2019年1月20日日曜日

バリリ四重奏団のベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番(1952-53年)

ウィーン・フィルの第1コンサートマスターを務めた
ウィーン生まれのヴァイオリニスト
ワルター・バリリ(Walter Barylli, 1921年6月~)が、
1945年に、ウィーン・フィルの同僚たちとともに結成した
バリリ四重奏団の演奏。

結成7年目から11年目
(1952-56年)にかけて録音された
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
(Ludwig van Beethoven, 1770年12月-1827年3月)
弦楽四重奏曲全集3枚目として、

ベートーヴェン36歳の時(1807年)に出版された
作品59《ラズモフスキー》3曲中のはじめの1曲を聴きました。


バリリ四重奏団の芸術~
Disc3
ベートーヴェン:
① 弦楽四重奏曲第7番ヘ長調 Op.59-1『ラズモフスキー第1番』*
② 弦楽五重奏曲ハ長調 Op.29**

バリリ四重奏団
 ヴァルター・バリリ(第1ヴァイオリン)
 オットー・シュトラッサー(第2ヴァイオリン)
 ルドルフ・シュトレンク(ヴィオラ)
 エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)*

 リヒャルト・クロチャック(チェロ)
 ヴィルヘルム・ヒュプナー(第2ヴィオラ)**
録音時期:1955年(第7番)、1953年
【SCRIBENDUM SC805】※2016年7月発売

1・2枚目に収録された
弦楽四重奏曲第1-6番 Op.18 は、

ベートーヴェンが
30歳の時(1801年6・10月)に出版された作品です。

これに続く弦楽四重奏曲第7-9番
《ラズモフスキー第1-3番》Op59 は、
第1-6番の出版から6年を経、

ベートーヴェンが
36歳の時(1807年4月)までに初演され、
翌年1月に出版された作品です。


併録されている
弦楽五重奏曲ハ長調 Op.29 は、

第1-6番の弦楽四重奏曲が出版された翌年、
ベートーヴェンが
31歳の時(1802年5月)に初演され、
同年12月に出版された作品です。


ほかの有名作品との成立順序を整理しておきます。

  ◯ヴァイオリンソナタ 第1-3番 Op.12
弦楽四重奏曲第1-6番 Op.18
 ◇交響曲第1番 Op.21
  ◯ヴァイオリンソナタ 第4番 Op.23
  ◯ヴァイオリンソナタ 第5番 Op.24
弦楽五重奏曲ハ長調 Op.29
  ◯ヴァイオリンソナタ 第6-8番 Op.30
 ◇交響曲第2番 Op.36
  ◯ヴァイオリンソナタ 第9番 Op.47《クロイツェル》
 ◇交響曲第3番 Op.55《英雄》
弦楽四重奏曲第7-9番 Op.59《ラズモフスキー》
 ◇交響曲第4番 Op.60


  ***

《ラズモフスキー》第1番は、
第1-6番までの古典的な雰囲気とはがらりと変わり、
目新しさ満載で、ベートーヴェンならではの
個性の深まりを感じさせる作品でした。

第1-6番の3曲が
交響曲第1番よりも前に作られていたのに対して、

第7-9番《ラズモフスキー》の3曲は、
交響曲第2番、第3番《英雄》
そしてヴァイオリン・ソナタ第9番《クロイツェル》などが
作曲された「後」に生み出された作品であることがわかれば、

曲としての充実度の違いも当然のように思われました。

それなりに新鮮に響いていたはずの初期の6曲が、
《ラズモフスキー》を聴いた後だとかなり色褪せて聴こえてしまいました。

バリリ四重奏団の演奏は、
初めて聴く耳にも自然に曲の魅力が伝わる、
丁度よいバランスの演奏に仕上がっているように感じました。

これで満足なのですが、
良い曲なのでほかの方々の演奏も聴いてみたくなりました。


もう1曲、
これまで聴いた記憶のなかった
弦楽五重奏曲ハ長調 Op.29 は、成立時期を含めて、
《ラズモフスキー》よりも初期の第1-6番に近い印象の作品でした。

《ラズモフスキー》と組み合わせたからなのか、
さほど新しさを感じることはなく、かなり平凡な作品に聴こえました。

組み合わせによって印象は異なるはずなので、
ほかの組み合わせのCDはないか探してみます。



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2019年1月13日日曜日

インバル&フランクフルト放送響のブルックナー:交響曲第0番(1990年録音)

イスラエルの指揮者
エリアフ・インバル(Eliahu Inbal, 1936年2月- )
の指揮する

ドイツのオーケストラ
フランクフルト放送交響楽団
(2005年にhr交響楽団に改称)の演奏で、

オーストリア帝国の作曲家
アントン・ブルックナー
(Anton Bruckner, 1824年9月4日-1896年10月11日)の
交響曲第0番 ニ短調 を聴きました。

指揮者53歳の時(1990年1月)の録音です


CD2
ブルックナー
交響曲第0番ニ短調 WAB100 [ノヴァーク版]

フランクフルト放送交響楽団
エリアフ・インバル(指揮)
録音:1990年1月。フランクフルト、アルテ・オーパー
【TELDEC 11CD 2564 68022-8】※2014年4月発売


交響曲 第0番 ニ短調 は、
ブルックナーが44歳の時、
1869年1月から9月にかけて作曲され、
45歳を迎えて間もなくの同(1869)年9月12日に完成されました

