残るのですが、

録音に不備があるわけではなく、

ベルリン交響楽団に独特な、
弦のくすんだ響きを反映して、

ブラームスにもってこいの、
渋めの美しい味わいを醸し出していることがわかりました。

ヘルビヒの指揮が、
下手な個性を主張しようとしない、
ひたすらブラームスの楽譜に忠実にあることに
主眼を置いたものなので、

全体として、どこかのパートが際立つこともなく、
よくブレンドされた美しいオケの音を聴かせてくれていました。

一聴して心を鷲掴みにするような、
派手な演奏ではないので、初めて聴く分には
物足りなく思うことがあるかもしれませんが、

聴き込むほどに味わいの増す、
大人なブラームスだと思いました。

ハンス・シュミット=イッセルシュミット
&ウィーン・フィルのベートーヴェン:
交響曲全集に似た印象と言えるでしょうか。

威圧感のないブラ1というのも、
聴きやすく、良いものだと思いました。


最後に収録されている《悲劇的序曲》は、
大見得を切るところがあって苦手な曲なのですが、
この録音は、嫌味なところがなく、
ほぼ初めて、最後まで興味深く聴き通すことができました。





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2018年6月17日日曜日

スロヴァーク&スロヴァキア・フィルのショスタコーヴィチ:交響曲第2・15番(1986・90年録音)

スロヴァキアの指揮者
ラディスラフ・スロヴァーク
(Ladislav Slovak, 1909年9月-99年7月)の指揮する

チェコ・スロヴァキア放送交響楽団
(Czecho-Sloval Radio Symphony Orchestra)の演奏で、

ロシア帝国最後の皇帝
ニコライ2世の治世下に生まれ、
ソビエト連邦の時代に活躍した作曲家
ドミトリー・ショスタコーヴィチ
(Dmitrii Shostakovich, 1906年9月-75年8月)の
交響曲第2番《十月革命に捧ぐ》第15番を聴きました。

指揮者80歳(①)・79歳(②)の時の録音です

 ※スロヴァキア放送交響楽団は、この録音当時、
  「チェコ・スロヴァキア放送交響楽団」と呼ばれていましたが、

  1993年にチェコ・スロヴァキア連邦共和国が、
  チェコ共和国とスロヴァキア共和国に分離したため、
  「スロヴァキア放送交響楽団」と呼ばれるようになりました。

  首都プラティスラヴァの名をはさんで、
  「スロヴァキア放送プラティスラヴァ交響楽団」と呼ぶこともあります。


ショスタコーヴィチ
①交響曲第2番 ロ短調《十月革命に捧ぐ》作品14
②交響曲第15番 イ長調 作品141

ラディスラフ・スロヴァーク(指揮)
スロヴァキア放送交響楽団

録音:1990年1月8-10日(①)、1989年2月5-12日(②)、スロヴァキア放送コンサートホール、プラティスラヴァ
【NAXOS 8.550624】1994年2月

第2番は1・3番と合わせて解説します。

交響曲第1番ヘ短調作品10 は、
レニングラード音楽院 作曲科の卒業作品として作曲され、
ショスタコーヴィチが19歳の時(1926年5月)に初演されました

第1番は初演と同時に大きな成功を収め、
作曲家の名を世界に知らしめるきっかけになりましたが、
第1番の作風をそのまま発展させることはなく、

第2・3番でガラリと作風を変え、
当時の前衛的な作曲技法を盛り込んだ、
政治的な色合いの濃い歌詞を用いた
声楽入りの1楽章からなる「交響曲」を作曲しました。

交響曲第2番ロ短調《十月革命に捧ぐ》作品14 は、
作曲者が21歳のときに作曲、初演(1927年11月)された作品

交響曲第3番変ホ長調《メーデー》作品20 は、
作曲者が23歳のときに作曲、初演(1930年1月)された作品です。


それから40年余りをへ、
亡くなる4年前に最後の交響曲が作曲されました。

交響曲第15番 イ長調 作品141 は、
作曲者64歳の時(1971年6・7月)に作曲され、
65歳の時(72年1月)に初演された作品です。

第12番以来の声楽を用いない交響曲であり、
ショスタコーヴィチの最後の交響曲となりました。

※以上、おもに千葉潤著『作曲家◎人と作品シリーズ ショスタコーヴィチ』(音楽之友社、2005年4月)を参照。

  ***

第1・3番を収めた1枚目につづくCD。
期待を裏切らない充実した内容でした。

第2番は、3番と同じく前衛的な作風で、
以前、バルシャイ&ケルン放送響による
演奏(CD)を聴いたときには、
何が良いのかさっぱりわかりませんでした。

しかしこのCDでは、
指揮者スロヴァークの深い楽譜の読みが利いて、
ただの不協和音の連続に聴こえた音楽が、
有機的に心地良くつながり、
最後まで興味深く聴き進めることができました。

やはり全体として
習作的な色合いの濃い作品ですが、

若きショスタコーヴィチによる
創意工夫の跡がわかる
佳曲であることがわかりました。


第15番は、名曲っぽいたたずまいに、
期待して聴いてみるとそこまで心を揺さぶられない、
今一つの演奏に

最近聴いたザンデリングインバル
ゲルギエフのCDは、きれいに整っているのですが、
曲の内容が上滑りしていくようで、
個人的にはあまりピンと来ませんでした。

バルシャイのCDは未聴。

今回のスロヴァーク&スロヴァキア・フィルの演奏は
技術的にそれほど上手いオケではないのですが、
指揮者の読み、曲への共感度が高いからか、
自らが作曲したかのように全体が有機的につながって、
最後まで集中して聴き進めることができました。

