2016年2月29日月曜日

バルシャイ&ケルン放送響のショスタコーヴィチ:交響曲第9・10番(1995・96年録音)

ロシア出身の指揮者
ルドルフ・バルシャイ
(1924年9月28日-2010年11月2日)が
68歳から76歳にかけて(1992年9月-2000年9月)、

ドイツのオーケストラ
ケルン放送交響楽団と録音した

ロシア帝国生まれの作曲家
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(1906年9月25日-75年8月9日)
の交響曲全集、6枚目を聴きました。



CD6
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ
①交響曲第9番 変ホ長調 作品70
②交響曲第10番 ホ短調 作品93

ルドルフ・バルシャイ(指揮)
ケルン放送交響楽団

録音:1995年7月12・14日、95年9月14日、96年4月26日(以上①)、1996年10月15・24日(②)、ケルン、フィルハーモニー
【BRILIANT 6324/6】

交響曲第9番は、第2次世界対戦後間もなく、
ショスタコーヴィチ39歳の時(1945年11月3日)に初演されました

ベートーヴェンの第9番のような
大曲への期待とは相反する作品であったため、
スターリンを揶揄する作品と受け止められ、批判を受けました。

1948年2月には、
ソ連共産党中央委員会書記アンドレイ・ジダーノフによって
前衛的な芸術作品に対する批判が行われたこともあり(ジダーノフ批判)、

次の交響曲の作曲は、
1953年3月にスターリンが亡くなるまで持ち越されました。

交響曲第10番は、第9番から8年をへた
作曲者47歳の時(1953年12月17日)に初演されました


  ***

ショスタコーヴィチの交響曲は、
マーラー以上に一曲一曲が深刻で重厚なものばかりなので、
続けて何曲も聴き通すのは辛いものがあります。

第8番以来しばらく聴くのを止めていましたが、
また第9番から順に聴いていきます。

しばらく時間を置いて、改めて聴いてみると、
第9番もいい曲ですね。

ベートーヴェンの第8番のような、
言いたいことを短く凝縮して詰め込んである、
中身のぎっしり詰まった作品であることを実感できました。

第9は小規模だからか、
小じんまりと軽めにまとめた演奏に出会うことも多いのですが、

ひたひたと曲の内実に迫るバルシャイの指揮で、
初めて第9の真価がわかった気がしました。

第10番は、ショスタコーヴィチが
自分の内面を深くえぐり抜いた感じの、
巨大な何かがうごめいている風の作品で、

正直まだ、
全体像がわかるところまで辿り着いていないのですが、
今回の録音で、かなり曲の真価に近づくことができました。

十分な熱演だと思うのですが、
個人的に、少し重々しすぎる印象で、
繰り返し聴くには向かないように感じました。

ひと月ほど聴き込みましたので、
いったん次の番号に進みたいと思います。

2016年2月15日月曜日

横山幸雄のショパン:ピアノ独奏曲全集 その9(2011年録音)

横山幸雄(1971-)氏による

ポーランド出身の作曲家
フレデリック・フランソワ・ショパン
(1810-1849)のピアノ独奏曲全集
9枚目を聴きました。


プレイエルによる
ショパン・ピアノ独奏曲全曲集〈9〉

2つのノクターン 作品37
 ①第1番 ト短調〔第11番〕
 ②第2番 ト長調〔第12番〕
 ⇒(1838-39年作曲、40年出版)

③バラード第2番 ヘ長調 作品38
 ⇒(1836-39年作曲、40年出版)

2つのポロネーズ 作品40
 ④第1番 イ長調「軍隊」〔第3番〕
 ⑤第2番 ハ短調〔第4番〕
 ⇒(1838-39年作曲、40年出版)

⑥スケルツォ第3番 嬰ハ短調 作品39
 ⇒(1839年作曲、40年出版)

4つのマズルカ 作品41
 ⑦第1番 ホ短調〔第26番〕
 ⑧第2番 ロ長調〔第27番〕
 ⑨第3番 変イ長調〔第28番〕
 ⑩第4番 嬰ハ短調〔第29番〕
 ⇒(1838-39年作曲、1840年出版)

⑪ワルツ第5番 変イ長調《大円舞曲》作品42
 ⇒(1840年作曲、40年出版)

⑫タランテラ 変イ長調 作品43
 ⇒(1841年作曲、41年出版)

⑬アレグレットとマズール イ長調
 ⇒[遺作◆](1974年出版)

円熟期の遺作の小品
 ⑭ソステヌート 変ホ長調 WN53
 ⇒[遺作◆IVb-10](1840年作曲、1955年出版)
 ⑮フーガ イ短調
 ⇒[遺作◆IVc-2](1841-42年作曲、1898年出版)
 ⑯モデラーと“アルバムの一葉”ホ長調 WN56
 ⇒[遺作◆IVb-12](1843年作曲、1910年出版)
 ⑰ギャロップ・マルキ 変イ長調 WN59
 ⇒[遺作◆IVb-13](1846年作曲、1990年出版)
 ⑱ノクターン《遺作》ハ短調 WN62
 ⇒[遺作◆IVb-8](1845-46年作曲、1938年出版)
 ⑲2つのブーレ ト長調・イ長調
 ⇒[遺作◆VIIb-1,2](1846年作曲、1968年出版)

