2018年11月18日日曜日

朝比奈隆&大阪フィルのベートーヴェン:交響曲第5番(2000年5月録音)

朝比奈隆(1908年7月9日-2001年12月)氏が亡くなる前年に、
大阪フィルハーモニー交響楽団とともに収録された

ドイツの作曲家
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
(Ludwig van Beethoven, 1770年12月16日頃-1827年3月26日)
交響曲全集から、第5番を聴きました。

朝比奈隆91歳の時(2000年5月3・10日)の録音です


ベートーヴェン
Disc1
①交響曲第5番 ハ短調 作品67《運命》
~2000年5月3日 アクロス福岡・シンフォニーホール

Disc2
②交響曲第5番 ハ短調 作品67《運命》
~2000年5月10日 大阪、ザ・シンフォニーホール

 大阪フィルハーモニー交響楽団
 朝比奈隆(指揮)
【OVCL-00021】※2000年6月発売

交響曲第5番は、
ベートーヴェン38歳の時(1808年12月22日)に
第6番《田園》とともに初演されました。

初演時は《田園》のほうが先に紹介され、
 交響曲第5番ヘ長調《田園》
 交響曲第6番ハ短調
とされていました。


   ***

こちらは〔Disc 1〕の福岡公演で、
普通なら発売を見合わせたかも、
と思わせるミスが出だしで起きてしまい、
全体にちぐはぐな印象の演奏になってしまったので、
元々〔Disc 2〕大阪公演に期待するしかありませんでした。

一週間後に行われた大阪公演では、
ミスを挽回する意図もあったのか、
程良い緊張感のはりつめた中、
充実した響きの名演が繰り広げられていました。

この最後の全集では、
ポニーキャニオンで録音した過去2度の全集のときよりも、
アンサンブルに一層磨きがかけられ、
聴きやすく美しいオケの響きが特徴的で、

この《運命》もオケの自然な響きの中に、
朝比奈ならではの雄渾な音楽が実現されていて、
素直に感動できました。


なおエクストンから
2008年12月に発売された全集のセット盤には、
5月10日の大阪公演(Disc 2)のほうが収録されました

こちらは大阪公演がはるかに優れているので、
今後2枚組のほうをあえて購入する必要はないでしょう。





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2018年11月11日日曜日

インバル&フランクフルト放送響のブルックナー:交響曲第2番(1988年録音)

イスラエルの指揮者
エリアフ・インバル(Eliahu Inbal, 1936年2月- )
の指揮する

ドイツのオーケストラ
フランクフルト放送交響楽団
(2005年にhr交響楽団に改称)の演奏で、

オーストリア帝国の作曲家
アントン・ブルックナー
(Anton Bruckner, 1824年9月4日-1896年10月11日)の
交響曲第2番 ハ短調 を聴きました。

指揮者52歳の時(1988年6月)の録音です


CD4
アントン・ブルックナー
交響曲第2番ハ短調(1877年稿) [ノヴァーク版]
録音:1988年6月。フランクフルト、アルテ・オーパー

フランクフルト放送交響楽団
エリアフ・インバル(指揮)
【TELDEC 11CD 2564 68022-8】※2014年4月発売


交響曲第2番ハ短調 は、

47歳の秋(1871年)に着手、
48歳の時(72年9月)に完成され、
49歳の時(73年10月)に初演されました。

この1872年9月に完成された楽譜を
第1稿「1872年稿」と呼んでいます

  「1872年縞」は長らく未出版でしたが、
  2005年にアメリカの音楽学者
  ウィリアム・キャラガン(William Carragan, 1937- )
  による校訂譜が出版されました。

  キャラガンの研究自体は
  1990年までにまとめられていたので、
  1991年には「キャラガン版」として録音、紹介されていました。 

完成した翌年(1873)に初演される際、
第1稿「1872年稿」そのままではなく、
すでに若干の改訂が行われていたことから、
初演時(1873年10月)の版を「1873年稿」と呼ぶことがあります

さらに、
初演の1年4ヶ月後(1876年2月)に再演される際、
より大きな改訂が行われました。

この再演にもとづく改訂稿を
第2稿「1877年稿」と呼んでいます


 ***

その後、
国際ブルックナー協会による校訂譜として、
ハース版とノヴァーク版が出版されますが、

1938年に出版されたハース版は、
「1877年稿」を基本としつつも、
適宜「1872年稿」の情報を織り込んだ楽譜となりました。

さらに、
1965年に出版されたノヴァーク版は、ハース版から
「1872年稿」の情報をカットする方針で編纂されましたが、
実際は、一部に「1872年稿」の情報を残したまま出版されました。


