2014年11月28日金曜日

松坂屋美術館の「氏家浮世絵コレクション設立四〇周年記念展」

11月2日(日)に、松坂屋美術館まで

「氏家浮世絵コレクション設立四〇周年記念展」

を観に行ってきました。

愛知県美術館の「デュフィ展」をみた後、
実はすぐ近くで浮世絵の名品展が開催されていたことを知り、
翌週再び栄に足をのばしました。

「氏家浮世絵コレクション」は、

「昭和49年10月1日、
 多年にわたって肉筆浮世絵の蒐集につとめてきた
 氏家武雄氏と鎌倉市が協力し、
 鎌倉国宝館に財団法人として設置され、
 平成24年4月1日付けで公益財団法人に移行」したものだそうです。
 ※展覧会チラシ、参照。


デュフィ展の後に観たため、
わりと質素な感じのスリムな展示が多少気になりましたが、

葛飾北斎(宝暦10年〔1760〕9月-嘉永2年〔1849〕4月)
の名画を観られたのが大収穫でした。

北斎はどれも良かったのですが、

【図録35】
「酔余美人図(すいよびじんず)」
 ※1輻。絹本著色。文化4年(1807)頃。

【図録37】
「雪中張飛図(せっちゅうちょうひず)」
 ※1輻。絹本著色。天保14年(1843)。

【図録38】
「大黒に大根図(だいこくにだいこんず)」
 ※1輻。絹本著色。天保12年(1841)。

【図録39】
「桜に鷲図(さくらにわしず)」
 ※1輻。絹本著色。天保14年(1843)。

【図録40】
「鶴鸛図(つるこうのとりず)」
 ※2曲1隻。文化(1804-18)中後期頃。絹本著色。

【図録43】
「蛸図(たこず)」
 ※1輻。絹本著色。文化8年(1811)頃。

【図録46】
「寿布袋図(じゅほていず)」
 ※1輻。紙本淡彩。嘉永元年(1848)。

の7点は訴えかけてくる力が強く、
特に気に入りました。

展覧会の図録
『氏家浮世絵コレクション』を観ると、
ほかの画家とそれほど違うようには感じないのですが、

実物の迫力は圧倒的で、
北斎だけ他から浮かび上がっているような力強さがありました。


ほかの画家たちは、
歴史的な価値の高さは別にして、
芸術的に心を揺さぶられる絵はほとんどありませんでした。

その中で、
歌川広重(寛政9年〔1797〕-安政5年〔1858〕9月)の

【図録56】
「高輪の雪・両国の月・御殿山の花図」
(たかなわのゆき・りょうごくのつき・ごてんやまのはなず)
 ※3輻。絹本著色。嘉永(1848-54)~安政(1854-60)前期。

の飄々広々とした3輻の風景画に惹かれましたが、

広重はこの1点のみで、
同じタイプの絵も展示されていなかったので、
他と比べてどうなのかはよくわかりませんでした。


もう一人有名なところでは、
喜多川歌麿(宝暦3年〔1753〕頃-文化3年〔1806〕9月)の

【図録27】
「かくれんぼ図」
 ※1輻。絹本著色。寛政元-3年(1789-91)頃。

【図録28】
「万歳図(まんざいず)」
 ※1面(4枚)。絹本著色。寛政5-8年(1793-96)頃。

の2点は、
才気あふれるというわけではありませんが、

動きのある一瞬をとらえた完璧な構図を、
的確に繊細に表現しうる技量に感心しました。

これも2点のみでは何も言えませんが、
人間味あふれる叙情性のある絵だと思いました。


鎌倉を訪れる機会はなかなか取れないと思うので、
「氏家浮世絵コレクション」に含まれる名品の数々を、
名古屋で観られたことに感謝です。

2014年11月27日木曜日

鈴木秀美&OLCのハイドン:交響曲第6・7・8番《朝・昼・晩》〔シリーズVol.2〕

日本の指揮者、チェリスト
鈴木秀美(すずきひでみ 1957-)の指揮する
オーケストラ・リベラ・クラシカの演奏で、

オーストリアの作曲家
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732.3-1809.5)の
交響曲第6・7・8番《朝・昼・晩》
を聴きました。

ハイドン29歳の時(1761)の作品を、
鈴木秀美が45歳の時(2002)に指揮したCDです。


J.ハイドン(1732-1809)
 交響曲第6番 ニ長調 Hob.I-6《朝》(1761?)
 交響曲第7番 ハ長調 Hob.I-7《昼》(1761)
 交響曲第8番 ト長調 Hob.I-8《晩》(1761?)

