2015年11月23日月曜日

渡邉暁雄&日本フィルのシベリウス:交響曲第1番(1962年録音)

渡邉暁雄(1919.6.5-1990.6)の指揮する
日本フィルハーモニー交響楽団の演奏で、

フィンランドの作曲家
ジャン・シベリウス(1865.12-1957.9)の
交響曲第1番を聴きました。

指揮者42歳の時(1962.5)の録音です


シベリウス
交響曲第1番 ホ短調 作品39

渡邊暁雄(指揮)
日本フィルハーモニー交響楽団
録音:1962年5月7・8日、東京文化会館
【TWCO-29/32】CD1 ※2012年12月発売


交響曲第1番 ホ短調 作品39 は、
シベリウスが33歳の時(1899.4)に初演されました

同じ年(1899.11)に、
交響詩《フィンランディア》作品26
も初演されています。

この7年前、
26歳の時(1892.4)に
クレルヴォ交響曲 作品7
が初演されていますが、
初演後、生前に再演されることはなく、
交響曲として通番が付されることはありませんでした。

第1番の初演後、3年をへて
36歳の時(1902.3)に初演されたのが
交響曲第2番 ニ長調 作品42
です。


  ***

第1番は、
北欧のほの暗い雰囲気たっぷりの出だしで、
思わず惹きつけられるのですが、

意外にまとめにくいところがあるようで、
しばらく聴いていると間延びした感じになって、
途中で飽きが来てしまうことも多いです。


ベルグルンド&ボーンマス響
の名演を聴いて(1974年録音)、
ようやくこの曲の全体像をつかんだ気でいましたが、

渡邉暁雄&日本フィル
の旧盤を聴いて(1962年録音)、
ベルグルンドを凌ぐ感銘を受けました。

両者ともに、
楽譜への深い共感にもとづいた熱気のある演奏で、
甲乙つけがたい名演だと思いますが、

ベルグルンドのほうが、
コンサート会場で実際に聴くような、
オケ全体をひとまとめに捉えた、
野太い感じの自然な音作りなのに対して、

渡邉暁雄のほうは、
楽譜のすべての音を分離よく捉えられた、
セッション録音独特の音で、
コンサートではまず聴こえないところまで聴こえて来て、
最初のうちは多少の違和感もありました。

しかしいかにも人工的に作り込んでいるわけではなく、

不思議な統一感があって、
シベリウスの頭の中で鳴っていたはずの音が、
すべて有機的につながりをもって聴こえてくる風なので、
有無を言わさない強い説得力がありました。

  ***

ちなみに久しぶりに
渡邊暁雄&日本フィル
の新盤(1981年9月録音)も聞き直してみましたが、


オケの精度によるのか、
慣れないデジタル録音によるのか、

フォルテが耳にうるさく響き、
曲の美しさにひたる以前の問題で、
全曲聴き通すことができませんでした。

旧録音のほうが、
圧倒的に優れていると思います。


なお上に掲げた、
ベルグルンド&ボーンマス響 (1974年9月録音)
は、ぜひ輸入盤【EMI 50999 9 7366 2 5】を。

2012年6月に
日本で再販された盤もありますが、
輸入盤とはほぼ別物の残念な音質なので、
あまり評価できません。


ベルグルンドには12年後の再録音
ベルグルンド&ヘルシンキ・フィル (1986年5月録音)
もあり、そちらのほうが一般には有名ですが、

これも最近(2015年5月)、
日本で再販された盤は残念な音質なので、
選ぶなら輸入盤【EMI 7243 4 76963 2 9】だと思います。



しかしこの輸入盤を聴いても、
万全な演奏ではないように感じます。

前より解釈が深まっているのは明らかなのですが、
その分持ってまわった感じがして、
不思議と心に響いて来ないのです。

細部が今一つ明快に聴こえないところもマイナスです。

リマスター次第のようにも感じるので、
評価は別の機会に置いておきます。

2015年11月18日水曜日

名古屋市美術館の特別展「リバプール国立美術館所蔵 英国の夢 ラファエル前派展」

11月14日(日)に
名古屋市美術館まで特別展

「リバプール国立美術館所蔵
 英国の夢
 ラファエル前派展」

を観に行ってきました。

 新潟市美術館〔2015年7月19日-9月23日〕
 名古屋市美術館〔2015年10月3日-12月13日〕
 Bunkamura ザ・ミュージアム〔2015年12月22日-2016年3月6日〕
 山口県立美術館〔2016年3月18日-5月8日〕

