2016年1月25日月曜日

小澤征爾&トロント響のベルリオーズ:幻想交響曲(1966年)

小澤征爾(1935.9- )の指揮する

カナダのオーケストラ
トロント交響楽団の演奏で、

フランスの作曲家
エクトル・ベルリオーズ(1808.12.11-1869.3)の
幻想交響曲を聴きました。

小澤征爾31歳の時(1966.12)の録音です



 ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14

小澤征爾(指揮)
トロント交響楽団
録音:1966年12月1・3日、トロント、マッセイ・ホール
【SICC-1839】2015年5月発売

幻想交響曲は、
ベルリーズ21歳の時に作曲され、
22歳になる直前の1830年12月5日に初演された作品です

調べてみて、
かなり若い時期の作品であることにびっくりしました。

でも言われてみれば、
それほど深みのある作品でもないので、
腑に落ちるような気がしました。


  ***

若き日の小澤氏による
意外な名演に驚きました。

幻想交響曲は今まで
あまり得意な曲ではなかったのですが、

初めて違和感なく最後まで、
感動のうちに聴き終えることができました。

小澤氏らしく大きな踏み外しのない、
軽めの美しい演奏ではあるのですが、

のりのりのオーケストラとともに、

ところどころ楽譜からはみ出た
やんちゃな表現を聴かせていて、
とても新鮮な印象を受けました。

小澤氏の5、60代以降の
安定性重視の録音ばかり聴いて来たせいか、
31歳のこの録音は印象がまったく違っていて、
嬉しい驚きでした。


名演の誉れ高いミュンシュの録音は、
オケを自在にドライブし過ぎた印象で、
元はどんな曲だったのかわかりにくいように感じていました。

凄くはあるけれども、
元々こんな曲だったのかしらと。
初めて聴くにはあまり向かない演奏だと思いました。

幻想交響曲で一番聴き馴染んだのは
小林研一郎さんの演奏なのですが、

ハンガリー国立交響楽団、
チェコ・フィルのCD、
名フィルとの実演などで聴いた限りでは、

叙情性にあふれる共感度の高い演奏ではあるものの、
若きベルリオーズの狂気を感じるかといえば、

表現の幅がいたって常識的で、
勇み足のほとんどない所が多少物足りなく思っていました。


まだまだ聴いていない演奏が多いので、
より一層の名演も聴き逃しているとは思いますが、

若きベルリオーズがこの曲に込めた
初々しいまでの魅力を存分に引き出した演奏として、
十分にお薦めできる録音です。

小澤氏は、この後ボストン交響楽団と1回、
サイトウ・キネン・オーケストラと2回録音しているので、
そちらとも聴き比べてみようと思います。


※Wikipediaの「エクトル・ベルリオーズ」「幻想交響曲」の各項目を参照。

2016年1月18日月曜日

広上淳一&日本フィルのレスピーギ:ローマ三部作(1991年録音)

広上淳一(1958.5- )の指揮する
日本フィルハーモニー交響楽団の演奏で、

イタリアの作曲家
オットリーノ・レスピーギ(1879.7-1936.4)の
ローマ三部作を聴きました。

指揮者33歳の時(1991.9)に行われた
「日本フィル定期・正指揮者就任披露」のライブ録音です。


レスピーギ
1) 交響詩《ローマの松》
  第1曲 ボルゲーゼ荘の松
  第2曲 カタコンブ付近の松
  第3曲 ジャニコロの松
  第4曲 アッピア街道の松
2) 交響詩《ローマの噴水》
  第1曲 夜明けのジュリアの谷の噴水
  第2曲 朝のトリトンの噴水
  第3曲 昼のトレヴィの噴水
  第4曲 たそがれのメディチ荘の噴水
3) 交響詩《ローマの祭り》
  第1曲 チェルチェンセス
  第2曲 50年祭
  第3曲 10年祭
  第4曲 主顕祭

