2015年10月22日木曜日

ディースカウ&デムスのシューベルト:歌曲集《冬の旅》(1965年録音)

ドイツのバリトン歌手
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
(1925.5.28-2012.5)の歌、

オーストリアのピアニスト、
イェルク・デムス(1928.12- )の伴奏で、

オーストリアの作曲家
フランツ・シューベルト(1797.1-1828.11)の
歌曲集《冬の歌》を聴きました。

ディースカウ39歳の時(1965.5.11-15)の録音です


フランツ・シューベルト
歌曲集《冬の旅 Winterreise 》作品89 D911
~ヴィルヘルム・ミュラーの詩による連作歌曲
 第1部
 1) おやすみ
 2) 風見
 3) 凍った涙
 4) 氷結
 5) 菩提樹
 6) 雪どけの水流
 7) 川の上で
 8) かえりみ
 9) 鬼火
 10) 休息
 11) 春の夢
 12) 孤独
 第2部
 13) 郵便馬車
 14) 白い頭
 15) 鴉
 16) 最後の希望
 17) 村にて
 18) 嵐の朝
 19) 幻
 20) 道しるべ
 21) 宿屋
 22) 勇気を!
 23) 幻日
 24) ライアー回し

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
イェルク・デムス(ピアノ)
録音:1965年5月11-15日、ベルリン
【UCCG-5080】※2006年11月

歌曲集《冬の歌》は
30歳の時(1827)に作曲されました

30というとまだ若書きのように感じられますが、
この翌年(1828.11)には亡くなっています。

第1部は1828年1月、
第2部は没後間もなくの28年12月に出版されました。


  ***

外国語の歌は、予習なしでは
歌詞の意味がよくわかりませんし、

対訳でおおまかな意味をつかんでも、
日本語の歌のように、
歌詞の一語一語に深く共感することは難しいので、

それほど積極的には聴いていません。

歌があってこその音楽なので、
それではいけないのでしょうが、

外国語の歌にはまだかなり距離があります。


  ***

シューベルトの《冬の旅》は、

十代後半のころに、
フィッシャー=ディースカウの来日公演(1987年?)を
テレビで観たのが初めだったように記憶しています。

細かな記憶は消え去っていますが、
ディースカウの圧倒的な歌唱力とともに、

シューベルトの歌曲の、
それまで聴いたことのないレベルでの、
絶望的な暗さに驚いたことを覚えています。

歌といえば、
人の心を明るく元気にするものだと思い込んでいましたので、

こんなに暗い歌を、
どうしてわざわざ聴かないといけないのだろうと思い、

その後しばらく、
シューベルトの歌曲を聴くことはなくなっていました。

最近、古本屋で偶然、
ディースカウの《冬の旅》を見かけ、
久しぶりに聴いてみることにしました。


  ***

ドイツ語の歌詞はわからないままですが、

ほの暗くも美しい
シューベルトの音楽が心にすっと入り込んできて、

思っていたよりも深く共感しながら
全曲を聴き通すことができました。

昔は絶望的過ぎて
今一つ良さがわからなかった歌曲集も、

それなりに年齢を重ねてきたからか、

シューベルト特有の
和声のうつろいを感じ取れるようになって、

単に暗いだけではない、
独特な力強さ、深さをそなえた歌曲のおもしろさに浸ることが出来ました。


ディースカウの歌はやはり別格に上手いですね。
声を聴いているだけでも惚れ惚れします。

時に上手すぎるというか、
圧倒的な表現力がかえって耳につくところもあるのですが、

これだけ聴かせてくれれば
私には十分以上の出来でした。


デムスのピアノは
軽やかで淡々とした印象で、
ディースカウとは方向性が違うようですが、

シューベルトには一家言ある方なので、
不思議と説得力があって、

全体として程良い調和感のある、
聴きやすい《冬の旅》に仕上がっていると思いました。

良い機会なので、
シューベルトやシューマンなどの
ほかの有名なドイツ歌曲も聴いてみたいと思っています。


※Wikipediaの「ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ」「イェルク・デームス 」「フランツ・シューベルト」「冬の旅」を参照。

