2012年12月30日日曜日

ベルグルンド&ボーンマス響のシベリウス:交響曲第3番

フィンランドの指揮者
パーヴォ・ベルグルンド(1929-2012)が48・49歳のときに(1977・78)、
イギリスのボーンマス交響楽団と録音した

同郷フィンランドの作曲家
ジャン・シベリウス(1865.12-1957.9)
交響曲第3番と組曲《ペレアスとメリザンド》を聴きました。

ペレアスは今回初めて聴きました。


ジャン・シベリウス
1) 交響曲 第3番 ハ長調 作品52
  第1楽章 アレグロ・モデラーと
  第2楽章 アンダンテ・コンモート、クワジ・アレグレット
  第3楽章 モデラート - アレグロ・ノン・タント

2) 組曲《ペレアスとメリザンド》作品46
  第1曲 城門にて
  第2曲 メリザンド
  第3曲a 海辺にて
  第3曲b 庭園の噴水
  第4曲 3人の盲目の姉妹
  第5曲 パストラーレ
  第6曲 糸を紡ぐメリザンド
  第7曲 間奏曲
  第8曲 メリザンドの死

パーヴォ・ベルグルンド(指揮)
ボーンマス交響楽団
録音:1977年6月20-21日(交響曲)、1978年5月6-7日(組曲)
サウサンプトン・ギルドホール、イギリス
【TOCE-16013】


交響曲 第3番 ハ長調 作品52 は、

シベリウスが41歳のとき(1907.9)に初演された交響曲です。

36歳(1902.3)のときに
第2番が初演されてから5年を経て、

新たな独自の世界へと足を踏み入れた、
画期となる交響曲です。


初めて聴いたわけではありませんが、
これまでは今ひとつ、つかみきれないところがありました。

しかし今回のベルグルンドさんのCDで、
ようやく開眼したようです。


心の中の鬱蒼とした霧が、
ゆるやかに晴れわたっていくような1・3楽章と、
悲しいワルツをより深化させたような2楽章。

計3楽章からなる小ぢんまりとした構成も好ましく、

ああこんなに美しかったんだと、
心洗われる、めったにない感動を味わうことができました。


今は第1・2番よりも遥かに素敵な作品に思えます。



組曲《ペレアスとメリザンド》作品46は、

ベルギーの劇作家
モーリス・メーテルリンク(1862-1949)の
戯曲『ペレアスとメリザンド』にもとづく管弦楽組曲です。

この戯曲は、
1892年にフランス語で発表されましたが、

1905年にヘルシンキで、
スウェーデン語版が上演されるのにともない、

シベリウスによって劇付随音楽が作曲され、

劇の上演後、
8曲からなる組曲に編曲しなおされたそうです。

つまり交響曲第3番とほぼ同時期、
40歳のころの作品ということになります。


『ペレアスとメリザンド』は、
他の作曲家も取り上げている題材なので、
もっと昔の作品かと思っていましたが、

『青い鳥』で知られるメーテルリンクが書いた戯曲だとは、
今回初めて知りました。

しかしその『青い鳥』すらまだ読んでいない身ですので、
何も語る資格はありませんが、
とりあえずの印象を少し。


交響曲第3番の出だしを
よりロマンティックにしたような、
心浮き立つ、はなやかな開始から心を捕らえられ、

ほどほどに悲劇的な終曲へと、
実にわかりやすい音楽で、十分に楽しんで聴き終えることができました。


今回の全集では、
交響曲以外の管弦楽曲に、
意外に楽しめるものが多く、
新しい発見が出来てたいへんありがたいです。

《フィンランディア》や《悲しいワルツ》だけではないのですね。

《ペレアスとメリザンド》も、もっと取り上げられて良い名曲だと思いました。


※Wikipediaの「ジャン・シベリウス」「交響曲第3番(シベリウス)」「ペレアスとメリザンド(シベリウス)」を参照。

ヘブラーのモーツァルト:ピアノ・ソナタ全集 その3(旧盤)

オーストリア出身のピアニスト
イングリット・ヘブラー(1926-)による

オーストリアの作曲家
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)の
ピアノソナタ全集、3枚目を聴きました。

モーツァルト: ピアノ・ソナタ全曲

モーツァルト
ピアノ・ソナタ 第9番 ニ長調 K.311
ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330
ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K.331《トルコ行進曲付き》

