ハンガリーのピアニスト
イエネ・ヤンドー(1952 - )さんの
ハイドン:ピアノ・ソナタ全集、
3枚目は、
ウィーン原典版の通し番号で、
第19・17・28番のソナタ3曲等を聴きました。
フランツ・ヨセフ・ハイドン(1732 - 1809)
1) ピアノ・ソナタ 第19番 ホ短調 Hob.XVI:47bis
2) ピアノ・ソナタ 第17番 変ホ長調 Hob.deest
3) ピアノ・ソナタ 第28番 ニ長調 Hob.XVI:5bis
4) アリエッタと12の変奏曲 イ長調 Hob.XVⅡ:2
5) アレグレット ト長調 Hob.Ⅲ:41(IV)
6) アダージョ ト長調 Hob.XV:22(II)
7) アレグレット ト長調 Hob.XVⅡ:10
8) アダージョ ヘ長調 Hob.XVⅡ:9
9) ファンタジア(カプリッチョ)ハ長調 Hob.XVⅡ:4
イエネ・ヤンドー(ピアノ)
録音:1996年4月、ブダベスト、ユニテリアン教会
【Naxos 8.553826】
1) ピアノ・ソナタ 第19番 ホ短調 Hob.XVI:47bis
bis とはくり返しの意で、これは
Hob.XVI:47(第57番 ヘ長調) の異稿ということになります。
第19番 ホ短調 Hob.XVI:47bis は
第1楽章 Adagio
第2楽章 Allegro
第3楽章 Finale:Tempo di Menuet
第57番 ヘ長調 Hob.XVI:47 は
第1楽章 Moderato
第2楽章 Larghetto
第3楽章 Allegro
という構成で、
第19番の第1・2楽章と、
第57番の第2・3楽章が、
調性を除いてほぼ同じ内容となっています。
第19番は美しいアダージョ(第1楽章)の印象的な出だしではじまるのですが、
フィナーレのようなアレグロ(第2楽章)のあとで、
メヌエットがフィナーレとして置かれているのは、
多少ちぐはぐな感じがしました。
美しいアダージョに目をつけて、
後年、急/緩/急に作り直したのかなとも思いましたが、
成立については諸説あるようですので、
第57番を聴くときに、改めて考えることにします。
曲の内容は、
第1楽章のアダージョが出色で、
第2・3楽章はなくてもいい位です。
2) ピアノ・ソナタ 第17番 変ホ長調 Hob.deest
Hob.deest とは、
ホーボーケンの目録から省かれている作品です。
Hob.XVI:Es2 と呼ばれることもあります。
Hob.XVI:Es3(第18番 変ホ長調)とともに、
1961年になってから発見された作品であり、
ウィーン原典版(ランドン校訂)
において第17・18番として採用されました(ヘンレ社原典版でも採用)。
しかしその後の研究によって、
改めてほかの作曲家の作品である可能性が想定されているそうです。
そう言われて聴きなおすと、
曲自体の魅力に多少欠けるところがあるようにも感じますが、
ハイドンの初期のソナタの一つとして聴けないこともなく、
音のみでは判断しにくいと思いました。
3) ピアノ・ソナタ 第28番 ニ長調 Hob.XVI:5bis
1961年に楽譜が発見された2楽章のソナタです。
第1楽章は前半を欠き、第2楽章のみ完備しています。
(CDには「第1楽章の断片」と「第2楽章 メヌエット」を収録。)
ハイドンには、もともと目録によって、
冒頭主題のみ知られる8曲の紛失したソナタがあり、
Hob.XVI:2a-2h
に分類されていました。
1961年になってこのうち1曲の楽譜が発見され、
(Hob.XVI:2f)→Hob.XVI:5bis
ウィーン原典版において第28番として整理されました。
※冒頭主題のみ伝わる Hob.XVI:2a~e,g,h も、
ウィーン原典版では 第21-27番 に整理されています。
なお番号 Hob.XVI:5bis とあるのは、
Hob.XVI:5(ピアノ・ソナタ第8番)の異稿ではなく、
Hob.XIV:5(ピアノと伴奏のためのディヴェルティメント)の異稿であることをさしています。
ピアノ四重奏曲への編曲版が存在しているようですが、
詳しくはよくわかりませんでした。
曲の内容は、
第1楽章は断片だけですが、
メヌエットへと続く序奏部として聴けないこともなく、
しばらく聴き込んでいると、
よく組み立てられたメヌエット楽章だと思えて来ました。
4) アリエッタと12の変奏曲 イ長調 Hob.XVⅡ:2
