2015年12月28日月曜日

ヘフリガーのシューベルト:歌曲集《冬の旅》(1980年録音)

スイス出身のテノール歌手
エルンスト・ヘフリガー
(Ernst Haefliger 1919.7-2007.3)の歌唱、

スイス出身の鍵盤楽器奏者
イェルク・エーヴァルト・デーラー
(Jörg Ewald Dähler 1933.3-)の伴奏で、

オーストリアの作曲家
フランツ・シューベルト
(Franz Schubert 1797.1-1828.11)の
歌曲集《冬の旅》を聴きました。

ヘフリガー61歳の時(1980.9)の録音です


フランツ・シューベルト
歌曲集《冬の旅》作品89 D911
~ヴィルヘルム・ミュラーの詩による連作歌曲

 1) おやすみ
 2) 風見
 3) 凍った涙
 4) 氷結
 5) 菩提樹
 6) 雪どけの水流
 7) 川の上で
 8) かえりみ
 9) 鬼火
10) 休息
11) 春の夢
12) 孤独
13) 郵便馬車
14) 白い頭
15) 鴉
16) 最後の希望
17) 村にて
18) 風の朝
19) 幻
20) 道しるべ
21) 宿屋
22) 勇気を!
23) 幻日
24) ライアー回し

エルンスト・ヘフリガー(テノール)
イェルク・エーヴァルト・デーラー(ハンマーフリューゲル)
録音:1980年9月、ザーネン教会、スイス
【KICC3709】2015年10月発売

歌曲集《冬の旅》は、
シューベルトの3大歌曲集のうち2番目のものです。

第1部12曲、第2部12曲の計24曲からなりますが、
共に30歳の時(第1部=1827.2/第2部=1827.10)に作曲されました

シューベルトは翌年(1828.11)、
31歳の時に亡くなっていますが、
第1部は生前の1828年1月、第2部は没後の同年12月に出版されています。


  ***

《冬の旅》は少し前に、
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
(1925.5-2012.5)が40歳の時(1965年5月録音)に、
イェルク・デムスの伴奏で歌ったのを聴き込んでいたので、

しばらくは
ディースカウとの違いの方に耳が行きました。

ヘフリガーはテノールで、
ディースカウはバリトンということもありますが、
61歳の年齢を感じさせない軽めの若々しい歌声で、

ディースカウほど精神的に追いつめられる感じのない、
聴きやすい《冬の旅》に仕上がっていました。

その分、
ディースカウほどの完成度は望めませんし、
ディースカウのような凄みや深さにも欠けているのですが、

シューベルトが30歳の時に、
テノールのために作った歌集であることを思えば、

若々しくおおらかな、
でもほど良い品も感じられる
ヘフリガーの歌唱のほうが、
等身大の青年シューベルトの実像に近いようにも感じられました。

どちらか一枚を選ぶのであれば、
やはりより深いディースカウの方を手に取ると思いますが、

別の側面から、
《冬の旅》の魅力に気がつかせてくれる
ヘフリガーのこのCDも、
私にとって欠かせない一枚になりそうです。

ディースカウの《冬の旅》が、
深刻過ぎて聴きづらく感じられる場合は、
特にお薦めです。


※Wikipediaの「エルンスト・ヘフリガー」「Jörg Ewald Dähler 」「フランツ・シューベルト」「冬の旅」を参照。

2015年12月21日月曜日

ハイフェッツのチャイコフスキー&メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲(1957&59年録音)

ロシア帝国領ビルナ(現リトアニア]生まれのヴァイオリニスト
ヤッシャ・ハイフェッツ(1901.2.2-1987.12)の演奏で、

ロシアの作曲家
ピョートル・チャイコフスキー(1840.5-1893.11)と、

ドイツの作曲家
フェリックス・メンデルスゾーン(1809.2-1847.11)の
ヴァイオリン協奏曲を聴きました。

チャイコンは
ハイフェッツ55歳の時(1957.4)
メンコンは58歳の時(1959.2)の録音です。


1) チャイコフスキー
  ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
  ・シカゴ交響楽団
  ・フリッツ・ライナー(指揮)
   録音:1957年4月19日、オーケストラ・ホール、シカゴ

2) メンデルスゾーン
  ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
  ・ボストン交響楽団
  ・シャルル・ミュンシュ(指揮)
   録音:1959年2月23・25日、シンフォニー・ホール、ボストン

3) チャイコフスキー
  ゆうつなセレナード 作品26
  ワルツ~弦楽セレナード ハ長調 作品48より
  ・室内管弦楽団
   録音:1970年7月8・10日、RCAスタジオA、ハリウッド

ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン)
【SICC-30076】2012年12月発売

ロシアの作曲家
ピョートル・チャイコフスキー
(1840.5-1893.11)の
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
は、作曲家41歳の時(1781.12)に初演された作品です