⑳ポロネーズ第5番 嬰ヘ短調 作品44
 ⇒(1840-41年作曲、41年出版)

横山幸雄(ピアノ)
使用楽器:プレイエル(1910年製)
録音:2011年6月10・11日
上野学園 石橋メモリアルホール
【KICC-921】※2011年9月発売

伊藤はに子氏のCD解説には、

「作品は、
 ほとんどの作品がマヨルカ島とノアンで生まれ、
 サンドとの日々が刻印された作品群を形成する。
 これに加え、1841年から1846年にかけての遺作の小品が添えられている。」

とあります。年齢でいえば、ショパンが
30歳前後(1810年生まれ)に作られた作品群で編まれています

演奏がずば抜けているのは、
 バラード第2番ヘ長調 と
 スケルツォ第3番嬰ハ短調
の2曲。

個人的に、
バラードとスケルツォは
どうにもつかみどころがない感じがして、
誰の演奏で聴いても納得できなかったのですが、

横山氏の演奏で聴いて初めて、
どんな曲なのかわかって来ました。

少し規模の大きな作品、
筋道の立ちにくい複雑な作品を弾くときの説得力の強さは、
ほかの演奏家ではなかなか聴けないレベルに達していると思います。

ほかの曲でも、
楽譜が求めるところを
抜群のテクニックで過不足なく音にしながら、

情感に欠けるわけでもなく、
曲本来の魅力をよく引き出していると思います。

日本人である横山氏が、
ポーランド人ならではの節回しで勝負するわけにもいかないので、
一つのスタイルとしてありだと思わせる説得力があります。

バラードとスケルツォにつぐのがポロネーズで、
そのほかノクターンも普遍的な美しさを表現し得ていると思います。

意外に面白いのがマズルカで、
ならではのリズムとは違うのでしょうが、
曲本来の美しさが引き出されています。

2016年2月8日月曜日

ヴンダーリヒのシューマン:歌曲集《詩人の恋》(1965-66年録音)

ドイツのテノール歌手
フリッツ・ヴンダーリヒ(1930.9-1966.9)の歌唱、

ドイツのピアニスト
フーベルト・ハーゼン(1898.1-1980.2)の伴奏で、

ドイツの作曲家
ロベルト・シューマン(1810.6-1856.7)の
歌曲集《詩人の恋》を聴きました。

ヴンダーリヒ35歳の時(1965-66年)の録音です。


シューマン:
歌曲集『詩人の恋』作品48
~ハインリヒ・ハイネの詩による連作歌曲
  1) うるわしい、妙なる5月に    
  2) ぼくの涙はあふれ出て    
  3) ばらや、百合や、鳩    
  4) ぼくがきみの瞳を見つめると    
  5) ぼくの心をひそめてみたい    
  6) ラインの聖なる流れの    
  7) ぼくは恨みはしない    
  8) 花が、小さな花がわかってくれるなら    
  9) あれはフルートとヴァイオリンのひびきだ    
 10) かつて愛する人のうたってくれた    
 11) ある若ものが娘に恋をした    
 12) まばゆく明るい夏の朝に    
 13) ぼくは夢のなかで泣きぬれた    
 14) 夜ごとにぼくはきみを夢に見る    
 15) むかしむかしの童話のなかから    
 16) むかしの、いまわしい歌草を    

ベートーヴェン
 1) 君を愛す WoO123    
 2) アデライーデ 作品46    
 3) 諦め WoO149    
 4) くちづけ 作品128    

シューベルト
 1) シルヴィアに D891
 2) 双子座の星に寄せる舟人の歌 D360    
 3) 美しい恋人 D558    
 4) 孤独な男 D800    
 5) 夕映えの中で D799    
 6) セレナーデ D957 No.4    
 7) リュートに寄せて D905    
 8) ミューズの子 D764    
 9) 音楽に寄せて D547

フリッツ・ヴンダーリヒ(テノール)
フーベルト・ギーゼン(ピアノ)

録音:1965年10・11月、1966年7月、ミュンヘン
【449 747-2】1997年2月発売

シューベルトの歌曲を聴き進めているうちに、

36歳で亡くなったテノール歌手
フリッツ・ヴンダーリヒ(1930.9-1966.9) による
シューマンの歌曲集《詩人の恋》が目に留まりました。

インターネット上で絶賛の1枚だったので、
外国語の歌曲の聴かず嫌いをなおすのにもってこいだと思い、
聴いてみることにしました。

シューマンの歌曲集は、
30歳の時(1840年)に集中して作曲されています
この年に、
《リーダークライス》作品24
《リーダークライス》作品39
《ミルテの花》作品25
《女の愛と生涯》作品42
《詩人の恋》作品48
の5つの歌曲集がまとめられたことから、
「歌曲の年」と呼ばれているそうです。