2015年10月19日月曜日

ヤンドーのハイドン:ピアノ・ソナタ全集 その9(1993年録音)

ハンガリーのピアニスト
イエネ・ヤンドー(1952 - )さんの
ハイドン:ピアノ・ソナタ全集

9枚目は、
ウィーン原典版(旧版)の通し番号で、
第53-56・58番のソナタ5曲を聴きました。


フランツ・ヨセフ・ハイドン(1732 - 1809)
 1) ピアノ・ソナタ 第53番 ホ短調 作品42 Hob.XVI:34
 2) ピアノ・ソナタ 第54番 ト長調 作品37-1 Hob.XVI:40
 3) ピアノ・ソナタ 第55番 変ロ長調 作品37-2 Hob.XVI:41
 4) ピアノ・ソナタ 第56番 ニ長調 作品37-3 Hob.XVI:42
 5) ピアノ・ソナタ 第58番 ハ長調 作品89 Hob.XVI:48
 6) アンダンテと変奏曲 ヘ短調 作品83 Hob.XVII:6

イエネ・ヤンドー(ピアノ)
録音:1993年3月12・13・15・16日、ブダベスト、ユニテリアン教会
【Naxos 8.550845】

ハイドンが、
42歳の時(1774)に初めて出版された
クラーヴィア・ソナタ集が
 作品13 Hob.XVI:21-26〔全6曲〕※第36-41番

46歳の時(1778)に出版された
2番目のクラーヴィア・ソナタ集が
 作品14 Hob/XVI:27-32〔全6曲〕※第42-47

48歳の時(1780)に出版された
3番目のクラーヴィア・ソナタ集が
 作品30 Hob/XVI:35-39・20〔全6曲〕※第48-52・33番

でした。

このCDに収められているのは、
その後の作品で、

52歳の時(1784)に出版された
クラーヴィア・ソナタ集
 作品37 Hob.XVI:40-42〔全3曲〕※第54-56番

と、同じ年に出版された
クラーヴィア・ソナタ
 作品42 Hob.XVI:34〔全1曲〕※第53番

の4曲をメインとして、

この5年後、
57歳の時(1789)に出版された
クラーヴィア・ソナタ
 作品89 Hob.XVI:48〔全1曲〕※58番

と、67歳の時(1799)に出版された
アンダンテと変奏曲
 作品83 Hob.XVI:6〔全1曲

の2曲が収録されています。

作品83の変奏曲は、
「ハイドンのクラヴィーアによる変奏曲の頂点に立つとともに、
 クラヴィーア独奏曲のなかでも屈指の傑作とされる作品」
だそうです(中野博司『ハイドン復活』春秋社、187頁)。


  ***

どれも初めて聴きますが、
もうこのあたりになると、

どれも充実した内容の作品で、
飽きることなく楽しみながら聴き進めることができました。

コンサートで取り上げても、
十分聴かせどころのある名曲ぞろいだと思います。

内容的に深まってきても、
ハイドンらしく押しつけがましい所はないので、

こちらの思考を妨げることなく、
仕事のBGMにちょうどよいです。

BGM用に
ほかにも色々なCDを流しますが、
場の雰囲気を、明るく晴れ晴れとしたものに変える力は、
ほかのどの作曲家よりも強いと思います。

ヤンドーさんのピアノも、
正統派で、技術的に申し分なく、
明るくきっぱりとした印象のあるところが
ハイドンにぴったりで、

このCDでも十分に楽しませてくれました。


※中野博司著『ハイドン復活』(春秋社、1995年11月)参照。

※Wikipediaの
 「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」
 「ハイドンのピアノソナタ一覧」
 「ハイドンのピアノ曲一覧」
 「ホーボーケン番号」の各項目を参照。