つまりノヴァーク版とは、ハース版と同じく
「1877年稿」を基本としつつも、
多少「1872年稿」の情報が残された楽譜となりました。

指揮者の判断によって「1872年稿」の部分をカットし、
完全な「1877年稿」として演奏できるようにもなっていますが、

「1877年稿」そのままだと
第4楽章に大きなカットが生じてしまうので、

録音などでノヴァーク版を用いる場合、
カットなしの「1877(+72)年稿」の状態で
演奏されることのほうが多いようです。

ざっと見た限りでは、
インバルはノヴァーク版をカットなしで演奏しているので、
「1877(+72)年稿」を再現した演奏ということになります。

  ※以上、主に根岸一美(ねぎしかずみ)著『作曲家◎人と作品シリーズ ブルックナー』(音楽之友社、2006年6月)と、ノーヴァク著(大崎滋生訳)「序文」(ブルックナー作曲/ノーヴァク監修『OGT202 交響曲第二番ハ短調(1887年稿)』音楽之友社、1986年5月)を参照。


   ***

こちらもヨッフム&
シュターツカペレ・ドレスデンの演奏と比べると、
オケの音がきれいに整えられて、スコアに書かれた音が、
すべて鮮やかに再現されているような印象を受けました。

ただ、
ヨッフムの燃焼度の高い演奏を聴いた後だと、

インバルの場合は、どこか客観的に
この曲を見つめる冷静な視線が感じられるので、
曲全体として受ける感銘の深さは、
ヨッフムに一歩譲ると言わざるを得ません。

それでも、
楽譜を見通しよく正確に再現して、
この曲のもつ等身大の魅力を自然に引き出せていると思うので、
初めてこの曲に触れる方にも、
十分お薦めできる演奏だと思います。

インバルは2011年5月に、
東京都交響楽団とともに同曲を再録音しているので、
いずれそちらも聴いてみたいと思います。



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2018年11月4日日曜日

インバル&フランクフルト放送響のブルックナー:交響曲第1番(1987年録音)

イスラエルの指揮者
エリアフ・インバル(Eliahu Inbal, 1936年2月- )
の指揮する

ドイツのオーケストラ
フランクフルト放送交響楽団
(2005年にhr交響楽団に改称)の演奏で、

オーストリア帝国の作曲家
アントン・ブルックナー
(Anton Bruckner, 1824年9月4日-1896年10月11日)の
交響曲第1番 ハ短調 を聴きました。

指揮者50歳の時(1987年1月)の録音です


CD3
アントン・ブルックナー
交響曲第1番ハ短調(リンツ稿) [ノヴァーク版]
録音:1987年1月(ライブ録音)。フランクフルト、アルテ・オーパー

フランクフルト放送交響楽団
エリアフ・インバル(指揮)

録音:1982~88年月。フランクフルト、アルテ・オーパー
【TELDEC 11CD 2564 68022-8】※2014年4月発売


交響曲第1番 ヘ短調 は、

ブルックナーが
41歳の時(1865)に着手、
42歳の時(1866)に完成し、 
44歳の時(1868)に初演されました。

この第1稿「リンツ稿」と呼んでいます

その後1877年と84年に細部の改訂が行われたので、

1935年に出版された
ハース校訂の「リンツ稿」(第1稿)では、
1877年の改訂を含めた状態で出版されました。


第1稿の初演から22年をへた
66歳の時(1890)に全面改訂が行われ、
翌91年に改訂稿の初演が行われました。

この第2稿「ウィーン稿」と呼んでいます

改訂稿の初演から2年後(1893)、
「ウィーン稿」(第2稿)に基づく「初版」が出版されました。

ブルックナーはこの3年後、
72歳の時(1896)に亡くなりますが、
1935年にハース校訂の「リンツ稿」が出版されるまで、
40年余り、第1番の出版譜は「ウィーン稿」しか存在しませんでした


本格的な校訂譜としては、1935年に、
ハース校訂による「ウィーン稿」と「リンツ稿」が出版され

その後、
1953年にノヴァーク校訂による「リンツ稿」が
1979年にノヴァーク校訂による「ウィーン稿」が
それぞれ出版されました。

ノヴァーク版の「ウィーン稿」は、
実際の校訂者名をとって「ブロッシェ版」と呼ばれることもあるそうです。


このCDでは、
1953年に出版されたノヴァーク校訂による
「リンツ稿」が用いられています。

 ※根岸一美『作曲家◎人と作品 ブルックナー』(音楽之友社、2006年6月)と、Wikipediaの「交響曲第1番(ブルックナー)」の項を参照。


   ***

ヨッフム&ドレスデン・シュターツカペレを聴いた後だと、

オケの音色が澄んで、
きれいに整っていることに気付かされます。

楽譜がきれいに鳴っているので、
スコア・リーディングにはもってこいの演奏ですが、

だからといって、
きれいなだけで無表情に聴こえる訳ではなく、
感動的に最後まで聴き通すことができるので、
持っていて後悔することはない、模範的な演奏だと思います。

どちらが感動するかといえば、
ヨッフム&ドレスデン・シュターツカペレのほうですが、

全体の構造がより伝わりやすいのは、
インバル&フランクフルト放送響のほうだと思います。


音質が多少硬めに聴こえるので、
マーラーのように、
Blu-spec CD などの音質改善があれば、
なおのこと聴き映えするはずですが、
今のままでも大きな不満はありません。



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