の4箇所で開催されています。名古屋展の主催は、

 名古屋市美術館
 中日新聞社

となっていました〔図録参照〕。

  ***

「英国の」とあるので、
落ちついて考えれば事前に気がついたはずですが、

16世紀初めのイタリアの画家
ラファエロ・サンティ(1493.4-1520.4)
の絵画が観られると早合点していました。

入館して、1850年代から1910年代の
イギリス絵画がずらりと並んでいるのをみて、

「ラファエル前派」とは
19世紀半ばにイギリスで活躍した画家の集団
であることを知りました。

美術は好きな方ですが、
きちんと勉強したことがないので、
時にこんな間違いもあるでしょう。

図録を少し読んでみましたが、
専門家向けで初心者にはわかりにくかったので、

「ラファエル前派」についてまとめるのは別の機会に譲り、
知識ゼロのなかで懐いた感想を記しておきます。


ぱっとみて、
古典的な様式の枠組みを壊そうとするような、
強い衝動に駆られた、毒のある作品は見当たりませんでした。

ただ古典的な様式を用いながらも、
絵から伝わる印象は意外に新しく、
瑞々しい感性が巧みに織り込まれていて、
思わず惹き込まれる魅力のある作品がたくさん見つかりました。

形式的な新しさを追うよりは、
作品の内面的な美しさに目を向けていたようで、
イギリス音楽に似た特色を感じました。


  ***

展示会の図録から、
印象深かった作品10点を挙げておきます。
とくに感動した作品に☆印をつけました。

Ⅰ. ヴィクトリア朝のロマン主義者たち

ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829-1896)
《良い決心》1877年【図録7】☆
《巣》1887年初出品【図録8】

ジョージ・ジョン・ピンウェル(1842-1875)
《ギルバート・ア・ベケットの誠実 ―夕暮れ時にロンドンへ入るサラセン人の乙女》1872年【図録17】

Ⅱ. 古代世界を描いた画家たち

チャールズ・エドワード・ペルジーニ(1839-1918)
《ドルチェ・ファール・ニエンテ(甘美なる無為)》1882年初出品【図録28】
《シャクヤクの花》1887年初出品【図録29】☆

エドワード・ジョン・ポインター(1836-1919)
《テラスにて》1889年初出品【図録31】

アーサー・ハッカー(1858-1919)
《ペラジアとフィラモン》1887年【図録33】☆

Ⅲ. 戸外の情景

ウィリアム・ヘンリー・ハント(1790-1864)
《卵のあるツグミの巣とプリムラの籠》1850-60頃【図録37】☆

ヘレン・アリンガム(1848-1926)
《ピナーの田舎家》1890年代初め【図録45】☆

Ⅳ. 19世紀後半の象徴主義者たち

エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ(1833-1898)
《フラジオレットを吹く天使》1878年【図録54】☆

はっきりとしたわかりやすい印象の
人物画が多かったです。

神話などを題材としつつも、
19世紀後半の「今」の感性を大切にした
瑞々しい作品に心を揺さぶられました。

お薦めの展覧会です。


※Wikipediaの「ラファエロ・サンティ」「ラファエル前派」を参照。

2015年11月9日月曜日

ヘフリガーのシューベルト:歌曲集《美しき水車小屋の娘》(1982年録音)