曲の内実に迫る演奏として、
満足のいく1枚となりました。





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2018年6月11日月曜日

名古屋ボストン美術館の「ボストン美術館の至宝展」

去る6月3日(日)に、
名古屋市中区金山にある名古屋ボストン美術館まで、

「ボストン美術館の至宝展
  東西の名品、珠玉のコレクション」

を観に行って来ました。

名古屋会場は、
2018年2月18日(日)から7月1日(日)まで
主催は名古屋ボストン美術館、ボストン美術館、朝日新聞社となっていました。

 秋の閉館をひかえての展示のはずですが、
 名古屋に来る前に、

 2017年7月20日~10月9日 東京都美術館
 10月28日~2018年2月4日 神戸市立美術館

 の2箇所でも開催されていました。


図録の「あいさつ」には、

ボストン美術館は1870年に設立され、
 1876年7月4日に開館しました。
 (中略)

 ここに紹介するのは、
 同館がハーバード大学と
 共同発掘調査を行った古代エジプトの出土品
 北宋・南宋絵画の名品がそろう中国美術
 アーネスト・フランシスコ・フェノロサや
 ウィリアム・スタージス・ビゲローらが中心となって
 収集した日本美術
 ボストンの裕福な市民が寄贈した19世紀フランス絵画のほか、
 アメリカ絵画、版画・写真、現代美術の分野から選びぬいた
 計80点です。」

とありました(※改行はブログ編者による)。全体の構成は、

 Ⅰ 異国を旅したボストニアンたち
   1 古代エジプト美術
   2 中国美術
   3 日本美術
 Ⅱ 「グランド・ツアー」
    ― ヨーロッパ美術を集めたボストニアンたち
   4 フランス絵画
 Ⅲ アメリカン・ドリーム
    ― 時刻の美術を収集するボストニアンたち
   5 アメリカ絵画
 Ⅳ 同時代の美術へ ―未来に向かう美術館
   6 版画・写真
   7 現代美術

となっていました。


  ***

さすがボストン美術館。

強く印象に残る作品が多数展示されていて、
心に残る、内容の濃い時間を過ごすことができました。

個人的に強く心に残った作品を挙げておきます。

2 中国美術

17 陳容
「九龍図巻」
 南宋、淳祐4年(1244)
 1巻、紙本墨画淡彩

中国絵画の良品をみる機会がほとんどなかったので、
これまで気が付かなかったのですが、
日本の水墨画とは次元が異なるレベルの高さを実感できました。

これ1点でどうこういうわけには行きませんが、
このレベルの作品がたくさん観られるのであれば、
中国の絵画も忘れてはいけないなと認識を新たにしました。

特筆すべきはその保存状態で、
13世紀の絵画がここまでの鮮度で見られるとは驚異的でした。


3 日本美術

23 英一蝶
「涅槃図」
 正徳3年(1713)
 1幅、紙本着色

30-31 与謝蕪村
「柳堤渡水・丘辺行楽図屏風」
 江戸時代、18世紀
 6曲1双、紙本墨画淡彩

中国絵画の鮮烈な印象のあとだと、
中国の焼き直し的な日本の絵画は、
どうしても影が薄くなってしまいますが、

そうした中で、
英一蝶(はなぶさいっちょう, 1652-1724)
という画家の個性に気がつけたのは収穫でした。

細部のつめが今一つな印象で、
強烈な印象を残すところまでは至っていないのですが、

全体的な構図のバランスが絶妙で、
かなり良い印象を受けました。
ほかの作品も見てみたいです。


4 フランス絵画

今回、一番深く印象に残ったのは、
モネの良い作品を4点見られたことです。

方向性の違う4種類の絵が、
それぞれに高い完成度で魅力を放っており、
強く感銘を受けました。

良いもののみ厳選されていたからか、
或いは展示の仕方などに理由があったからか、

名古屋市立美術館でみた時に感じた
若干凡庸な印象が吹き飛びました。

今回展示されていた
すべての作品のなかで、
モネの4点が一番印象深かったです。

41 クロード・モネ
(Claude MOnet, 1840-1926)
「くぼ地のヒナゲシ畑、ジヴェルニー近郊」
 1885年。油彩、カンヴァス

42 クロード・モネ
「ルーアン大聖堂、正面」
 1894年。油彩、カンヴァス

44 クロード・モネ
「睡蓮」
 1905年。油彩、カンヴァス

43 クロード・モネ
「アンティーブ、午後の効果」
 1888年。油彩、カンヴァス


  ***

その他、
コローの絵画が1点。

コローは
仄暗い印象を受けるものが多いのですが、
これは全体的に明るく透明な色調で、
新たな魅力を感じることができました。

37 ジャン=バティスト=カミーユ・コロー
「ボーヴェ近郊の朝」
 1855-65年頃
 油彩、カンヴァス


  ***

もう一人、個人的に好きな
シスレーの作品が2点見られました。

この画家のベストとは言えないものの、
珍しい静物画を見ることができたので、
シスレーの画風を知る上で、
良い機会になりました。

39 アルフレッド・シスレー
「サン=マメスのラ・クロワ=ブランシュ」
 1884年。油彩、カンヴァス

49 アルフレッド・シスレー
「卓上のブドウとクルミ」
 1876年。油彩、カンヴァス


その他、
全体として見せ方のうまい、
深く印象に残る展示でした。

ただ1箇所の美術館の収蔵品だけで、
ここまでの内容を見せられるのは、
他ではなかなか敵わないことだろうと思いました。



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