オーケストラ・リベラ・クラシカ
鈴木秀美 指揮
収録:2002年9月27日、東京・浜離宮朝日ホール
【TDK-AD002】


鈴木氏が音楽監督を務める
オーケストラ・リベラ・クラシカによる2枚目のCDです。

ハイドン(1732.3-1809.5)の
 交響曲第6番 ニ長調 Hob.I-6《朝》
 交響曲第7番 ハ長調 Hob.I-7《昼》
 交響曲第8番 ト長調 Hob.I-8《晩》

は、作曲者29歳の頃(1761)に作曲されました。
前作CDの第43番《マーキュリー》から10年さかのぼることになります。

ハイドンは27歳ごろ(1759)に、
カール・ヨーゼフ・モルツィン伯爵のもとで、

楽長に初めて採用されましたが、
財政難のためすぐに失職してしまいます。

その後29歳の時(1761.5)に、
パウル・アントン・エスタハージィ侯爵のもとで、
副楽長に採用され、

採用後間もなく
パウル侯爵の発案で作曲されたのが、
交響曲第6・7・8番《朝・昼・晩》でした。

(飯森豊水氏のCD解説を参照。)


  ***

名前が印象的なので、
曲の存在は前から知っていましたが、
実際聴いたのはこのCDが初めてでした。

大感動だと良かったのですが、
これは多少肩透かしにあった感じでした。

それは恐らく、
鈴木氏の指揮によるものというよりは、
曲自体の魅力不足によるのではないか、と思われました。

この時期にはこの時期の魅力がある、
と言われればその通りで、

それなりに楽しい軽めの音楽が流れていくのですが、

3曲の個性(朝・昼・晩)の描き分けが
それほどうまく成されているわけでもなく、

1回聴いてすぐ記憶に残るような類の曲ではありませんでした。

仕事の折にくりかえし聴くのに適した
楽しい作品集で、飽きもせずひと月聴いてくると、

これはこれで
そのまま楽しめばいい境地に近づいてきましたが、

期待し過ぎると、
肩透かしにあう面があるのかもしれません。

あと鈴木氏の指揮が、基本的に
まじめにスッキリとした感じでまとめ上げているので、

もっといろいろ仕掛けてくる感じで来れば、
ずいぶん印象が変わるようにも思われました。


※Wikipediaの「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」「交響曲第6番(ハイドン)」「交響曲第7番(ハイドン)」「交響曲第8番(ハイドン)」を参照。

2014年11月26日水曜日

ヘッツェル&渡邉暁雄のブラームス:ヴァイオリン協奏曲(1988年録音)

ユーゴスラビア生まれのヴァイオリニスト
ゲルハルト・ヘッツェル(1940.4-1992.7)の独奏で、

ドイツの作曲家
ブラームス(1833.5-1897.4)と

オーストリアの作曲家
モーツァルト(1756.1-1791.12)の
ヴァイオリン協奏曲を聴きました。


ブラームス
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
 東京都交響楽団
 渡邉暁雄(指揮)
 録音:1988年3月16日、東京文化会館(第269回定期演奏会)

モーツァルト
ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K.219《トルコ風》
 読売日本交響楽団
 ハインツ・レーグナー(指揮)
 録音:1988年3月14日、東京、サントリーホール(第260回名曲シリーズ)

ゲルハルト・ヘッツェル(ヴァイオリン)
【TBRCD0020-2】


ブラームス(1833.5-1897.4)
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
は作曲者45歳の時(1879.1)に初演された作品、

モーツァルト(1756.1-1791.12)の
ヴァイオリン協奏曲第5番 ニ長調《トルコ風》K.219
は作曲者19歳の時(1775.12)に完成された作品です。


