2012年8月28日火曜日

Audite のフルトヴェングラー&ベルリンpo 録音集 その5

Audite から復刻された
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886 - 1954)と
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の録音集
5枚目を聴きました。


Live in Berlin
The Complete Recordings RIAS
1) シューマン:劇音楽「マンフレッド」序曲 作品115
2) ブラームス:交響曲第3番ヘ長調 作品90
3) フォルトナー:ヴァイオリン協奏曲

ゲルハルト・タシュナー(ヴァイオリン)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1949年12月18日
ティタニア・パラスト、ベルリン
【audite 21.403】CD5


CD5枚目には、

1949年12月18・19・20日に行われた
ベルリン・フィルの演奏会から、
初日(18日)の演奏が収録されています。

コンサートの曲目は、上記3曲に続いて、

ワーグナーの「ジークフリートの葬送行進曲」と、
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲

を演奏する若干変則的なプログラムでした。

ワーグナーの2曲は、CD6枚目に
コンサート2日目(19日)の演奏が収録されています。


CD5枚目には、
コンサートの順番通り、
ドイツの作曲家3人の作品が収められています。


1人目
ロベルト・シューマン(1810 - 1856)の
劇音楽「マンフレッド」序曲 作品115 は、
1852年、シューマンが42歳のときに初演された作品です。

演奏についてお伝えする以前に、
私はこの曲をそれほど聴く機会がなく、
まだよくわからないのが正直な所です。

フルトヴェングラーならば、
と期待しましたが、やっぱり今ひとつ、
わからないまま終わってしまいました。

私にとってシューマンとは
大好きなのと、よくわからないのとが混在する
作曲家のようです。


2人目
シューマンの弟子でもあった
ヨハネス・ブラームス(1833 - 1897)の
交響曲第3番ヘ長調 作品90は
1883年、ブラームスが50歳のときに初演された作品です。

音とに若干割れがあるので、
音質を重視する場合は、さけても良いと思いますが、

心に響いてくる熱いブラームスが好みの場合は、
ぜひ聴いておくと良い演奏です。

熱いけれども深くもある、
フルトヴェングラーの長所が感じられる録音だと思います。


3人目
現代作曲家
ヴォルフガング・フォルトナー(1907 - 1987)の
1946年、フォルトナーが39歳のときに、
今回と同じ、タシュナーの独奏によって初演され、
タシュナーに献呈された作品です。

これが一番良い音で録れており、
共感に満ちた優れた演奏が繰り広げられていると思います。

ただし、私にはよくわからない、魅力の感じられない曲でした。
戦後の騒然とした時代でのみ、受け入れられた曲のような気がします。


全体として、
2曲目のブラームスについてのみ、
私には価値のある1枚でした。



※フルトヴェングラーの演奏会記録については、
 仏ターラ社の ホームページ上にあるものを参照しました。
 【http://www.furtwangler.net/inmemoriam/data/conce_en.htm】

※作品については、Wikipediaの
 「シューマン」「マンフレッド(シューマン)」
 「ブラームス」「交響曲第3番(ブラームス)」
 「ヴォルフガング・フォルトナー」の各項目を参照しました。


※フォルトナーのヴァイオリン協奏曲については、
HMVのHP上のCDレヴューも参照しました。
【http://www.hmv.co.jp/artist_Beethoven-Fortner_000000000199110】


ペライアのモーツァルト:ピアノ協奏曲全集 その3

マレイ・ペライア(1947生)さんによる
モーツァルト(1756年1月生 1791年12月没)の
ピアノ協奏曲全集、3枚目を聴きました。



モーツァルト
ピアノ協奏曲 第8番 ハ長調 K.246「リュッツオウ」
ピアノ協奏曲 第9番 変ホ長調 K.271「ジュノム」
2台のピアノのための協奏曲 第10番 変ホ長調 K.365(316a)