広上淳一指揮
日本フィルハーモニー交響楽団
録音:1991年9月12・13日、サントリー・ホール(東京)
【PCCL-00140】1992年1月発売

作曲順に整理しておきます。

交響詩《ローマの噴水》は、
レスピーギ37歳の時(1917.3)に初演されました

初演は不評でしたが、翌年(1918.2)行われた
トスカニーニによる再演が成功を収めたことにより、
世に知られるようになりました。

交響詩《ローマの松》は、
作曲者45歳の時(1924.12)に初演されました
アメリカ初演(1926.1)はトスカニーニによって行われました。

交響詩《ローマの祭り》は、
作曲者49歳の時(1929.2)トスカニーニによって初演されました


  ***

トスカニーニの後で、
聴き劣りするかなと思いましたが、
そんなことはなく、

広上氏の若き日の記録として、
今聴いても十分説得力のある名演でした。

ライブ録音である分、
トスカニーニの Blu-spec CD2 盤のように、
すべての楽器が分離よく聴こえてくるわけではないのですが、

コンサート・ホールで聴く
自然な響きに近い、耳に心地よい音に仕上がっていて、
ふつうに楽しめました。

彼本来の手に汗握る
激しいリズムでたたみかけてくる
強烈な表現も随所に聴かれて
十分個性的なのですが、

トスカニーニのように力でねじ伏せるところはなく、
音楽の流れがスムーズで、
繊細で叙情的な表現にも優れていて、
大きな感銘を受けました。

24年前に聴いた時は、
ローマ三部作のことをほとんど知らなかったので、
《ローマの祭》の第1・4楽章以外は大きな印象を受けなかったのですが、

トスカニーニ盤で曲の魅力がわかってから聴くと、
十分過ぎる名演であることがよく伝わってきました。

ただ一つ、
最新のエクストンなどで聴かれる鮮明な録音と比べれば、
細部の分離が今一つなところでしょうか。


  ***

広上氏の録音と比べるために、

小澤征爾(1935.9- )が42歳の時(1977.10)に
ボストン交響楽団と録音したCDを聴いてみました。


ボストン交響楽団
小澤征爾(指揮)
録音:1977年10月
【UCCG-5246】

他と比べなければ、
ふつうに楽しめる演奏だと思います。

金管が際立って上手いのですが、
トスカニーニと広上淳一を聴いた後だと、

録音の加減か弦が少し弱く聴こえ、
ただ音が鳴っているだけに感じられるところもありました。
ご参考までに。

2016年1月11日月曜日

小澤征爾&ボストン響のマーラー:交響曲第3番(1993年録音)

小澤征爾(1935.9- )氏の指揮する
ボストン交響楽団の演奏で、

オーストリア帝国出身の作曲家
グスタフ・マーラー(Gustav Mahler 1860.7-1911.5)
交響曲第3番を聴きました。

小澤氏57歳の時(1993.4)の録音です


マーラー:交響曲第3番ニ短調

ジェシー・ノーマン(ソプラノ)
タングルウッド祝祭合唱団(合唱指揮:ジョン・オリヴァー)
アメリカ少年合唱団(合唱指揮:ジェイムズ・リットン)
ボストン交響楽団
指揮:小澤征爾

録音:1993年4月22-27日、ボストン、シンフォニー・ホール(ライブ)
【UCCD-4785/6】2013年3月発売

小澤氏のマーラー、
20年ほど前に初めて聴いた
ボストン響との《巨人》(再録音)が
今一つの印象だったことから、
その後あまり注目しないで来ました。

いろいろな演奏を聴いた上で、
改めて小澤氏のマーラーを聴き直してみると、

無駄なところのない
誇張を排した純音楽的なマーラーで、
バーンスタインよりむしろインバルに似た
方向を目指しているように思われました。

初めて聴くと、
肩透かしを食ったような
軽めの印象を受けるかもしれませんが、

デフォルメの多い、
自己主張の固まりのようなマーラーに聴き飽きてくると、
意外に新鮮な印象を受けるように思いました。

この第3番は、
マーラー全集の最後にライブで収録したからか、

曲本来の美しさを誇張なく伝えるだけでなく、
オケの熱気も十分に伝わってきて、
想像以上に感動的な演奏が繰り広げられていました。

これが《大地の歌》や第9番だと、
深みに乏しい印象を受けたかもしれませんが、

第3番であれば、
これで十分満足のいく演奏、
ライブで聴けたら一生ものの記憶に残る演奏だと思いました。

私の好きな第1・6楽章だけでなく、
その間の楽章もていねいによく作り込まれていて、
2-5楽章の良さがうまく伝わってきました。

唯一気になったのは、CDを通すと
ボストン響の弦が多少金属的に響いてくることです。

シカゴ響などのアメリカのオケで
よく聴かれる響きのようにも思われるので、
個人的な好みの問題かもしれませんが、

ノイマン&チェコ・フィルの
木目調の弦を聴き慣れた耳には刺激的に響いて、
ほんの少し違和感がありました。


この録音、前に聴いた
 バーンスタイン&ニューヨーク・フィルの新旧録音、
 シャイー&ロイヤル・コンセルトヘボウ管、
 M・T・トーマス&ロンドン響、
 レヴァイン&シカゴ響
よりはお薦めの名演といってよいと思います。
個人的な見解をいえば、
 ①ノイマン&チェコ・フィルの新録音、
 ②サロネン&ロスアンジェルス・フィル、
 ③小澤征爾&ボストン響
の順になるでしょうか。


  ***

この機会に、
マーラー:交響曲全集
〔小澤征爾(1935.9- )指揮&ボストン交響楽団〕
の録音データを年代順に整理していました。

録音場所はすべて、
ボストンのシンフォニー・ホールです。

●42歳…1977年10月録音
◯交響曲第1番ニ長調《巨人》(花の章付き)

