2015年6月1日月曜日

シュナイダーハンのモーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集 その1

オーストリアのウィーン生まれのヴァイオリニスト
ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915.5-2002.5)と、

ドイツのブレーメン生まれのピアニスト、
カール・ゼーマン(1910.5-1983.11)の演奏で、

オーストリアの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756.1-1791.12)の
ヴァイオリン・ソナタ集を聴いています。

CD4枚中の1枚目を聴いていきます。
シュナイダーハン38-40歳(1953-55年)の時の録音です。


モーツァルト
ヴァイオリン・ソナタ第24番 ハ長調 K.296
ヴァイオリン・ソナタ第25番 ト長調 K.301
ヴァイオリン・ソナタ第28番 ホ短調 K.304
ヴァイオリン・ソナタ第29番 イ長調 K.305

ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン)
カール・ゼーマン(ピアノ)

録音:1954年12月17日、ハノーファー、ベートーヴェン・ザール〔K296〕。
1955年10月6日、ウィーン、コンツェルトハウス〔K301&305〕。
1953年9月19日、ウィーン、コンツェルトハウス〔K304〕。
【POCG-90177】

シュナイダーハンは
38歳から40歳にかけて(1953.9/1954.12/1955.12)、
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを計13曲録音しました。

旧全集の通番(第1-43番)に従って、
どれを録音したのか整理しておきます。

二重丸◎はこのCDの収録曲です。

「第1番 ハ長調  K.6 〔1762-64〕
 第2番 ニ長調  K.7 〔1763-64〕
 第3番 変ロ長調 K.8 〔1763-64〕
 第4番 ト長調  K.9 〔1764〕
 第5番 変ロ長調 K.10〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
 第6番 ト長調  K.11〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
 第7番 イ長調  K.12〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
 第8番 ヘ長調  K.13〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
 第9番 ハ長調  K.14〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
 第10番 変ロ長調 K.15〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
 第11番 変ホ長調 K.26〔1766〕
 第12番 ト長調  K.27〔1766〕
 第13番 ハ長調  K.28〔1766〕
 第14番 ニ長調  K.29〔1766〕
 第15番 ヘ長調  K.30〔1766〕
 第16番 変ロ長調 K.31〔1766〕

 第17番 ヘ長調  K.55 (K.Anh.C23.01)※偽作
 第18番 ハ長調  K.56 (K.Anh.C23.02)※偽作
 第19番 ヘ長調  K.57 (K.Anh.C23.03)※偽作
 第20番 変ホ長調 K.58 (K.Anh.C23.04)※偽作
 第21番 ハ短調  K.59 (K.Anh.C23.05)※偽作
 第22番 ホ短調  K.60 (K.Anh.C23.06)※偽作
 第23番 イ長調  K.61 (K.Anh.C23.07)※偽作

◎第24番 ハ長調  K296〔1778〕
◎第25番 ト長調  K301 (K<6>.293a)〔1778〕
・第26番 変ホ長調 K302 (K<6>.293b)〔1778〕
・第27番 ハ長調  K303 (K<6>.293c)〔1778〕
◎第28番 ホ短調  K304 (K<6>.300c)〔1778〕
◎第29番 イ長調  K305 (K<6>.293d)〔1778〕
◯第30番 ニ長調  K306 (K<6>.300l)〔1778〕
 第31番 変ロ長調 K372〔1781〕※未完
◯第32番 ヘ長調  K376 (K<6>.374d) 〔1781〕
◯第33番 ヘ長調  K377 (K<6>.374e)〔1781〕
◯第34番 変ロ長調 K378 (K<6>.317d)〔c.1779-81〕
◯第35番 ト長調  K379 (K<6>.373a)〔c.1781〕
◯第36番 変ホ長調 K380 (K<6>.374f)〔1781〕
 第37番 イ長調  K402 (K<6>.385e)〔1782〕※未完
 第38番 ハ長調  K403 (K<6>.385c)〔1782〕※未完
 第39番 ハ長調  K404 (K<6>.385d)〔c.1782 or c.1788〕※未完
◯第40番 変ロ長調 K454〔1784〕
◯第41番 変ホ長調 K481〔1785〕
◯第42番 イ長調  K526〔1787〕
・第43番 ヘ長調  K547〔1788〕 」


