2016年3月28日月曜日

クレンペラー&フィルハーモニア管のメンデルスゾーン:交響曲第3&4番(1960年録音)

ドイツ帝国ブレスラウ(現ポーランド)出身の指揮者
オットー・クレンペラー
(Otto Klemperer, 1885.5-1973.7)の指揮する
イギリスのオーケストラ
フィルハーモニア管弦楽団の演奏で、

ドイツの作曲家
フェリックス・メンデルスゾーン
(Felix Mendelssohn, 1809.2-1847.11)の
交響曲第3番《スコットランド》第4番《イタリア》を聴きました。

指揮者74歳の時(1960年2・3月)の録音です


メンデルスゾーン
交響曲第4番イ長調作品90《イタリア》
交響曲第3番イ短調作品56《スコットランド》

オットー・クレンペラー(指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
録音:1960年2月(第4番)、同年1月(第3番)、ロンドン、アビーロード No.1スタジオ
【PCD-413】2015年7月発売

学生のころに、
宇野功芳氏の著書で知った有名な演奏ですが、
実際にCDはで聴いてみると、
演奏以前に、
細かい所が聴き取れないこもった音質で、
何が良いのかわかないまま終わりました。

今回もあまり期待せずに、
ただ安いからと手に入れたのですが、
昔のLPレコードを聴いているような、
彫りの深い自然な音がして、
曲への認識を一新しました。

廉価盤は安かろう悪かろうで、
残念な音質のものが多いのですが、
このシリーズは復刻技術の向上によるのか、
音源が通常と異なるのか、
私がこれまで聴いてきたどの復刻CDよりもいい音がしています。


今回このCDで改めて聴き直してみると、
もともと今一つな感じだった《イタリア》は、
重々しいがっちりした雰囲気がいっそう増幅されていて、
クレンペラー色の濃い、違和感ありまくりの演奏に仕上がっていました。

それが《スコットランド》になると、
こちらはクレンペラー色の濃い個性的な表現がすべて良い方に作用し、
重々しくも冴え冴えとしたオケの音がすんなりと心に馴染んできて、
シューマンの新しい交響曲を聴いているような印象で、
こんな名曲だったのか!と感動を新たにしました。

作曲家でもあったクレンペラーが再創造した
ユニークなメンデルスゾーンといえそうなので、
初めて聴く一枚としてはお薦めできませんが、
彫りの深い《スコットランド》は一聴の価値あるです。


2016年3月22日火曜日

愛知県美術館の「ピカソ、天才の秘密」展

去る2016年3月20日(日)に、
愛知県美術館「ピカソ、天才の秘密」展を観に行って来ました。

図録を参照すると、

 愛知県美術館〔2016年1月3日-3月21日〕
 あべのハルカス美術館〔2016年4月9日-7月3日〕

の2箇所で開催されており、

愛知県の主催は、
愛知県美術館と中日新聞社になっていました。


スペインの画家
パブロ・ピカソ(1881.10-1973.4)の名は当然知っていますが、
作品をまとめて観る機会はこれまでありませんでした。

今回の展示は、
図録によると、

 第1章 少年時代 1894-1901年
 第2章 青の時代 1901-1904年
 第3章 バラ色の時代 1905-1906年
 第4章 キュビズムとその後 1907-1920年代

という構成で、
13歳(1894)から44歳(1925)までの作品が展示されていました。

ピカソは92歳まで長生きした人なので、

自らの作風を確立する前の、
模索の時期の作品をまとめて観られるという点で、
興味深い企画だったと思います。

作風確立後の、
これぞピカソといった
傑作の数々が観られるわけではないので、
多少肩透かしにあった気分にもなりましたが、

ピカソについてより深く知るきっかけにはなりました。


ピカソの作品は一見陽気なようにみえて、
仄暗く憂鬱な印象を受けることが多く、
あまり好きではありませんでした。

今回の展示でも、
その認識が変わることはなかったのですが、

若い時期の作品をまとめてみることで、
溢れんばかりの特別な才能をもちながら、
その才能のやり場に困って暗中模索する様子がよく伝わって来て、
とても興味深かったです。

正直なところ、若いころの作品には、
試行錯誤するピカソの苦しみがそのまま反映されている感じがして、
やはりあまり好きにはなれませんでした。

ただその時期を乗り越えて、
キュビズムにたどりついたころからの、
確固とした力強い画風には強く心を動かされたので、
キュビズム後の作品をもっとまとめて観てみたいと思いました。


ピカソの傑作が生まれるのは、
恐らくこの後からのはずなので、

この企画展では、
ピカソの魅力がわかったとはいえませんが、

偉大な芸術家の前半生を眺めることができたのは、
よい勉強になりました。


  ***

若いころの作品をみて、
人物の描写力にとくに秀でているように感じました。

画家なんだから当然かもしれませんが、
人物は意外に難しいので、
各人の個性を巧みに描き分けていて、
ここまで描ける人だとは思いませんでした。

ただしそこから突き抜けて、
訴えかけて来る何かがあるかといわれると、

どれもだから何なのか、
何を表現したいのかはあまり伝わって来ませんでした。

圧倒的な描写力をもちながら、
それで何を表現したいのかがわからずに苦しんでいる、
そんな印象をもちました。

2016年3月14日月曜日

クレンペラー&フィルハーモニア管のベートーヴェン:交響曲第1・3番 (1960年ライブ)

