2013年8月31日土曜日

Keith Jarrett の 『The Melody At Night, With You』(1998年12月)


Kieth Jarrett
The Melody At Night,
With You

 1) I Loves You Porgy
 2) I Got It Bad And That Ain't Good
 3) Don't Ever Leave Me
 4) Someone To Watch Over Me
 5) My World Irish Rose
 6) Blame It On My Youth / Meditation
 7) Something To Remember You By
 8) Be My Love
 9) Shenadoah
10) I'm Through With Love

Keith Jarrett, piano
Recorded at Cavelight Studio
1998年12月録音
【ECM1675 / 547 949-2】


キース・ジャレット(1945.5- )を聴き始めたのは、
恐らく十年くらい前からでしょうか。

ピアノ・トリオで、
スタンダード・ナンバーを取り上げるのを何枚か聴いた後、

最初にいいな、と思ったのは、
ソロではじめてスタンダード・ナンバーを取り上げた、
この1枚でした。

1996年から病気療養のため、
2年ほど闘病生活を送ったのち、

50代半ばで活動を再開するに際して、
妻ローズ・アン・ジャレットに捧げられたアルバムだそうです。


先に聴いたビル・エヴァンスの Alone が、
ピアノ1台ながらもジャズらしいリズミックな、
心躍る軽やかな明るい側面を聴かせてくれたのに対して、

最初から最後まで、
ゆったりとしたテンポで、
やさしく穏やかな美しい音楽が、
ピアノ1台でつむぎだされていくので、

飛び切りの美しさに心を奪われながらも、
微動だにしない落ちついたテンポ感に、
最後まではついて行けないところもありました。


でもやはりこれは、
聴き込むごとに味わいの増す、
大人の癒やしの音楽だと思います。

今ではどのナンバーも楽しんで聴いていますが、
特に好きなのは、

 5) My World Irish Rose
 8) Be My Love
 9) Shenadoah

の3曲です。シンプル過ぎて、
これをジャズと呼んでいいのか、
多少疑問もあるのですが、

心にすっと入って来て、
聴くたびに涙のこぼれる、
名演奏です。


※Wikipediaの「キース・ジャレット」「メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー」

柳家小三治18 落語名人会42 「芝浜」(1988.10)

十代目柳家小三治(1939.12 - )の落語CD、
18枚目は「芝浜(しばはま)」を聴きました。

小三治58歳(1998.10)の時の口演です。


落語名人会42
柳家小三治18
「芝浜(しばはま)」
  録音:1998年10月31日、鈴本演芸場
  第13回柳家小三治独演会

〔お囃子〕植田ひさ/小口けい
【SRCL-3614】

小三治さんの「芝浜」は、
このシリーズで一番初めに聴いて、
大いに感銘を受けた演目です。

絶妙な間合いで
紡ぎだされる夫婦の会話に

笑いながらもしみじみホロリと涙する、
人情噺のおもしろさに開眼する1枚となりました。


よくできたお噺なので、
他にもよいCDはいろいろありそうですが、
私が聴くのは小三治さんのがほとんどです。

今回聴き直してみても、
感動の度合いは変わりませんでした。


 ***

「芝浜」が周知の古典となる画期となったのは、
三代目桂三木助(みきすけ 1902-1961)だそうですが、
今ひとつよい音源が残ってないのは残念なことです。

評価の高い立川談志(だんし 1936-2011)は、
独特のだみ声とせっかちな感じのテンポが肌に合いませんでした。

飄々とした五代目志ん生(しんしょう 1890-1973)は、
そつなくまとめられているものの、多少これじゃない感じが残りました。

まだこれくらいしか聴いていないので、
今後「芝浜」の名演に出会うのが、
落語を聴く楽しみの一つになると思います。


※Wikipediaの「芝浜(落語)」を参照。

2013年8月27日火曜日

ヤンドーのハイドン:ピアノ・ソナタ全集 その4

ハンガリーのピアニスト
イエネ・ヤンドー(1952 - )さんの
ハイドン:ピアノ・ソナタ全集

4枚目は、
ウィーン原典版(旧版)の通し番号で、
第20、30-32番のソナタ4曲等を聴きました。



フランツ・ヨセフ・ハイドン(1732 - 1809)
 1) ピアノ・ソナタ 第20番 変ロ長調 Hob.XVI:18
 2) ピアノ・ソナタ 第32番 ト短調 作品54-1 Hob.XVI:44
 3) ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 作品54-3 Hob.XVI:46
 4) ピアノ・ソナタ 第30番 ニ長調 作品53-2 Hob.XVI:19

