2016年7月8日金曜日

名古屋市美術館の「藤田嗣治―東と西を結ぶ絵画―」展

去る7月10日(日)、
伏見の名古屋市美術館まで、
「生誕130年記念 藤田嗣治―東と西を結ぶ絵画―」展
を観に行って来ました。

図録を参照すると、名古屋会場は
 2016年4月29日(金)~7月3日(日)
の日程で、
 名古屋市美術館
 中日新聞社
 NHK名古屋放送局
の主催となっています。

東京で生まれ、パリで活躍した画家
藤田嗣治(ふじたつぐはる 1886.11-1968.1)氏については、
辛うじて名前を知っているくらいで、
意識して観たことはありませんでした。

彼がどんな人物なのかはこれからじっくり学ぶとして、
今回は、この展覧会で観た作品のなかから、
私の心にピンと来たものを選び出しておきます。

図録を参照すると、
展示はつぎの6章から構成されていました。

 Ⅰ 模索の時代 1909-1918
 Ⅱ パリ画壇の寵児 1919-1929
 Ⅲ さまよう画家 1930-1937
 Ⅳ 戦争と国家 1938-1948
 Ⅴ フランスとの再会 1949-1963
 Ⅵ 平和への祈り 1952-1968


  ***

【Ⅰ 模索の時代 1909-1918】のなかでは、
「002 自画像」(1910)のみ印象に残りました。

才能がきらきらしている風ではなかったのですが、
それでも人物画に独特の才能があることは、
ほのか伝わって来ました。


【Ⅱ パリ画壇の寵児 1919-1929】は、
恐らく藤田の出世作が並んでいるのでしょうが、

私の好きな画風でないからなのか、
一見して心を奪われる圧倒的な作品は見つかりませんでした。

それでも人物の捉え方がかなり独特で、
ほんわかした雰囲気の柔らかな画風は、
深く印象に残りました。

この章でも、
「038 猫のいる自画像」(1927頃)と、
「042 自画像」「043 自画像」(1929)は、
私の好みではないのですが、ユーモラスな画風が印象に残りました。


【Ⅲ さまよう画家 1930-1937】は印象的な人物画が並びます。

ひとつひとつを観ていくと、
不思議な魅力に惹き込まれていくのですが、
これらの人物画が好きかといわれると、
私はあまり好きになれませんでした。

私だけかもしれませんが、
人物画は、ぱっと観たときの印象で
好き嫌いが大きく分かれてしまうので、
なかなか波長の合う作品には出会えません。

西洋画ではあまり観ない
日本の漫画をみるような独特の画法で、
藤田独自の世界感が表現されているとは思うのですが、

私には、
藤田の人物画には何かしら嫌味な部分を感じることが多く、
感銘を受けるまでには至りませんでした。


【Ⅳ 戦争と国家 1938-1948 】は、
「095 アッツ島玉砕」(1943)の持つ例外的な迫力に圧倒されました。

特に新しい技法を用いているわけではないようですが、
大きな画面から溢れんばかりに作者の熱い思いが伝わって来て、
深く心を揺さぶられました。

この作品を観られただけでも、
この展覧会に足を運んだ価値がありました。

他の作品とはまるで別人が描いたかのようにも感じました。

「アッツ島玉砕」を観てしまうと、
ほかの作品が一気に色あせてしまいましたが、

この章ではやはり「092 自画像」(1943)がすっと心に入って来ました。


【Ⅴ フランスとの再会 1949-1963 】は、
ある種吹っ切れたところがあったのか、

それ以前に見受けられた
藤田氏独特のアク、癖、嫌味といったものがほぼ無くなっていて、
私と波長の合う優れた作品が多く見つかりました。

「104 室内」(1950)
「107 ノートル=ダム・ド・ベルヴゼ。ヴィルヌーヴ=レ=ザヴィニョン」(1951)
「141 パリ、カスタニャ通り」(1958)

の3つの風景画は、
図録で観ると特別な作品には思えないのですが、
シンプルな構図と明るく透明な色彩に、
不思議と強く心洗われました。

この3作品ほどの強さは感じなかったのですが、

「153 ノートル=ダム=ド= パリ、フルール河岸」(1963)
「154 静物(夏の果物)」(1963)

の2つの風景画、静物画も同類の美しさがありました。

藤田氏の人物画は、
あまり好きになれなかったのですが、
この時期の風景画や静物画は、
もっと観てみたいと思いました。


【Ⅵ 平和への祈り 1952-1968 】は、
藤田氏の人生の総決算というべき作品群なのでしょうが、

私には、
昔の藤田氏の嫌味なところが強調されているように感じられ、
好きにはなれませんでした。

溢れんばかりの才能が、
芸術家としての行き場を探しているうちに、
何か違う方向にズレていった一生のように感じました。

ところどころで見受けられる、
とんでもなく高いレベルの芸術的な絵画と、
そこまでではない玄人ウケしそうなプロの作品とが混在していて、
興味深い画家であることを強く認識できました。


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