※ピティナ・ピアノ曲事典の「ハイドン」を参照。

2015年10月12日月曜日

シュナイダーハンのシューベルト:ヴァイオリン・ソナタ集(1953-54年録音)

オーストリアのウィーン生まれのヴァイオリニスト
ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915.5-2002.5)と、

ドイツのブレーメン生まれのピアニスト、
カール・ゼーマン(1910.5-1983.11)の演奏で、

オーストリアの作曲家
フランツ・シューベルト(1797.1-1828.11)の
ヴァイオリン・ソナタ集を聴きました。

シュナイダーハン38-39歳(1953-54年)の時の録音です


フランツ・シューベルト
ヴァイオリン・ソナタ イ長調 作品162 D574《二重奏曲》
ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ
 第1番 ニ長調 作品137-1 D384
 第2番 イ短調 作品137-2 D385
 第3番 ト短調 作品137-3 D408

ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン)
カール・ゼーマン(ピアノ)
録音:1954年12月16日、ハノーファー、ベートーヴェン・ザール《二重奏曲》。1953年9月25-27日、ウィーン、コンツェルトハウス《ソナチネ》。
【POCG-90182】※1998年12月発売。

シューベルトによる
ヴァイオリンとピアノのための作品は、
これまでほとんど聴いて来なかったので、
よく知りませんでした。

調べてみると、

1-3) ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ
   ◎第1番 ニ長調 作品137-1 D384〔1816年3月〕
   ◎第2番 イ短調 作品137-2 D385〔1816年3月〕
   ◎第3番 ト短調 作品137-3 D408〔1816年4月〕※19歳

4) ヴァイオリン・ソナタ
  ◎イ長調 作品162 D574〔1817年8月〕※20歳

5) ヴァイオリンとピアノのためのロンド
  ロ短調 作品70 D895〔1826年10月〕※29歳

6) ヴァイオリンとピアノのための幻想曲
  ハ長調 作品159 D934〔1827年12月〕※30歳

の6曲作られていることがわかりました。

シュナイダーハンの
この時(1953-54年/38-39歳)の録音では、
はじめの4曲までしか収録されていません。

12年後(1965-66年/50-51歳)に再録した時には、
全6曲を収録していますが、

50年代の録音と比べると、
シュナイダーハンならではの美音にかげりみえ、
技術面でもほんの少し衰えがみえるようで、

あまり魅力的に思えませんでした。


  ***

今回の録音、
これらの曲を知らない私が聴いても、

シューベルトの曲の美しさにしみじみ浸れる演奏で、
曲の魅力が過不足なくひきだされているように感じました。

何も特別なことはせずに、
生まれながらそこにある音楽として、
よい雰囲気が醸し出されていると思いました。

贅沢をいわなければ、
十分な名演と言って良いのですが、

モーツァルトのソナタで聴いた
奇跡的なバランスの演奏と比べると、

ほんのわずかなのですが、
あと一歩、曲の内面に切り込んでくる、
ドキッとするような要素が足りないように思われました。

繰り返し聴いて、
どんな曲なのかはよくわかって来ましたので、

ここからスタートして、
ほかの演奏にも耳を通してみようと思います。


※Wikipediaの「フランツ・シューベルト」「ヴォルフガング・シュナイダーハン 」「カール・ゼーマン」を参照。
※藤田晴子著『シューベルト 生涯と作品』(音楽之友社、2002年11月)を参照。

2015年10月5日月曜日

宇宿允人&フロイデ・フィルのベートーヴェン:交響曲第3番(2009年録音)

宇宿允人(うすきまさと 1934.11-2011.3)氏の指揮する
フロイデ・フィルハーモニーの演奏で、

ドイツの作曲家
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
(1770.12-1827.3)の交響曲第3番《英雄》を聴きました。