イングリット・ヘブラー(ピアノ)
録音:1963年4月(第9・11番)、1963年9月(第10番)
【PROC-1201/5】CD3

K.311(第9番)は、
モーツァルトが21歳のとき(1777年)、

母とともに
ザルツブルグからパリへと向かう途中で、
マンハイムに滞在した折、

K.309(第7番)とともに作曲されています。

この翌年(1778年)7月にパリで母を亡くしますが、
その悲しみを反映させた可能性のある
K.310(第8番)と組み合わせて、

「作品4」(K.309-311)として、
1781年にパリで出版されています。


K.330(第10番)
K.331(第11番)は、

27歳(1783年)のときに、
K.332(第12番)とともに作曲され、

「作品6」(K.330-332)として、
翌年(1784年)ウィーンで出版された作品です。


作品4と6の間に、
大きな作風の変化はないようですが、
聴き方によっては、少し深まりを見せているようにも感じられます。

K.331 《トルコ行進曲付き》 は、
第3楽章を先によく知っていたため、
しばらく第1・2楽章の魅力がわからなかったのですが、

今回聴き直してみて、
ようやく全体がバランスよく、頭に入って来るようになりました。

そうしてみると、
やはりこれは名曲だな、と再認識しました。


   ***

さて演奏ですが、
1、2枚目と変わることなく、

私の中で、
一番モーツァルトらしいと思える演奏で、
聴き込むにつれ、味わいの増す名演だと思います。


典雅で清楚な雰囲気の中で、
次々とうつりゆく曲想に、
若々しいリズム感で答える演奏です。

あとほんの少し、
踏み込んだところがあっても良いのかな、
とも思いますが、

モーツァルトのピアノ・ソナタは、
演奏者の作為的な解釈を拒絶するようなところがあって、

作為が耳につくと、
モーツァルトの魅力がたちまちのうちに消え失せてしまいます。


実際にいろいろ聴いてみると、
なかなかこれだけ無理のない解釈で、
モーツァルトの魅力を伝えてくれる演奏にはなかなか出会えないと思います。



※Wikipediaの「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」「イングリット・ヘブラー」「ピアノ・ソナタ第9番(モーツァルト)」「ピアノ・ソナタ第10番(モーツァルト)」「ピアノ・ソナタ第11番(モーツァルト)」の各項目を参照。


※作品の基本情報について、
 ピティナ・ピアノ曲事典「モーツァルト」の項目
 【http://www.piano.or.jp/enc/composers/index/73】を参照。

2012年12月22日土曜日

ボッセ&新日本フィルのシューベルト&モーツァルト&ベートーヴェン

すばらしいバッハを聴かせてくれた
ゲルハルト・ボッセ(1922.1-2012.2)さんの追悼盤、

新日本フィルとのライブ録音が
廉価980円で再販されていましたので、
購入し聴いてみたところ、

予想をはるかに上回る名演で、
びっくりしました。


1) シューベルト(1797-1828)
  劇附属音楽「ロザムンデ」序曲

2) モーツァルト(1756-91)
  交響曲第39番変ホ長調Kv.543

3) ベートーヴェン(1770-1827)
  交響曲第5番ハ短調Op.67「運命」

ゲルハルト・ボッセ(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
録音:2011年5月13・14日(1・2)、2010年4月2・3日(3)
   すみだトリフォニーホール
【ALT231】