◆45歳…1980年10月13日-11月4日録音
◇交響曲第8番変ホ長調《千人の交響曲》

◆51歳…1986年12月13-15日録音
◇交響曲第2番ハ短調《復活》

◆52歳…1987年10月5・6日録音
◇交響曲第1番ニ長調《巨人》

◆52歳…1987年11月21・23・27日録音
◇交響曲第4番ト長調

◆53歳…1989年3月11-13日録音
◇交響曲第7番ホ短調《夜の歌》

◆54歳…1989年10月5-16日録音
◇交響曲第9番ニ長調

◆54歳…1990年4月19-23日録音
◇交響曲第10番嬰ヘ長調~第1楽章

◆55歳…1990年10月13-16日録音
◇交響曲第5番嬰ハ短調

◆56歳…1992年1月30日-2月4日録音
◇交響曲第6番イ短調《悲劇的》

◆57歳…1993年4月22-27日録音
◇交響曲第3番二短調


小澤氏のスタイルには
それほど共鳴しないので、
全曲聴き直すかはわかりませんが、

《復活》と《千人の交響曲》は手元にあったはずなので、
改めて聴き直そうと思っています。

2016年1月4日月曜日

トスカニーニ&NBC響のレスピーギ:ローマ三部作(1949・51・53年録音)

イタリア出身の指揮者
アルトゥーロ・トスカニーニ
(Arturo Toscanini 1867.3.25-1957.1)の指揮する

アメリカのオーケストラ
NBC交響楽団
(The NBC Symphony Orchestra 1937-1954)の演奏で、

イタリアの作曲家
オットリーノ・レスピーギ
(Ottorino Respighi 1879.7-1836.4)の
ローマ三部作を聴きました。

指揮者
82歳(1949.12)84歳(1951.12)
85歳(1953.3.13)の時の録音です


レスピーギ
1) 交響詩《ローマの松》
  第1曲 ボルゲーゼ荘の松
  第2曲 カタコンブ付近の松
  第3曲 ジャニコロの松
  第4曲 アッピア街道の松
2) 交響詩《ローマの噴水》
  第1曲 夜明けのジュリアの谷の噴水
  第2曲 朝のトリトンの噴水
  第3曲 昼のトレヴィの噴水
  第4曲 たそがれのメディチ荘の噴水
3) 交響詩《ローマの祭り》
  第1曲 チェルチェンセス
  第2曲 50年祭
  第3曲 10年祭
  第4曲 主顕祭

アルトゥーロ・トスカニーニ指揮
NBC交響楽団
録音:1953年3月13日(1)、1951年12月17日(2)、1949年12月12日(3)、カーネギー・ホール、ニューヨーク
【SICC-30029】2012年12月発売

作曲順に説明します。

交響詩《ローマの噴水》は、
レスピーギ37歳の時(1917.3)に初演された作品です。

初演は不評でしたが、翌年(1918.2)の
トスカニーニによる再演が成功を収めたことにより、
世に知られるようになりました。

交響詩《ローマの松》は、
レスピーギ45歳の時(1924.12)に初演された作品です。
アメリカ初演(1926.1)はトスカニーニによって行われました。

交響詩《ローマの祭り》は、
レスピーギ49歳の時(1929.2)に、
トスカニーニによって初演された作品です。


  ***

トスカニーニ指揮のローマ三部作は、
これまでにも2度ほど購入して来ましたが、
(1つは1,000円位の廉価版、もう1つはXRCD)

いずれも音質面でがっかりさせられ、
感動には程遠い、残念な印象しかありませんでした。

ルービンシュタインやハイフェッツ、
ワルターの演奏で見違える印象を受けた
Blu-spec CD2 ならばと期待して聴いてみたところ、
これが大正解でした。

押しの強い、
ぶんぶん鳴りまくるオケが、
初めて耳に心地よく響いて、
大きな感銘を受けながら、
最後まで聴き通すことができました。

セッション録音独特の、
コンサートではまず聴こえない鳴り方なのですが、
全体として自然に聴こえるようにうまく調整してあるので、
これはこれで一つの芸術品として楽しめば良いのだと思います。

それほど重々しい、深刻な曲ではないからか、
綺麗なだけのさらさらした演奏では、
どこが良いのか今一つピンと来なかったのですが、

指揮者の強烈な意志がゆきわたったこの録音で、
初めてローマ三部作の真価に気がつくことができました。

いったんどんな曲なのかわかってみると、
改めてほかの録音も聴いてみたくなってきました。

若い頃に唯一、
感銘を受けた広上淳一&日本フィルのCDが、
家のどこかにあるはずなので、探し出して聴き直してみようと思います。


※Wikipediaの「アルトゥーロ・トスカニーニ」「NBC交響楽団」「オットリーノ・レスピーギ」の項目を参照。