オーストリアのウィーン生まれのヴァイオリニスト
ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915.5-2002.5)と、
ドイツのブレーメン生まれのピアニスト、
カール・ゼーマン(1910.5-1983.11)の演奏で、
オーストリアの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756.1-1791.12)の
ヴァイオリン・ソナタ集を聴いています。
CD4枚中の1枚目を聴いていきます。
シュナイダーハン38-40歳(1953-55年)の時の録音です。
モーツァルト
ヴァイオリン・ソナタ第24番 ハ長調 K.296
ヴァイオリン・ソナタ第25番 ト長調 K.301
ヴァイオリン・ソナタ第28番 ホ短調 K.304
ヴァイオリン・ソナタ第29番 イ長調 K.305
ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン)
カール・ゼーマン(ピアノ)
録音:1954年12月17日、ハノーファー、ベートーヴェン・ザール〔K296〕。
1955年10月6日、ウィーン、コンツェルトハウス〔K301&305〕。
1953年9月19日、ウィーン、コンツェルトハウス〔K304〕。
【POCG-90177】
シュナイダーハンは
38歳から40歳にかけて(1953.9/1954.12/1955.12)、
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを計13曲録音しました。
旧全集の通番(第1-43番)に従って、
どれを録音したのか整理しておきます。
二重丸◎はこのCDの収録曲です。
「第1番 ハ長調 K.6 〔1762-64〕
第2番 ニ長調 K.7 〔1763-64〕
第3番 変ロ長調 K.8 〔1763-64〕
第4番 ト長調 K.9 〔1764〕
第5番 変ロ長調 K.10〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
第6番 ト長調 K.11〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
第7番 イ長調 K.12〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
第8番 ヘ長調 K.13〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
第9番 ハ長調 K.14〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
第10番 変ロ長調 K.15〔1764〕※新全集⇒ピアノ3重奏曲
第11番 変ホ長調 K.26〔1766〕
第12番 ト長調 K.27〔1766〕
第13番 ハ長調 K.28〔1766〕
第14番 ニ長調 K.29〔1766〕
第15番 ヘ長調 K.30〔1766〕
第16番 変ロ長調 K.31〔1766〕
第17番 ヘ長調 K.55 (K.Anh.C23.01)※偽作
第18番 ハ長調 K.56 (K.Anh.C23.02)※偽作
第19番 ヘ長調 K.57 (K.Anh.C23.03)※偽作
第20番 変ホ長調 K.58 (K.Anh.C23.04)※偽作
第21番 ハ短調 K.59 (K.Anh.C23.05)※偽作
第22番 ホ短調 K.60 (K.Anh.C23.06)※偽作
第23番 イ長調 K.61 (K.Anh.C23.07)※偽作
◎第24番 ハ長調 K296〔1778〕
◎第25番 ト長調 K301 (K<6>.293a)〔1778〕
・第26番 変ホ長調 K302 (K<6>.293b)〔1778〕
・第27番 ハ長調 K303 (K<6>.293c)〔1778〕
◎第28番 ホ短調 K304 (K<6>.300c)〔1778〕
◎第29番 イ長調 K305 (K<6>.293d)〔1778〕
◯第30番 ニ長調 K306 (K<6>.300l)〔1778〕
第31番 変ロ長調 K372〔1781〕※未完
◯第32番 ヘ長調 K376 (K<6>.374d) 〔1781〕
◯第33番 ヘ長調 K377 (K<6>.374e)〔1781〕
◯第34番 変ロ長調 K378 (K<6>.317d)〔c.1779-81〕
◯第35番 ト長調 K379 (K<6>.373a)〔c.1781〕
◯第36番 変ホ長調 K380 (K<6>.374f)〔1781〕
第37番 イ長調 K402 (K<6>.385e)〔1782〕※未完
