2015年2月28日土曜日

尾高忠明&札響のエルガー:交響曲第1番(2012年録音)

尾高忠明(1947.11.8-)氏の指揮する
札幌交響楽団の演奏で、

イギリスの作曲家
エドワード・エルガー(1857.6-1934.2)の
交響曲第1番弦楽セレナードを聴きました。

指揮者65歳の時(2012.11)の録音です。


エルガー
交響曲第1番 変イ長調 作品55
弦楽のためのセレナード ホ短調 作品20

尾高忠明(指揮)
札幌交響楽団
録音:2012年11月8-10日、札響コンサートホールKitara(セッション&ライブ)
【FOCD9579】2013年3月発売


交響曲第1番 変イ長調 作品55 は、
作曲者51歳の時(1908.12)に初演された作品、

弦楽のためのセレナード ホ短調 作品20 は、
愛妻キャロラインへの結婚記念日の贈物として、
作曲者34歳の時(1892.5)に完成された作品です。


尾高氏は47歳の時(1995.5)に、
BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団と
同曲を録音していますので、

それから18年ぶりの再録音ということになります。

BBCウェールズとの録音は
最近聴き返していないのですが、

細部にこだわりすぎずに
自然な流れを重視した熱気のある演奏だったように思います。


今回の演奏、
技術的には完璧で、楽譜の読みも深くなって、
完成度の上では明らかに前のを上回る名演といって良いと思います。

しかし、
エルガーを聴くときに期待したい、
うちから沸き上がる情熱、熱気といったものが
かなり拭い去られているようで、

全体を聴いてみての感動は、
それほど大きくありませんでした。


札響の特色なのか、
どんな場面でも一定以上は熱くならない、
どこかひんやりとした響きが印象的で、

ボールトのエルガーを聴き慣れた耳には、
違和感がありました。


ボールトと比べられても、
と言われるかもしれませんが、

どうせなら本場をこえた演奏を期待したいのです。

この完成度に熱さが加われば、
鬼に金棒だと思うのですがどうでしょうか。


なお今回、札響の音色を聴いて、
エルガーには少し冷めすぎているように感じたのですが、

そのままでシベリウスには最適だと思いました。

近々完成するであろう
シベリウスの交響曲全集には期待大です。


※Wikipediaの「尾高忠明」「札幌交響楽団」「エドワード・エルガー」を参照。

2015年2月26日木曜日

バルシャイ&ケルン放送響のショスタコーヴィチ:交響曲第8番

ロシア出身の指揮者
ルドルフ・バルシャイ(1924.8-2010.11)が

68歳から76歳にかけて(1992.9-2000.9)、
ドイツのケルン放送交響楽団と録音した

ロシアの作曲家
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ
(1906.9-1975.8)の交響曲全集、
5枚目を聴きました。


ショスタコーヴィチ
交響曲第8番ハ短調 作品65

ケルン放送交響楽団
ルドルフ・バルシャイ(指揮)
録音:1994年3月14日&1995年10月16日。フィルハーモニー、ケルン
【BRILIANT 6324/5】

交響曲第8番ハ短調作品65 は、

作曲者37歳の時(1943.11)に初演された作品です。

この2年前に交響曲第7番が、
レニングラード包囲戦(1941.9-1944.1)下の
レニングラードにおいて完成されたのに対し(1941.12初演)、

本作は、
スターリングラード攻防戦(1942.6-1943.2)の
犠牲者への墓碑として完成されました(1943.11)。

つまり1941年から1945年にかけて、
ドイツとソビエト連邦の間で戦われた「独ソ戦」にちなんで、
第7番と第8番の交響曲が作られたことになります。


実際に聴いてみると、
全体的に暗く厳しく、悲壮感のただよう作品です。

 第1楽章 Adagio - Allegro non troppo - Allegro
 第2楽章 Allegretto
 第3楽章 Allegro non troppo
 第4楽章 Largo
 第5楽章 Allegretto - Adagio - Allegretto