《詩人の恋》を聴きなれたら、
ここにある5つの歌曲集を制覇していこうと思います。

さて《詩人の恋》ですが、

聴き始めて数ヶ月ほどは、
美しい場面には事欠かないものの、
全体としてはつかみどころのない印象で、
そこまでの名曲には思えませんでした。

しかしだんだん
曲の流れが頭に入って来て、
全体の有機的なつながりがわかって来ると、

シューベルトのとき以上に
心にすっと入り込んで来て、

青春の心の痛みを
程良い空間に閉じ込めた
名曲であることを実感できるようになりました。

ヴンダーリヒの歌唱は、
ひたすらなめらかでつやのある心地よい声質で、

全体を一筆書きにする
勢いのある歌声に魅了されました。

あまり「影」の部分を感じない声質なので、
もっと深い曲なんじゃないかと思わなくもなかったのですが、

ここまで美しければ、
これはこれとして十分に満足できる演奏でした。

ただしその後収録されていた
ベートーヴェンとシューベルト。

ベートーヴェンには特に不満はなかったのですが、
シューベルトはただただ美しいばかりで、
心にひっかかって来るものが少なくて、
今一つな印象でした。

深みには乏しいけれども、
それを補って余りある美声を聴くべき歌手のように思われました。

《詩人の恋》の1枚目としては大満足です。

2016年2月1日月曜日

小澤征爾&ボストン響のマーラー《千人の交響曲》(1980年録音)

小澤征爾(1935.9- )氏の指揮する
ボストン交響楽団の演奏で、

オーストリア帝国出身の作曲家
グスタフ・マーラー(Gustav Mahler 1860.7-1911.5)
の交響曲第8番《千人の交響曲》を聴きました。

小澤氏45歳の時(1980)の録音です


マーラー
交響曲第8番変ホ長調《千人の交響曲》
 第1部 来たれ、創造主なる聖霊よ
 第2部 ゲーテの「ファウスト」第2部からの終幕の場

 フェイ・ロビンソン(ソプラノ1)
 ジュディス・ブレゲン(ソプラノ2)
 デボラ・サッソン(ソプラノ3)
 フローレンス・クイヴァー(アルト1)
 ローナ・マイヤース(アルト2)
 ケネス・リーゲル(テノール)
 ベンジャミン・ラクソン(バリトン)
 グウィン・ハウエル(バス)
 タングルウッド祝祭合唱団(合唱指揮:ジョン・オリバー)
 ボストン少年合唱団(合唱指揮:セオドア・マリアー)

 ジョゼフ・シルヴァースタイン(ヴァイオリン・ソロ)
 ジェイムズ・クリスティー(オルガン)
 ボストン交響楽団
 小澤征爾(指揮)

 録音:1980年10月13日-11月4日、ボストン・シンフォニー・ホール
【UCCP-7060】2005年6月発売

交響曲第8番
マーラー46歳の時(1906年夏)に作曲され、
50歳の時(1910年9月)に初演されました

マーラーはこの8か月後、
51歳になる2か月前(1911年5月)に亡くなったため、

48歳の時(1908年夏)に作曲された交響曲《大地の歌》
49歳の時(1909年夏)に作曲された交響曲第9番は、
生前に初演されることがありませんでした。

第8番は、
マーラー生前に初演された
最後の交響曲ということになります。


  ***

巨大過ぎる作品で、
全体像を捉えにくいこともあって、
マーラーの交響曲のなかでも、
まだそれほど聴き込んでいない1曲です。

CDで最初に買った
 バーンスタイン&ウィーン・フィル
の録音は、
何かおどろおどろしいものが蠢いている印象で、
よくわからないまま終わりました。

その後、
 朝比奈隆&大阪フィル(1972)
 山田一雄&東京都響(1979)
 小林研一郎&日本フィル(1998)
と聴いてきて、
コバケン盤はけっこう気に入っていたのですが、

コバケン盤を聴き終えたころに、
ふと手にした小澤征爾のCDを聴き、
合唱と独唱の響き方のあまりの違いに愕然としました。

小澤氏のCDは、
響きのとても美しい、
すっきりとした見通しのよい演奏なのですが、
若々しいエネルギーも存分に漲っていて、
《千人》のもつ音楽の力に圧倒されました。

第1部だけでなく、
全体の見通しが良いのも特徴的で、
初めて最後まで集中を切らさず聴き終えることができました。

まだまだ聴き逃している名演は多いと思いますが、

誇張なく《千人》の魅力を引き出した演奏として、
第一にお薦めしたい1枚です。