スイス出身のテノール歌手
エルンスト・ヘフリガー
(Ernst Haefliger 1919.7-2007.3)の歌唱、

スイス出身の鍵盤楽器奏者
イェルク・エーヴァルト・デーラー
(Jörg Ewald Dähler 1933.3-)の伴奏で、

オーストリアの作曲家
フランツ・シューベルト
(Franz Schubert 1797.1-1828.11)の
歌曲集《美しき水車小屋の娘》を聴きました。

ヘフリガー62歳の時(1982.6)の録音です


フランツ・シューベルト
歌曲集《美しき水車小屋の娘》作品25 D795
~ヴィルヘルム・ミュラーの詩による連作歌曲

 1) さすらい
 2) どこへ?
 3) 止まれ!
 4) 小川に寄せる感謝の言葉
 5) 仕事を終えた宵の集いで
 6) 知りたがる男
 7) いらだち
 8) 朝の挨拶
 9) 粉ひき職人の花
10) 涙の雨
11) 僕のものだ!
12) 休息
13) リュートの緑色のリボンを手に
14) 狩人
15) 嫉妬と誇り
16) 好きな色
17) 邪悪な色
18) 枯れた花
19) 粉ひき職人と小川
20) 小川の子守歌

エルンスト・ヘフリガー(テノール)
イェルク・エーヴァルト・デーラー(ハンマーフリューゲル)
録音:1982年6月、ゼオン福音教会、スイス、アールガウ州
【KICC3710】

歌曲集《美しき水車小屋の娘》は、
シューベルトの三大歌曲集のうち最初のもので、
26歳の時(1823年5-11月)に作曲されました

亡くなる1年前(1827年2-10月)に作曲された
歌曲集《冬の旅》の4年前にまとめられました。

  ***

秋に久しぶりに、
フィッシャー・ディースカウの
《冬の旅》を聴いて、

彼の歌唱でほかの歌曲集も聴こうと思っていたのですが、

つい最近、1枚1,000円ほどで
ヘフリガーの三大歌曲集が再販されたのを見かけたので、
1枚聴いてみることにしました。

するとこれが大正解!

ヘフリガーはテノールだからなのか、
(ディースカウはバリトン)

ディースカウのときより
軽く明るい声質が若々しい印象で、

初めて味わう
さわやかな感動のうちに
《美しき水車小屋の娘》を聴き通すことができました。

この作品が、
シューベルト20代半ば、
青春時代の作品であることを確認できました。

聴いてしばらくは、
ヘフリガーの若いころの録音だと思い込んでいたのですが、
調べてみると何と62歳(!)の録音で、
びっくりしました。

わかって聴き直してみると、
若々しい声質ながらも、若手にはまず不可能な、
きわめつくされた感のあるよく練られた解釈で、
確かに、若手の歌唱ではないなと納得しました。

しかし声の若々しさは驚くべきレベルで、
老いのかけらも感じさせません。

堂々とした覇気あふれる歌いっぷりに、
自然な感動に浸ることができました。


ちなみにヘフリガーは、
51歳の時(1970年11月30日、12月24・25日)にも、
小林道夫氏の伴奏で同曲を録音していますが、

試聴音源(各曲45秒ずつ)を聴く限りでは、
62歳の時よりずっと堅い印象で、年齢相応の歌唱になっていました。

それから10年後の歌唱のほうが、
ずっと若々しく聴こえるのはとても興味深かったです。


参考までに、

ドイツのバリトン歌手
ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ
(1925.5-2012.5)の同曲録音は、
ディースカウ30代、40代の時でした。
(詳しくないので、他にもあるかもしれません。)

1961年12月録音
 ディースカウ 36歳
 ジェラルド・ムーア(ピアノ)……EMI

1971年12月録音
 ディースカウ 46歳
 ジェラルド・ムーア(ピアノ)……グラモフォン


※Wikipediaの「エルンスト・ヘフリガー」「Jörg Ewald Dähler 」「フランツ・シューベルト」「美しき水車小屋の娘」を参照。

2015年11月2日月曜日

ハイフェッツのシベリウス、プロコフィエフ、グラズノフのヴァイオリン協奏曲(1959・63年録音)