実際に作曲されたのは37歳の時(1877)で、
初演まで4年ほどかかりました。

ドイツの作曲家
フェリックス・メンデルスゾーン
(1809.2-1847.11)の
ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
は、作曲者64歳の時(1945.3)に初演された作品です


  ***

音質の良さに驚いた「Blu-spec CD2」のシリーズに、
ハイフェッツがズラリと並んでいることに気がついて、
ただいま聴き直しているところです。

1枚目に聴いた
シベリウスとプロコフィエフとグラズノフの協奏曲
に続く2枚目として、
チャイコフスキーとメンデルスゾーンの協奏曲を聴いてみました。

ハイフェッツのクールなスタイルは、
メンデルスゾーンやチャイコフスキーに合わないように思いましたが、
こちらも有無を言わせぬ説得力があって、
圧倒的な感銘を受けました。

恐らく他のヴァイオリニストが、
これだけのスピードで弾き飛ばすと、
スポーツ感覚でさらさらと流れていくだけで、
味もそっけもない音楽になってしまう筈なのですが、

ハイフェッツの場合は、
ただ指が回るだけではなく、
さらりと弾いているようなところでも、
楽器が通常あり得ないレベルでしっかり鳴っているので、
聴いている人の心にしっかり届いてきて、
表面的にはならない凄みのある演奏に聴こえます。

そのうえ、どれだけバリバリ弾いても、
やり過ぎには聴こえない品の良さを備えているので、
今なお聴き続ける価値のある演奏だと思いました。

演奏スタイルは好きではありませんが、
そんな私にもこの1枚は十分に楽しめました。


さらに「Blu-spec CD2」の復刻によって、
昔はあまり感じなかったハイフェッツの
ヴァイオリンの音色の美しさも楽しめる点、

昔聴いていた時よりも、
良い演奏のように感じました。

最近耳にするどのヴァイオリニストとも、
違う鳴らし方、響きをしているのが興味深かったです。


  ***

なお同じ「Blu-spec CD2」のシリーズで、
ベートーヴェンとブラームスの協奏曲を組にした1枚も聴きましたが、

こちらは復刻の加減か、
ヴァイオリンの音が心に響いて来ず、
スポーツ感覚でさらさらと音が流れていくだけの、
軽薄な音楽に感じられて、
まったく好みに合いませんでした。

新しさを求めて、
失敗した演奏のように感じました。


※「ヤッシャ・ハイフェッツ」「ヴァイオリン協奏曲(チャイコフスキー)」「ヴァイオリン協奏曲(メンデルスゾーン)」を参照。

2015年12月14日月曜日

ヤンドーのハイドン:ピアノ・ソナタ全集 その10 (1982年録音)

ハンガリーのピアニスト
イエネ・ヤンドー(1952 - )さんの
ハイドン:ピアノ・ソナタ全集

10枚目は、
ウィーン原典版(旧版)の通し番号で、
第59-62番のソナタ4曲を聴きました。

確かまだ小品や変奏曲を収めた1枚が残っていますが、
ソナタはこれで最後です。


フランツ・ヨセフ・ハイドン(1732.3 - 1809.5)
 1) ピアノ・ソナタ 第59番 変ホ長調 作品66 Hob.XVI:49
 2) ピアノ・ソナタ 第60番 ハ長調 作品79 Hob.XVI:50
 3) ピアノ・ソナタ 第61番 ニ長調 作品93 Hob.XVI:51
 4) ピアノ・ソナタ 第62番 変ホ長調 作品82 Hob.XVI:52

イエネ・ヤンドー(ピアノ)
録音:1992年2月25-27日、ブダベスト、ユニテリアン教会
【Naxos 8.550657】

ハイドンのピアノ・ソナタ
最後の4曲が収録されています。

最後の3曲は
ハイドン2度目のイギリス滞在中、
1794年か1795年(62歳か63歳)のときに
ロンドンの女流ピアニスト
テレーゼ・ジャンセン・バルトロッツィのために
作曲されたことがわかっています。

ただしこの3曲がそれぞれ、
どういう順番で作曲されたのかはわかっていません。

ウィーン原典版(旧版)は
ホーボーケン番号と同じ順番で、
 Hob.XVI:50 第60番
 Hob.XVI:51 第61番
 Hob.XVI:52 第62番
となっていますが、

これを出版順に並べると、
 Hob.XVI:52 第62番…1798年出版(67歳)
 Hob.XVI:50 第60番…1801年出版(69歳)
 Hob.XVI:51 第61番…1805年出版(73歳)

作品番号順に並べると、
 作品79 Hob.XVI:50 第60番…1801年出版(69歳)
 作品82 Hob.XVI:52 第62番…1798年出版(67歳)
 作品93 Hob.XVI:51 第61番…1805年出版(73歳)
となっていて、