イエネ・ヤンドー(ピアノ)
録音:1995年4月3-6日、ブダベスト、ユニテリアン教会、Phoenix Studio
【Naxos 8.553364】


しばらくぶりなので、
次に聴く5枚目とともに、
全体の構成を整理しておきます。

ウィーン原典版(旧版)の通番でまとめると、

 ピアノ・ソナタ
 第1-10番【8.553824】
 第11-16、18番【8.553824】
 第19、17、28番【8.553826】
 第20、30-32番【8.553364】
 第29、33-35番【8.553800】

となっています。

 第21-27番 Hob.XVI:2a-e,g,h

は、目録によって冒頭主題のみ伝存する曲なので、

CD5枚で、
第1-35番まですべて聴けることになります。
ちなみにこれは、
ウィーン原典版(旧版)の 1a 1b の2巻分に相当します。


ウィーン原典版(旧版)の通番順に、
調性、作品番号、ホーボーケン番号を整理しておきます。

 第1番 ト長調 Hob.XVI:8
 第2番 ハ長調 Hob.XVI:7
 第3番 ヘ長調 Hob.XVI:9
 第4番 ト長調 Hob.XVI:G1
 第5番 ト長調 Hob.XVI:11
 第6番 ハ長調 Hob.XVI:10
 第7番 ニ長調 Hob.XVⅡ:D1
 第8番 イ長調 Hob.XVI:5
 第9番 ニ長調 Hob.XVI:4
 第10番 ハ長調 Hob.XVI:1

 第11番 変ロ長調 Hob.XVI:2
 第12番 イ長調 Hob.XVI:12
 第13番 ト長調 Hob.XVI:6
 第14番 ハ長調 Hob.XVI:3
 第15番 ホ長調 Hob.XVI:13
 第16番 ニ長調 Hob.XVI:14
 第17番 変ホ長調 Hob.deest
 第18番 変ホ長調 Hob.deest
 第19番 ホ短調 Hob.XVI:47bis
◯第20番 変ロ長調 Hob.XVI:18

「第21番 ニ短調 Hob.XVI:2a
 第22番 イ長調 Hob.XVI:2b
 第23番 ロ長調 Hob.XVI:2c
 第24番 変ロ長調 Hob.XVI:2d
 第25番 ホ短調 Hob.XVI:2e
 第26番 ハ長調 Hob.XVI:2g
 第27番 イ長調 Hob.XVI:2h 」(目録のみ)

 第28番 ニ長調 Hob.XVI:5bis
  (近年楽譜を発見〔一部欠落〕。目録 Hob.XVI2f に同じ)

 第29番 変ホ長調 作品54-2 Hob.XVI:45
◯第30番 ニ長調 作品53-2 Hob.XVI:19

◯第31番 変イ長調 作品54-3 Hob.XVI:46
◯第32番 ト短調 作品54-1 Hob.XVI:44
 第33番 ハ短調 作品30-6 Hob.XVI:20
 第34番 ニ長調 作品41-1 Hob.XVI:33
 第35番 変イ長調 作品41-4 Hob.XVI:43