指揮者74歳の時(2009.1)の録音です

朝比奈隆、山田一雄両氏の
最晩年の《英雄》を聴いて来て、

そういえば宇宿允人氏の演奏はどうだったのだろうと思い、
聴いてみることにしました。


宇宿允人の世界27

ベートーヴェン:
交響曲第3番 変ホ長調 作品53《英雄》
マスネ:タイースの瞑想曲

宇宿允人(指揮)
フロイデ・フィルハーモニー
録音:2009年1月21日(水)、《宇宿允人の世界》第179回公演、東京芸術劇場大ホール
【MUCD-027】

ベートーヴェン
34歳の時(1804.12)に初演された
交響曲第3番《英雄》をメインとして、

フランスの作曲家
ジュール・マスネ(1842.5-1912.8)の
オペラ《タイス》の間奏曲を添えたプログラムです。

タイス》は作曲者52歳の時(1894)に初演されています。

このコンサートでは、
ソロ・ヴァイオリンの独奏パートを、
第1ヴァイオリンで合奏させています。


 ***

宇宿允人氏は、規格外な指揮姿で
誤解されている面もあるように思われますが、

CDを聴くかぎり、
どこも偏狭なところはなく、
オーソドックスなスタイルの中に、
実にまっとうな演奏が繰り広げられていて、
逆に驚かされます。

アマチュアのオーケストラを相手にしているので、
CDではあと一歩、物足りなく感じることも多いのですが、

うまくはまった時の演奏は、
並みの指揮者にとても太刀打ちできない、
めったにないレベルの感動を与えてくれます。


  ***

宇宿氏のベートーヴェンは、
はじめに2002年録音の《運命》・第8番・第9番を聴きました。

この時は、オケの粗さが目立ち、
ほかを圧倒する何かがあるとは感じませんでした。

その後、
2006年12月に録音された
ベートーヴェンの第九を聴いたところ、

オケの水準も指揮者の表現力も、
一つ上につきぬけた印象があって、
予想を遥かにこえる大きな感銘を受けました。

いたってオーソドックスなスタイルなのですが、
ほかの指揮者とは明らかに違う、
ベートーヴェンの音楽のもつ美しさがすんなりと伝わって来る演奏でした。

宇宿氏が、
晩年に演奏されたベートーヴェンのなかには、
飛び抜けて素晴らしいものがあるようです。

ライブ録音のCDを一枚ずつ聴いていこうと思っております。


  ***

前置きが長すぎました。

この2009年の《英雄》、
2006年の第九に比べると、
オケの調子が万全ではありません。

第1・2・4楽章は、
個人的には全然問題ないのですが、
第3楽章にかなり致命的なミスがあるため、
この楽章のみは大きくマイナスです。

しかし第3楽章をのぞけば、
まとめにくい第1楽章を含めて、

わかりやすく有機的に全体をまとめ上げ、
深く感動させられる演奏が繰り広げられていました。

《英雄》はまとめにくい曲なので、

誰の演奏を聴いても、
CDだと退屈に感じられることが多いのですが、

曲想に合わせて、ごく自然に、
自在にテンポを動かせるところが強みになるのか、

どこも退屈なところのない、
《英雄》たるに相応しい、手に汗握る演奏が展開されていました。

最近聴いた
朝比奈隆や山田一雄の
晩年の《英雄》と比べるなら、

オケのレベルは相当落ちますが、
宇宿氏のライブのほうが俄然感動的で、
おもしろい演奏を聴かせてくれました。

キズがあるのは難点ですが、
今一つ《英雄》の良さがわからない方に、
ぜひ聴いていただきたい演奏です。

宇宿氏は、
この2年前の《英雄》もCD化されているので、
ぜひ聴いてみようと思います。

キズがなければ、
そちらのほうが良い演奏かもしれません。


もう一点、
こちらはあまり期待していなかったのですが、
アンコールの《タイス》も絶品です。

ほかの管弦楽曲も聴いてみたくなりました。


※Wikipediaの「ジュール・マスネ」を参照。