どちらも1988年3月に行われたコンサートのライブ録音です。

独奏のゲルハルト・ヘッツェル(1940.4-1992.7)は47歳、

指揮者の渡邉暁雄(1919.6-1990.6)は68歳、
ハインツ・レーグナー(1929.1-2001.12)は58歳、

を迎えていました。


  ***

ヘッツェルさんのファンなので、このCDは、
昨年6月に発売されてから気になっていました。

ただブラームスは独奏者にとって
技術的にも内容的にも相当な難曲のはずで、
ライブで充実した演奏を聴くことはほぼ皆無です。

モーツァルトも技術的にはともかく、
内容面で満足できる演奏を聴くことは稀で、
いくらヘッツェルさんでもどうだろうと思っていました。


しかし今回聴いてみて、
予想以上の充実ぶりに驚きました。

最初にヘッツェルさんの凄さに気がつかされたのは、
遺作となったブラームスのヴァイオリン・ソナタ全集ですが、

その時以来、
ヘッツェル独特の
よく歌うヴァイオリンの記憶がよみがえり、

久しぶりにブラームス:ヴァイオリン協奏曲の、
しみじみとした美しさを存分に堪能することができました。

ライブで聴けたら一生の宝ものになりそうな演奏でした。

絹糸のようになめらかな艶のある音色で、
全身全霊を歌うために捧げているような演奏で、

ブラームスの協奏曲ってこんなに美しかったのかと感動を新たにしました。

あと渡邉暁雄氏の指揮も非常に優れていました。

よくありがちな
お腹にずどーんと来る重力級の響きではなく、

少し軽めの華やかな、
独特の品を感じさせる響きで、
ぴったりとヘッツェルのソロにつけていて、

しっかりとした構成感をみせつつ、
ソリストと同じ方向を向いて全体をうまくまとめあげており、
文句のつけようのない立派な伴奏でした。

渡邉暁雄氏のブラームスって、
案外良いのかもしれません。

しばらくブラームスのヴァイオリン協奏曲は
聴いてこなかったので、

久しぶりに他の方のも聴きなおしてみたくなりました。


もう1曲、
モーツァルトも同じタイプのよく歌う演奏。

でも意外に、どこもかしこも
良く歌っているモーツァルトには出会わないので、
新鮮な印象で聴き通すことができました。

レーグナーの伴奏は、
恐らくウィーン風といって良さそうな雰囲気で、

特に個性を際立たせるわけではないものの、
伴奏としては手堅く十分に役目を果たしていると思いました。


ウィーン・フィルの
コンサート・マスターとして活躍されたわけですが、

独奏者としても
十分以上に活躍しうる技量をもった方であったことを再認識しました。

ベートーヴェンの協奏曲も、
ヘッツェルさんと相性良さそうなので、
どこかに録音が隠れていないものでしょうか。

2014年11月25日火曜日

コダーイ四重奏団のハイドン:弦楽四重奏曲全集 その7

ハンガリーの弦楽四重奏団
コダーイ四重奏団(1966-)による

オーストリアの作曲家
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
(Franz Joseph Haydn 1732.3 - 1809.5)の
弦楽四重奏曲全集7枚目です。


ハイドン
弦楽四重奏曲第22番ニ短調作品9-4〔Hob.Ⅲ-22〕
弦楽四重奏曲第19番ハ長調作品9-1〔Hob.Ⅲ-19〕
弦楽四重奏曲第21番ト長調作品9-3〔Hob.Ⅲ-21〕

コダーイ四重奏団
録音:1992年12月8-10日、ブダペスト、ユニテリアン教会
【Naxos 8.550786】

このCDには、
作品9の6曲中3曲が収録されています。

作品9は、
ハイドン38歳の頃(1770頃)に作曲されました

ホーボーケン番号で、
Hob.Ⅲ-19~24 に分類されていますが、

これはハイドン69歳の時(1801)に、
弟子のプレイエル(1757-1831)がまとめた
最初の全集(全83曲)における通番(第19~24番)に従ったものです。