となります。

目録前(第1-20番)の20曲には作品番号がなく、
目録後の第29番からは作品番号が付されています。

作品番号は原則、
楽譜の出版時に付されたものと推測されますが、

出版の際に、新しい作品とともに、
過去の未出版の作品を合わせて出版したため、

作品番号=作曲順とはいえなくなったようです。


とはいえ、

ウィーン原典版(旧版)の第29番からは、
作品番号が付され生前に出版された作品として、

意識して聴くことが可能だと思います。


   ***

さて今回のCD、

前半に2楽章のソナタを2曲

 第20番 変ロ長調 Hob.XVI:18
 第32番 ト短調 作品54-1 Hob.XVI:44

後半に3楽章のソナタを2曲

 第31番 変イ長調 作品54-3 Hob.XVI:46
 第30番 ニ長調 作品53-2 Hob.XVI:19

の順に計4曲のソナタを収録しています。

2楽章のソナタにもようやく慣れてきましたが、
曲が終わる感じがあまりないので、

ボウッとしてると
いつの間にか次の曲がはじまることはたびたび。

この中では、
作品54-3 の 変イ長調のソナタは
ファジル・サイさんの演奏で聴きなじんでいたのですが、

ヤンドーさんの方が、
正調な、しかし堅苦しいわけではなく、
清々しく楽しいハイドンを聴かせてくれました。

他の3曲も、
特に1曲あげるのなら、
3楽章構成の作品53-2 のニ長調のソナタになるのでしょうが、

はじめの2曲も軽めですが、
楽しく明るく美ししいハイドンの音楽を楽しめると思います。

初期の10曲のような、
曲としての弱さはほとんど感じませんが、
まだまだハイドンならではの深さは聴こえてこないように感じました。


※Wikipediaの
 「フランツ・ヨーゼフ・ハイドン」
 「ハイドンのピアノソナタ一覧」
 「ハイドンのピアノ曲一覧」
 「ホーボーケン番号」の各項目を参照。

※ピティナ・ピアノ曲事典の「ハイドン」を参照。

※ハイドン研究室「クラヴィア・ソナタの部屋」を参照。

2013年8月17日土曜日

柳家小三治17 落語名人会41 「死神」 (1992.5)

十代目柳家小三治(1939.12 - )の落語CD、
17枚目は「死神(しにがみ)」を聴きました。

小三治52歳の時(1992.5)の口演です。

この1枚だけ手もとになかったので、
前の「鼠穴(ねずみあな)」からは
ずいぶん時間がたってしまいました。


落語名人会41
柳家小三治17
「死神(しにがみ)」
  録音:1992年5月31日、鈴本演芸場
  第26回柳家小三治独演会

〔お囃子〕植田ひさ/小口けい
【SRCL-3613】

「死神(しにがみ)」は、
三遊亭圓朝(えんちょう 1839-1900)の作です。

グリム童話に似た噺(「死神の名付け親」)があるので、
西欧の死神についての寓話を、圓朝が翻案したものと推測されています。



京須偕充(きょうすともみつ 1942- )氏のCD解説によると、

圓朝作の「死神」は、
弟子の初代三遊亭圓左(えんさ 1848-1909)と
初代三遊亭圓遊(えんゆう 1850-1907)に伝えられました。

圓左のは原作通りでしたが、
圓遊のは「陽気な滑稽噺」に改作されていたそうです。

圓朝―圓左系の正統な「死神」は、
2代目三遊亭金馬(きんば 1868-1926)に伝えられ、

金馬を経由して、
6代目三遊亭圓生(えんしょう 1900-1979)に伝えられました。

「圓生在世時代、『死神』といえばこの人のものという印象が圧倒的だった」そうです。


京須氏は明記していませんが、

10代目柳家小三治の「死神」は、
6代目三遊亭圓生の正統路線を引き継ぎつつ、
独自の解釈を加えたものと言えるようです。


   ***

さて、小三治さんの「死神」は、
もう少し若いころのCDを聴いて、

その完成度の高さに驚き、
小三治さんのファンになるきっかけになった演目でもあるのですが、


このCDは、
そのときの口演に比べると、

珍しく流れが悪いというか、
全体的に間の悪いところがあって、

畳みかけるような切れ味の鋭さが陰をひそめており、
意外な感がしました。

凡百の口演に比べれば
ふつうにおもしろく、楽しめることは確かなのですが、
もっとすごいのを知っているだけに、
多少もどかしさが残りました。


ただしいつもいつも
超絶名演が成し遂げられるはずはないので、

小三治さんのこの時期の「日常」を切り取ってある、
といえるのかもしれません。


※Wikipediaの「三遊亭圓朝」「死神(落語)」「死神の名付け親」「三遊亭圓左」「三遊亭圓遊」「三遊亭金馬(2代目)」「三遊亭圓生(6代目)」の各項目を参照。