ドイツ帝国ブレスラウ(現在のポーランドのヴロツワフ)生まれの指揮者
オットー・クレンペラー(Otto Klemperer, 1885.5-1973.7)の指揮する

イギリスのオーケストラ
フィルハーモニア管弦楽団の演奏で、
ベートーヴェンの交響曲全集を聴いていきます。

1960年のウィーン芸術週間ライブとして有名な録音です

はじめは1950年代の後半に録音された
スタジオ録音による全集を購入する予定だったのですが、
安さにつられて60年ライブのほうを先に買うことになりました。
Membran の 10枚組CD(1600円!)です。

※ベートーヴェンはCD7枚目まで。
 8-10枚目はケンペ指揮&ミュンヘン・フィルの
 ブラームス;交響曲全集を収録。

まずはCD1、2枚目に収録された
 序曲《エグモント》《コリオラン》《プロメテウスの創造物》と、
 交響曲第1番・第3番《英雄》
を聴きました。


◯DISC1
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
序曲《エグモント》作品84
 (録音:1960年5月31日)
交響曲第1番ハ長調 作品21
 (録音:1960年6月7日)
序曲《コリオラン》作品62
 (録音:1960年6月4日)
序曲《プロメテウスの創造物》作品43
 (録音:1960年6月2日)

◯DISC2
交響曲第3番 変ホ長調 作品55《英雄》
 (録音:1960年5月29日)

フィルハーモニー管弦楽団
オットー・クレンペラー(指揮)
【Membran 10CD Collection /No.600135】2014年1月発売


クレンペラー75歳のときの録音です

遅すぎない適切なテンポ感で、
音楽に没入しすぎて煽り立てるようなところもなく、
曲の構造がよくわかるオーソドックスな演奏です。

こうしたスタイルだと、
ふつうは途中で飽きが来て、
聴き通すのが辛くなってくるのですが、

オケから出て来る音がキリリと引き締まって、
とても活き活きとした印象で、
若々しくすらある演奏なので、
感動のうちに全曲を聴き進めることができました。


実際、演奏は素晴らしいのですが、
音質には問題がありました。

分離はとても良いのですが、
古いラジオから流れてくるような
割れ気味の威圧感のある音なので、

最新のCDで、
心地よいオケの響きを聴いた後だと、
聴き続けるのが苦痛になることもありました。

でもそんなに大した装置を使わずに、

安めのCDラジカセで、
AMラジオから実況放送でも流れてくるように鳴らしてみたら、
うまくはまって普通に聴き通すことができました。

それでも一度に聴くのは、
CD1枚か2枚が限度でしょう。

2度3度と聴きこむのにはあまり向かない、
通好みのCDです。

演奏は素晴らしいので、
2枚くらいずつ全曲聴いていこうと思います。

2016年3月7日月曜日

横山幸雄のショパン:ピアノ独奏曲全集 その10(2011年録音)

横山幸雄(1971-)氏による

ポーランド出身の作曲家
フレデリック・フランソワ・ショパン
(1810-1849)のピアノ独奏曲全集
10枚目を聴きました。


プレイエルによる
ショパン・ピアノ独奏曲全曲集〈10〉

①バラード第3番 変イ長調 作品47(1841年作曲、同年出版)
2つのノクターン 作品48(1841年作曲、同年出版)
 ②第1番 ハ短調
 ③第2番 嬰ヘ短調

④前奏曲 嬰ハ短調 作品45(1841年作曲、同年出版)

⑤演奏会用アレグロ イ長調 作品46(1841年作曲、同年出版)
⑥幻想曲ヘ短調 作品49(1841年作曲、同年出版)

⑦バラード第4番 ヘ短調 作品52(1842-43年作曲、43年出版)
⑧ポロネーズ第6番 変イ長調 作品58《英雄》(1842-43年作曲、43年出版)

横山幸雄(ピアノ)
使用楽器:プレイエル(1910年製)
録音:2011年7月5・6日
上野学園 石橋メモリアルホール
【KICC-922】※2011年11月発売

1841年から43年にかけて、
ショパン31歳から33歳にかけて作曲された作品群が収録されています

全曲録音なので、
9枚目までは明らかな習作も混じっていたのですが、
この10枚目からは駄作が一つもなく、
ショパンの奥深い名曲がずらりと並んでいます。

途中で集中力を切らさず最後まで聴き通すことができました。

特に、
 バラード第3番、第4番、
 演奏会用アレグロ
 幻想曲
の4曲はまとめにくい曲のはずですが、
全体像のよくわかる強い説得力をもった快演で、
初めて曲の真価を知ったように感じました。

ポーランド人ならではの
節回し的なところからは距離を置いて、

もう一度まっさらな目で
楽譜を見つめ直すところから生み出された
横山氏なりの大人なショパン。

あまり好きなスタイルではないはずなのですが、
ここまで完成度が高ければ文句はないです。