ゆったりとした長大な第1楽章がずっしりと響いた後、

速めテンポの第2・3楽章をはさんで、
再びゆっくりとした第4・5楽章へと戻っていく、

交響曲としては異形の形式だと思います。


バルシャイさんの指揮、

楽譜を忠実に再現しながら
内面を深くえぐりぬいていくスタイルで、

ゆっくりした中に
意味深い響きがあふれ、
不思議な感慨に襲われました。


名演に違いないと思いますが、

私には、この第1楽章の厳しさに、
若干ついていけないところがありました。

8番をじっくり聴いたのは
ほぼ初めてのことだったので、

曲に慣れてきたら感想も変わってくると思いますが、

もう少しだけあっさり目の演奏のほうが、
曲全体の構造が見通しやすいように感じました。


とくに第1楽章と第4・5楽章の構成は、
まだ今一つ見通せない感じがしています。

でもほかの指揮者でいろいろ聴き比べてみたくなりました。


※Wikipediaの「ルドルフ・バルシャイ」「ドミートリイ・ショスタコーヴィチ」「交響曲第8番(ショスタコーヴィチ)」「独ソ戦」「レニングラード包囲戦」「スターリングラード攻防戦」を参照。

2015年2月20日金曜日

福島章恭&愛知祝祭管のブルックナー:交響曲第8番(2014年録音)

合唱指揮者(兼音楽評論家)の
福島章恭(ふくしまあきやす 1962-)氏の指揮する
2005年設立のアマチュア・オーケストラ
愛知祝祭管弦楽団の演奏で、

ブルックナーの交響曲第8番を聴きました。

指揮者52歳の時(2014.10)の録音です。

ブルックナー:交響曲第8番、バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲、他 福島章恭&愛知祝祭管、古井麻美子、清水里佳子(2CD)

愛知祝祭管弦楽団/福島章恭/ブルックナープロジェクト vol.1

1) R.ワーグナー
 楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第1幕への前奏曲
  愛知祝祭合唱団・オルガン/中村詩穂

2) J.S.バッハ
 2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調 BWV1043
  ヴァイオリン/古井麻美子 清水里佳子

3) A.ブルックナー
 交響曲第8番ハ短調(ハース版)