前回の、

 第20番変ホ長調作品9-2〔Hob.Ⅲ-20〕
 第23番変ロ長調作品9-5〔Hob.Ⅲ-23〕
 第24番 イ長調 作品9-6〔Hob.Ⅲ-24〕

に続くCDには、

 第22番ニ短調作品9-4〔Hob.Ⅲ-22〕
 第19番ハ長調作品9-1〔Hob.Ⅲ-19〕
 第21番ト長調作品9-3〔Hob.Ⅲ-21〕

の3曲が収録されています。


なおこのCDの裏面には、
 Op.9, No.4 → No.11
 Op.9, No.1 → No.12
 Op.9, No.3 → No.13
という通番がふられていますが、根拠が不明なので、
このブログではふだん使われている通番に訂正しました。


  ***

さて、
作品9から残りの3曲を聴いてみました。

前回は、
曲のあまりの完成度に驚いたのですが、
今回はそこまでの感銘を受けませんでした。

作品3までの18曲とは
明らかに違った充実度で、

それなりに美しく楽しい作品なのですが、
前の3曲とは少し格が落ちるような印象でした。

録音時期をみると、
こちらの3曲を先に収録しているので、
本来はこちらを先に聴いたほうが良かったのかもしれません。


ひと月は聴き込んで来ましたので、
少し時間をおいてから、

 第22番作品9-4〔Hob.Ⅲ-22〕
 第19番作品9-1〔Hob.Ⅲ-19〕
 第21番作品9-3〔Hob.Ⅲ-21〕

 第20番作品9-2〔Hob.Ⅲ-20〕
 第23番作品9-5〔Hob.Ⅲ-23〕
 第24番作品9-6〔Hob.Ⅲ-24〕

の順で改めて聴きなおしてみようと思います。

それ以上に、
作品番号のままのほうがよくわかるのかも。


※wikipedia の「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」
 「ハイドンの弦楽四重奏曲一覧」「イグナツ・プライエル」の各項目を参照。

※中野博詞『ハイドン復活』(春秋社、平成7年11月)を参照。

※現代音楽作曲家・福田陽氏の
 「ハイドン研究室」〈http://www.masque-music.com/haydn/index.htm〉を参照。

2014年11月14日金曜日

愛知県美術館の「デュフィ展」

秋休み中の10月29日(水)に、
愛知県美術館まで「デュフィ展」を観に行ってきました。

全国3箇所、
[東京]Bunkamura ザ・ミュージアム【2014-6/7-7/27】
[大阪]あべのハルカス美術館【8/5-9/28】
[名古屋]愛知県美術館【10/9-12/7
を巡回してきて名古屋が最後の会場です。

名古屋会場の主催は、
 愛知県美術館
 中日新聞
 CBCテレビ
となっています。

デュフィって誰?という状態だったのですが、
街に貼られていたポスターに心惹かれて、
観に行ってみることにしました。


  ***

フランスの画家
ラウル・デュフィ(Raoul Dufy 1877.6-1953.3)
「20世紀前半のフランスでマティスやピカソなどとともに活躍した画家」
だそうです(展覧会図録「あいさつ」参照)。

実際観てみると、
器用な方だったのか、
若いころから作風がいろいろと変わっていて、

どれも相当なレベルに達しているものの、

デュフィならではの個性がどこにあるのか、
今一つつかみ取りにくい感じがしました。


若いころは画家マティスのような、
原始的な雰囲気の、濃い色彩の絵画も描いていて、
それなりに興味深かったのですが、

フォーヴィズムの流儀は、
デュフィ独特の洗練されたセンスの良さを
かえって打ち消しているような感じがして、
あまり好きにはなれませんでした。


全体は、

1.1900-1910年代―造形的革新のただなかで
2.木版画とテキスタイル・デザイン
3.1920-1930年代―様式の確立から装飾壁画の制作へ
4.1940-1950年代―評価の確立と画業の集大成

という4部で構成されていました。


1.1900-1910年代―造形的革新のただなかで

この中では、

【図録004】サン=タドレスの桟橋
 1902年 油彩、カンヴァス

【図録010】サン=タドレスの浜辺
 1906年 油彩、カンヴァス

【図録011】トゥルーヴィルのポスター
 1906年 油彩、カンヴァス

【図録012】海辺のテラス
 1907年 油彩、カンヴァス

の4点は、
ありがちな構図の中にも
独特の色彩感覚が表れていて気に入りました。



2.木版画とテキスタイル・デザイン

この中では、

ギヨーム・アポリネール著
『動物詩集あるいはオルフェウスとそのお供たち』
の挿絵として刷り上げられた木版画(1911年完成)を展示してありました。

そこで描かれている人物は、
どれも生理的に好きになれなかったのですが、
動物たちの版画はどれも的確に特徴が把握されていて、
ユーモアのある魅力的な挿絵に感心しました。