偽作の7曲(第17-23番)を境にして、
後半の作品中、未完成の作品をのぞいて録音していますが、

第26・27・43番の3曲は、
完成品であるにもかかわらず録音されていません。

この3曲を外した理由はよくわかりませんが、

録音日をみると、
年に1回数曲ずつ録音するのを
3回繰り返して計13曲収録しているので、

もしかしたら残りの3曲も、
翌年あたりに録音する計画があったのかもしれません。

これ以前の23曲は、
偽作の7曲(第17-23番)はもちろん、

それ以前の16曲も、
モーツァルト10歳までに書かれた初期の作品なので、

ヴァイオリン・ソナタを
選集として録音する場合には
収録されないことが多いです。


  ***

ヴァイオリン・ソナタの

 第24番 ハ長調 K.296
 第25番 ト長調 K.301 (K<6>.293a)
 第28番 ホ短調 K.304 (K<6>.300c)
 第29番 イ長調 K.305 (K<6>.293d)

は作曲者22歳の時(1778)に作曲されました。

第25-30番の6曲は、
同年(1778)11月にパリで作品1として出版されたので、
「パリ・ソナタ」とも呼ばれています。

◎第25番 ト長調  K301 (K<6>.293a)
・第26番 変ホ長調 K302 (K<6>.293b)
・第27番 ハ長調  K303 (K<6>.293c)
◎第28番 ホ短調  K304 (K<6>.300c)
◎第29番 イ長調  K305 (K<6>.293d)
◯第30番 ニ長調  K306 (K<6>.300l)

の6曲です。

第28番のホ短調を含めて、
それほど深さを感じる曲ではありませんが、

BGMとして聴き流すには惜しい、
軽やかな美しさに包まれた名曲揃いです。


  ***

モーツァルトのヴァイオリン・ソナタは、

これまで納得できる演奏に出会えずに、
曲の真価についてわからぬまま生きて来ました。

それほどいろいろ聴いて来たわけでもありませんが、

グリュミオー&ハスキル盤は、
良い演奏のはずなのですが、
音質に難がありました。

グリュミオー&クリーン盤は、
旧盤に比べて数段劣りました。

オイストラフ&パドゥラ=スコダ盤
パールマン&バレンボイム盤
ムター&オーキス盤は、
様式的に多少無理がありました。

これこそはと思った
シェリング&ヘブラー盤も、
あんまり楽しそうでない生真面目な演奏が続いて、
すぐに退屈していました。

西崎たか子&ヤンドー盤、
前橋汀子&エッシェンバッハ盤は
ヴァイオリンの鳴り方に癖があり、
リズムの切れにも難がありました。


シュナイダーハンの演奏は
初めて聴きますが、

どこまでも美しい音色と
軽やかなリズム感に支えられた
明るく伸びのある演奏でした。

ほとんど初めて、
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを、

まったく飽きることなく楽しみながら、
全体を聴き通すことができました。

シュナイダーハンの演奏、
これまでも聴いてきたはずなのですが、

こんなに音色の美しい方だとは気がつきませんでした。

どうやら50年代から60年代にかけて、
演奏スタイルを若干変えているようで、

個人的には、
50年代のモノラル期の録音の方が、
60年代のステレオ期の録音よりも、
圧倒的に美しいと思いました。

60年代の録音は、
技術的な衰えを精神性を前に出すことで補おうとして、
失敗しているように感じました。

もともと精神的な面を
強く押し出すタイプの演奏家ではないので、
50年代の清楚でひたすら美しい演奏にこそ、
シュナイダーハンの真価は現れているように思いました。

モーツァルトのヴァイオリン・ソナタで、
しばらく聴き込んでいきたい演奏に出会えました。


※Wikipediaの「ヴォルフガング・シュナイダーハン」「カール・ゼーマン」「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」「モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ」を参照。

2015年5月25日月曜日

ヴィト&ポーランド国立響のマーラー:交響曲第3・10番(1994年録音)

ヴィトさんの録音をもう一つ。

ポーランドの指揮者
アントニ・ヴィト(1944.2-)の指揮する
ポーランド国立放送交響楽団の演奏で、

オーストリア帝国生まれの作曲家
グスタフ・マーラー(1860.7-1911.5)の
交響曲第3・10番を聴きました。


グスタフ・マーラー
交響曲第3番ニ短調
交響曲第10番嬰ヘ短調

アントニ・ヴィト指揮
ポーランド国立放送交響楽団
録音:1994年11月12-16日、カトヴィツェ、ポーランド国立放送コンサートホール
【Naxos 8.550525-6】