マレイ・ペライア(ピアノ、指揮)
ラドゥ・ルプー(第10番 ピアノ)
イギリス室内管弦楽団

録音:〔第8番〕1979年4月1日、ヘンリー ウッド・ホール、ロンドン。〔第9番〕1976年9月20日、EMIスタジオ、ロンドン。〔第10番〕1988年6月23日、スネイプ モルティングス・コンサートホール、オールドバラ。
【SONY MUSIC/8 86919 141122】CD3


K.246のピアノ協奏曲は、
モーツァルトが20歳のときに(1776年4月)、
父レオポルドの弟子
アントーニア・リュッツオウ伯爵夫人のために作曲されたことから、
「リュッツオウ」協奏曲とも呼ばれています。

K.271の協奏曲は、
21歳のとき(1777年1月)に作曲され、
この曲を注文した
フランスの女性ピアニスト、
ヴィクトワール・ジュナミにちなんで、
「ジュノム」協奏曲とも呼ばれています。

K.365の協奏曲は、
23歳のとき(1779年初め)に作曲された
2台のピアノのための協奏曲で、
姉ネルソンと協演するために作曲されたと推測されています。


一聴して、2枚めよりも
さらに曲の内容が深まっていることがわかるのは、
順番に聴いていくメリットでしょう。

「リュッツオウ」の方は、どちらかと言えば、
まだ前作2曲(K.238&242)の範疇を出ていない感じもあるのですが、

とくに「ジュノム」の独創性は明らかで、

初期のピアノ協奏曲の中で、
独立して演奏されることが多いのも肯けます。

2楽章でみせる絶望感と、
1・3楽章でみせる明るく飛翔する魂の対比が見事です。


K.365 の協奏曲も、
緩徐楽章の天国的な美しさは、
前の2台のための協奏曲(K.242)には聴かれなかったもので、

繰り返し聴くに値する名曲だと思いました。
K.365はこれまでほとんど聴く機会がなかったので、
今回の一番の収穫でした。


この夏は、ずっとこれを聴いていましたので、
そろそろ次へと進みましょうか。



※作品の基本情報については、
 ピティナ・ピアノ曲事典「モーツァルト」
 【http://www.piano.or.jp/enc/composers/index/73】
 を参照しました。

2012年8月21日火曜日

名古屋市美術館 特別展 「大エルミタージュ美術館展」


お盆休みの8月17日(金)、
名古屋ボストン美術館を満喫したその足で、
金山から伏見へと移動し、

名古屋市美術館の特別展
「大エルミタージュ美術館展 ~ 世紀の顔・西欧絵画の400年」
を観て参りました。

金曜日だけでも、
夜8時まで開いているのは、
この暑い時期とてもありがたかったです。


エルミタージュ美術館の名は、
これまで何度も聞いたことがあった筈ですが、

サンクトペテルブルク
(もとは帝政ロシアの首都、いまはレニングラード州の州都)
にある、

ロシアを代表する国立美術館であるとは、
恥ずかしながら、今回初めて知りました。

設立の歴史的な背景については、
もう少し勉強してから書くことにします。


300万点をこえる所蔵品の中から、

1500年代から1900年代に至る400年間の
西欧絵画の名品89点が出品されています。


何かを論評できるほどの
知識は持ちあわせておりませんが、
特に心に残った作品を記録しておこうと思います。


Ⅰ 16世紀 ルネサンス:人間の世紀

全体的に、
調和のとれたバランスの中で、
明るい鮮やかな色彩が浮かび上がるのが、
印象に残りました。

この中では、とくに
バルトロメオ・スケドーニ(1576-1615)作
「聖家族と洗礼者ヨハネ」【図録No.13】
の調和のとれた美の世界に、
強い感銘を受けました(製作:16世紀末-17世紀初)。


Ⅱ 17世紀 バロック:黄金の世紀

この時期の若干自由で、騒々しい、
でも古典的な落ち着きと力強さをもあわせ持った、
独特な雰囲気について、

何となくわかって来たような、
でもまだしっくり来ないような、
そんな現状です。

この中では、
レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)作
「老婦人の肖像」【No.29】
の、落ちついた雰囲気の中に、
力強さをも伝える絵の力に強い印象を受けました(制作:1654年)。