まず何より、
オーケストラから引き出される響きが魅力的でした。

肩の力の抜けた、濁りのない、
明るい響きを旨としながら、

ここぞという所での凄み、力強さにも欠けておらず、
オケの清新な響きだけで、十分心地良く、満ち足りた気持ちになりました。

こうした経験は、
サヴァリッシュ&ドレスデン国立管弦楽団の
シューマンを聴いて以来のことです。

日本のオケも、振る人が振れば、
こんな響きになるんだなと、感心しました。


 ***

シューベルトは、
これまでそれほど意識して聴いて来なかったので、
他と比べてどうなのかは良くわかりませんが、

シューベルトらしい、
典雅で明るく楽しい曲だと思いました。
他の演奏も聴いてみたくなりました。


モーツァルトは、
これまでそれなりに聴き込んできたはずですが、
その中では明らかにベストの出来で、
初めて聴くような感動を覚えました。

オケの明るく清々しい響きも39番には合っており、
これしかないと思われる絶妙な間合いで
曲が新たに紡ぎ出されていくさまは、

出会えたことに心から感謝したい、
融通無碍の名演奏でした。


ベートーヴェンは、
これまで幾度となく聴いてきた曲なので、
今さら「運命」でも、と思っていたのですが、

これが実に若々しく、
清新な響きに満ちた、
心洗われる、躍動的な演奏で、

それを特別に趣向をこらした解釈によらず、
オーソドックスな解釈の中で実現しているのは、
ボッセさんの類まれな実力によるものでしょう。


この追悼盤、
ボッセさんの指揮者としての実力を知るのに十分な、
すばらしい内容だと思います。


 ***

新日本フィルとのCDは、このほか
J.C.バッハとブラームスを取り上げた
2009年のコンサートを収録した1枚があったので、
手に入れてみましたが、

肝心の録音が
うすいヴェールをかぶせたようで、
オケの魅惑的な響きが伝わって来ず、
もどかしい思いがしました。

リマスタリングでどうにかなるのであれば、
再販を期待したいです。

もう一つ、DVDで
ベートーヴェンの交響曲全集も出されているので、
購入すべきかどうか、迷っているところです。

ふだんあまりDVDは観ないので、
CDで、廉価版で出たらいいなと思っています。

2012年12月18日火曜日

ベルグルンド&ボーンマス響のシベリウス:交響曲第2番

フィンランドの指揮者
パーヴォ・ベルグルンド(1929-2012)が47歳のときに(1976)、
イギリスのボーンマス交響楽団と録音した

同郷フィンランドの作曲家
ジャン・シベリウス(1865.12-1957.9)の交響曲第2番を聴きました。


ジャン・シベリウス
交響曲 第2番 ニ長調 作品43
 第1楽章 アレグレット
 第2楽章 テンポ・アンダンテ、マ・ルバート
 第3楽章 ヴィヴァチッシモ
 第4楽章 フィナーレ(アレグロ・モデラート)

パーヴォ・ベルグルンド(指揮)
ボーンマス交響楽団
録音:1976年11月23-24日、サウサンプトン・ギルドホール、イギリス
【TOCE-16013】


交響曲 第2番 ニ長調 作品43は、

シベリウスが36歳のとき(1902.3)に初演され、
第1番に続いて大成功を収めた交響曲です。

気分の晴れないときなどに聴くと、
前向きな方へと気持ちを押し上げてくれる作品で、

久しぶりに聴き直して、
やはり大いに感動しました。


クレルヴォ交響曲から3曲続いてきた、
民族感情を高揚させるタイプの交響曲の中でも、
良くできた名曲だと思います。


第3番からはシベリウス独自の、
内省的な世界へと深まりを見せていきますが、

誰にでもわかりやすい
シベリウスの交響曲といえば、
まずこの第2番をあげるのが穏当なところでしょう。



ベルグルンドとボーンマス交響楽団は、

時に荒々しさを感じさせるほど、
非常によくオーケストラを鳴らした演奏で、

その分、完成度では
ヘルシンキ・フィルとの録音に一歩譲るでしょうが、

バリバリにオケを鳴らしたボーンマス響との録音も、
若々しい魅力があって楽しめました。


ただしシベ2は、
他の指揮者、オーケストラの録音も数多くあるので、
これだけが飛びぬけて良いとは思いませんでした。

時に金管が荒々しく響きすぎるのは、
欠点とみることもできるでしょう。


先にブログで取り上げた
朝比奈隆&大阪フィルのライブ録音も同じ方向の演奏ですが、

朝比奈盤のほうが、より洗練されていて、
感動的な名演だったといえば、どんな演奏かイメージできるでしょうか。


それでは、第3番に進みます。

2012年12月11日火曜日

ヤンドーのハイドン:ピアノ・ソナタ全集 その2

ハンガリーのピアニスト
イエネ・ヤンドー(1952 - )さんの
ハイドン:ピアノ・ソナタ全集、

2枚目は、
ウィーン原典版の通し番号で、
第11~16・18番の7曲を聴きました。


フランツ・ヨセフ・ハイドン(1732 - 1809)

 ピアノ・ソナタ 第11番 変ロ長調 HOB.XVI- 2
 ピアノ・ソナタ 第12番 イ長調 HOB.XVI- 12
 ピアノ・ソナタ 第13番 ト長調 HOB.XVI- 6
 ピアノ・ソナタ 第14番 ハ長調 HOB.XVI- 3
 ピアノ・ソナタ 第15番 ホ長調 HOB.XVI- 13
 ピアノ・ソナタ 第16番 ニ長調 HOB.XVI- 14
 ピアノ・ソナタ 第18番 変ホ長調 HOB.XVI- deest