 第1番ヘ短調
 42歳の時(1866年4月)に完成し、
 44歳の時(1868年)に初演。

 第2番ハ短調 は、
 48歳の時(72年9月)に完成され、
 49歳の時(73年10月)に初演されているので、

第0番は本来、
第1番につづく第2番として作曲されたことがわかります。

ウィーン・フィルの指揮者
オットー・デッソフ(Otto Dessoff, 1835-92)
に意見を求めたところ否定的な評価を受けたため、
そのまま撤回された作品です。


全曲初演はブルックナーの没後、
27年をへた1924年5月に行われました。

出版譜は「ヴェス版」と「ノヴァーク版」の2種類あります。

1924年にオーストリアの作曲家
ヨーゼフ・ヴェス(Josef Wöss, 1863-1943)
によって「初版」が出版されました。

そののち、ハース版(旧全集)に同曲は収録されず、
1968年にノヴァーク版(新全集)の総譜が出版されました。

完成後そのまま封印された作品なので、
のちの多くの交響曲のように、
複数の稿の問題に頭を悩まされることはありません。

※ 根岸一美著『作曲家◎人と作品シリーズ ブルックナー』(音楽之友社、2006年6月)と、Wikipedia の「交響曲ヘ短調(ブルックナー)」の項目を参照。


  ***

第00番に続いて第0番も聴いてみました。
こちらも今回初めて聴きました。

第00番がいかにも習作といった感じの作品だったので、
第0番も似たようなものかと思ったのですが、

実際に聴いてみると、
第1番や第2番と同じレベルか、
聴き慣れていない分、より充実した内容の作品に聴こえました。

驚いて調べてみると、第0番というものの、
第1番より後、第2番より前に書かれた
「第1.5番」というべき作品であったことがわかりました。

初めて聴いたからか、
第1番や第2番よりも新鮮な驚きがあって、
感動のもと全曲を聴き終えることができました。

初期の交響曲に聴かれる
絶品の Adagio がもう1曲増えた喜びも大きいのですが、

初期の交響曲について、
(改訂の施されていない)初稿のままの状態でも、
十分に完成度の高い作品であったことがわかった点も大きいです。

第1番と第2番も、
初稿のままならどんな風に聴こえるのか、
興味が出て来ました。

第1番については
ハース版にせよ、ノヴァーク版にせよ、
すでに第1稿(リンツ稿)にもとづいて出版されているのですが、

第2番はハース版でも、ノヴァーク版でも、
第1稿(1872年稿)は出版されなかったので、
キャラガン版が公にされるまでは耳にする機会がありませんでした。

今後、交響曲第3番に進む前に、
キャラガン校訂の第1稿(1872年鋼)で、
第2番の演奏を聴いてみたいと思っています。



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2019年1月6日日曜日

インバル&フランクフルト放送響のブルックナー:交響曲第00番(1992年録音)

インバル&フランクフルト放送響のブルックナー、
ヨッフム&ドレスデン・シュターツカペレの全集には含まれていない
第00番第0番も収録されているので、聴いてみることにしました。
ほぼ初めて聴く作品です。

  ***

イスラエルの指揮者
エリアフ・インバル(Eliahu Inbal, 1936年2月- )
の指揮する

ドイツのオーケストラ
フランクフルト放送交響楽団
(2005年にhr交響楽団に改称)の演奏で、

オーストリア帝国の作曲家
アントン・ブルックナー
(Anton Bruckner, 1824年9月4日-1896年10月11日)の
交響曲第00番 ヘ短調 を聴きました。

指揮者56歳の時(1992年5月)の録音です


CD1
アントン・ブルックナー
交響曲第00番 ヘ短調 WAB99 [ノヴァーク版]

フランクフルト放送交響楽団
エリアフ・インバル(指揮)
録音:1992年5月。フランクフルト、アルテ・オーパー
【TELDEC 11CD 2564 68022-8】※2014年4月発売


交響曲ヘ短調はブルックナーが38歳の時、
1863年1月から5月にかけて作曲されました

交響曲第1番が完成するのは、
41歳の時(1866年4月)のことなので、
第1番が完成する3年ほど前に作られた作品ということになります。


生前に演奏される機会はなく、
没後28年をへた1925年2月に全曲初演されました。

楽譜は没後17年をへた1913年に、
オーストリアのウニヴェルザール社(ユニバーサル)から出版されました。

ハース版(旧全集)に同曲は収録されず、
1973年にノヴァーク版(新全集)の総譜が出版されました。

もともと習作として作られた作品なので、
のちの多くの交響曲のように、
複数の稿の問題はありません。

※ 根岸一美著『作曲家◎人と作品シリーズ ブルックナー』(音楽之友社、2006年6月)と、Wikipedia の「交響曲ヘ短調(ブルックナー)」の項目を参照。


  ***

第00番と第0番は番号だけを見ると、
2曲とも第1番より前に作られたように感じますが、

実際には第0番は、
第1番よりあと第2番より前に作られた
「第1.5番」とも呼ぶべき作品なので、

第1番より前に書かれた交響曲はこの第00番のみで、
ふつうは習作と判断されています。

今回初めて聴いてみると、
確かに、これはブルックナーです、
とはじめに教えてもらわなければ、
聴いてすぐには気がつきにくい、
習作的な作品だと納得できました。

聴くに堪えないわけではなく、
ブルックナーの習作であるとわかった上で聴くのなら、
それなりに興味深く聴けると思いますが、
コンサートの最後がこの曲なら、
少し残念な気持ちになるかもしれません。

個人的には、
シューマンの未知の作品を聴いているようでもあり、
まずまず楽しむことができました。

インバルの録音は、楽譜の内容を正確に、
ほどほどに面白く聴かせてくれていると思います。

解釈によっては、
より面白く聴かせられるのかもしれませんが、
曲の紹介としては十分に役割を果たしていると思います。



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