もう1点、
ダニエル・セーヘルス(1590-1661)と
トマス・ウィレボルツ・ボスハールト(1613/14-1654)が描いた
「花飾りに囲まれた幼子キリストと洗礼者ヨハネ」【No.22】
の、清新で明るい花飾りの絵に感銘を受けました(制作:1650年代前半)。

花飾りはセーヘルス、
その中の幼子はボスハールトの手になるそうですが、
私にはこの幼子にほんの少し違和感がありました。


Ⅲ 18世紀 ロココと新古典派:革命の世紀

この中に、私が
特別な感銘を受けた作品はありませんでした。

しかし、
エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン(1755-1842)作
「自画像」【No.46】
の素朴な人柄を感じさせる絵には、
好感が持てました(制作:1800年)。


Ⅳ 19世紀 ロマン派からポスト印象派まで:進化する世紀

この辺りからは、
日本にいても割りと目にする機会はあるので、
馴染みのある画家も何人か出てきます。

大きな感銘を受ける
というのとも少し違うのですが、

カミーユ・コロー(1796-1875)作
「森の中の沼」【No.60】
と(制作:1865-1870年)、

テオドール・ルソー(1812-1867)作
「グランヴィル近郊の眺め」【No.61】
は(制作:1857年)、

むかしは風景画としては
素朴にすぎる感じがしていたのですが、

今回は素朴な中にも、
独特の味わい深さがあることを感じることができました。
これからより好きになるかもしれない、と思いました。


その他、
ジュール・ルフェーヴル(1836-1902)作
「洞窟のマグダラのマリア」【No.65】

は、今回出品された裸婦像の中で、
もっともバランスのとれた、
完成度の高い作品だと思いました(制作:1876年頃)。


あと1点、
芸術的な価値は今ひとつかもしれませんが、

個人的に好きな画家、
アルフレッド・シスレー(1839-1899)作
「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌ風景」【No.69】
が観られたのは嬉しかったです(制作:1872年)。

シスレーのより優れた風景画を観て、
彼のファンになりました。

これもふつうの風景画ですが、
好きな絵です。


Ⅴ 20世紀 マティスとその周辺:アヴァンギャルドの世紀

それほど印象に残る作品は、
出品されていませんでした。

1点あげるのであれば、
アンリ・マティス(1869-1954)作
「赤い部屋(赤のハーモニー)」【No.84】
でしょう(制作:1908年)。

赤を基調とした中に、
大画面で、全体として不思議な統一感をもった、
暖かみのある作品でした。



ひとつの美術館の所蔵品だけで、
各時代ごとに、名品をそれなりの数あつめることは、
どこでも可能なことではないと思うので、
たいへん有意義なひと時となりました。



※展覧会の図録を参照しました。

2012年8月18日土曜日

広上淳一指揮&日本フィルの伊福部昭の芸術3


伊福部昭の芸術3
舞 ― 伊福部昭 舞踏音楽の世界

1) 舞踏音楽「サロメ」(1948/87)
2) 兵士の序楽(1944)