ホーボーケン番号の
Hob.XVI:50-52 の並びは、
出版順にも作品番号順にもよらないことがわかります。

出版順と作品番号順に従えば、
少なくとも Hob.XVI:51 第61番 は、
いちばん最後に置かれるべきだと思うのですが、

こちらは、2楽章からなる
ゆったりした感じの5分ほどの小品なので、
ソナタ全集の最後に配置するのを躊躇したのかもしれません。

また、Hob.XVI:50-52 を一連の3曲とみた場合、
 Hob.XVI:50 第60番 ハ長調
 Hob.XVI:51 第61番 ニ長調
 Hob.XVI:52 第62番 変ホ長調
という並び方(ハ→ニ→ホ)は、
一番聴き映えのする配置ではあるので、
内容的には違和感のない並べ方のように思われました。


この3曲をもう数年さかのぼって、
ハイドン59歳(1791)に出版されたのが、

 作品66 Hob.XVI:49 第59番 変ホ長調

でした。3楽章からなる充実した作品で、
個人的には最後の3曲よりもよく出来ているように感じました。


  ***

ハイドンのピアノ・ソナタ、
ラスト数曲だからといって、
ベートーヴェンやシューベルトのように、
何かを突き抜けた崇高な境地に達するわけではなく、

職業作曲家の熟練の技ともいえる、
明るく楽しい軽妙な作品が最後まで続いていました。

全曲を聴いてきて、
どちらかといえば、
コンサートで改まって聴くよりは、

一人で仕事をしたり、勉強したり、
何かしながら聴くのにぴったりの、
CD向きの音楽だと思いました。

嫌味のない明るさで、
こちらの思考を邪魔することなく、
気持ちを前向きな方向へ引っぱってくれる音楽は、
ハイドンならではだと思います。

ヤンドーさんは、
ハイドンのほかにも、
モーツァルトとベートーヴェンと
シューベルトのソナタ全集を録音していますが、

彼の個性に最も合っているのは、
ハイドンだと思います。

ちょっとゆっくり聴きすぎて、
全体像が見えにくくなってしまったようにも思うので、
このあたりでもう一度、
CD10枚聴き直してから、
全体をまとめ直したいと思っています。



※中野博司著『ハイドン復活』(春秋社、1995年11月)参照。

※Wikipediaの
 「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」
 「ハイドンのピアノソナタ一覧」
 「ハイドンのピアノ曲一覧」
 「ホーボーケン番号」の各項目を参照。

※ピティナ・ピアノ曲事典の「ハイドン」を参照。

2015年12月7日月曜日

シュナイダーハンのメンデルスゾーン&ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲(1956&52年録音)

ウィーン生まれのヴァイオリニスト
ヴォルフガング・シュナイダーハン
(1915.5-2002.5)の演奏で、

ドイツの作曲家
メンデルスゾーンとブルッフの
ヴァイオリン協奏曲を聴きました。

メンデルスゾーンは
シュナイダーハン41歳の時(1956.9)
ブルッフは36歳の時(1952.4)の録音です。


1) メンデルスゾーン
  ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
  ・ベルリン放送交響楽団
  ・フェレンツ・フリッチャイ(指揮)
  録音:1956年9月19-23日、ベルリン、イエス・キリスト教会

2) ブルッフ
  ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
  ・バンベルク交響楽団
  ・フェルディナント・ライトナー(指揮)
  録音:1952年4月28-30日、バンベルク、クルトゥラウム

ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン)
【POCG-90175】

フェリックス・メンデルスゾーン
(1809.2-1847.11)の
ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
は、作曲者64歳の時(1945.3)に初演された作品

マックス・ブルッフ
(1838.1-1920.10)の
ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
は、作曲家28歳の時(1866.4)に初演された作品です


  ***

シュナイダーハンのヴァイオリン、
それほど大曲向きには思えなかったので、
コンチェルトはあまり聴いて来なかったのですが、

偶然聴いたメンデルスゾーンが、
かなりの名演でした。

名曲の割に、
深く感動する演奏に出会いにくいのが
メンコンの難しいところなのですが、

久しぶりに、
始まりから終わりまで、
美音と粋な節回しに耳が吸い寄せられて、
ああ美しいなと思っているうちに最後まで聴き終えていました。

同郷のウィーン生まれのヴァイオリニスト、
フリッツ・クライスラー(1875.2-1962.1)と同じく、
甘く美しい音色と、品のある粋な節回しで聴かせるタイプの演奏です。

個人的には、
メンコンのベスト演奏はクライスラーなのですが、
さすがに録音が古く(1926年)、
聴きにくく感じることもあったので、

クライスラーのメンコンが好きな方にはお薦めです。


  ***

ブルッフは、
メンデルスゾーンと同じタイプの演奏ですが、
音質がメンコンよりいっそう悪い感じなので、
あまり楽しめませんでした。

あえてシュナイダーハンを選ばなくても、
ほかに良い演奏があると思います。


※「ヴォルフガング・シュナイダーハン」「フェリックス・メンデルスゾーン」「ヴァイオリン協奏曲(メンデルスゾーン)」「マックス・ブルッフ」「ヴァイオリン協奏曲第1番(ブルッフ)」を参照。