交響曲第3番は、
マーラー35-36歳の時(1865-96)に作曲され、
41歳の時(1902.6)に全曲初演されました。

交響曲第10番は、
マーラー50歳の時(1910)に作曲が始められたものの、
翌年に亡くなったため、第1楽章以外は未完で残されました。

最近では、
補筆完成版(全5楽章)の演奏も増えてきましたが、
これは第1楽章のみの演奏です。


  ***

ヴィトさんのシューマン第1・3番に感動し、
ほかにどんな録音があるのかなと探していたところ、

私の大好きな
マーラーの交響曲第3番を録音していることに気がつき、
取り寄せて聴いてみました。

すると残念ながら、第3番は、
テンポを粘りすぎて停滞気味、
曲への共感も今一つで、聴き通すのが苦痛になる
期待はずれの演奏でした。

それだけならブログに書くこともなかったのですが、

カップリングされていた第10番が、
とんでもない名演でビックリしました。


同じ指揮者とオーケストラによって
ほぼ同時期に収録された演奏とはとても思えません。

わかりにくいはずの第10番の音楽が、
ひたひたと心のひだに入り込んできて、

第9番の延長線上に生まれた
マーラーの傑作の一つとして、

強い共感のもとに聴き終えることができました。


最近こそ、

 金聖響&神奈川フィル
 インバル&東京都響

の名演によって、
第10番の真価を理解できるようになってきたのですが、

それまでは、

 バーンスタイン&ウィーン・フィル
 ザンデルリンク&ベルリン交響楽団
 ラトル&ベルリン・フィル

と聴いてきて、
今一つどこが良いのかわかりかねる、
不思議な印象の作品でした。


今回のヴィトの演奏、
バーンスタインより見通しがよく、

ザンデルリンク、ラトルより、
はるかに共感度の高い演奏。


金聖響とインバルを差しおいてまで
採るべき演奏かは迷うところですが、

1994年の段階で、
もっとも優れた演奏の一つであったことは間違いないと思います。


ヴィトさんのマーラー、
第3番を聴くとほかを聴くのが怖くなってしまうのですが、

第10番と同じレベルの演奏があるかもしれないので、
ゆっくりと一通り聴いていきたいと思います。


※Wikipediaの「グスタフ・マーラー」「交響曲第3番(マーラー)」「交響曲第10番(マーラー)」を参照。

2015年5月18日月曜日

ヴィト&ポーランド国立放送響のシューマン:交響曲第2・4番(1993年録音)

ポーランドの指揮者
アントニ・ヴィト(Antoni Wit 1944.2-)の指揮する
ポーランド国立放送交響楽団の演奏で、

ドイツの作曲家
ロベルト・シューマン(1810.6-1856.7)の
交響曲第2・4番を聴きました。


第1番《春》・
第3番《ライン》で意外な名演を聴かせてくれた

ヴィトさんの指揮で、
残りの2曲(第2・4番)を聴いてみました。

第1・3番の1年前、
指揮者49歳の時(1993.8-10)の録音です。


ロベルト・シューマン
交響曲 第2番 ハ長調 作品61
交響曲 第4番 ニ短調 作品120

アントニ・ヴィト(指揮)
ポーランド国立放送カトヴィツェ交響楽団
録音:1993年8月27・28日(第4番)、同年9月30日・10月1日(第2番)、カトヴィツェ、ポーランド放送コンサート・スタジオ
【AVCL-25616】2007年12月発売


シューマンの交響曲は、

 第1番 変ロ長調 作品38《春》
 第2番  ハ長調  作品61
 第3番 変ホ長調 作品97《ライン》
 第4番  ニ短調  作品120

の4曲が知られていますが、
この作品番号は出版された順番によるものでなので、

初演順に並べ直すと、

 第1番(1841年3月)
 第4番(1841年12月)⇒(1853年12月に改訂稿を初演)
 第2番(1846年11月)
 第3番(1851年2月)

の順になります。

第4番は、
第1番とほぼ同時期に初演されたものの、

第3番初演の2年後、
大幅な改訂稿が初演されたため、

出版が一番最後となり、
第4番と呼ばれることになりました。


  ***

さて今回の2曲(2・4番)、

1・3番の予想外の充実ぶりに
かなり期待して聴いたのですが、

残念ながら2・4番は今一つでした。

1・3番とほぼ同じタイプの演奏なのですが、

録音が今一つ冴えなくて、
ほんの少し喰い足りない感がずっと続いてしまい、

こんな筈ではと思っているうちに
聴き終わっていました。


1・3番はナクソスの音源を
エイベックスから再販したものであるのに対し、

2・4番はナクソスの初出時のままなので、

もしかしたらリマスターし直すことで
印象がガラリと変わる可能性もありますが、


この初出時のCDをふつうに評価するなら、

2番は推進力の弱いごく平凡な演奏、

4番はそれなりに聴けますが、
ほかを差しおいて選ぶほどではない演奏に感じました。


1・3番も録音が今一つなら
全然違った印象だったと思うので、

リマスターし直した2・4番を聴いてみたいです。