広上淳一指揮
日本フィルハーモニー交響楽団
録音:1995年8月22-24日、29-31日、9月1日
東京、セシオン杉並ホール
【KICC177】

広上淳一さんの指揮する
日本フィルハーモニー交響楽団の演奏による

伊福部昭(大正3年〔1914〕生 平成18年〔2006〕没)の
シリーズ3枚目は、

舞踏音楽「サロメ」と、兵士の序楽の2曲です。


舞踏音楽「サロメ」は、昭和23年(1948)、
伊福部さんが33歳のときに作曲、初演された作品です。

これはオスカー・ワイルド(1854生 1900没)の
原作『サロメ』(出版 1891)にもとづくバレエ曲です。

もともとバレエ用の音楽ですが、
40年近くを経た昭和62年(1987)、73歳のときに、
コンサート用に改作されたものが
決定稿となりました。


発売時に聴いたときは、
知らない曲だったため、
何だかよくわからなかったのですが、

今回聴き直してみると、
ストラヴィンスキーのバレエ音楽のような感覚で、
わくわくしながら楽しむことができました。

伊福部さんの独特の親しみやすさもあって、
個人的にはストラヴィンスキーより好きです。


セッション録音なので、
コンサートのライブ録音のような
すごい熱気は感じられませんが、

決して冷徹なわけでもなく、
スコアに忠実に、音楽的に鳴らすことを
心がけているようで、

熱狂の渦に巻き込まれなくとも、
十分に名曲であることを証明してくれていると思いました。


「兵士の序楽」は、昭和19年(1944)、
伊福部さんが30歳のときに、陸軍の委嘱によって
作曲された放送用の作品です。

初演については、恐らく同年、
日本交響楽団によって行われたらしいものの、
確かな記録はないそうです。

その後、このときの録音まで、
一度も演奏されることはなかったそうです。


特にどこかに山があるわけでもないので、
演奏会などで取り上げるのは難しいかもしれませんが、

戦争中の明るくはない雰囲気を伝える、
音楽的な作品に仕上がっていると思います。


それでは、次は4枚目へと進みましょう。

名古屋ボストン美術館 特別企画展 「ボストン美術館 日本美術の至宝」(前期)


お盆休み中の8月17日(金)に、

名古屋ボストン美術館の特別企画展
「ボストン美術館 日本美術の至宝」(前期)
に行って参りました。

忘れてしまわないうちに、
心を動かされた作品を紹介しておきます。


まず注目されたのは、奈良時代に描かれた
「法華堂根本曼荼羅図」(図録 No.5)です。

奈良時代の絵画は、
そもそもほとんど残っておりませんので、
なかなか実物を観る機会はないのですが、

今回初めて、
仏像を描く線の、自由で、
ゆったりおっとりした様を感じることが出来ました。

作品全体として、
どうこう言える状態ではないのですが、
案外良いかもしれない、
と実感できたのは大きな収穫でした。


続いて絵巻物の傑作として、

平安時代(12世紀後半)に描かれた
「吉備大臣入唐絵巻 第一巻/第二巻」(No.26)
と、

鎌倉時代(13世紀後半)に描かれた
「平治物語絵巻 三条殿夜討巻(前半部分)」(No.27)
を、

実物で観られたのも大きかったです。

圧倒的な迫力でせまって来たのは
「平治物語絵巻」の方ですが、

独特のユーモアが感じられる
「吉備大臣入唐絵巻」の魅力を感じられたのも
有難かったです。



そのほか屏風絵では、

室町時代(16世紀中頃)に描かれた
伝狩野雅楽助の「松に鴛鴦図屏風」(No.41)
と、

江戸時代(17世紀後半)に描かれた
狩野永納の「四季花鳥図屏風」(No.49)
が私の好みに合っており、

同様の水墨画で、

江戸時代(17世紀)に描かれた
宗達派の「水禽・竹雀図」(No.53)
も良い趣でした。


水墨画では、

江戸時代(18世紀後半)に描かれた
伊藤若冲の「十六羅漢図」(No.57)も、
若冲ならではの天才的な冴えを感じさせるものでしたが、

2幅のみの紹介でしたので、
少し物足りなく感じました。



最後に、
特に大きな感銘を受けたのは、

慶長11年(1606)に描かれた
長谷川等伯の「龍虎図屏風」(No.44)
でした。

必要最小限の筆運びの中で、、
かわいらしくも勢いのある虎と龍を
絶妙なバランスで描いてありました。


これと、
宝暦13年(1763)に描かれた
曾我蕭白の「雲龍図」(No.62)
を比べて観ることができるのも、
なかなか興味深いものがありました。


たまたま時間が出来て、
ふらっと立ち寄っただけですが、
夕方のひと時を有意義に過ごすことがで出来ました。

※展覧会の図録を参照しました。