イエネ・ヤンドー(ピアノ)
録音:1996年4月、ブダベスト、ユニテリアン教会
【Naxos 8.553824】

ウィーン原典版の通し番号を、
ホーボーケン番号に並べなおすと、
 Hob.XVI- 2  (第11番)
 Hob.XVI- 3  (第14番)
 Hob.XVI- 6  (第13番)
  *
 Hob.XVI- 12 (第12番)
 Hob.XVI- 13 (第15番)
 Hob.XVI- 14 (第16番)
  *
 Hob.XVI- deest(第18番)
となります。

最後の deest は
ラテン語で「欠けていること」を意味し、
ホーボーケン番号に載っていない作品であることを示しています。

ホーボーケン番号【Hob.XVI-1~52】は
1957年に発表されたので、それ以降に発見された作品ということになります。

これは1961年に、
ジョージ・フェダー(Georg Feder)によって、
チェコのライゲルン修道院(Raigern Abbey)で発見された
2つのソナタのうちの1曲であり、

ウィーン原典版において、
第17・18番の2曲として採用されました。

このとき第18番は第2楽章までしかなかったのですが、

1972年に改めて、
第3楽章まで完備した筆写譜が発見されました。

この筆写譜に、バイエルンの作曲家
イスフリート・カイザー(Isfrid Kayser 1712-1771)
の名が記されていたことから、

第18番はハイドンの作品ではない可能性が高くなり、
同時に発見された第17番のほうも真偽が怪しくなっています。

このCDでは、
ウィーン原典版のまま、
2楽章版で演奏されています(第18番)。

(※福田陽氏のホームページ「ハイドン研究室」上の、
 「ホーボーケン作品番号一覧」「クラヴィアソナタの部屋」の項目と、
  NAXOSのCD解説を参照しました。)

演奏を聴くと、
初期のハイドンの作品だといわれれば、
そのまま信じられる内容ですが、

さほど感銘を受けなかったことも確かです。

このCDでは最後にこの曲が来るのですが、

いつの間にかはじまって、
いつの間にか終わっている感じがあり、
特別に心は動かされませんでした。


  ***

さてCD全体の印象ですが、

1枚目と同じような、
ハイドンの明るくすなおな音楽が広がっていき、
それなりに楽しめたことは確かですが、

何となく雑然とし、
まとまり悪く感じました。

なぜだろうと思って聴き直してみると、

曲の様式がバラバラで、

第11・14番(Hob.XVI-2・3)のように、
第3楽章にゆったりしたメヌエットが来ると、
曲が終わったような気がせず、

かなり注意して聴いていないと、
曲の切れ目がわからなくなっていたようです。

 第11番 Hob.XVI-2〔Moderato/Largo/Menuet〕
 第12番 Hob.XVI-12〔Andante/Menuet/Finale:Allegro molto〕
 第13番 Hob.XVI-6〔Allegro/Minuet/Adagio/Finale:Allegro molto〕
 第14番 Hob.XVI-3〔Allegretto/Andante/Menuet〕
 第15番 Hob.XVI-13〔Moderato/Menuet/Finale:Presto〕
 第16番 Hob.XVI-14〔Allegro moderato/Menuet/Finale:Allegro〕
 第18番 Hob.XVI-deest〔Allegro/Menuetto〕

この1枚だけ聴いていると、
ホーボーケン番号のままの方がありがたいような気もします。

コンサートで、初期のソナタを
ウィーン原典版の順番のまま取り上げるのは、
確かに難しいだろうなと思いました。


  ***

このCDの中で、
特別に惹かれたのは、
第12番(Hob.XVI-12)です。

アンダンテからゆったりと始まるのですが、
この第1楽章が美しい。

この1曲を聴くために、
このCDを買ったのだと納得しました。

YouTube で
他の演奏を聴いてもさほど感心しなかったので、
ヤンドーさんの音楽性の勝利かもしれません。


同じような点から、
第13番(Hob.XVI-6) Adagio が美しく、
琴線に触れてきました。


第15・16番(Hob.XVI-13・14)は、
緩徐楽章が置かれておらず、小ぢんまりとした作品ですが、
それなりにまとまっていて、聴ける作品ではありました。

第11・14番(Hob.XVI-2・3)は、
ホーボーケン番号の通り、最初期のソナタとして聴けば
同じ様式でそれなりに楽しめますが、

この順番に置かれていることは正直不思議な感じがしました。

では次の1枚に参りましょうか。