【図録038-2】亀
【図録038-3】馬
【図録038-4】チベットの山羊
【図録038-5】蛇
【図録038-6】猫
【図録038-7】ライオン
【図録038-8】野ウサギ
【図録038-9】家ウサギ
【図録038-10】ラクダ
【図録038-11】ハツカネズミ
【図録038-12】象
【図録038-14】毛虫
【図録038-15】ハエ
【図録038-16】ノミ
【図録038-17】イナゴ
【図録038-19】イルカ
【図録038-20】タコ
【図録038-21】クラゲ
【図録038-22】ザリガニ
【図録038-23】鯉
【図録038-26】白鳩
【図録038-27】クジャク
【図録038-28】ミミズク
【図録038-29】アイヒス
【図録038-30】牡牛
【図録038-31】コンドル

もう一つ、
服飾のデザインについては興味がないので
語る資格がないのですが、

布地に用いられたテキスタイル・デザインの数々には、
不思議なほど惹きつけられました。

単なるデザインとは言い切れない、
独特のやさしい色彩感、ユーモアが伝わってきて、
十分鑑賞するに足るデザインでした。



3.1920-1930年代―様式の確立から装飾壁画の制作へ

今回の展示のメインはここ。
デュフィの個性が確立して以降の作品を収めたようです。

この中で、人物画と、
原色を使った濃い色調の絵は、
私の好みに合いませんでした。

一瞬のインシュピレーションを重視したからなのか、
構図のバランスに違和感のあるものが多いようにも感じました。

そうした中でも、

【図録092】突堤―ニースの散歩道
 1926年頃 油彩、カンヴァス

【図録105】エプソム、ダービーの行進
 1930年 油彩、カンヴァス

の2点は油彩ながらも淡目の色合いで、
構図全体のバランスも整っていて、気に入りました。


淡い色調でセンス良く仕上げたほうが、
彼の長所が出ているようで、
水彩画の2点、

【図録106】ドーヴィルの風景
 1930年 水彩、紙

【図録121】ヴェネツィアのサン・マルコ広場
 1938年 グアッシュ・水彩、紙

はとても気に入りました。
時に【121】は無駄がなく、センスにあふれていて、
自分の家に1枚ほしいくらいでした。

どちらかといえば、
原色豊かに人間感情の素をあばくのには、
余り向いていない人のように感じました。


もう1点、
1937年にパリ万国博覧会のときに制作され、
現在はパリ市立現代美術館で展示されている
大作《電気の精》を縮小した

【図録123】電気の精
 1952-53年 リトグラフ・グアッシュ、紙(10点組)

が展示されていました。

縮小版とはいっても十分な大きさがあり、
やわらかく明るい雰囲気が気に入りました。

恐らく実物であれば、
圧倒的な感銘を受けることでしょう。

パリまで観に行きたくなりました。



4.1940-1950年代―評価の確立と画業の集大成

晩年の作品の中で気に入ったのは2つの分野です。

一つはオーケストラそのものを描いた作品です。

ただし色付けしてあるものは
実際のオーケストラの色彩感からすると、
今一つ物足りないような気がしました。

むしろ黒一色で、
描かれたオーケストラのほうが、
さまざまな音があふれてくるような臨場感がありました。

一番良かったのは、

【図録141】オーケストラ
 1940年頃 墨、紙

です。


もう一つ、
水彩で描かれた花の絵の数々に
心奪われました。

【図録146】アネモネとチューリップ
 1942年 水彩、紙

【図録148】マーガレット
 1943年頃 水彩、紙

【図録150】アイリスとひなげしの花束
 1953年 水彩、紙

【図録151】田舎風花束
 1953年 水彩、紙

【図録152】野花
 1950年頃 水彩、紙

色彩感豊かな野に咲く花の数々は、
心を和ませて明るくしてくれました。

個人的にはこの素朴な花の絵が、
一番のお気に入りでした。