Hob.XVⅡ:2 には、主に3つの異稿が存在しているようです。
〔1〕20の変奏曲 ト長調
ハイドン自筆の草稿譜(1765年)
〔2〕アリエッタと12の変奏曲 イ長調
草稿譜の20年後(1789年)に出版された版。
アリエッタと12の変奏曲 変ホ長調 Hob.XVⅡ:3
と合わせて出版するために短くされたようです。
〔3〕20の変奏曲 イ長調
ト長調の草稿譜を書き上げたあと、
20の変奏曲のままでイ長調になおした決定稿があったはず、
との推測にもとづく版で、ヘンレ社原典版に収録。
このうち〔2〕がこのCDに収録されているわけです。
ウィーン原典版には〔1・2〕を収めているので、
〔1〕の版もヤンドーさんの演奏で、そのうち聴けると思います。
曲の内容は、
12変奏でもほどよい長さで、
もう1曲の Hob.XVⅡ:3 と一緒に取り上げたら、
コンサートのプログラムとして良い趣向だと感じました。
5) アレグレット ト長調 Hob.Ⅲ:41(Ⅳ)
Hob.Ⅲ:41 とは、
弦楽四重奏曲 第41番ト長調 作品33-5 のことで、
Hob.Ⅲ:41(Ⅳ) とは、
その第4楽章の編曲であることを示しています。
作品33 は、1781年(ハイドン49歳)に作曲された
弦楽四重奏曲集(全6曲)で「ロシア四重奏曲」と呼ばれています。
その第5番の第4楽章からの編曲ということになります。
原曲は未聴ですが、3分にも満たない曲で、
原曲を子ども向けにやさしく書きなおした感じがしました。
美しい小品ですが、特別な印象は残りませんでした。
6) アダージョ ト長調 Hob.XV:22(Ⅱ)
Hob.XV:22 とは、
ピアノ三重奏曲 第22番 変ホ長調 のことで、
Hob.XV:22(Ⅱ) とは、、
その第2楽章の編曲であることを示していますが、
もともとはピアノ(クラーヴィア)版のほうが先に出来ていたようです。
これはよくまとまっている5分弱の小品で、
とても印象に残りました。
7) アレグレット ト長調 Hob.XVⅡ:10
音楽時計用の作品群(Hob.XIX:1~32)中の、
Hob.XIX:27 の編曲だそうです。
2分ほどの小品ですが、
それなりに美しい曲なので、
子どもさんのピアノの発表会などで取り上げたら、
いい感じかもしれません。
8) アダージョ ヘ長調 Hob.XVⅡ:9
1786年出版の小品集に収録。
これもどちらかといえば、
子ども向けに書かれた感じの曲で、
深みに欠ける印象はありますが、
それなりに美しく、発表会などで取り上げるのには適していると思いました。
9) ファンタジア ハ長調 Hob.XVⅡ:4
元々「カプリッチョ(奇想曲)」と題されていたのが、
出版に際して「ファンタジア(幻想曲)」と変えられたそうです。
一気に駆け抜ける感じの曲なので、
ソナタの最終楽章を独立して演奏している感じです。
コンサートでこれだけ取り上げるのは
難しい気もしますが、それなりに楽しく、良く出来ている作品だと思います。
***
さて、ピアノ・ソナタ全集その2として聴いた一つ前のCDには、
第11番 変ロ長調 Hob.XVI:2
第12番 イ長調 Hob.XVI:12
第13番 ト長調 Hob.XVI:6
第14番 ハ長調 Hob.XVI:3
第15番 ホ長調 Hob.XVI:13
第16番 ニ長調 Hob.XVI:14
第18番 変ホ長調 Hob.deest
が収められていました。それに対して今回のCDには、
第17番 変ホ長調 Hob.deest
第19番 ホ短調 Hob.XVI:47bis
第28番 ニ長調 Hob.XVI:5bis
が収められていました。
第21番から第27番までは、
目録で主題が伝わるのみですので、
第28番までで残るのは、あと
第20番 変ロ長調 Op.53-3 Hob.XVI:18
1曲のみとなりました。これは次のCDに収録されているようです。
※Wikipediaの
「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」
「ハイドンのピアノソナタ一覧」
「ハイドンのピアノ曲一覧」
「ホーボーケン番号」の各項目を参照。
※ピティナ・ピアノ曲事典の「ハイドン」を参照。
※ハイドン研究室「クラヴィア・ソナタの部屋」を参照。
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