ロシア帝国領ビルナ(現リトアニア)生まれのヴァイオリニスト
ヤッシャ・ハイフェッツ(1901.2.2-1987.12)の演奏で、

フィンランドの作曲家
ジャン・シベリウス(1865.12-1957.9)、

ロシアの作曲家
セルゲイ・プロコフィエフ(1891.4-1953.3)、

ロシアの作曲家
アレクサンドル・グラズノフ(1865.8-1936.3)
のヴァイオリン協奏曲を聴きました。

それぞれハイフェッツ
 57歳(シベ 1959.1)
 58歳(プロ 1959.2)
 62歳(グラ 1963.6)
の時の録音です。


シベリウス
ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47
 ワルター・ヘンドル(指揮)
 シカゴ交響楽団
〔録音〕1959年1月10・12日、シカゴ、オーケストラ・ホール

プロコフィエフ
ヴァイオリン協奏曲第2番ト短調作品63
 シャルル・ミュンシュ(指揮)
 ボストン交響楽団
〔録音〕1959年2月24日、ボストン、シンフォニー・ホール

グラズノフ
ヴァイオリン協奏曲イ短調作品82
 ワルター・ヘンドル(指揮)
 RCAビクター交響楽団
〔録音〕1963年6月3・4日、カリフォルニア、サンタモニカ・シヴィック・オーディトリアム

ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン)
【SICC-30078】2012年12月発売

フィンランドの作曲家
ジャン・シベリウス(1865.12-1957.9)の
ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47 は、
作曲家38歳の時(1904.2)に初演された作品です。

ロシアの作曲家
セルゲイ・プロコフィエフ(1891.4-1953.3)の
ヴァイオリン協奏曲第2番ト短調作品63 は、
作曲家44歳の時(1935.12)に初演された作品です。

ロシアの作曲家
アレクサンドル・グラズノフ(1865.8-1936.3)
ヴァイオリン協奏曲イ短調作品82 は、
作曲家39歳の時(1905.2)に初演された作品です。


  ***

ハイフェッツは中学生のころに、
1300円台の格安レコードでまとめて聴いて以来、

ラジオ放送や、
初期のCDでもたくさん聴いて来たので、
飽きが来たのか、最近あまり聴かなくなっていました。

最近『Blue-spec CD2』で再販された
ルービンシュタインのCDを聴いて、
音の良さに驚き、このシリーズのCDをまとめて聴き直していました。

『Blue-spec CD2』の中に、
ハイフェッツのCDもまとめて再販されていますので、
久しぶりに聴き直してみることにしました。


 ***

このCDも、
よく知られた名盤ですが、

5、60年代ステレオ録音の少し古ぼけた感じが、
一気に若返った印象で、感動を新たにしました。

これまで
ハイフェッツのヴァイオリンは、
テクニックの切れが物凄いけれども、
若干刺々しく、耳につく感じがあって、
そこまで美しいとは思わなかったのですが、

実は彼独特の鳴り方で、
美しく鳴り響いていたことに初めて気がつきました。

ウィーン風の
含みのある弾き方とはまったく違っていて、
余分なものを削ぎ落しているので、

好みが分かれるところだと思いますが、
『Blue-spec CD2』仕様のCDで聴くと、

線が細そうにみえて、
実は弦がぶんぶん鳴っている様を、
よく聴き取ることができました。

良い音で聴いてみると、
今でもハイフェッツの録音は、
シベリウス、プロコフィエフ、グラズノフの協奏曲を聴く時に、
外せない1枚であると思いました。


『Blue-spec CD2』のシリーズは、
5、60年台のステレオ録音だと、
音が一気に若返った感じになって
効果絶大のようです。

ルービンシュタインとハイフェッツは特にお薦めです。


※「ヤッシャ・ハイフェッツ」「ヴァイオリン協奏曲(シベリウス)」「ヴァイオリン協奏曲第2番(プロコフィエフ)」「ヴァイオリン協奏曲(グラズノフ)」を参照。