第38番 ハ長調 K403 (K<6>.385c)〔1782〕※未完
第39番 ハ長調 K404 (K<6>.385d)〔c.1782 or c.1788〕※未完
◯第40番 変ロ長調 K454〔1784〕
◯第41番 変ホ長調 K481〔1785〕
◯第42番 イ長調 K526〔1787〕
・第43番 ヘ長調 K547〔1788〕 」
偽作の7曲(第17-23番)を境にして、
後半の作品中、未完成の作品をのぞいて録音していますが、
第26・27・43番の3曲は、
完成品であるにもかかわらず録音されていません。
この3曲を外した理由はよくわかりませんが、
録音日をみると、
年に1回数曲ずつ録音するのを
3回繰り返して計13曲収録しているので、
もしかしたら残りの3曲も、
翌年あたりに録音する計画があったのかもしれません。
これ以前の23曲は、
偽作の7曲(第17-23番)はもちろん、
それ以前の16曲も、
モーツァルト10歳までに書かれた初期の作品なので、
ヴァイオリン・ソナタを
選集として録音する場合には
収録されないことが多いです。
***
ヴァイオリン・ソナタの
第24番 ハ長調 K.296
第25番 ト長調 K.301 (K<6>.293a)
第28番 ホ短調 K.304 (K<6>.300c)
第29番 イ長調 K.305 (K<6>.293d)
は作曲者22歳の時(1778)に作曲されました。
第25-30番の6曲は、
同年(1778)11月にパリで作品1として出版されたので、
「パリ・ソナタ」とも呼ばれています。
◎第25番 ト長調 K301 (K<6>.293a)
・第26番 変ホ長調 K302 (K<6>.293b)
・第27番 ハ長調 K303 (K<6>.293c)
◎第28番 ホ短調 K304 (K<6>.300c)
◎第29番 イ長調 K305 (K<6>.293d)
◯第30番 ニ長調 K306 (K<6>.300l)
の6曲です。
第28番のホ短調を含めて、
それほど深さを感じる曲ではありませんが、
BGMとして聴き流すには惜しい、
軽やかな美しさに包まれた名曲揃いです。
***
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタは、
これまで納得できる演奏に出会えずに、
曲の真価についてわからぬまま生きて来ました。
それほどいろいろ聴いて来たわけでもありませんが、
グリュミオー&ハスキル盤は、
良い演奏のはずなのですが、
音質に難がありました。
グリュミオー&クリーン盤は、
旧盤に比べて数段劣りました。
オイストラフ&パドゥラ=スコダ盤、
パールマン&バレンボイム盤、
ムター&オーキス盤は、
様式的に多少無理がありました。
これこそはと思った
シェリング&ヘブラー盤も、
あんまり楽しそうでない生真面目な演奏が続いて、
すぐに退屈していました。
西崎たか子&ヤンドー盤、
前橋汀子&エッシェンバッハ盤は、
ヴァイオリンの鳴り方に癖があり、
リズムの切れにも難がありました。
シュナイダーハンの演奏は
初めて聴きますが、
どこまでも美しい音色と
軽やかなリズム感に支えられた
明るく伸びのある演奏でした。
ほとんど初めて、
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを、
まったく飽きることなく楽しみながら、
全体を聴き通すことができました。
シュナイダーハンの演奏、
これまでも聴いてきたはずなのですが、
こんなに音色の美しい方だとは気がつきませんでした。
どうやら50年代から60年代にかけて、
演奏スタイルを若干変えているようで、
個人的には、
50年代のモノラル期の録音の方が、
60年代のステレオ期の録音よりも、
圧倒的に美しいと思いました。
60年代の録音は、
技術的な衰えを精神性を前に出すことで補おうとして、
失敗しているように感じました。
もともと精神的な面を
強く押し出すタイプの演奏家ではないので、
50年代の清楚でひたすら美しい演奏にこそ、
シュナイダーハンの真価は現れているように思いました。
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタで、
しばらく聴き込んでいきたい演奏に出会えました。
※Wikipediaの「ヴォルフガング・シュナイダーハン」「カール・ゼーマン」「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」「モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ」を参照。