指 揮 /福島章恭
管弦楽/愛知祝祭管弦楽団
録音:2014年10月26日、愛知芸術劇場コンサートホール(ライブ)
【OAF1410 2CD】


地元愛知の公演だったので聴きに行きたかったのですが、
仕事の都合で行けなかったコンサートのライブCDです。

福島氏の指揮はYouTubeで、
ロ短調ミサ曲の終結部をふるのを観て感銘を受け、
オーケストラ曲を指揮したらどうなるのだろうと思っていました。


CDを聴いてみると、
一番成功していたのはバッハの二重協奏曲でした。

古楽器奏法でない通常の奏法を用いながら、
自然な響きの中に美しい旋律があふれ出て、

初めて聴く幻想的な
ヘルメスベルガーのカデンツァともども、
二重協奏曲の魅力に浸ることができました。


このバッハに比べるとブルックナーは、
たいへんユニークであるけれども残念ながら、
あまり楽しめない演奏でした。

楽しめなかった理由の大部分は、
遅めのテンポ設定にあります。

遅いとはいっても、
すべてのフレーズを均一的に遅くしているわけではなく、

速めのところは普段どおりで、
遅めのところのみ噛みしめるようにじっくり進めているので、

間延びし過ぎて全然聴けない演奏というわけではありません。


速さの感覚は、
実演では気がつきにくいものなので、
実演のときにはふつうに聴こえていた可能性もありますが、

CDで聴く分には、若干間延びした感じがあって、
聴きとおすのに多少のがまんが必要でした。

基本的に、響き重視の指揮なので、
個々の旋律の響きにひたり切っているうちに、
全体が間延びしてしまった感じでしょうか。


ほかに目立った欠点が見当たらないだけに、
全体のテンポ設定のミスは痛かったと思います。

あとほんの少し速めのテンポなら、
「響きのユニークな、福島流ブルックナーの登場!」
と書いていたところです。


もう一つ独特だったのは、
福島氏が創り出すオケの響きです。

合唱指揮の経験によるものなのか、
ふわふわした感じのつかみどころがない、
芯のない響きが特徴的で、

きっちりと拍を刻みこんでいくタイプの
(ふつうの)指揮者からは聴こえない、
ユニークなオケの響きを聴くことができました。


指揮に力が入り過ぎて、
威圧的だったり暴力的だったり粘着的に聴こえるところが皆無なので、

まだまだ荒削りだけれども、

構成面での弱点が克服できれば、
変幻自在で深遠な福島氏ならではのブルックナーが実現するのではないかと、

今後に期待させられる一枚となりました。


2015年2月13日金曜日

サマリー指揮のフォーレ:レクイエム(1993年録音)

500円で聴ける
エイベックスのベスト・オブ・クラシックス
のシリーズから、

イギリスの指揮者
ジェレミー・サマリー
(Jeremy Summerly 1961.2- )の指揮する
オックスフォード・スコラ・カントルム
オックスフォード・カメラータの演奏で、

フランスの作曲家
ガブリエル・フォーレ(1845.5-1924.11)の
レクイエムラシーヌの雅歌 を聴きました。

サマリー32歳の時(1993.5)の録音です。


ガブリエル・フォーレ
1) レクイエム 作品48(1893年版)

 リサ・ベックリー(ソプラノ)
 ニコラス・ゲッジ(バリトン)
 オックスフォード・スコラ・カントルム
  &オックスフォード・カメラータ
 カーム・キャリー(オルガン)
 ジェレミー・サマリー(指揮)

2) ラシーヌの雅歌 作品11

 オックスフォード・スコラ・カントルム
 カーム・キャリー(オルガン)
 ジェレミー・サマリー(指揮)

 録音:1993年5月17-18日、オックスフォード、ハートフォード・カレッジ礼拝堂
 【AVCL-25698】

レクイエム 作品48 は、
42歳の時(1888.1)に初演されました。

その後改訂が加えられ、
48歳の頃迄に第2稿(1893年版)、
55歳のときに第3稿(1900年版)がまとめられました。

楽譜は1901年に出版されました(第3稿)。
第2稿が出版されたのは1980年代に入ってからです。

ラシーヌの雅歌 作品11 は、
20歳の時(1865)に作曲された
ニデルメイエール音楽学校の卒業作品です。


  ***

この2曲の組み合わせは初めて聴きました。

レクイエムだけでも完成度は十分高いのですが、
《ラシーヌの雅歌》と組み合わせることで、

浄められた魂がさらに
天上に舞い上がっていくような、
より一層の救いを感じられる音楽になっていました。


ジェレミー・サマリーは初めて聴く指揮者でしたが、

虚飾を排して
率直に訥々と語りかけてくる表現で、
曲そのもののもつ魅力を最大限に引き出しているように感じました。


強く心を揺り動かされるというよりは、

そばに寄り添って
しっとりと語りかけてくるような趣きで、
普段着のフォーレの素朴な魅力に気がつくことができました。


これまでフォーレのレクイエムは、
ミシェル・コルボの旧盤を聴いてきましたが、

あまりに洗練されすぎていて、

現実離れしているような、
どこか相入れないものを感じてきました。


しばらくはサマリー盤で、
フォーレの魅力に浸りたいと思っています。


  ***

なおこのジェレミー・サマリーという指揮者、
ナクソス・レーベルに、

西洋中世からルネッサンス、バロック期の
合唱音楽をいろいろと録音しているようなので、
まとめて聴いてみようかなと思っています。

バッハより前の作曲家はほとんど聴く機会がなく、
どんな作曲家がいるのかもよくわからない状況なので、

何かよい概説書がないか調べてみると、
一冊見つかりました。


皆川達夫著
『中世・ルネサンスの音楽』
(講談社学術文庫、平成21年2月。初出は講談社現代新書、昭和52年2月)

かなり前から存在は知っていましたので、
この機会に熟読してみようと思います。